プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

55 / 76
今回で東京ブレイド編は終了となります。更新遅くて申し訳ありませんm(__)m


東京ブレイド 終演のあと

 最終幕。

 

 それは戦いの中で倒れた鞘姫を、ブレイド達が救い出すシーンで終わる。

 

 この場面を刀鬼として演じる事にかなりの抵抗を感じた事は本当だった。実際、(もんめ)役として傍観する立場であっても嫌な汗が止まらなくなるし、気分だって悪くなった。

 

 それでも、当事者ではないという思い込みのおかげで何とか耐えることに成功した。キャスト変更は正解という事だ。

 

 倒れた鞘姫が蘇る瞬間。

 

 俺は演者ということも忘れて涙を流してしまった。

 

 後で叱られるだろうと思っていたが、演出からは一言『よかったぞ』と労われた。

 

 別に演技をしたわけじゃない。

 

 ただ、本当にそう感じて。

 思った事に体が反応しただけなのだ。

 

 その事を有馬やあかねに聞いてみると、二人は揃ってきょとんとした顔をした。

 

「自然に出たのなら、それは役にハマったって事でしょ? なにが悪いの?」

「……え?」

「役が降りてきた証拠だよ、それは……アクアくん、今までそういう経験無かったんだ」

「まー、頭でっかちみたいだし。そういうの感じてない可能性はあるわよね」

 

 少し意外そうに言うあかねに対して、有馬はずけずけと言ってくる。

 

 その様子がとても自然で。

 

「そうか。これで、いいのか」

 

 

 ──何かに赦された。

 そう思った。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 フィナーレは演者全員が横並びで挨拶をして終わる、お決まりの定番となっていた。

 

 ここまで大きなハコでの生の芝居は初めてだったアクアは驚いていた。だが、観客の姿がよく見えるというのはやはり映像作品とは違った感動もあると発見出来ていた。

 

『あかねが舞台に拘る理由も、なんとなく分かる』

 

 ダイレクトに反応が見れるというのは、役者に限らずどの業界でも得難い。

 

 ものを作って売るにしても、販売自体をする人とそれを企画する人間は違う。分業化工業化が進んだ結果、客と売り手との相互理解というのは限りなく難しいものとなっていく。

 

 役者、俳優にしてもアイドルにしてもこれは同じだ。映像媒体のみでの活動に固執すれば客の反応は収益という形でしか得ることは出来なくなる。もちろん収益も大事だが、一時の利益で道を違えるなんてこともあり得るのだ。

 

 本当に求めるものがなんなのか。

 

 リアルに客を観るということは存外大事なのだと、改めて思い知ったアクアであった。

 

 だが、客席の中に一人の客が目を引いた。

 

 

『……!』

 

 

 それは、あり得ない姿。

 すでに他界して何年も経った、その在りし日の姿そのままの美貌を保ったままの、実の母の姿。

 

『……あ、アイ? まさか……』

 

 疑惑しか無い。あり得ない。

 だけど、そこに居る。

 

 キャスケットを目深に被ってはいても。メガネで変装をしていたとしても分かるほどだった。

 

 その艷やかな黒髪と輝くような瞳は忘れようもなく。

 

 その全ての害悪を包み込んでしまいそうな微笑みは。

 

 間違いなく、アイだった。

 

『……いや、違うか』

 

 だけど、理性がそれを否定する。

 よく見ればその横にはミヤコがいる。

 

 だとすれば。

 それは妹、ルビーのはずだ。

 

 おそらく変装をしたのだろうけど、黒髪のウィッグを使ったのだろう。いつもならそのカラーは選択しないはず。

 

『ママが見てるんだから、ちゃんとやりなさい、アクア』

 

 そんなセリフが透けて見えた。

 

『小癪な真似を……』

 

 だが、彼に不快感は無い。

 本当に、アイが応援してくれている。

 

 そんな感覚を覚えていた。

 まるで、自分の息子が晴れの舞台を飾るのを見守るかのように。

 

 ──何処かで、アイは見守っているのではないか、と。

 

 

『なら。あれはアイということで、いいか』

 

 

 そう、納得する事に決めた。

 

 それはそれとして。

 後で妹に説教せねばならないと、心に決めるアクアであった。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

