プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
注意:心中事件の発生時期が原作と違っています。
追記:誤字報告、ありがとうございます。
驚くべき事実というものは、そう滅多に無いと思ってはいた。
許容量を超えた衝撃を受けると、人はフリーズするらしいけど本当にそうだった。部屋で見ることにしている書類に書かれた文言。それが原因だ。
『遺伝子適合率から、対象の方は血縁関係と診られます』
この書類のサンプルは俺と姫川大輝の物。つまり、俺とアイツが血縁関係にあると示している。
当時の年齢を鑑みれば親の訳は無い。だとすれば兄弟か。ならば父親が同じ、ということだろう。母親は互いに違うのは明白だからな。
ならば、奴の父親が俺の父親でもある、ということか?
いや。
それは有り得ない。
上原清十郎が心中事件で死んだのは約十六年前。俺がまだ生まれてもいない頃の話だ。また、日程的に考えるとアイに仕込んだ時期とも合わない。上原清十郎が父親であるはずが無い。
では、母親?
アイが俺とルビーの母親なのは間違いない。そして姫川大輝の母親がアイな筈もない。
年齢的に厳しいと言える……出来ないとは言わないが。
だがそれよりも確実なのは。
産科医の俺が、あの時のアイは初産だったと確認しているからだ。
よって、姫川の父親が上原清十郎では無い事のほうが確度が高くなってしまった。
そして、心中事件の実際の顛末も分かってしまった気がする。
妻の姫川愛梨が不倫をして、大輝という子供を托卵された上原清十郎が逆上した、という形だ。
『むしろ、しっくりくる』
妻の裏切りと托卵された悲しみが、彼を凶行に走らせた。心情として納得しやすいと思う。確かに収入面での軋轢もあっただろうが。
『しかし、どうしたものか』
この事実を伝えるべきか。
……いや、伝えてどうする?
彼の両親は既に亡く、彼自身も割り切って生活を営んでいる。この事実は余計な雑音にしかならず、俺やルビーにとっても何ら益にはならない。
『伏せておくべきか』
その結論に至るのは当然だ。
赤の他人のままで居るべきだし、知ってもどうにもならない。俺たちと彼が兄弟だと分かったからといって何になるのか?
そっとしておいたほうがいい。
俺の復讐に、彼を巻き込むべきではない。彼の父親が上原のままなら、こちらとは何も関係が無いのだ。ならば、そのままでいい。
『こんな思いをするのは、自分だけでいい』
知らなければ、復讐などとは考えもしないだろう。その理由もないのだから。
そして、もう一つの書類にも目を通す。こちらは金田一のサンプルなのだが、結果は外れ。もしもこれが当たりだったら金田一敏郎は殺されても文句が言えない立場だったろう。
『まあ、当然か』
自分のせいで心中事件を起こした子供の面倒は見ないだろう。出来るとしたらとんでもないサイコパス野郎だ。そんなモンスターでなかったことに安堵した。
とは言え、金田一に聞くべき事が増えてしまった気がする。彼にはこの件を話さねばならないだろう。
『やはりその当時のララライの近くに、奴がいる』
これは間違いなさそうだ。
早速、連絡を取ってみよう。
東京ブレイドも千秋楽を終えた今なら時間は取れるだろう。
『……はい。金田一だぁ』
「おはようございます、苺プロのアクアです」
『おう……なんだ?』
「実は内々にお話したい事がありまして。ご都合、つきますか?」
『ああ。別に構わねえけど、お前未成年だろ? 酒飲むとこ以外は行きたくねえなあ』
……この酒飲みオヤジが。こないだそれで潰れたの忘れたのか? えっと、あそこがいいか。
「寿司なんて如何でしょう?」
『いいねぇ』
以前、鏑木に連れて行ってもらったあの店なら良いだろう。予約を取ってから再度連絡すると、奴は快諾してきた。
「さて。あとは……」
本日の予定はあかねとのデート(ビジネス)。厚手のコートを羽織って部屋を出ると、階下から賑やかな声が聴こえる。
「宮崎? 本当ですか?」
「メムの伝手でね。来てくれるなら格安で製作するって話らしいわよ」
「ぬほほ♪ もっと褒めてもいーんだよ?」
「宮崎かー、なんか久しぶりだなぁ」
わいわいと騒ぐ女どもの声。どうやらMV撮影の為に行く旅行の件で盛り上がっているらしい。
宮崎か。
そういえばあれから一度も行ってないけど。
俺には関係ない話だな。
そう思って通り過ぎようとしたら何かがぶつかってきた。
「アクアさん、宮崎ですよ、宮崎っ!」
「だから、お前は少しは慎みをもて」
後ろから腰に抱きつく月代にそう諭すが、目がキラキラしてて聞く気もない感じ。
「パパ以外と行く旅行なんて初めてですっ!」
「修学旅行は?」
「まだですよ?」
「あ、そっか。今年なの?」
「ハイッ」
人に抱きついたまま会話してんじゃねえよ。頭を掴んでぺい、と離すとルビーに投げる。
「あう」
「よ、と。おにーちゃん、乱暴だよ?」
「いつまで経っても子ども気分の奴が悪い」
MVの撮影なのだから遊びではないだろうに、コイツらときたら……。
すると、メムが近寄ってきて囁いてきた。
「ちなみに、アクたんも参加だってよ?」
「俺が?」
MV関係ないだろうに。
「東ブレお疲れ様って事らしいよ」
「……ミヤコの奴」
人数増えれば出費も嵩むのに。育ての親ながら頭が上がらないな。
「川での撮影とかもあるんだって」
「えー、水着とかいるの?」
「さすがにそれは無理だよ、冬の高千穂って寒いよ?」
