プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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本当に久々の更新になりました。
来年の推しの子、楽しみだネッ(虚ろ目)


しょうげきのじじつ(笑)

 事務所待機というのは本当に彼女との顔合わせがメインだったようで、程なく帰宅することになった私たち。朝には居なかった余計な闖入者を連れて。

 

「わたし、いっぱいお手伝いするですよ♪」

「あはは。そんな事はしなくても大丈夫だよ」

「私一人で十分だもの」

 

「お家、おっきいですねー」

「あはは。そんなでもないよ」

「パパがリビングで仕事してるくらいだから。部屋自体はそんなに無いわ」

 

 車の中での会話……よく考えると大人げない発言ばかりしていた。中身はおばちゃんなのに、子供と張り合うような真似をして情けない。

 

 でも、相手も転生者である。カラスの寿命が何年かは知らないけど……ひょっとしてそれ含めても二十歳以下かも。だとすると益々情けない気がしてくる。

 

 ……意外と嫉妬深いのかな、私。

 

 

 

 

「この部屋を使ってね」

「うわー♪ お部屋一つまるまる使えるんですか?」

 

 二人の会話を、釈然としない気持ちを抱えたまま聞いている。

 

 彼女に充てがう部屋は、私が一度も会ったことのない人の部屋。

 

 ママの部屋だ。

 

 当然、掃除もちゃんとしている。埃が積もるようなことにはしていない。お布団だってきちんと圧縮して保管しているし、年に二回は干して、ふかふかの状態をキープ出来ている。

 

 帰ってくるはずもない人のために、パパはずっとそうしてきた。

 家事が出来るようになってからは、私がそれを引き継いで続けている。

 

 それが当然だったからであって。

 

 ……決して、この子のためなんかじゃ、ない。

 

 そんな私の葛藤を知ってか知らずか、二人はのほほんと話している。

 

「パパ、私、下にいるからね」

「あ、うん。分かった」

 

 だから、私から離れる事にした。

 このまま一緒にいると、良くないことになりそうだと思ったから。

 

 

 

 

 台所にて、ガツン、ガツンと包丁を振るう。決して八つ当たりとかではない。鰤の骨は硬いので私程度の力だと思い切りやらないと断てないからである。

 

 帰りに魚屋さんで買ってきた大ぶりの鰤(←ダジャレじゃないよ)。店主のおじさんは捌こうかと言ってくれたけど、自分でやりたかったから断った。小さな鯵とかは捌いたこともあったけど、これくらい大きいのは初めてだ。

 

 気分が乗らない時はチャレンジするに限る。それはこの人生を始めた時からの私のルールでもある。

 

 それは前の人生でも同じだった。やり方が上手くなかったけど、アイはいつでも挑戦を続けていたし、それは月代になってからも変わらない。本質的にわたしは私なのだ。

 

 そのおかげで、小学校に上る前に大体の家事は出来るようになった。前世の知識と、今生の知恵と、弛まぬ挑戦によって成し得ている。パパは『そんなに頑張らなくても……』といってくれるけど、やりたいからやってるだけなので。

 

「ふわー、スゴい♪ おっきなお魚捌いてる♪」

「……近くで見てると危ないわよ」

 

 だから、こんな近くに邪魔な存在がいても平気。

 

 そう思おうと、努力する。

 どうにも突慳貪な言い方になってしまうけど、当の本人はお構いなしだ。こういう手合いはやり辛いなぁ。

 

 薬缶に沸かしたお湯をザルに並べた鰤の切り身に振りかける。こうしておくと臭みとかも減るし、煮崩れの防止にも繋がるそうだ。ちゃんと水気が切れたらいよいよ煮込みに入る。

 

 普通の鍋でも出来るけど、今回は時短のため圧力鍋を使う。半月切りにした大根を並べた上に、先ほどの切り身を並べて薄切りの生姜と白髪ネギを添えておく。これらも臭み取りと風味のために欠かせない。