『これは、凄いなあ……』

 

 アイドルとしての舞台とは違う種類の高揚感。みんなで作り上げた物語を届けるという達成感。それを喜んで見てくれる観客のみんなとの一体感。

 

 生の舞台というのも、いいもんだね。

 

 今回は端役だからそんなにプレッシャーも無かった。まあ、前世から含めれば三十路超えなんだからいい加減慣れるよねぇ。

 

 惜しむらくはパパが居ないことくらい。まあ、公演自体はまだまだ続くし。見る機会は作れるでしょ。

 

 ちなみにパパの席には吉祥寺先生が座ってる。雷田さぁん、ひょっとして先生狙ってる? ま、いいけどね。

 

 吉祥寺先生も独り身長いみたいだし。最近アクアに対しての視線が怪しいし。

 適度な年齢の人とくっついてくれた方がママとしては安心なので(フンス)

 

 

 そ、れ、よ、り、も

 

『わ、わたしがいるぅ〜っ!?』

 

 ミヤコさんの隣に若い頃そのままの私の姿。変装してる感じだけど髪はそのままだから、見る人が見たらすぐアイだって分かるほどクリソツ。

 

 ルビーなんだろうけどさ。

 

 よりによってその色のウィッグにしちゃうとは……私の子だって、隠す気あるのかな?

 

 まあ、最近の子は古い方のB小町は知らないみたいだから別にいいんだけど。ある程度歳を取った方だと分かっちゃうと思うんだよね。なんか、カントクが挙動不審だし。

 

 金田一さんが見てなきゃいいけどなあ……あの人には間接的に迷惑掛けたし。あと、アナタも居ないといいんだけど。マジに変装すると私でもわかんないからなぁ(嘆息)

 

 アナタがまだわたしに固執しているとは思わないけど……その標的が娘に変わったりされても困る。

 

 アナタの愛は、とても厄介なものだし……それに。

 

 心変わりされるというのも、なんだか面白くないし、ね(クス)

 

 

 ちらりと、アクアのほうを見る。

 少し苛ついた顔をしてるところを見るに、ルビーの変装に気付いたらしい。でも、それだけではなくて。

 

 昔の、柔らかい笑顔も垣間見えた。

 

 わたしのこと、思い出してくれたのかな?

 

 それはそれで、嬉しい♪

 やっぱり、ママとしては喜んだ顔のほうが嬉しいものなのですよ。

 

 

 

 ちくり

 

 

 

 なぜか。

 胸が少し、苦しかった……なんでだろ?

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 初公演が終わったあとの楽屋は、弛緩した空気に包まれていた。有馬はテーブルに突っ伏しているし、あかねも余韻に浸っているように見える。

 鴨志田はというと終わるやいなや帰ってしまったが、次の日の早朝から仕事があるかららしい。ちなみに明日も公演はあるのだから恐れ入るという感じだ。

 

 その他のメンツは、慣れてるせいかそこまででもない。あーだこうだと反省会よろしくしてる奴もいるし、スマホでエゴサしてるのも居る。総じてララライの連中は好き勝手にしてる様子だ。

 

 俺としても、さすがに終わった後の高揚感も落ち着いてきたので疲れを感じた。ならば、俺よりも歳下の奴はもっと疲れているのかと思い声を掛ける。

 

「おい、大丈夫か?」

「……ふぁ?」

 

 やはり脱力したような感じの月代に、俺はタオルを頭から被せる。

 

「わぷ」

「汗はちゃんと拭いとけよ。冬場なんだから体冷やすな」

 

 被せたタオルの隙間から、月代が覗くようにこちらを見る。

 

「ありがとう、ございます」

「……すぐにミヤコが来るから。それ乗って帰るんだぞ」

 

 まだ公共交通機関は動いている時間だが、子ども一人で帰すわけにもいかない。ちなみに明日以降は父親が迎えに来る手筈になっている。

 

「? アクアさんは、帰らないんですか?」

 

 その言葉に、俺は返事をしなかった。

 

 俺の本当の目的は、これから後なのである。ここで帰っては意味が無い。

 

「お前ら、お疲れさん」

 

 そう言って楽屋に顔を出してくる演出、金田一敏郎。それに呼応するみたのりおやララライの面々。

 

