プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
ミヤコさんが電話に出ているのが視界の端に映った。
ここは撮影スタジオでMVが撮影されている真っ最中。なので話すために離席していく。事務所の鈴城さんからかな?
しばらくすると戻ってきた彼女は私に耳打ちしてきた。
「ちょっと席を外すわ。子供たちの撮影終わるまでには戻るから」
「ええ? どうしたんですか?」
「うちの子がちょっと。詳しくは後で話すわ」
ルビーちゃんはここに居るんだから当然アクたんのことか。学校で何かやらかしたのかな? まあ、『早熟』なんて呼ばれるだけあって、わりと大人びてる彼のことだ。大したことはしないだろうけど……でも保護者に呼び出しかかるとか意外と大ごと?
ぱたぱたと出ていくミヤコさん。撮影中の三人は気付いてないみたいだ。撮影に集中している。二本撮りのせいか時間が押してる事もあるんだろうけど、完全新曲のせいかみんなテンションがすごく上がってる。
『……やっぱ、レベルが違うな』
こうして見ていると、内心思っていた事が間違いないと確信に変わってくる。
芸歴、演技力に裏打ちされたかなちゃん。
天真爛漫な明るさで引っ張っていくルビーちゃんも得難い資質だ。
そして、一番幼いながらも目を引くのは鏑木さんの愛娘、月代ちゃん。
私だって(歳の割には)可愛いと自負はあるけど、やはり彼女たちの存在感は抜きん出ている。一人一人がピンで活動しててもおかしくない逸材が固まってるのだ。私がかすむのも仕方ない現実である。
『特に月代ちゃんは……』
体幹がしっかりしてるのかダンスにほぼブレがない。その上、歌声だってかなちゃんに迫るレベルだ。今は一番年下だし、世間からもマスコット枠として認識されてるようだけど、将来性を鑑みれば末恐ろしいとしか思えない。
『親ガチャってあるよねぇ』
母親はロシアの大手バレエ団のプリンシパルだったわけで、フィジカル的にはかなり有利。しかも外国人とのハーフなわけで容姿的にもバッチリときた。正直、他のスペック無くてもこれだけで勝ち組みたいなものだと思う。
しかも父親は業界きってのプロデューサー。各方面へのコネや根回しなんかの便宜も図ってもらえる、新人アイドルには喉から手が出るほど欲しいものを最初から持ってるのだ。
はっきりいえば、もっと大手の事務所からのデビューのほうが納得出来る。
苺プロはかつてB小町を輩出したとは言え業界的には中堅とは言えない立ち位置だ。将来を嘱望される逸材が居ていい所じゃない。
あのデビューイベントの前日、かなちゃんが月代ちゃんに質問していた事を思い出す。
『──なんで、アイドルやる気になったの?』
その言葉に、月代ちゃんは少しだけ考えて。
『皆さんがいたから、ですよ♪』
『見え透いたお世辞には乗らないわよ』
『違いますよぅ……正確には、ここの事務所だから、ですかね』
その後に続く言葉に、私は妙に納得した覚えがあった。
『アクアさんやルビーさんを育ててきたミヤコさん。かなさんやメムさんも含めて、家族みたいなこの空気が……とても好きなんです』
月代ちゃんは、生まれてすぐに母親を亡くしている。鏑木さんが愛情をたっぷり注いで育ててきたのは分かるけど、それだけでは物足りないと感じるのも仕方ないと思う。
ここの社長、斉藤ミヤコさんとアクたん達は実の親子では無いという。
それでも愛情をかけて育ててきた。その在り方は月代ちゃんの家庭と似通っている。彼女が『家族みたいなもの』だと言うのも理解できるのだ。
『家族のためなら、協力したいじゃないですか』
常日頃はしっかりしていて、とてもまだ小学生とは思えない彼女だけど……やはり家族に対する愛着はあるようで。
当初は渋っていたとは思えないほど、すっきりとした顔でそう答えた彼女に、かなちゃんも頷くしかなかったようだった。
すると、ミヤコさんが戻ってきた。少し顔色が悪いと思ったら、席を外すからみんなの面倒を頼むと言われた。
「もし戻れなかったら手配してある旅館までみんなの引率お願い」
「そ、それはいいですけど……どうしたんですか?」
苦虫を噛み潰したような顔というのはまさにその時の社長の顔そのものだった。
「うちのバカ息子が人様に迷惑かけたみたいなの」
「ええ?」
アクたんが? 擦れてはいるけど人様にご迷惑になるようなことはしないように思うけど。
「そ、それじゃあ東京に?」
「いえ。なんかこっちに居るみたい」
「はあ?」
アクたん、何してんの?
