プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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気が付けば一月以上……この夏は異常な暑さでしたね。おかげさまで時間がかかり過ぎました。陳謝をm(__)m


色々と、ぶっちゃける話

 ──何があった。

 

 

 心のなかで叫ぶ私をよそに、ルビーがアクアとイチャついている……比喩表現でもなんでも無く、文字面からの通りにイチャついていた。

 

「お兄ちゃん、喉かわいたぁ。ちょっとのませて♡」

「自分の分開けろよ……」

「面倒なんだもん」

「あ」

 

 アクアの持っていた紙パックのジュースを奪い、すかさず口をつけるルビー。

 

 ……子どもの頃ならいざ知らず。

 イマドキの子って、こうなのっ?

 

「る、ルビーっ! 無駄にくっつきすぎてない?」

「えー? 私たち、きょうだいだもーん♪ これくらいフツーでしょ」

「フツーの兄妹は、膝の上にお座りしたりさせたりしないっ!」

 

 かなちゃんの声がホテルの個室に響く。もう少し、ボルテージは抑えたほうがいいと思うよ。他のお客様にも迷惑になるし。

 

 でも、かなちゃんの言ってることは正しい。ソファに座る兄の膝の上に横座りをして首に腕を掛けるなんて、普通の兄妹はしない。夜のお姉さん達でも余程じゃないとやらないと思う。

 

「アクアも何とか言いなさいよっ!」

「そのうち飽きるからほっとけよ」

「ウザったくないのぉっ?」

「……別に」

「そういやコイツ、シスコンだったわっ!」

 

 かなちゃん渾身の一人ツッコミ。けど、笑う人は一人もいない。

 

 ちなみに、ここは泊まっているホテルの一室。正確に言えばルビーとメムさんのお部屋である。積もる話があるとルビーが彼を連れてきたのだ。そしたらソファに座る彼にしなだれかかって、今に至る、と。

 

 うん。

 状況を整理しても、全く分からない。

 

 今ここにミヤコさんはいない。撮影時に会った少女を送り届けるために途中で別れたのだ。

 泣いて愚図るあの子を引っ()がして連れて行く姿は、母の貫禄を感じた。いやあ、やっぱりあの人には頭が上がらないなぁ。

 

 それはさておき。

 

 このままでは星野兄妹のイチャコラをずっと見せ続ける羽目になる。メムさんに目配せをすると、彼女は頷いてくれた。

 

「あの、ふたりはケンカしてた筈だと思ったんだけどなあ〜。なんでいきなり?」

 

 そうだ。

 黒川さんとの交際(ビジネス)を止めた事にルビーは甚くご立腹だった。少なくとも昨日までは。

 

 なのに、昼間に再会してからずっとこうなのだ。(わだかま)りが消えるにしても唐突過ぎる。

 

 うんうんと激しく頷くかなちゃんと私。あの時に何があったのか。他の人達の手前もあるし聞くのは憚られたけど今は身内だけしか居ない。

 

「もともと仲良しだもん、私たち♪ ねー、お兄ちゃん♡」

「……ああ」

 

 ……なんだろう。

 

 今までのアクアとは違う感じがする。ぶっきらぼうに見えて、耳が僅かに赤い。あれは照れている? 妹とはいえ、もう身体は出来上がってるとも言える年齢……ひ、非常によろしくないですっ!

 

「は、はしたないと思います」

「つーちゃん?」

「男女七歳にして席を同じくせず、とも言います。兄妹だとしても、その距離感はよくない、と思います……」

 

 勢いはどんどん落ちていって最後は消え入るようになってしまった。これでは子どもの癇癪だ。

 

 でも、アクアには届いたようで。

 

「そうだな。さすがにこれはやり過ぎだ」

「あん」

 

 抱えて隣にルビーを降ろすアクア。

 

「済まない。諍いが長過ぎて少しハメを外したようだ。ほら、お前も謝れ」

「え? あー……うん。ゴメンね。ちょっとはしゃぎすぎちゃった♪」

 

 テヘペロ、と舌を出すルビー。

 

「……」

 

 うん、かわいい。

 

 親バカなんだろうね、やっぱり。こういうところを見ちゃうと、どうしても怒る気にはなれない。

 

「でもぉ〜♪ これからもちょくちょくやっちゃうかもしれないし。その時は笑って許してね♡」

 

 お、おう。かわいいなあ。いくら欲しいんですか? ずっと貯めてきたへそくり、ミリオンちょい手前だけど何なら投げますよ(ペシペシ)

 

「笑って許せるか、コラァッ! 脳振って落とすぞ?」

 

 とはいえ、マトモな反応のかなちゃんはシャドーボクシングを綺麗なフックを連発してる。

 

 メムさんはいつものデフォルメ形態……毎度思うけどどうやってるんだろ。すごく分かりやすい表現方法だとは思います。

 

「ど、どうしてそんなに仲良くなったのか、不思議だなぁ〜って思って。あの女の子と関係、あるの?」

 

 その言葉に、兄妹が反応する。ルビーはあからさまに、アクアはあくまでクールに。

 どうでもいいけどソファに片肘突いて座る姿、キマリ過ぎ。配信だったら赤スパ投げてる(←イケメンに弱い)

 

「そ、そうよ」

「そうですよ。あの女の子、何者なんですか?」

 

 見た瞬間に分かった。田舎特有の素朴さとかとは一線を越えた存在感。

 

 かつてのわたし(アイ)と同じように整った容姿。こんな田舎では目立つこと請け合いだろう。さっき、アネモネさんも言っていたではないか。『地元では有名な子』だと。

 

