プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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飲み会、第二幕

 姫川が言ったおもろい所。それは会員制のバー……というかキャバクラ? その中間とでも言おうか。

 かわいい女の子がお酌をしておしゃべりしてくれるけど、お触りやらお持ち帰りとかはご遠慮みたいな雰囲気。前世だったら『煮え切らねえなあ、もっとサービスしろやっ!』とブチ切れ案件である。

 

 まあ、今の俺にとっては特に問題もない。そういった感覚自体がなりを潜めている……とは言えないけど。そこまでガツガツしてないのだ。

 

 それは人生の第一目標が“復讐”となっているから、なのかもしれない。前世のように特に目標もなく生きていた人生に比べたら優先順位というものが色々と違うのだから当たり前か。

 

 後は、環境もある。

 手が出せない(語弊がある。手を出さない、が正しい)対象とは言え、今の俺には身近に可愛い女の子というのが多過ぎるくらいにいる。

 

 妹のルビーや母親代わりのミヤコ、事務所の同僚の有馬やメム、月代などはアイドルとして活動しているくらいだ。そんじょそこらの女の子には目先が移るなんてことはあり得ない。

 

 それに、ビジネス上の付き合いとは言えあかねがいる。彼女だって先ほどの面々と比べても遜色無いほど見た目は整ってるし、性格だって良い。もしもアイの復讐なんてものがなければ、そのまま正式にお付き合いを考えてもいいくらいに好物件なのだ。

 

 そんな彼女を放り出して野郎と酒を飲んでるロクデナシがこちらです(ヤケクソ)

 

『一言くらい言っておくべきだったなあ……』

 

 とは言え、そんな事をいえば付いてくる可能性もあった。さすがに彼女同伴でこんなところに入る度胸は無いし、帰る羽目になる事は容易に想像出来た。だから、あれで正しかったのだ。

 

『今度、埋め合わせにどっか誘おうか』

 

 ビジネス抜きでの接待……矛盾した言い方に少し辟易する。俺は彼女との関係を“正式なお付き合い”にしたくないだけなのではないか? という考えが透けて見える。

 

『でも、巻き込むわけにはいかないよな』

 

 恋人という関係は他人とは言い難い。少なくとも、何かしでかしたら幾ばくかの飛び火がある。

 

 もしかしたら、あかねとの関係は早めに解消すべきかもしれない……

 

「よお。楽しんでるかい?」

 

 少し離れたボックス席でオレンジジュースを傾ける俺に、姫川が声をかけてきた。ちなみに、最初に来た女の子には申し訳ないが外してもらった。スキャンダルとか、怖いからね。

 

「ここ、芸能界に籍のある子たちのバイト先みたいなものでな」

「そうなんですか」

 

 よく見れば他の客も若手の俳優や歌手で見たことある連中だし、接待する嬢の中には見たことある子もいる。需要と供給がマッチしてるのか。

 

「フツーのとこで遊べない連中が利用してるんだよ。てか、女の子返しちゃったの? 勿体ない」

「いちおう、交際相手がいましてね」

 

 こういう時、ビジネスであっても交際相手がいると便利だ。断る理由になる。

 

「黒川か……正直やめといた方がいいと思うけどな」

 

 お。あまり自分のことを言わない姫川が意見するとは珍しい。

 

「あの、それはどういう……」

「顔はいいけど性格がな。面白み無くて、マジメだし。こないだなんて昼メシ食ってたら『コンビニだけで済ませるなんて体壊しますよ?』とか言ってきたし。お前は俺のママか、つうの」

「ああ……」

 

 なるほど納得。確かにそういうトコ有りそうだよね、あかね。弁当も自分で作ってくるし、何なら持ってきてくれた時もある。

 

 そういう束縛されるのを嫌がる世代って事もあるし、姫川自身も嫌う傾向なんだろう。相性が悪いとしか言えない。

 

「まあ、身体はかなり良さそうだけどな」

「あかねをそんな目で見るな」

 

 ギロリと睨むが、姫川は柳に風という感じだ。ふ、と鼻で笑って対面に座ると手に持ったグラスを傾ける。

 