 

 作っておいた合わせ調味料を流し込んだら蓋をして強火で。ピンが上がったら弱火にして煮込む。うちは8分くらいかけるけどもう少し早くても出来るよ。この辺は家庭の好みだね。

 

「なんか上がった!」

「はしゃがない」

「なんか出てきたっ!」

「ただの蒸気だから」

 

 何が楽しいのか、そばから離れない。……まあ、ちょっと分かるけど。

 

「それより、お皿とか並べて。そこの棚に入ってるから」

「ど、どれー?」

「その深皿の。それじゃなくて、こっち」

「うう、食器多いんだね。つーちゃんち」

 

 施設のやり方によっても違うだろうけど、多彩で割れやすい皿や茶碗なんかは使わない。わたしの所もプラスチック容器ばかりで風情なんてものは欠片も無かったと思う。

 

「ん? どしたん?」

「……ううん、なんでも」

 

 ふとした事で前世のことを思い起こすのは、私が揺れているせいだ。

 

 同じような境遇であり(カラスという事を鑑みても)転生者である彼女は、嘗てのわたしと比べても非常に良好な状態に見える。

 

 彼女のような明るさを、わたし(アイ)は持ちあわせていなかった。

 

 何かにつけて暗く、口数も少なく、周囲に溶け込もうという意思を持てなかった。

 

 そんなわたしと彼女の差を、今更ながらに見せつけられているようで……だから。

 

「なんで、なの?」

「ふえ?(クソボケ顔)」

 

 くっ……こっちがシリアスに聞いてるのに、この子は……

 

「ウチが引き取るって話のこと。ア……吾郎さんの所に行きたいならミヤコさんが引き取るのが道理でしょ?」

 

 この子がカラスの生まれ変わりなら、生前に親しかったアクアやルビーの傍を望むはずだ。

 

 これは本来、パパに問うべき話なのだけど……それでも本人の意思が無いとありえない事だと思う。だから聞いてみたのだ。

 

 そうしたら、少し考えた様子を見せてから答えてくる。

 

「……もしかして、イヤ?」

「!」

 

 きょとんとした顔で聞いてくる彼女に、私は僅かに動揺した。

 

 別に、彼女が嫌いなわけではない。

 ただ、釈然としなかっただけなのだ。

 

 でも今の私はイヤそうに見えるようだ。それを感じ取ったか、彼女もバツの悪そうな顔をし始めた。

 

「そうだよねー……いきなり妹になるとか、イヤだよねぇ」

「!」

 

 その言葉に、私はもう一度衝撃を受けた。

 

『このわたしに、いもうと……?』

 

 ずっと有り得ないと思ってきた。

 

 それはそうだろう。

 

 ママがいない。

 パパが再婚していないなら、妹なんて出来るはずもない。

 

 でも。

 血が繋がらなくても。

 こういう形でなら、家族が増える。

 

 それは……私にとって。

 

「つーちゃん?」

「はっ」

 

 少し呆然としていたのか、黒がこちらを覗き込んでいる。背丈は変わりないと思ってたけど、ほんの少しだけ彼女のほうが大きいらしい。覗き込むようにこちらを窺う金色の瞳には、驚く私の姿が映っていた。

 

「くはっ」

「つーちゃん!?」

 

 あまりの過剰供給に苦しむ私。

 だが、彼女は追い打ちをかけてくる。倒れないように肩を支えて静かに座らせるとか介助し慣れてない?

 

「つ、つーちゃん血を吐いちゃった? かつや、かつやー!?」

「ふふふ……それは幻想よ」

「え? あ、本当だ!」

 

 有馬かな直伝、『吐血演技』が勝手に炸裂してしまった……業の深い演技だ。ちなみに黒川さんも出来るらしい。(ブレイドの現場でのレスバの時)

 

 そこへ呼ばれたパパがやってきた。

 

「どうしたの?」

「つーちゃん、いきなり血を吐いちゃったと思ったら吐いてなかった!」

「あー……初めて見ると驚くよね」

 

 わりと冷めた反応なのは私が何度も見せているせい。でも、演技に対しての理解度が高過ぎると思うんだけど?