 それに、あの子にはわたしには無かった愛嬌もあった。ウソつきなわたしとは違う、ルビーのような心から笑顔にするような。そんな資質を感じた。

 

 かなちゃんの問いに答えるアクアだが、その言葉に僅かながら動揺を覚えた。

 

「施設の子……ですか」

「ああ。ロケハンで行った病院の傍にあったんだが、そこの子どもらしい」

 

 地元での活動をするアイドル、いわゆるロコドルというやつだと思っていたのだけど、どうも違ったらしい。

 

 それにしても、施設の子か。つくづく私には縁があるようだ。前世ではろくな目に遭ってなかったけど、あの子の居るところはだいぶマシな感じなのだろう。そうでなければ、あんな笑顔は作れない。

 

 そんな思索にふけっていると、子どもたちが何やら相談を始めた。

 

「それで、だな……どう言おうか」

「もう言っちゃったほうが簡単じゃない?」

「信じてもらえると思うか?」

「思わないけど、ウソ言うのも違う気がするの」

「それも、そうか」

 

 何のことだかちんぷんかんぷんなかなちゃんやメムさんをよそに話し合うふたり……なんだか、知らない人のようにも見えてくる。なんだろう、大人の階段を登ってしまったかのような……まさか!?

 

「実は俺たち、前世の記憶があるんだ」

「「「……え?」」」

 

 その言葉に、固まる私たち。かなちゃんとメムさんは、普通に理解出来てないからだろうけど、私は違う。

 

『わたしと、おなじ──』

 

 わたし(アイ)の産んだ子どもが、(月代)と同じように前世のことを覚えている。その奇妙な繋がりに、そら恐ろしいモノを感じたのだ。

 

「え……それってどういう……」

「言葉通りの意味だ。俺とルビーは生まれ変わる前の記憶を有したまま生まれてきた。俺は、前世は医者で」

「私はせんせに救われた患者だったの」

 

 かなちゃんの言葉に答える二人。

 

「そして、私の初恋の人♡」

「「はあっ!?」」

 

 驚く私とかなちゃん。それをものともせずに語り続けるルビー。

 

「いやー、運命の再会とは思わなかったなぁ。探しても見つからない筈だよ、せんせ、死んじゃってるんだもん」

「それは、すまない。不可抗力だ」

「いいんだ、別に。本当は生きてるせんせに会いたかったけど……」

 

 きゅ

 

「こんなに近くに居たんだもん」

 

 切ない表情でアクアに縋り付くルビー。そこにいるのは、恋い焦がれた相手に触れる喜びを湛えた一人の女の子であり。不覚にもきれいだな、と思ってしまった。

 

「……そ、そんなぁ……」

 

 一方、かなちゃんはすごく落胆しているようだった。それは、そうかも。大好きなひとに、自分より深い関係の子がいきなり出てきたのだから。

 

 チクリ

 

「ああ、でも。センパイの恋路を邪魔するつもりはないよ」

「「え?」」

 

 ルビーの言葉に思わず声を出す私たち。アクアが呆れたように諭してくる。

 

「今の俺たちは血の繋がった兄妹なんだ。付き合うとか、結婚とか出来るわけ無いだろ」

「「あ……」」

 

 その事実を忘れていた私たち。そこへルビーが茶化してくる。

 

「私は、別にインモラルでもいいんだけどぉ」

「こら。お前の目標としてるアイドルは、そんなんじゃないだろ」

「はぁい♪」

 

 ぺろっと舌を出して笑うルビー。

 

 そうだよね。

 二人は兄妹なんだ。

 前世の事があったとしても、結ばれることは……

 

 そこで、ふと思い出す。

 フェスでのデビューライブの前でのこと。前夜の独白なども含めて、ようやく合点がいった。

 

「……るーちゃんの初恋の人って、そうだったのか」

「つーちゃんにはちょっと話しちゃってたもんね」

 

 てへっと笑うルビー。

 あの時の言葉を思い返しても話に整合性が保てなかったけど、前世、というのなら別だ。ルビーは大病で入院なんてしてなかったけど、前世での事ならスジは通る。

 

「……前世での名前とかは、覚えてるんですか?」

 

 私の問いに、二人は答える。

 

「私の前世は、天童寺さりな。十二歳で死んじゃったけどね」

「俺は……幾つだっけかな? アラサーだった気がするけど」

「せんせ、私が死ぬ前に二十八って言ってたじゃん」

「そうだっけ?」

 

 気安いやり取りに少し苛ついてしまう。そこへアクアが懐から何かを取り出す。

 

「病院のそばに実家があってね。そこへ行ってたら、あの子と出くわしたんだ」

 

 そうして見せてきたのは。

 

「……」

「うわあ、せんせ若い! 男前♪(ルビー)」

「そう? アクアの方が良くない?(かな)」

「あー、詰襟の学生服、いいですねー(メム)」

 

 若い男性と祖母らしい人の写真に浮かれるみんな。でも、私にはすごく遠い物事のように感じられた。

 

 こざっぱりとした髪に。

 スクエアのメガネ。

 朗らかそうな笑顔には、微かな(かげ)を感じさせた。

 白衣ではない姿は、ほぼ見たことがなくて。

 出産に向けてナーバスになっていた自分を、さりげなく励まして、支えてくれた……

 

「あまみや……ごろう、せんせ?」

「ああ。僕は雨宮吾郎。もっとも、生前の話だけどね」

 

 掛けてもいないメガネを直す仕草でおちゃらける彼。

 

 それは、紛れもなく。

 出産間際で姿を消した、(前世の)私の主治医だった。

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