プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
女の子に、いきなり名前を呼ばれて、抱きつかれた。
アイドルやってるんだから、それくらいはあるのかもしれない(←いや、無い)
わたし、可愛いもんね♪(←同意)
でも、あり得ないことでもあった。
呼ばれた名前が『私の前世の名前』だったのだ。
「あ、あの……」
「うふふ〜♪」
私の胸元に頭を擦り付けて猫撫で声をあげる女の子。つーちゃんと同じくらいの年かな? 艷やかな黒髪はママと同じように長い。無邪気に甘える姿もママと似ているかも。
「こらぁっ! いきなり何してんのこのコは」
「そ、そうですよっ」
センパイとつーちゃんが女の子を引き剥がす。私的には別にいいんだけどなぁ。私も、どっちかというとルッキズムの権化みたいな所あるし。この辺はお兄ちゃんのこと、言えないよね♪(←血は争えないのだ)
「……ひょっとして、おんなじ?」
「え?」
引き剥がした女の子が、つーちゃんに向かってそう言った。
「……でも、覚えが無い……だれ?」
「え、ええと……?」
すると、あごに手を当てて考え込む少女。なんか、マイペースな所もママに似てるな。
ちなみにつーちゃんの方も面食らったような顔をしている。
まあ、私自身も。
けっこう驚いてるんだけどね。
私は少女に近づき、話をすることにした。
確認せねばならない。
「あの」
「ん?」
「わたしのこと、なんて呼んだの?」
「さり……あっ!」
ほぼ答えてからしまったという顔をして口を閉ざす少女。どうやらかなりうっかり者らしい。
微笑ましい姿だけど、私は内心物凄く動揺していた。
『私のことを、知っている』
私の前世は、天童寺さりなという少女。齢十二でこの世を去って、この身体に生まれ変わったのだけど……それを知るものは私以外には居ない、はず。
双子の兄であるアクアでさえ、転生者だとは分かってもどこの誰なのかは把握していないのだ。
それをいとも容易く断定したこの子は、いったい何者なのか。
慌てふためきながら、少女はこちらに聞いてくる。
「あの、お姉さんは。誰ですか?」
「私は、星野ルビー。アイドルだよ♪」
「る、ルビー……じゃあ、ルビー。ルビーと言いました!」
なんとか誤魔化そうとしている様子が、すごく微笑ましい。やっぱりこの子、ポンのものだな?(クスス)
「こら、勝手に離れるなって言ったろ……あ」
すると、近くの茂みから現れる私の兄。こちらを見つけて何やら青褪めた顔をしている。どうしたんだろ?
すると、少女が兄に答えるように声を上げた。
「ゴロウーっ! さ……ルビーを見つけたよー」
……
──え
「バカ、俺はアクアだって言ったろ」
「あ、そうだったそうだった」
近づいて兄にそう答える少女。
周りも怪訝そうに見ている。
でも。
私には、そんなことはどうでもよかった。
「……ちょっと、話、いい? アクア」
「え、ああの……」
「すいません。ちょっと私、休憩に入ります。つーちゃん、センパイ、メムちゃん……ちょっとお願いね」
「は、はい」
「あー、まあいいけど……」
「積もる話もあるだろうから、ゆっくりしてきなよ〜」
みんなに気を遣わせてしまったのは心苦しいけど……これはハッキリさせないといけない。
「そっちの子も、一緒に来て」
「あ、ああ……」
「はいっ クロウも一緒にいきます!」
小鳥のように手をぱたぱた動かして答える少女。その姿は可愛くもあるけど、同時に苛立ちを感じた。
・・・・
一日ぶりに会う妹は、ともすれば別れた時より機嫌が悪そうだった。あかねと別れた事がそんなに気に入らなかったのだろうか? とはいえ、その気もないのにズルズルと交際を続けるのも誠実とは言えない。