 

 でも、ちょうどいいから聞いてしまおう。

 

「パパ、聞いておきたいことがあるの」

「……うん。なんだい?」

「なんで、ウチなの?」

 

 言外のニュアンスだけど伝わったと思う。パパはしゃがみ込む私たちと同じように膝をついた。

 

「順序立てて説明しようか」

 

 

 

・・・・

 

 

 僕がその話を聞いたとき、不思議な偶然では済まない事があると感じた。それを話すミヤコさんもそう感じていたようだけど、こういう事が重なると人はオカルトに嵌っていくのかもしれないと思った。

 

「その……ホントに?」

「施設長の方から渡された資料にはそう書いてありました。彼女の生誕日は、アイの命日と同じです」

 

 それはつまり、月代とも同じ誕生日ということである。

 

 同じ日に生まれた子供なんて幾らでもいるのは分かっている。狭い日本に少子化が叫ばれる昨今とは言え、母数は相当なものだと思う。

 

「アイドルとしての素養はあると思えます。明るくて、少しおバカっぽいけど間違いは犯さないタイプのようでした」

「この写真を見る限り、容姿は全く問題なさそうですしね」

 

 艶々とした黒い前髪から覗く金色の瞳。田舎の子らしい格好からその愛嬌の良さがにじみ出ている。うちの天使が楚々たる清純派だとしたら、こちらは天真爛漫な癒し系か。

 

「それで、僕に彼女の話をした理由は何です?」

「彼女の、里親になりませんか?」

 

 やはり、そういう話か。

 

「ええと……僕はそういうのに詳しくはないのですが。結婚してないですし」

「里親になれる条件は、既婚かどうかでは無いと聞いてます」

「そうなのですか?」

「いちおう、先方に聞いてみたのですけど……」

 

 社会的な信用があるか、養育に必要な資金力があるか。

 そして、何より。子どもに愛情をもって接することが出来るか。

 

「同い年の女の子をきちんと育て上げた立派な方ですもの。勝手にではありますけど、向こうの施設長の方にも太鼓判を頂きましたよ」

 

 了承もしない段階で僕のことを話したのか。危険なことをするなぁ、と心のなかで呟きながら僕は答える。

 

「月代に関しては、他の例とは違いますよ。あの子は僕でなくても育っていました」

 

 やや自嘲した発言に聞こえたかもしれないけど、これは事実だ。たとえどんなクズ親だったとしても、あの子なら育っていく。もちろん、そんな奴だったら僕が奪っていくけどね(←暴言)

 

 思い起こせば、夜泣きで起こされた事はなかった。

 

 おしめが濡れてても控えめな仕草で教えてくる。少し恥じらうような感じがたまらなく愛おしかった。

 

 言葉を話すのも随分と早く、しかもこちらの意図をきちんと理解していた。

 

 こくんと頷いたり、『あい♪』と返事をする姿に何度も意識を失いかけた。これが尊死(とうとし)なのか。

 

 僕のそんな語りを聞いていたミヤコさんがふと呟いた。

 

「あの子たちも手がかからなかったから……随分救われました。それでも、最初はノイローゼ気味になりましたけど」

 

 くすりと笑うミヤコさん。その姿は芸能界を渡り歩く辣腕の女性ではなく、美しい人妻に、そして母にしか見えない。

 

 アイは復帰後から精力的に活動を始めていた。二人につきっきりというわけにはいかなかっただろうというのは容易に想像できる。

 その代わりを彼女がしていたのだろう。この人はあの双子のもう一人の母親と言える。

 

「少し話が逸れてしまいましたね」

「子どもの話をすると止まらなくていけない」

「まったく。それで、黒ちゃんのことですけど……」

 