「ビジネスって聞いてたけど、案外本気? 独占欲強そうだもんな、お前」

 

 せせら笑うように言う姫川。こちらを挑発してるのか? その手には乗らないけどな。

 

「まあ、黒川なんて俺はどーでもいいや」

 

 琥珀色の液体が奴の喉にするりと流れ落ちる。ストレートで飲んでるのか、コイツ。そのうち体壊すぞ。

 

「鏑木さんの娘のほうが俺の好みっぽいし、な」

「……あの子は、まだ小学生ッスよ。ロリコン認定喰らいたいんですか?」

 

 そう言うとさらに笑ってくる。

 癇に障る笑い方、わざとやってるのか? そういうことなら抑えないとな。

 

「ハハッ、今とは言わねえよ。確かハーフなんだろ? 四年もたちゃあもうとんでもねえ身体になってんだろうしよ」

 

 ガタッ

 

 気が付くと。

 姫川の胸倉を掴んでいた。

 

「……」

 

 掴みかかったはいいが、何を言えばいいのか。というか、なんで俺はこんな真似を? 抑えないととか言っててこのザマとは。

 

「……わりぃ。ちっと高いシャツなんで伸びると困るんだわ」

「あ、スンマセン……」

 

 無地のロングTシャツだけど、確かに手触りは良かった。さすがに損害賠償とかは言わないだろうけど、謝るべきだ。手を離して頭を下げる。

 

「すみませんでした、軽率でした」

 

 謝ると奴は自分のグラスに酒を注ぐ……かと思ったらなんか冷蔵庫に入れてあるピッチャーみたいなのでいれてる。さては、それは麦茶だな?

 

 だが、一言いいたかった。

 芸能界の先輩だとしてもこれは言っておかねばならない。

 

「あの子は止めた方がいいです。鏑木さんの可愛がり方は尋常じゃないですから」

「いや、まあ。別に、本気じゃねえし」

「……」

 

 は?

 

「ククク、いつもの澄まし顔が結構変わるもんだな?」

「……からかってるんですか?」

 

 さすがにちょっと頭にくるな。やっぱ()るか、コイツ。

 

「悪い悪い。そんなつもりじゃなくてよ。ほら、お前舞台でもクールぶってて、涙もろかったりしてたし。そういう売り方なのかと思ってさ」

 

 ……セルフマネジメントとしてはそういう方向を考えてはいたけど。まさかズケズケと言ってくるとは思わなかった。

 

「いけないですか?」

 

 そう言うと、奴は笑って答えてくる。

 

「いんじゃね? 人には人のやり方もあんだろうし。とやかく言うつもりはねーよ」

 

 なら、わざわざ言わなくても。

 そう思ってたら奴は言葉を続けた。

 

「でもお前。たぶん素のほうがおもろいぞ」

「……そう、ですかね」

「ああ。見た目クールで中身激アツったら、ギャップ凄えもんな」

 

 ……見透かされていたのか。

 

「まあ、芸能界渡ってくにはそれも必要なスキルなんだと思うよ」

「成功者たる人の発言ですか」

 

 月九ドラマに新人男優賞とか取るような男だ。今の芸能界にコイツを超える人間なんてそうそう居ない。

 

 すると、奴は呟くように話し始める。

 

「最初の顔合わせん時、段ボールン中で寝てたじゃん? んで、寝ぼけてました、みたいな」

「そう、でしたね」

 

 あれは驚いた。

 まさかあんな所で寝てるとは思わなかった。

 

「アレも実んところは仕込みだよ。オヤジに蹴飛ばされて起きてくる、とっぽい印象の俳優として印象付けるための、な」

「……マジですか?」

「掴みは大事、だろ?」

 

 ニカッと笑う姫川。

 悪戯に成功した悪ガキっぽさも相まって、年相応の男の笑顔に見える。

 

「まあ、細けえことは言いっこなし! 飲め飲め」

「同じものでいいなら」

「あ? ……まあいいか」

 

 そう言うとこちらのグラスにピッチャーから注いでくる。一口舐めると、やはり麦茶だった。

 

「言っとくけど、俺ぁ結構強いんだぜ? 今はコイツにしてるけどな」

「そういう事にしておきます」

 

 本当かどうかはともかく、こちらを気遣うくらいの度量はあるようだ。ならばありがたく頂戴しておこう。

 

 と、それで済まない人も居たか。

 

 

「姫川ァ……おまえ呑んでねぇなぁ?」

「やべっ、見つかった」

 

 席の後ろからゾンビよろしく出てきたのはララライ代表金田一。いつもは隙のない厳つい雰囲気だが、完全にベロンベロンになっております……どんだけ飲ませたらこうなるん?

