プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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アネモネさん視点です。モネモネって言いづらいよね(笑)


映像ディレクターは見ていた

 新生B小町というアイドルグループからの依頼に関して、映像担当ディレクターとしての意見を言わせてもらうとすると。

 

『将来性はかなり高い』

 

 と言える。

 

 話題性で言えば子役として活躍しつつも近年ぱっとしなかった有馬かなという役者上がりの子が抜けている。

 

 より若い層への訴求力と言えば友人のメムのほうが高そうだ。これはネットに強いせいもある。

 何せ自らのチャンネルと相互にリンクさせてシナジーを得ようとしているのだから恐れ入る。お前、プロデューサーのほうが向いてるだろ。

 

 そして四人組となればセンター位置にはもう一人、こちらに収まるルビーは見た目に関してはやや抜けている。

 

 天然おバカ系のアイドルとしては王道とも言えるけど、それだけではなさそうな所も見え隠れする。ひょっとして素地は毒強めのキャラなのかもしれない。

 

 メンバー内でも時折あけすけな会話をしているところを見るに、関係は良好と言えそうだ。

 アイドルユニットとしてのリーダーはおそらくこの子なのだろう。社長の子供という立場だけでなく、その資質があるように思える。

 

 一番下の月代ちゃんは年齢ということもありマスコットとして重宝されている。今の段階でも完成された容姿なのだが、笑ったり怒ったりする様は年相応に見えるのでそういう戦略で行くつもりなのかもしれない。

 

 ただし、先に行って一番成長するのはおそらくこの子だろう、というのは想像に難くない。

 正直言うと、ジュニアアイドルとして別枠で売ったほうが金になる気もする。他所様の方針に口を出すわけには行かないのでそこは黙っておくけど。

 

 それぞれ方向性は違うけど、総じて顔がいい。よく集めてきたなと感心するまである。

 

 

 

「でもなあ」

 

 僅かに引っかかる。

 これが映像として正解なのか、と。

 

 マストなダンスに、個々人のスナップ、自然と戯れる姿や日常的なカットなどを散りばめて。提出された音源に乗せていく作業に滞りは無く、むしろスムーズですらある。

 

 

『ここは目線を外しなさい』

『え、でもぉ』

『自然な画が欲しいのだと思いますよ。はい、こっち見て下さい♪』

 

 

 ルビーの食事風景を撮る時の一コマ。こちらが指示するよりも先に有馬と月代の二人から指示が出る。有馬に関しては芸歴ということもあるのだが、あの子供はなんなのか。

 

 同僚のスタッフに聞いてみると、なんとびっくりな返答があった。

 

『え? プロデューサーの娘?』

『向こうでやり手の人なんだって。今度独立するとか言ってるらしいよ』

『ええ……』

 

 世の中、二物も三物も持っている人というのは本当にいるらしい。あの容姿に歌唱力やダンスなどの素質に加えて、父親の政治力まであるとかチートが過ぎる。

 

 私は昨夜のメムとの会話を思い出す。

 

 

『あの子。生まれた日にお母さん亡くしちゃって。それからはそのプロデューサー、鏑木さんが一人で育ててたんだって』

『……マジで?』

 

 今どきシンママなんてよく聞く話だけど、男がするとなるとハードルはかなり上がる。特に芸能の世界なんて自分の時間が持てないので有名だ。

 

『ルビーも同じく母親を亡くしててね。かなちゃんも両親離婚して一人で寮暮らしだし』

 

 確かメムの所もシンママだった筈。

 弟二人を大学まで進ませるために働き続けて、アイドルへの道を棒に振ったと思ってたら、いつの間にかその道を再び目指すようになるとは。

 この子自身も相当運が強い。

 

 それはともかく。ぽつりと感想が(まろ)び出てしまった。

 

『なんか、業が深そうなユニットなのね』

『裏を見ちゃうとそう思うかもね♪』

 

 照れ隠しのように笑うメム。

 しかし、それが分かると見えてくることもある。

 

 

『……愛が少ない故に愛を求める』

 

 

 彼女たちは、総じて愛に恵まれてはいない。

 

 それ故に、愛を謳う歌を歌う。

 

 哀しくも思えるし、切なくも感じる。そこに込められたものは単なる恋愛だけではなく。

 

『そうだねぇ。そうなのかもしれないね』

 

 曖昧に答えたメムの言葉は、おそらく本心からのものだったに違いない。

 

 

 

 そうと分かれば方針は自ずと見えてくる。

 

 愛らしく、哀らしく、彼女たち(アイ)を見せる。

 

 幸いながら新曲はなかなかに使いやすい素材だ。少々毒を混ぜてもイイ感じに演出出来ると思う。急いでプロットを固めてミヤコ社長とこちらのプロデューサーに許可を取ったのが当日の朝六時。つまり、ワタシは寝てませんっ(ヤケクソ)

 

 

「というわけで、今日の撮影は表周りとなります。この辺は風光明媚、大自然が売りなので、そういったカットを撮っていこうかなと考えてます」

 

 そう説明すると、ルビーが手を挙げる。

 