「オッシャア、打ち上げ行くぜぇ!」

 

 そう。打ち上げだ。

 仕事も終わって、緊張が解けて、胸襟を開きつつの一杯。心に秘めた事柄を聞き出すには一番のチャンスだ。ここを逃すわけにはいかない。

 

「オレも、行きます」

 

 若干食い気味だがそう返事をする。ここでのアピールは大事だ。下手をすると未成年という理由で断られるかもしれない。未成年だけど参加したいという意志をはっきり見せておかねばならない。

 

「おう、気合入ってるな? いいぜ」

 

 普段はアラサーのサラリーマンにしか見えないみたさんは、実のところ気のいいおっちゃんだ。男気もあるし、後輩への気配りもできるいい兄貴分である。

 

「わ、私も行きます」

「わたしもっ!」

 

 あかねと有馬も手を挙げる。こいつらはこういう世界も長いし、打ち上げでの作法なんかも熟知してるはず。間違っても共演者の男にお持ち帰りとかされない、と思う。……いちおう気には掛けておこうかな。

 

「わ、私も行きますっ!」

 

 すると、月代も来ると言い出した。もちろん、ダメに決まってる。

 

「ダメだ」

「な、なんで?」

「さすがに小学生を酒の席に連れてはいけない」

 

 高校生ともなれば節度ある行動を取れるとも言えるけど、小学生は無理すぎる。

 

「保護者同伴でも断られる場合もあるし、今回は諦めろ」

「む、むうう〜」

 

 頬を膨らませて抗議する。だが、他の連中もこれには頷けないようだ。

 

「月代ちゃんはもう少し大人になってから、ね」

「お子様なんだから仕方ないわよ〜♪」

 

 あかねはともかく、有馬は煽るのやめろ。凄い睨んでるぞ。それでも気にしてない所がメンタル強過ぎる。

 

「月代ちゃん、かなちゃん、迎えに来たわよ」

 

 そう言って楽屋に入ってくるのはルビーを連れたミヤコ。

 

「あ、社長ー。私、打ち上げ行きますんでー」

「ダメよ」

「え?」

 

 まさかの社長命令に、有馬の目が点になる。感情の表現力、凄いなコイツ。

 

「な、なんで?」

「あなた、アイドルでしょ? お酒の席なんてダメに決まってるでしょ」

「そ、そんなぁっ!」

 

 そういえばアイドルやってたなぁコイツ。うっかり忘れるところだった。

 

 涙目の有馬を横目ににやりと笑うあかねに寒いものを感じる……勝ち誇る所でもなかろうに。

 

「覚えてなさいよ、黒川あかねェッ!」

「たすけてぇ、アクアァ!」

「人聞き悪いこと言うわね、この子たち。それじゃ、お邪魔様でしたー♪」

 

 連行される女子二人を眺める俺たち。つつつ、と近寄ってくるのは妹のルビーだ。すでに変装は解いている。

 

「がんばったね。見直した」

 

 軽く握った拳で胸板を突いてくるルビー。激励してくれているのか。

 

「さんきゅ。にしても、あの格好はもうやめたほうがいいな」

「やっぱり目立つ?」

「上の世代はまだ知ってる連中居るしな」

 

 まだ、世間にバラすときではない。ずっと伏せておくわけにもいかないが、それは今ではないのだ。

 

「それじゃね、お兄ちゃん♪」

「ああ。なるべく早く帰るよ」

 

 鋭意努力する、けどな。

 

 苺プロの連中が消えた後、楽屋は少し騒がしかった。

 

「お、おい。アクア今の妹かよ」

「お前、本当に恵まれてんのな……」

「あかねを落としてるし……モテる男はエエなあ」

 

 モテない男たちの僻み……とは言い切れない。実際、俺の周りには一目置かれるような子が多過ぎる。

 

『俺には復讐しかない……筈なのにな』

 

 そのためだけに生きてきた筈なのに、いつの間にかそれだけではなくなってきている気がする。

 

 それがいいことなのか。

 俺には分からない。

 




原作ではかなも打ち上げに行った筈ですが、月代を連れて帰るのにかなをほっとくわけないと思いました……あかねチャンはニッコリ(笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。