プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
「あー、もう。全然決まらないー」
部屋の中で当たり散らす不毛な行為をしている私。分かってはいても止められないのだ、これが。
その日の私は早くから起きて準備にかかっていた。
まずはお風呂。昨日も入ったけど今日は念入りに。でも、のぼせないようになるべく早く済ませる事にする。
お風呂をあがったら、今度は体のチェック。ムダ毛とかでアイツに幻滅されたりしたら目も当てられない……いや、別に見せるつもりは、無いんだけどっ!
あらかた終わったら今度は髪。昨日、突発で美容院に行って整えてもらったけど、前髪とかは事前チェックは欠かせない。
「はくちっ」
暖房全開にしてもちょっと冷える。バスローブだけじゃ当たり前かな? 仕方ない、ちょっと肌着を着ておこう。当然、普段使う物だから後で着替えないと。勝負下着なんてあったかな? まあ、下品にならない程度に高いの見繕うか。
何度も言うけど、別に見せるつもりはないんだからねっ!
お化粧はともかく、スキンケアは若いうちも大事。肌が乾燥してたりしたら、手を繋いだ時にバレちゃうかも。念入りに塗り込んで……よし、完璧。赤ん坊みたいなぷるぷる素肌♪ 決して、見た目が幼いからじゃないんだからねっ
ネイルは、どうしよ。前に黒川が今ガチの時に着けてたけど……私の手ってちっちゃくてあまり映えないんだよね。……そういや月代も小さいし。アイツはロリコン気味なのかも。だったらそのまんまでもいいかな? どーせ私は黒川みたいな美人系じゃないし。自分のウリを理解していかなきゃ。
さて。
ここまでで残り二時間。一番大事なコーディネートの時間だ。
とは言っても、実際どうしたらいいのか。私はクローゼットからあらん限りの服を取り出して、部屋中にぶちまけていた。
「清楚かつ大人っぽさをアピールするスッキリとしたワンピとレギンスの組み合わせ……ちょっと気合い入れ過ぎって見られちゃうかな」
私の体型に合ってるかというと、正直微妙。でも、フォーマルな場所ならこういうのもアリなはず。
「スポーティな感じで大きめのフーディにボトムスはラインの入ったジョガーパンツ。これに合わせるならダッドスニーカーがいいかな? 黒のキャップで空港コーデとかどう?」
芸能人っぽさは出ると思うけど、キメ過ぎない感じ出てるかな? 逆に崩し過ぎな気もしてくるぅ……
「私って素材を生かすならロリ&ガーリーがマスト? フリル多めなフレアスカートとか嫌いじゃないけど、どっちかというと女の子ウケなんだよね」
アイツの好みかって言うと少し違うかも。ルビーとか月代のファッションに寄せてみるって手もあるわね。
「ルビーが時々着てる妙なロゴの付いたトレーナーとデニムのボトムス。あくまで普段のJKっぽさがウリ?」
これは、なんか違うわね。
ていうかデートにしていい格好じゃなかったわ。ていうか、ああいうの、どこで買ってくるの?(答え:し●むら)
「……月代の普段着って、どんな感じだっけ?」
最近、学校の制服しか見てない気がする。でも仕事の時は……
「シックなジャンパースカートに、トップスはタートルネックのオフホワイトのセーター。アウターは茶色のダッフルコートで足元も濃いブラウンのローファー。いわゆるお嬢さまファッションね」
……意外といい感じかも。
これならベレーも似合うし、私の方向性にも合ってる。メガネとか掛けたら学生の休日ファッションになりそう。
「むう……つまり。月代と方向性は同じってことか」
ベッドの上にそのままの格好で胡座をかく。あの子ならこんな事しないだろうけど(←普通にしてます)
アイツを巡る攻防から黒川が離脱したのは有り難い限りだ。前々から気に入らないライバルに掻っ攫われるのだけは我慢ならない。
だからといって、月代ならいいかというとそうでもない。歳下なわけだし。
アイツとは運命的なモノを感じた訳だし、どうせなら……お付き合いしたい。
子供の頃に会ったきりで。
やっぱり現場での再会。
ハズレ仕事だったものが、アイツ(と月代)のおかげで普通に見られる出来にまでなった。私一人じゃ、たぶんムリだったと思う。
ああいう仕事もあるってことは理解してたし、プロデューサーの鏑木さんも納得尽くの様子だった。あれをひっくり返すなんて、芸能界に浸かった人間には無理な話だったのだ。
それを、アイツはやってしまった。原作者や鏑木さんの娘の月代の助力があったとは言え、青写真を描いたのはアイツだ。