十分距離を取ったと思ったのか、妹が振り返る。その表情は、なんというか……神妙なものだ。思わず気圧されてしまうが、クロウには通じてないようだ。きょとんとした顔で妹を眺めている。
「……その子。何者なの?」
「俺らの生まれた病院の、側に児童養護施設が出来ててな。そこの子、らしい」
通り一遍の答えを返す。
だが、お気に召さなかったらしくこちらを睨みつけてくる。
「そうじゃない……その子、私の前世の名前を言い当てたの」
「!」
やはりそうだったか。
ほんのちょっと目を離した隙にこういうことをしでかすのだから、コイツは本当に厄介だ。疫病神……とまでは言わないけど、トラブルメーカー過ぎる。
俺が睨みつけると、肩を竦めるような仕草をする。いちおう、悪気はあったようだ。人間になったのだからもう少し理性的に行動しろよ(ハァ)
ルビーは顔を俯かせた。
そして、こちらに詰問してくる。
「……アンタ、ゴロウって名前だったの?」
「あ、ああ」
「……!」
さっきのやり取りを聞かれたのだろう。まあ、俺の名前がバレたところで大した問題は無い。頷くと、彼女は少し動揺したようだ。
「前世は……お医者さんだった?」
「あ、ああ」
ぽつりと溢れた言葉に返答する。
これまでも何回か医学系の話をしていたし、そう勘づいてもおかしくはない……この時までは、そう思っていた。
「苗字は……雨宮、でしょ?」
「あ、ああ……えっ?」
クロウでも、雨宮という姓は覚えてなかった、はず。
なら、何故。
俺の前世の
ぽすん──
「あいたかったよ、せんせ」
数歩の距離を一気に詰めて俺の胸元に飛び込むルビー。その赤い瞳は涙に濡れて、声は嗚咽によって掠れていた。
「わたし、さりなだよ」
「え……」
そんなバカな。
いや、転生なんてあり得ないとかではなく。
あのさりなちゃんが。
この
「……ウソん?」
「あー、ウソじゃないんだからぁー」
思わず出た言葉に、頬をぷくーっと膨らませるルビー。いや、悪かったとは思うけど。でも、意外としかいえなかった。
「いやいや。だって、あの健気でしおらしくて、可愛いさりなちゃんがぁ?」
つい、出てしまった本音。
妹として一緒に育ってきたルビーと、あの天童寺さりなとでは全く似通っていない。
それは彼女の人格を否定するような言動であり、怒られても仕方がないことだと思う。だが雨宮吾郎としての認識と、アクアとしての認識には大きな隔たりがあったのは確かなのだ。
それでも、ルビーは諦めない。
「かわいいは、合ってるでしょ?」
「……うん、まあ。そこは認めるが」
これでも自称シスコンとして歳を重ねてきた。そこは、否定出来ない。
「女の子は秘密の一つや二つや三つは持ってるものなんだよ」
「……多過ぎないですかねェ……」
抱き着くルビーから立ち昇る匂いも、言われてみれば違うように感じてしまう。今まで何度かは接触した事はあったけど、こんな気持ちになったのは初めてのことだ。
「せんせ……」
「さりな……ちゃん……」
その潤んだ瞳に吸い寄せられる。
自然に顔を寄せ。
妹が、瞳を閉じる。
その仕草に引き寄せられるように……
「どきどきどき……」
すぐ傍に居た黒が、手のひらで顔を隠しつつ隙間から覗いていた。心なしか顔が赤い。
「おい」
「ちゅ、ちゅーするんですか?」
「せんわっ!」
雰囲気に乗せられ、とんでもないことをするとこだった。
「ちえ」
「お前も残念そうな顔するな」
少し離れて頭を軽く小突く。ペロッと小さく舌を出す様子を見るに、長年一緒に過ごしてきた
「……細かいことは追々話すとして」
僕は、右手を差し出す。
あの頃と同じように。
「おかえり、さりなちゃん」
「……ただいま、せんせ」
そう答えるルビーは、いつにも増して綺麗に見えた。
ルビーを除くB小町の面々:(な、何の話をしてるんだろう……)