プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
そんな撮影旅行も終わって、忙しいながらも平穏な日々が続いた……と思ったんだけど。
『……ちっとも平穏じゃないよぉ』
事務所で会うたび、仕事で会うたびにルビーはアクアとイチャイチャしてる……兄妹の範疇を僅かに超えるか超えないかのギリギリの反復横とび。見ている方は気が気ではない。
『お兄ちゃん♪ いってらっしゃいのハグ♡』
『……はいはい』
『あー疲れたぁ~、お兄ちゃん、マッサージお願い♪』
『しょうがないな……』
『お兄ちゃん、よしよししてぇ♡』
『……おまえ、幼児退行してない?』
などなど。
口にすれば砂を吐き、目にすれば眩しさに焦がれる。
自分の子供だと分かってはいても……というか自分の子供たちだからこその凶器だ。
見た目が良すぎる二人のイチャつきぶりは、本当に目に余る。メムちゃんが教育上よろしくないと目を塞いでくることが何度かあったけど、そんなにすごいことしてたの?
ともかく、二人の仲の良さは異常なレベルになっていた。
そんな二人も、周囲に他の人がいる場面ではちゃんと自制をしてたりする。
この間からパパの番組で共演することになった兄妹は、ちゃんと適度な距離感を演出していたりする。
ちなみに、業界の隙間やら闇やらを深掘りしていくスタイルの番組で、クールで毒舌なアクアと天然おバカ系アイドルのリポーターという組み合わせはなかなかに面白い。さすが、パパ♪(←だいすき♡)
っと、話がそれたね。
番組の動画作成はともかく、収録に関しては二人は一緒に行動してるはずなんだけど、そういった不埒な行動(?)はしていない、らしい。
『とは言っても、気がかりなのは変わらないんだよね』
ただでさえ、見た目の良い二人だ。イチャコラしてる場面なぞ撮られたりしたら、とんでもないスクープになったりしちゃう。アイドルとして活動中なのに、そんなインモラルな風評が付いてしまうとどうなるか。ルビーはともかくアクアはちゃんと分かってるはずなのだ。
『でも、気になるんだよぉ』
ルビーに押されて、妙なことしでかしちゃうんじゃないだろうか。
アクアのことは、信じてる。
でも、ルビーは危うい気がする。
女の勘、というべきか。
押せるときは押し切ってしまうという覚悟がある、気がする。
血の繋がった兄妹? ふーんなにそれ、おいしいの? くらい軽い感じで突破しそう。
なんでそう思うかと云うと、それはやはり
それに、
死の間際まで看病してくれた
未だに燻っていても、何ら不思議ではない。それこそ、若い男女なのだ。何かの過ちで、一気に……
「つーちゃん、百面相してるけどどうしたの?」
「むう、なんでもないっ」
「そう?」
リビングで仕事をしてるパパに、そう答える。ソファに座る私は、お行儀悪く横になってタブレットを流し見する。
「新曲のMV、イイ感じだったね」
「ありがと♪」
「あー、僕も一緒に行きたかったなぁ。宮崎。あそこ、いいところだよね」
パパがご機嫌取りのようなことを言ってくる。私は「そうだね、自然いっぱいだった」と答える。
「僕もあのあと行くことになったけど、トロッコ列車には乗った?」
「時間無くて乗れなかったんだぁ」
「僕は乗って来たよ、ほら」
そう言ってスマホを見せてくるパパ。動画のようだ。
「けっこうちゃんとした駅なんだね」
「元々は普通の列車も走ってたらしいよ。いつだかの台風で使えなくなって、それを観光用にしたんだって」
「へえ〜」
凄い高さの渓谷の真ん中辺りで止まると、シャボン玉が流れ始める。運転手さんが玩具で作ってるらしい。単純だけど、こういう風景だとすごく映える。楽しそうに笑うパパも、隣の子もにっこり笑顔だ。
「……パパ?」
「なんだい?」
「なんでこの子が映ってるの?」
あ、パパの顔が引きつってる。
今の私、そんな怖い顔してるのかな? 鏡無いから分からないやー(すっとぼけ)
「あ、よく見たらミヤコさん居るじゃんっ わー、不倫旅行だー(棒読み)」