 ミヤコさんは少し言いづらそうにしていたが、すぐに話してくれた。

 

「……どうも、アクアが好きみたいなので」

 

 

 ……ピキッ

 

「うちに置いておくと、知らない間に息子夫婦にでもなってしまうのではないか、と愚考しまして。主人とも相談して、鏑木さんなら申し分無いと思いまして……」

 

 ……アクア(あの害虫)は腰も軽いのか。益々もって生理的嫌悪感が強過ぎる。いっそ芸能界から追放したほうが人類のためなのかと思ってしまうくらいだ。

 

 それはさておき。

 理由としては納得出来る。

 

 異性の子供、しかも近い年代の子を近くに置くのは親としても些か心配だろう。逆に言うとアクアさえいなければ問題無かったということでもある。やはり害虫死すべし。

 

「あと……しいて言えばですけど」

「?」

 

 ミヤコさんが少し考えながら語る。

 

「ウチで預かるようになってから月代ちゃん、表情が豊かになった気がするんですよね」

 

 ……それは、僕も気が付いていた。

 

 出来る限り、一人にさせないようにはしていた。学校からも問題行動は特になく、むしろ模範のような優等生とまで言われている。

 

 ただ、それは。

 模範的な生徒であり、子供であるということだ。

 

 人間的な厚みや深みとは同義とは言えない。そういう情操に係る問題を解決出来ていたかというと、疑問である。

 

 ミヤコさんの言葉は続く。

 

「あの子たちにも、辛い事はありましたけど……二人でいたからこそ、今のあの子たちであるとも言えます」

 

 頭でっかちでクールぶっている兄と、天真爛漫な妹。お互いに補い合う関係だったというのは分かる。母親を亡くした辛さを共有出来るのもお互いしかいなかったのだから。

 

「……この子が、そうなれると?」

 

 月代にとってのアクアや、ルビーと同じように。

 

「全く同じというのはムリでしょう。黒ちゃんは黒ちゃんで、アクアやルビーじゃないですもの」

「、これは、愚問でしたね」

 

 当たり前だ。

 同じ人でない限り、同じ役割は果たせない。

 

 でも、違った形で補うことは出来るはずだと……この人はそう考えたのだろう。

 

 他ならぬ、あの二人の母親だ。

 その考えを一笑に付すなど。

 

「分かりました。非才の身ですが、お引き受けします」

 

 そう答えるのが正しいのだと。

 僕は疑わなかった。

 

 

 

・・・・

 

 

 

「……つまり、私のため?」

 

 そう聞くと、パパは(かぶり)を振る。そして私と、黒の肩に手を掛けてから答えた。

 

「月代のためだけじゃない。黒ちゃんのためだけでもない。二人が、お互いを補い合う事が大事なんだ」

 

 パパの言いたい事は、分かる。

 型通りに嵌めた兄弟姉妹とかではなく、お互いを尊重し合う関係。

 

 言うなれば、相棒(バディ)だ。

 一人では分からないことも、二人で考えれば意外と簡単に答えが見つかるとかよく聞くし。

 

 そういうことなんだろう。

 

 そこまで考えての事なら、娘としては言うことはない。

 

 私はパパの手を取り、黒の手も握る。少しぼんやりした黒の手は私よりもほんの少しだけ温かくて。

 

「……わ、分かったわ。妹も、欲しかったし」

 

 少しツンデレっぽかったけど、そう言った。

 

 すると、二人がポカンと間の抜けた顔をする。

 

「ど、どうしたの?」

 

 パパと黒が視線を合わせてから、コクリと頷くと私に言った。

 

 

 

「「いや、つーちゃんが妹だよ」」

 

 

「はあっ!?」

 

 

 

 

 …………どうやら、黒のほうが五分ほど早く産まれていたらしい……そんなん、聞いてないっ!(泣)

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