それなら一緒に来ればよかったのに。ルビーちゃんと気まずい状態だから遠慮したって言ってたけど、どういうこと?
「何か分かったら連絡するわ。あなたも撮影あるのに申し訳ないけど」
「そ、それはいいですけど」
どうせカットの割合で言えば私が一番少なくなる予定だし。何なら穴埋めと言っても過言ではないし。それに私は法律的には夜間でも撮影は出来る。なんちゃってJKだからネっ!(自虐)
「じゃあ、頼むわね」
「はい、社長」
手を振って社長を送り出す。
『アクたん、何やらかしたんだろ』
彼の姿を思い起こす。私よりずっと歳下のはずなのに、時折大人びた姿を見せる、眉目秀麗を形にしたような男の子。そんな彼が問題を起こすとか、考えられない。
『あ、でも……』
一つだけ、あり得る可能性が高い。その彼の容姿と、老成とも言える落ち着いた性格から導かれる答えは。
『女の子がらみ、かなあ?』
この推測が当たってるとわかった時、顔が良すぎるのも良し悪しなんだなぁと、しみじみ思う事になった。
・・・・・・
「え? アクア、こっち来てるの?」
「うん。そうみたいだよ」
メムさんの言葉にルビーが驚く。けど、どちらかというと喜色を含んでいる感じ。なんだかんだと仲が良い。
それより、気になることがある。
「ど、どうやって来たんですか?」
「さあ。けど、飛行機じゃないかな。今は未成年でも一人で乗れるし」
「ふああ……」
時代ってやつなんでしょうか。
親目線だとこういう危ない事はやってはほしくないけど、一人でこんな所に来れるような逞しさを身に付けてるようにも思えて誇らしくもある。
「寂しくなって追いかけて来たとか、可愛いトコあるじゃん、バカ兄貴♪」
そうであるならいいとは思うけど、たぶん違うだろうなぁ……あの子、目的が無いと行動しないタイプな気がするし。それに、ミヤコさんが呼び出されたというのも気がかりだ。
「それで、ミヤコさんはなんと仰ってましたか?」
「んと、アクたんが人様に迷惑かけたとか言ってたよ?」
「「めいわくっ!?」」
これは、もしかして事件?
アクアが加害者とか、有り得ないと思うけど……時々カッとなる所あるけど、まさか。そんな。
「つーちゃん」
「は……」
「落ち着いて。顔、青くなってる」
気付くと、ルビーが肩に手を置いていた。どうやら心配させたらしい。思ったよりダメージが大きいみたい。
「へ、平気です」
「うちのアニキ、そこまでバカじゃないから。暴力事件とかは起こさないよ」
「でも」
巻き込まれたとかいう可能性もある。顔がいいからってだけで難癖付けてくる輩がいないとも限らない。
「ああ見えてチキンだから。勝ち目のある勝負しかしないし。臆病と言ってもいいかも」
「妹だけあって、ズバズバ言うねえ……」
「くす」
メムさんのリアクションに少しだけ笑う余裕が出来た。やっぱりB小町には必要な人だよ(←わりと失礼)
「アイツが人に暴力ふるうとか、余程のことが無いとやらないよ。だから心配しないで」
「……はい」
そっと抱きしめてくるルビー。うう、ママなのに。でも、大きくなって頼もしくなったのはルビーも同じなのかもしれない。それがやはり、嬉しくもあり哀しくもあり。
「というわけでアネモネ。一度二人を旅館まで送ってくるから続きは戻ってからでお願い」
「仕方ないわね。こっちも休憩しとくから行ってきなさい」
アネモネさんにそう伝えて移動する私たち。空は既に赤くなっていて、すぐに夜の帳が下りる時間だ。
今まで会話に入ってこなかったかなちゃんが、ニマニマと笑っている。
「かなちゃん、どうしたんですか?」