「そ、そんなんじゃありませんっ! 人聞きの悪い!」
画面の端の方にはにこにこしてるミヤコさんの姿があった。
傍目から見たら仲の良さそうな家族にも見えるだろう。
その動画のせいもあって、私は聞いてみることにした。
「パパ?」
「なんだい?」
「パパには、いい人とか居ないの?」
ミヤコさんがそうだとは、言わない。壱護さんも戻ってる以上、あそこの家庭は円満だ。
でも、もし。
そういう人が居るのだとしたら。
「居るわけないよ」
「ウソだぁ」
「ウソなもんか」
パパはそう言ってはぐらかす。
本当なのかもしれないけど、自分が他の女だとしたら……パパみたいな人は、放ってはおかない。
こんなにいい人が、一人でいていいはずがない。
「もし、居るのなら……私に遠慮なんかしなくていいんだからね」
「つーちゃん……」
もちろん、ハードルは上げさせて貰うけど。私の大事なパパを任せられるような人じゃないと私は安心できないもの。
「……それなら、今度、会う?」
「構わないよ♪」
こちらを窺うような素振りのパパに、私は快く返事をする。
……内心、冷や汗たらたらだったけど(汗)
本当に、そんな人がいる感じとかまったく無かったのに。実は居たなんて予想がつく? 少なくとも私にはムリ。
いきなりな爆弾を放り込まれて、私は少しだけ混乱したようで。
それからしばらく、頭の中はまだ見ない新しいひとのことでいっぱいになってしまった。
・・
このおかげで、ルビーとアクアの親しすぎる馴れ合いにも、わりと冷めた目で見守る事が出来るようになった。
「ぐぬぬ……」
事務所で遠巻きに二人を眺めるかなちゃんの、なんて切ない光景。私も少し前までは同じ感じで眺めていたわけだから、同情を禁じ得ない。
そこへ行くとメムさんは至ってマイペース。今も事務所のPCで編集作業中である。ここのPCは意外とパワーがあるようで、職場のため変更点とか意見なんかも聞きやすい。まあ、プライベートなものは家で作業してるらしいけど。
ちなみに、今日の新生B小町は珍しい事に事務所待機。ミヤコさんとバイト君()が居ない。居残りの大人は鈴城さんくらいのもので、一番の年長はメムさんになってしまう……ナム(合掌)
「なんでわたしを拝んだのかな?」
「あ、いえ。お仕事大変だな、と」
横目でこちらを見ていたメムさんがちょいちょいと手で合図をする。呼ばれたので横に椅子を置くと、彼女はヒソヒソ声で話しかけてきた。
「あれ、何とかできない?」
「どちらを、ですか?」
「どっちも、だけど。敢えて言えば、かなちゃんかなぁ」
おや。原因を何とかすればかなちゃんの機嫌もよくなると思うんだけど。
「あんな話聞いちゃうとさ……ああいうことしてるのも今のうちくらいだし、させておきたいかなって思って」
「……そう、思いますか」
確かに、そうかも。
現世では結ばれることは許されないわけで。せめてコミュニケーションくらいはという気持ちも分かる。
でも、それでやきもきする人もいるんだよなぁ(←自分も含めて)
「あの話が嘘だったらよかったんだけど、どうもホントっぽいし。嘘にしても荒唐無稽だし」
メムさんはとても冷静にそう語る。
私は自分自身が生まれ変わりということもあり信じることができたけど、この人はごく普通の人のはず。なのに、理解出来ているというのはすごいと思う。
「メムさんは、信じた……んですよね?」
「内容は嘘くさいけど、ね。二人の真剣な様子を見ちゃあ、嘘とは思えないよぉ」
「ですよね」
ルビーは、昔からウソが嫌いなところがあった。アクアに関しては、ウソを吐くこと自体はあまり無かったと思いたい。少なくとも私に分かるようなウソは言わなかった気がする(言わないだけ、だった可能性はあると思う)
でも、二人は前世の記憶があるという事を隠していた。それを嘘と言ってしまえるのか。
……それを言うなら、私は最も卑怯なウソつきだ。自分のことは言わないのだから。
バラされた、という状況でもあったけど……それでもお互いに打ち明け、関係を取り戻すことに成功したのは確かなのだ。