「あの、ロケ地に病院とかあります? おっきな総合病院みたいなの」

「今回は無いですね」

「がっくぅ……」

 

 この言葉にあからさまにテンションが下がるルビー。

 

「川辺とか、神社仏閣。見晴らしの良い展望台なんかを考えてます」

「そ、そこにあえて病院を……」

「?」

 

 やけに病院推しますね。なに、病院好き? それはとてもニッチな趣味だと思いますが。

 

「そこは撮影終わったら回るから」

「うう……ほんとぉ?」

「ちょっと顔出すだけよ」

 

 社長のミヤコさんにそう言われると渋々納得するルビー。これは何かあるなと問うてみると。

 

「この子が産まれた病院なんです」

「なんと。里帰りだったのですか?」

「いえ。出産のためだけに来ていただけなので……生家はこちらじゃないんですよ」

 

 ははあ……。

 だとすればルビーの執着にも納得出来る。ある意味、聖地巡礼ですからね。

 

 とはいえ、病院という画はなかなか使いづらい。……まあ、匂わせ程度なら使えるかもだけど。

 

「ねえねえ、ミヤコさん。お兄ちゃんは?」

「あの子は監督さんのロケハンだそうよ。夜には合流出来ると思うわ」

 

 この言葉に他のメンバーも一様に顔が綻んだのを、ワタシは見逃さなかった。

 

「ほほう、お兄ちゃんとは?」

「アクアって言うんですけど」

「ほうっ! あのアクアですか?」

 

 ここ一年あまりで知名度をかなり上げている若手俳優。世間的には今ガチから有名になったと思われがちだが、業界関係者筋からの話だとデビューはその前となっていた。

 

 ここにいる有馬かなの復帰(?)作、『今日は甘口で』での最終話におけるストーカー役。界隈ではキモさと顔の良さのアンバランスさが大変高評価とされていた。

 一面を飾るというほどではないけど露出が多くなって来つつある印象である。

 

「でも奇妙ですね。アクアさんは俳優のはず。ロケハンとはたいてい裏方がやるものですが」

 

 大物俳優が自ら監督をするとかならあるとは思うけど、今はまだ若手である。

 

「知り合いの監督さんに頼まれたそうよ。いいトコあったらチェックしといてくれって」

「はあ……」

 

 同じ映像に携わる者として、何の知識もない素人にロケハンを任せるということはまず無い。その監督というのがよほどズボラでないのだとすると、それを任せられるだけの資質が彼には存在すると思われる。そういえば、『今日あま』の時も裏方をしていたという。

 

「少し、興味が出てきましたねえ」

 

 ぽつりと言った一言に。

 

「「「「ダメッ」」」」

 

 ……どうやら、彼女たちのお気に入りでもあるらしい。このグループ、早々に解散とかしなきゃいいけど(笑)

 

 

 

 

・・

 

 

 

 高千穂峡。五ヶ瀬川の一部の区域に限って呼ばれる景勝地であり、真名井の滝なども有名だ。ボートでの川下りなども出来るけど、もう少し下流へ行くと流れも緩やかで河原もある。今回の撮影スポットはここだ。

 

「水辺って本当に涼しいわね」

「うひゃあ、ちめたい♪」

「あ、るーちゃん。サンダルのまま入っちゃダメですよぉ」

 

 B小町の中の若い三人はそそくさと水辺へと向かう。メムはというと、車から降りるのも億劫そうだ。

 

「大丈夫? なんなら少し休んでてもいいわよ」

「うんにゃ。同じ時間までがんばってたのが普通に動いてんだから、これくらい」

 

 ……こういうところは全く変わってない。苦労性というか。そろそろ気合だけでは辛くなってくる辺りに差し掛かってるのはお互い様だけど。

 

 

「あれ? なんか地元の子、いる?」

 

 目指す畔に女の子が一人。水辺で遊んでたのか、かなりびしょ濡れである。それを気にせずに屈託無く笑う姿には覚えがあった。

 

「おお。黒ちゃんか」

「知り合い?」

「近所の子。かわいいんだ♪」

 

 この辺りでは評判の子だ。素っ頓狂なキャラとこちらも明るくしてしまうような笑顔。この辺の大人たちからの評判ならB小町を超えるかもしれない。

 

 その黒ちゃんと、B小町の若い三人が遭遇したのだ。私は自然にカメラに手が伸びていた。この瞬間は、何か得難いような気がしたから。ファインダーを覗いて彼らが収まるように画角を調整した。

 

「ん? どしたん?」

 

 分かってないメムのことを無視し、その瞬間を捉えるために集中する。テレビの向こう側にいるアイドル達と、地方の子どもとの邂逅。どんな画が撮れるのかと、少し鼓動が高まる。

 

「あ、あーっ! さりなだー!」

 

 ここまで聞こえてくる黒ちゃんの声。さりな? あの子たちの名前にあったっけ?

 

 すると、黒ちゃんは突然走り出し、ルビーへとタックル、もとい抱きついた。

 

 当然のように連写モードで撮影はしているけど……これは動画で撮ったほうがよかったかなぁ、と後悔したのはのちになってからであった。

 

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