「ん? いや、まあ。わざわざ追っかけてきたと思うと、健気だなぁってね」
……
いま、私とルビー、メムさんの目はジト目になってると思う。まあ、これぐらい楽観的な方がいいのかもしれないけど。
カァー
木に止まってる鴉が一声鳴く。
もう、鴉も家に帰る時間なのだろう。
「さ、車に乗って」
「メムちょ、免許持っててすごいなぁ」
「なんちゃってJKですからね」
「そこぉっ、なんちゃって言うなぁ」
ミヤコさんはタクシーで移動したのかな? 来るときに乗ってきたレンタカーが残っていたのでそれで旅館まで戻る事になった。
「お風呂とか入ってゆっくりしててね」
すぐに戻るというメムさん。私はご飯はどうするのかと聞いてみた。
「私の分は片してもらって。たぶん夜中までかかるから」
「え、でもそれじゃあ……」
「アネモネが用意してるって話だし。元々そうするつもりだったから気にしないでいいよン」
お仕事にかける情熱ゆえか、それとも年長者としての威厳を保つためか。笑ってそう答えるメムさんに、大人の女性を感じた。後ろ髪を引かれる思いをよそに彼女は慌ただしく旅館を後にした。
「……」
「あんまり気にするんじゃないわよ」
「かなちゃん……」
そんな私を気遣ってか、かなちゃんが声をかけてくる。
「私らの仕事は今日は終わり。お風呂入って、ご飯食べて、あとは寝るだけ」
「むう……」
それも分かる。今の私は子供だし、妙なことをしでかせば保護者に迷惑がかかる。実際、アクアはそれでミヤコさんに迷惑かけてるのだ。
「ある意味のんびり出来るようになったし」
鼻歌交じりのルビーは少しご機嫌なようだ。
「あ、ミヤコさんから学校の課題進めておくようにってメッセージあったわよ」
「ギクッぅ!」
……監視者が居なくなったのを喜んでただけらしい。この子のこういうところは、羨ましく思える。
「うええん……センパイがいじめるよお」
「私もやりますから。がんばろ、るーちゃん」
「うう……救いはなかったよお」
それから。みんなでお風呂に入って、ご飯を食べているとミヤコさんが帰ってきた。
アクアのことを聞いてみると、どうにも歯切れの悪い答え。ただ、暴力事件とかではなかったらしくて呼び出しも警察ではなかったらしい。
「詳しくは明日話すわね。これからメムの所行くからあなた達は夜更かししないで寝なさい」
忙しいという雰囲気に、追求出来そうにないと感じた。社長としてはメムさんも守るべき存在だし、その気持ちも分かるから。
そんな不満を感じてか、ミヤコさんが私に近付いてしゃがみ込む。
「アクアは元気だったわよ」
「……、そ、そうですか」
「だから、あんまり気落ちしてないでね。今日は別の所に泊まるらしいけど、明日はこっちに合流させるから」
「!」
その言葉に、少し心が楽になった事を自覚する。
『私、……意外と気にしてたんだなぁ』
思い浮かべるのは端正な顔立ちを困らせている表情。ミヤコさんに迷惑かけないようにおそらく万全な準備をしてきただろうけど、持ち前の運の悪さを発揮してしまい不測の事態に陥ったという感じだろう。そういう所が、とても微笑ましい。
「カシャ」
「え?」
気が付くと、かなちゃんがスマホを構えていた。
「と、撮るなら撮るって言ってください」
「ゴメンゴメン。いい表情してたから、ついね」
「ホントだ♪ さっきのセンパイにも負けてないよ」
ルビーが横から覗き込んで見てるスマホをこちらに向けるかなちゃん。
『……ええ』
その中の女の子は……とても幸せそうに微笑んでいて。まるで恋する乙女のようだった。