プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
誤字報告ありがとうございますm(_ _)m
「ねえ、パパ。苺プロにご挨拶に行かない?」
「行かない」
「え〜、なんでぇ?」
そんなのアクアに会いたいからに決まっている。なんでわざわざ害虫の巣に行く必要があるのか。
「ほらコレ」
「ん?」
そう言って見せてきたのは動画だった。昔、僕も見てあの人と一緒に喜んだ懐かしの動画。双子の赤ん坊がきれいにシンクロした動きを見せたそれは、一時ネットミームにすらなった。
「このコ、アクアなんだって」
「え、マジで?」
片方を指さしてそう言う
「それで、こっちの子は妹のルビーちゃん」
「ははぁ……」
「わたし、このコに会いたいの♪」
「ええ……」
テンション上げまくりでそう語る月代。今日もめちゃくちゃカワイイなぁ。
「でも、事務所にいるとは限らないでしょ」
「だから、まず社長さんとかに挨拶して。外堀埋めようかなって」
ちゃんと物の道理を理解してる娘の成長に心のなかで涙する。将を射んとすればまず馬からだよね。
「でも、ダメ」
「ええー、なんでぇ?」
不満気な月代も可愛い。ああ、とんでもなく幸せな気分だ。
「プロデューサーとして責任ある立場なんだから、お宅訪問とかしないといけなくない?」
「そんなことでいちいち事務所まで伺うわけないでしょ」
「だって、パパ。ソニックステージの事務所行ってたじゃん」
「アレとは事情が違います」
ソニックステージはスポンサーの一角でもある(正確には違うのだけど)。だから、配慮してこちらから出向いて行ったわけだ。
一俳優に対してのご機嫌伺いで事務所まで行くのはよほどの事がないと有り得ない。大御所とかなら話は別だけど、彼はまだ新人も新人。そんな事をする理由はない。
「ちぇー。パパのけーち」
ぷんすこと引き下がる月代におやすみと声をかける。お、べーっと舌を出してる。コレはレアなスチルですよ? 心のファインダーにしっかり収めておかないと。
「ちょっともう一度その表情してくれる?」
やっぱりスマホにも撮っておきたい。すると、呆れつつももう一度あっかんべーをしてくれた。パシャリ。うん、よく撮れてる。
「もう、茶化して。パパ、大きらーい」
「ぐはっ」
心に矢を受けつつも、僕は満足だった。ああ、可愛らしい娘の姿がまた一ページ……月代の歴史が綴られるのだ。
それはともかく。先程の動画のことを思い出す。
『確かにアレがアクアだとすると……妹の方も相当なものになってるはずだ』
二卵性の双子は兄妹のようなものだけど、それなりに似てくるはず。アクアは害虫だが、顔は整ってるし声もいい。それの女の子版だとしたら……確かに興味ある。
『それにしても、どこからそんな情報仕入れてくるのか。お父さんは心配だよ』
今のところ妙な輩が彷徨いているという気配は無いけど、そろそろマジでボディガードとか考えるべきかな?(真剣)
・・・・・・
「はじめまして。ドットTV、プロデューサーの鏑木と申します」
「苺プロ代表、斉藤ミヤコと申します。ご丁寧にどうも」
菓子折りを持って苺プロへと挨拶に来た僕。当然、月代は同伴してません。アポイントを取っての正式な訪問をミヤコ代表は快く受け入れてくれて先方の事務所での対面となった。
「確か、代表は壱護氏だと伺っていたのですが」
「アレは今不在でして。私が代理をしております」
「そうでしたか。これは失礼」
そうだったのか。僕の情報はアイの生きてた頃のものからあまり変わってなかったので、正直驚いた。
「それで、今回の用向きはなんでございましょうか? 愚息が何かしでかしたとか……」
「ああ、そういうわけでは……」
あるのだけど、そうではない。
「彼の尽力でドラマの収録は順調に滑り出しました。今回はその御礼と申しましょうか。つまらない物ですが、お納め下さい」
「まあ、それはそれは……ご丁寧にありがとうございます」
月代のチェックしてた有名店のフルーツロールケーキ。いいお値段だけど美味しいと評判らしい。もちろん、お土産として別にもう一個買ってある。抜かりはない(キリッ)
「はじめまして、とは言いましたが実は代表にはお会いしておりまして。アイさんの弔問の折に」
「……そうでしたか。思い出せず、失礼なことを」
「いえ。あの時は大変だったでしょうし」
あの時の喪主はミヤコ氏だったはず。諸事情から式には参列出来なかったけど、香典だけは納めた時だった。
ひょっとしてあの事件が原因で離婚でもしたのか? ……下衆な勘ぐりはやめておこう。
僕は言葉を続ける。
「アイさんとは多少親交がありましてね」
「まあ……それは知りませんでした」
「仕事の一環で知り合いまして。その後、ちょくちょく連絡をくれましたので」
そこまで話すとミヤコ氏の視線が少し鋭くなった。何か踏んだか?