私にとっては、まさに天から伸びた蜘蛛の糸。まあ、そのおかげでアイドルとの二足の草鞋を履くことにもなっちゃったけど、これも知名度を上げるには功を奏した。
そして、久々の演劇。
それも2.5次元という新機軸の大舞台での準主役。トントン拍子という他無いほど私の知名度は上がっていった。
今回のMV旅行の後は、予定はぎっちり詰まってて、学校とも相談せねばならなくなってしまった。
すごく、うまく回ってる。
全部アイツのおかげとは言わないけど。
ふと。
ルビーの言った言葉が思い出された。
『文句言うならちゃんと態度示しておかないと』
それも、わかってる。
今のままじゃ、ただ単にムカついてキレてるだけの可愛くない子供だ。アイツはムダに頭はいいけど、そういうところはかなり抜けている、と思う。言わなくても察しろと強く言いたい。
でも、それは逃げの口実だ。
実際に言い出せない、その一歩が踏み出せないのは……私の弱さの表れであって。軽口や悪口を言い合う気安い関係で構わない。心の底ではそう思っている証左とも言える。
『たしかに……このままの方が、今はいいのかも』
あかねとの交際が無くなった今。私に焦る要素は無い。月代? アレはルビーと同枠でいいと思う。
たしかにズバ抜けて可愛いのは認めるけど、アイツの目線はルビーと同じ。妹と一緒だ。本気にはならない。
『でも、他の子はどうだろ? メムとか事務所の鈴城さんは……歳上過ぎて無いか』
そう考えると、今ここで行動するのは早計な気がしてきた。下手な事して距離を取られたりしたら、こっちのメンタルのほうが保たない。
『うん、やめよう。ルビーの挑発には乗らない』
自分のことなのだ。
人の考えに流されてとか有り得ない。
落ち着いてみると、いかに舞い上がっていたかが分かる。
『今のところはこのままで十分』
もちろん攻める手を緩めるつもりはないけど、きっちりとした線引はしないほうが良さそうだ。考えてみたら、私いまアイドルだし。特定の相手とか燃える材料にしかならないもんね。
ちらりとスマホを見てみると……
「げえっ! もう時間無いじゃんっ!」
うだうだと考え込んでて結局決まってないじゃん。もういいや、このまま行こうっ!
バタバタと身繕いを済ませて、家を出る。電車間に合うかな? タクシーのほうが確実かも。
『あーっ! もう。わたしのバカーッ』
予定時刻を大幅(約一時間)に遅れて、待ち合わせ場所に到着すると。
『喫茶店で待ってる(添付画像)』
どうやら近くの喫茶店で待ってるらしい。示されたそこは東京に何店舗も店を構える少しお高めの喫茶店。中に入って店の中を見ると、わかり易い所に彼の姿を発見。ウェイターさんに待ち合わせと声を掛けてからそちらへと向かう。
「ごめんね。タクシーが渋滞にハマっちゃって……」
もちろんウソである。
だけど、彼は気にした様子もなく読んでいた本を畳んでこちらを見た。
「ずっと本読んでたから問題無い」
どうやら小説のようだけど、カバーが掛かってるので内容は分からない。
「まだ時間、平気だろ? 俺ももう一杯飲むし」
「そ、そお? じゃあ……」
近くに寄ってきていたウェイターに注文すると、彼も同じものを頼む。そうして、持っていた本をおもむろに広げ始めた。
「もう少しで終わりだったんだ」
「べ、別に構わないけど……」
「さんきゅ」
そう言って本に目を落とすアクア。
『こんなときでも、マイペースなんだなぁ……』
こっちが慌てふためいてたのがバカらしくなるほど自然体。とはいえ、今日の装いはわりとフォーマルな感じだ。普段の彼は、意外と着るものには拘らないタイプなので少し意外……
『あれ? やっぱりデートって意識してるのかな?』
注文されたコーヒーが届く頃には彼は本を閉じていた。本当にあと少しで読み終わるところだったようだ。
「この辺だと伊●丹とか?」
彼が聞いてくる。地理的にはそこが一番近いかも。でも、私もあんまりそこは行ったことがない。どっちかというと高●屋派なのだ。
「あ、うーん。正直どこでもいいとは思うけど」
「ふむ。こっちの方はあんまり来ないからよく知らないんだよな」
「そのために私が来たんでしょ?」
「だったな。今日はヨロシク」
そう言って、微笑むアクア。
「あ、うん……」
絶句するほどの美貌。今日は変装のためにシャープなスクエアタイプの眼鏡も掛けてるから、破壊力が高さ過ぎる。
『こんなん、夢女子になっちゃうよお……』
次回へ続く(笑)
原作と違ってあかねのフラグはほとんど立ってません。なので原作よりは心情的に楽になってる(と思われる)かなちゃん。カワイイね♪