 

「こりゃあ、ヤバいっすね」

「なにおうっ おれの頭頂部がヤバいだと?」

「いや、そんな事は言ってませんが」

 

 ただの酔っぱらいになってるな。これは話を聞くのは無理かもしれない。そこへ女の子がやってきて姫川に謝る。

 

「ごめーん、飲ませろって言うからやりすぎちゃったかも♪」

「あー、いいよいいよ。おっさんが悪い。ここ、置いてっていいから」

「ひとを、ものみたいに扱うんじゃねえ、ばかやろお」

 

 軽く小突いてるように見える……酔ってて力加減が出来てないのか姫川は痛そうにしてるが、ただの劇団員、という感じでは無さそうだ。

 

「……お二人は、どういう関係なんですか?」

 

 この言葉に答えるのは姫川。

 

「俺は養護施設出身でさ。そこ出たあとにこの人に色々と世話になったんだよ」

 

『養護施設……』

 

 何らかの事情で親元を離れた子供を保護する場所。その背景は窺い知れないが、彼もアイと同様に波乱な人生を歩んできたらしい。

 

 すると、金田一は姫川の頭に手を乗せて荒々しく撫で回す……撫でてんのかな? かなり力は入ってるぞ?

 

「欠けてる奴はいい。欠けてる部分を求めるように吸収していく。コイツが、そうだったようにな。お前もそうだ、星野」

 

 すると、そんな事を言いだした。

 

「星野?」

「あ、俺の姓です」

「アクアって芸名か」

「本名は星野愛久愛海(あくあまりん)です」

「本名のがインパクトあるなっ」

 

 久々に出来たな、名前ネタ。

 そんな事を話しつつも金田一は独り言を続ける。

 

「お前たちの演技は、欠けてる奴の演技だ。アイツとそっくりだよ、まったく」

 

 アイツとは誰のことだろうか。ひょっとしてアイのことか?

 

「マトモじゃない人間が真人間のフリしている。人とは違うから周りを観察して世の中に順応しようとしてきた奴の芝居だ」

 

 金田一の考察はおそらく正しい。俺だってまともではない子供だった。それを埋めるために学び、学習した。前世の記憶があったのも大きいだろうが、それも含めてマトモでは無いのだ。

 

「確かに……そのケはあるかもな」

 

 首肯せずに言葉だけで受け止める姫川。図星を突かれると人はリアクションが薄くなる。それは俺も同じだった。

 

「星野……お前は脚本に意見してきたな」

「は、はい」

「普通のトコじゃあ褒められた事じゃねえけど、俺は評価するぜぇ。俺等も若い頃はガツガツやり合って芝居してたからよお。イマドキの奴ぁ、張りが足りねえ」

 

 ……褒められている、のか?

 

「お前は、ひょっとしたら、こっち側のほうが向いてる……のかも、な」

 

 すると、ソファの背もたれに寄りかかったまま寝息を立て始めた。

 

「スマンな。過去話はまたの機会だ」

「いえ、別に。構いませんよ」

 

 話を聞ければよかったのは確かだけど、公演はまだ続く。機会はあるはずだ。それよりも。

 

「代表、どうします?」

「あー……わりぃ、手ぇ貸してくんない?」

「はあ……構いませんが。どこへ?」

 

 寝ゲロとかされなきゃいいけど。ホテルでも取ってるのかと思いきや、違う言葉が返ってきた。

 

「俺んち」

 

 売れっ子俳優様とは思えない気軽さだった。

 




ちなみに、この段階で姫川のDNA鑑定は届いてません(笑)
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