「失礼ですが……アイとはそういったご関係で?」
あ、マズイっ
これは誤解しているぞ? 僕は左手薬指の指輪を見せて弁明する。
「僕は結婚してます」
「……不貞な事は無かったと」
「娘に誓って」
「……」
息の詰まるような一瞬。
ミヤコ氏は息を吐いてこちらを見る。
「私どもも子どもがいまして。子どもに誓うと言うなら信じます。申しわけありませんでした」
そして、深々と謝罪してきた。
「お、お気になさらずに。僕の方こそ、不躾でした」
「それで、アイとはどのような?」
「相談とかが主でしたね」
私服のセンスが悪かったから教えたり、知り合いの劇団のワークショップを勧めたり。そんなことだ。思い当たるフシがあったようでミヤコ氏はふんふんと首肯していた。
「そういえば、そんな時期がありましたわ。鏑木さんのお力添えだったのですね」
「彼女の一助になれていたのなら、幸いですが」
どうやら誤解は解けたらしい。ミヤコ氏の話は続く。
「あの子、私服では野暮ったいところが多かったから。演技のことも非常に助かりました。ウチではそちらまで手が回らなかったもので」
「本人に才能があったのでしょう。でなけりゃ、ああもうまくはいかなかったと思いますよ」
これは言葉通りの意味だ。僕が与えたのはきっかけだけ。才能があったのは本当だったのだ。
服飾のセンスだって、ヒントをあげればすぐに応用してみせた。芝居のことだって、すぐに身になるとは思いもしなかったのに、女優としての仕事も徐々に増えていった。
アイは日頃の言動から馬鹿に見られがちだけど、本当はすごく頭が良いのではないのか。僕は常々そう思っていた。あの信長が天下に名を挙げる前『うつけ者』と呼ばれたように、アイはそれを装っていたのではないかと。
『わたし、ウソつきだから』
あの言葉が今でも耳に残っている。
それは歪でありながらも彼女自身を的確に示した言葉に感じた。『ウソ』で塗り固めた下にある『本当の彼女』を、僕は知らない。
「ミヤコさーん」
するとそこに不遠慮にドアを開けて入ってくる者の声。見てみると、そこにはとても可愛い女の子がいた。公立の制服からおそらく中学生。金髪に紅い瞳というビジュアルから彼女が『ルビー』だと確信した。
「こら、ルビー。お客様の前で失礼よ」
「ら、来客中だったの? ゴメンナサイ」
「いえいえ、こちらも急に来たようなものでして」
アポイントを取ったのは前日。家族で連絡が取れてなくても不思議はない。が、本当に事務所に来るとは思わなかった。苺プロは思った以上にフレンドリーな所らしい。
それにしても……似ている。
髪と瞳が違うけど、その姿は在りし日のアイにそっくりだ。ただ、彼女が纏っていた不思議なオーラは感じない。天真爛漫な、普通の女の子に見える。
「こちら、ドットTVの鏑木さん。アクアがお世話になってるドラマのプロデューサーさんよ、ご挨拶なさい」
「え、マジ? ええと、星野ルビーです、はじめまして」
「はじめまして、鏑木です。アクア君は精力的に働いてくれてましたね。今日はそのお礼に来ました」
「お、お兄ちゃんが、精力的に? あの……何かの間違いじゃ……」
妹でもそう思うか。彼が普段纏っているダウナーな雰囲気からは想像は出来ないだろう。監督や演出と役者の間を取り持つアクティングコーチというのは、実のところ高いコミュニケーション能力を必要とする。彼に務まるようには思わないだろう。
まあ、それ以前に害虫だからね。
「そういえばお兄ちゃんは?」
「監督の所じゃない? あの子、ろくに連絡もしなくて」
「それはいけませんね。報連相は社会人の基本ですから」
だけど、僕の所ではちゃんとしている。たぶん身内ゆえの甘えなんだろう。そう考えるとあの子憎たらしい立ち振る舞いも、ポーズだと思えてくる。
「名刺を渡してもいいですか?」
「え? はあ……でも、ルビーは事務所の所属じゃないので」
「そうなんですか? いやあ、見惚れるほど可愛いし、溌剌としててすごく絵になるのですが」
「わ、わかりますぅ〜(テレテレ)」
「こら、ルビー(#^ω^)」
「ぴっ?!」
本人はこちらの業界に興味あり。それが分かっただけでも収穫だ。
あまり長居するのもよくないので、さっさとお暇しよう……ケーキ、持って帰らないとね(ルンルン)
月代:えー、パパ抜け駆けしたぁっ!
鏑木P:じ、事前偵察だからっ
月代:じゃあ、ちゃんと会えるようにセッティングしてね。じゃないともうポーズとってあげないから(プンプン)
鏑木P:善処します……