「アンタ、よく知ってるわね」
「そ、そんなの当たり前じゃん。冬の山なんだし(アセアセ)」
賑やか過ぎる。若干辟易した俺はそそくさと玄関へと向かうが、そこに食らいついてくる奴がいた。
「今回は二泊三日なのよ? ちゃんとキャリーケースとか持ってるの?」
有馬である。毎度の事ながら語気が強い。
「あー……事務所に転がってるの使うからいいよ」
あいにくと私物としては持っていないが、使う時は事務所のを借りてたから特に問題無かったし。だが、彼女はお気に召さなかったらしい。
「そんなのダメよっ! 役者は地方ロケも多いしアイドル活動にも必需品なのよ? 私たちの頼れる相棒なんだからちゃんと選ばないとっ!」
有馬にしてはマトモな発言、素直に感心した。確かに役者として活動するならいつかは必要になってくるだろう。
「まあ、アンタはろくに知識も無いだろうから、私が選んであげるわ。ちょうど今日の午後はオフだしっ!」
「いや、今日はこれからあかねと会うから」
いきなり言われてもこちらも困る。先約があるのだからどうにもならない。すると、ぐぬぬ……と唸りながら「じゃあ明日っ、ダメなら明後日」とか言い出す。お前、けっこうオフあるなぁ……
「じゃあ明日。詳しくは後でメールするから」
そう答えて扉を閉める……少し素っ気なかったかな? まあ、明日埋め合わせすればいいか。
道すがら、明日のことを考える。
有馬と出掛けるなんて、初めてかもな。少し舐めた態度が多かった気がするから、大人のもてなしって奴を味わわせてやる。
実年齢アラフィフをナメるなよ(キラーン)
・・
アクアが出ていってから、部屋にはしばし沈黙がおりた。かなちゃんのテンションが激落ちしたからだ。
「あかねと約束、かあ」
「いつものアリバイ作りだよお、番組上交際中ってことになってるから」
メムちゃんのフォローにもテンションは上がらない。
「……知ってるわよ。でも番組終わってもう結構経つじゃない。義理は果たした頃だと思うんだけど?」
「アハハ……」
さすがのメムちゃんも乾いた笑いしか出ない。『今ガチ』から、もう半年近くになる。世間的には話題は落ち着いてきている。
「それに東ブレでもカップルじゃなかったし。話題性として維持する理由も無いと思うんだけど」
「そ、そうですね……」
これには私が頷く。
アクアが刀鬼でなくなった事に私も関係あるし。
2.5次元舞台、東京ブレイドは大いに成功を収めていた。
だけど、『アクあか』を売りにしていた戦略は早々に失敗していた。
このためにビジネス上のお付き合いをしていたのだとすると、まったく意味の無いものとなってしまったと言える。
彼らのお付き合いがビジネスじゃなくて、本当に好きあってのものなんじゃないかとの疑念が湧くのも無理はない。
「ホント、いつ、別れるんだろ……」
かなちゃんの呟きが、しばらく耳に残った。
母としては、かなちゃんだろうとあかねちゃんだろうと構わないとは思う。どっちもいい子だからね。
ただ、ビジネス上のお付き合いに関してはそろそろ幕を引いてもいい頃合いじゃないかと思う。何も別れろとは言わない。自然消滅なんて形でもアリだし。若い頃のお付き合いなんて、そういう形で消えていくことも多いと思うわけで。
「まー、外野が色々言っててもしょーがないよ」
「るーちゃん?」
この雰囲気を壊すかのようなルビーの発言。かなちゃんが睨むようにルビーを見据える。
「外野ってどーいう意味よ?」
「外野は外野だよ。センパイ、お兄ちゃんのこと好きなの?」
「なっ!?」
おおっと。
ブッ込んできたね、ルビー。
「文句言うならちゃんと態度示しておかないと。なんで文句言われてるのか、お兄ちゃんだって分かんなくなっちゃうよ?」
「そ、それは……(ウグウ)」
かなちゃんが答えを窮している……ていうか正論で殴るなぁ。妹って立場だとそうなるのは分かるけど。
「ルビーちゃんの大人な発言……」
「こ、これは今日はお赤飯にしないといけませんね」
とりあえずメムちゃんの言葉にボケておく。空気を和ませないとわたし、死んじゃう(笑)
「あ、アンタだってアクアのことクズ男とか言ってたじゃない!」
でも、こんな程度ではかなちゃんは止まらない。ルビーへと噛み付くけどルビーの方は余裕の態度だ。
「ビジネスのお付き合いに関しては、ですよ? 真面目に交際するなら、応援しますよ、誰でも」
「……誰でも?」
ルビーの言葉に、かなちゃんがきょとんとした様子。でも、ルビーの言葉は続く。
「あんな人間性皆無な兄が多少マシになってきたんですから。この際誰でもいいからお付き合いしてもらって、真人間に戻してあげたいんですよ」
……んん?
なんか、ヒドイこと言ってないかな? 妹さまや。
「だから、戦線への参加ならちゃんと表明しないと、ね? センパイ♪」
「う、うぐぅ……」
いい笑顔でそう宣うルビーに、かなちゃんは苦虫噛み潰したような顔をした。
まあ、確かにそうなんだよね。
ちゃんと伝えないと分からない事ってあるし。なあなあで付き合うとかって、もう少し大人になってからする恋愛だと思う。
ルビーの言葉に一人で納得していると、彼女がコソッと耳元で囁いてきた。
「もちろん、つーちゃんも、だよ♪」
「……へ?」
言われたあと。
ものすごく恥ずかしくなったのは、内緒です……
月代:(ルビーは、いいんだ……)
ルビー:(つーちゃんがお兄ちゃんのお嫁さんになったら家事とかしなくてもよくなるし)