「かなちゃんもその辺は理解してるみたいなんだけど」
「そうなんですか?」
「いちおう、話はしてみたんだ。『自分がそうだったら、確かにああいうふうにしたいだろう』って言ってたし」
ほほう……かなちゃんとアクアのイチャコラかぁ。それはそれで見てみたい。相手がルビーでないなら興味が勝つとか、おばちゃんみたい(中身おばちゃんでしたね、失敬)
すると。
何故か、メムさんは手を止めて頭を撫でてくれた。
「あの、メムさん?」
「なあに?」
「……なんでも、ないです」
人の手には力があると言うけど、本当なのかもしれない。だってこんなに、気持ちが落ち着いてくるのだから。
「かなちゃんにもやってあげたらいいのでは?」
そう聞いてみたら、苦笑交じりに答えてきた。
「やって怒られたわ。子供扱いしないでって」
「な、なるほど♪」
難しきは乙女心。うーん、深い。
すると、事務所のドアノブが回った。
ガチャ
「おー、全員揃ってんなぁ?」
「ごめんね、遅くなっちゃって」
入ってくるバイト君とミヤコ社長。
この二人が帰ってくるまで待機、というのが今日のお仕事だったりする。そんなんでいいの? とは思うけど、営業に関係あるのならそれは仕事だ。文句は言えない。
「んで。なんで俺までここに拘束されてたわけ?」
「あなた居ないとルビーが落ち着かないし」
「さっすがミヤコさん、わかってるぅ♪」
やや呆れ顔で答えるミヤコさん。心中お察しします(ナム)
「さて、お前ら。今日集まってもらったのは他でもない。新生B小町の新メンバーを紹介するためだ」
「「おおっ?」」
バイト君の声にどよめく私たち。そんな話は誰からも聞いてなかったのだから、当たり前だ。
「入ってこい!」
「はーいっ!」
ん?
どこかで聞いたことあるような高い声。ドアを開けて、ぴょんと飛び込んでくる人影。長い黒髪がたなびき、金色に輝く瞳がきらめく。
「「「あーっ!」」」
かなちゃん、わたし、そしてルビーが一斉に指を指す。そこに居たのは、撮影旅行の時に色々やらかしてくれたあの少女だった。
「矢田野
……なんて?
「おい、スッゲぇダジャレぶっ込んできたぞ」
「マジカー……」
「そこへすばらしい笑顔……なかなかな胆力ね」
アクア、ルビー、メムさんが各々感想を呟く……さすがに大っぴらには言わない気遣いだ。けど、当の本人はやりきった感じでフンスと鼻息荒い。やっぱりポンのものだなこの子。
ちなみに、私自身はそんなに驚いてはいない。確かにこの子、矢田野黒っていう子はアイドルに向いてると思うからだ。
見た目は十分、他の人に好かれる性格なども申し分ない。
ただ、児童養護施設の子供を引き取るというやり方を、またやるとは思わなかった。壱護さんにしてもわたしの件はトラウマに違いないと思う。ミヤコさんもね。だから、どうやって連れてきたのかが気になっていたのだけど。
そこへ、もう一人の人が入ってきた……て、パパ?
「やあ、つーちゃん」
「パパ、どうしたの?」
「いやあ、実はね……」
すると、私のパパに抱きつく黒。
「かつやー、かつやー♪」
「はいはい、抱きつかない」
「……」
「お、おい。アイツヤバくないか?」
「あ、珍しー。つーちゃん、ジュラシック?」
「それじゃジュラ紀になっちゃわない?」
またしても三人が言ってるけど、今の私には関係ない……そうか、これが怒りと云うものか。ついぞ味わったことのない感情に、つい口元がニヤけてしまう。
「というわけで、ウチで預かることになったから。宜しくね、つーちゃん」
「宜しくね、つーちゃん♪」
そこへ飛び込む爆弾発言に、私は気が遠くなった。
「な、なんでそうなるの、パパ」
「新しい家族って言ったじゃないか。いつでもいいよって答えてくれたから」
「あ、あれは、そういう意味じゃないーっ!」
混乱を極める私の後ろで、かなちゃんがボソリと呟いた。
「ぶり大根ネタは譲らないわ」
いや、意味わかんないって!
月代:(……今夜ぶり大根にしようかな)