プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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第3期始まりましたね♪
メムがいきなり見せ場で嬉しいかぎりッス(笑)



ツバサのカタワレ

「ようやく眠ったか」

 

 どれだけわんぱくなのか、床に入ると電池が落ちたかのように眠りにつく。根が子どもっぽい所もあるが、これは前世の記憶のせいだろう……本当に? 野生生物は警戒心が強いというし、この無警戒な寝姿からそれを想像するのは余りにも難儀だ。やはり、この子の生来の気質なのだろう。

 

 久々に身体を動かしてみる。

 あちらでは姿を見せると『やれ神様だ』とか『ありがたや』とか言い始める輩が多かった。時代錯誤もいいところだと思う。

 

 すでに神など死んだようなものなのに。

 

 手を前に伸ばすと、前より大きくなったと分かる。それでも(わらべ)のような雰囲気は残っていた。

 

「また、大きくなったな」

 

 幼子の頃から比べると、もう十分大人と言える身体だ。まあ、世間一般から言うとまだ子供らしいが。人の世の理は、変わらぬようでコロコロ変わる。まあ、私には関わりない話だ。

 

「……お前たちも来たのか」

 

 窓の外を眺めると、漆黒の闇に溶け込むように電線や木の枝へ留まる我らの落し子たち。一言も鳴かずにこちらを伺い続ける様は、さながらこの国の民を表した風刺画(カリカチュア)のようだ。

 

「今は用はない。()ね」

 

 私の言葉に、一斉に飛び立つ彼ら。その羽ばたきに一切の音は無く、飛び散る羽根はまたたく間に消え入ってゆく。現世には存在しない存在。それが彼らだ。

 

 眠りに入った娘は、時々薄ら笑いを浮かべているようだ。同じ体とは言え夢の内容までは分からない。少し口惜しいが、そういう仕様ならば致し方ない。

 

「ふむ……何か摘むものなぞ無いかな?」

 

 この時代は便利に出来ている。昔は人が手ずから調理せねばならなかったものが、簡単に手に入れられる。久々に喰らう歓びを満喫したい。

 

 部屋を出て仄かな明かりの灯る廊下を行く。扉が一つあるが、今は用はない。寝た子を起こすような無作法はごめんだ。

 

 

 一階、リビングに繋がる扉の隙間から光が漏れている。この家の主は、いまだ起きている様子だ。どれ、挨拶でもしておこうか。

 

「邪魔をするぞ」

 

 普通の声色でそう言って扉を開ける。リビングのテーブルにのーとぱそこんとやらを広げて作業中だった彼がこちらを見る。

 

「……もう少し早い時間かと思ってたよ。おかげで仕事が捗った」

 

 ぬ。

 

「私が来るのを予見していたような口振りだな」

「施設長からの忠告があったからね」

 

 あのババア、余計なことを。

 

「良かったら、こちらにお座り。温かいものでも淹れようか」

「酒は無いのか?」

「無くはないけど、君には出せない。捕まりたくはないからね」

現世(うつしよ)とは面倒よな」

 

 冷蔵庫からパック牛乳を取り出すと鍋に注いで火をかける男。なかなか手慣れている。これなら私が手を出すまでもないな、座布団の上で待つとするか。

 

「お待たせ」

 

 ほこほこと湯気を立たせる器をテーブルに置く男。ふむ……表面に膜が出来ていないな、分かってるじゃないか。

 

 一口、試してみる。

 うむ、うむ……

 

「少し甘いの」

「蜂蜜を少々。娘が飲むのに合わせたんだ」

 

 ま、まあ。甘過ぎる訳でもないし。

 

「桂皮でも入れたか?」

「けいひ? ……ああ、シナモンパウダーね。これも娘の好みでね……ひょっとしてイヤだった?」

「いや、そうは言わん」

 

 勿体ないしな(クピクピ)

 

「多重人格障害……というのは初めて見たけど、本当に別人のようなんだね」

「そんな言葉で言い表せるものではないぞ?」

 

 正直、私自身も理解が追いつかない状況なのだからな。現代の医学などで切り分けられる問題じゃない。

 

「君に名前はあるのかい?」

「……無いな」

「君は黒ちゃんとは別の存在なのに?」

「アレは私のことを認識しておらん」

 

 おそらくは、な。

 

「けど、それじゃあ君のことを呼びづらいな」

「好きにでも呼ぶと良い」

 

 すると、男は少し考えてからあの言葉を言った。

 

月読(ツクヨミ)、とかどうかな?」

「ほう……」

 

 よもやその名を出すとはな。

 

「うちの娘、月代(つきよ)というのでね。それになぞらえて、なんだけど」

「ふむ……」

 

 娘の名前に繋げて考えるか。こんな気味の悪いものに。

 

「ふふ……」

「気に入ってくれた?」

「ああ。かまわんぞ。私はこれからはツクヨミだ」

 

 (くろ)の裏に潜むもう一人の存在。それならこの名は正しいだろう。

 

 それよりも。

 

「娘の名前、つきよと言ったか」

「月に代わりと書いて、月代(つきよ)だよ」

 

 ……

 

「それでは月代(さかやき)ではないかっ!」

 

 女性(にょしょう)に付ける名ではないわっ! というか、人に付ける名ではないわっ!

 

 と、憤慨する私を見て奴は喜んでいた。

 

「何がおかしいっ!」

「いや。ツッコんでくれたのが区役所の人以来でねぇ♪」

 

 なん……だと?

 

「博識そうな害虫も言ってこないから、誰も知らないのかと思ってたよ」

「それは、お前の周りの奴らが浅学なだけだ」

 

 確かに昔のことではあるが、時代小説なんかは残っておるだろう。学びが足らんのだ。それと、博識そうな害虫とは何ぞや? 今の世は虫がものを識るとでもいうのか?(混乱)

 

 彼がポツリと言葉を呟く。

 わりと、寂しそうに。

 

「僕のお月さまだったんだよ。あの子の母がね」

 

 ……

 

「恋い焦がれた者の代わり、ということか? それはそれで独りよがりな気もするが」

 

 思ったことを伝えると、自嘲気味に笑いながら答える。

 

「我ながら、キモいよね」

「……そこまでは言わん」

 

 気持ちが分かるとは言わない。

 人が人に寄せる想いというのは、余人には分かり得ぬもの。当人にしか分からぬものだ。

 

 それに。

 

「娘にはきちんと伝わっておると思うしの」

「そうでしょうか?」

「見も知らぬ、得体の知れぬ者を傍に置くことを了承するなど、なかなかに出来ることではないぞ?」

 

 まあ、他にも理由はあるだろうが。それを自覚しているかどうかは私にも分からぬ。

 

 ちと、揺さぶってみるか。

 

「時に。娘は月代(つきよ)と申したな。(くろ)の視界からだとぼんやりとしか分からぬのだ」

「ほう、そうなのですか」

 

 実際、人で云うところの夢うつつに近いのではなかろうか。意識自体が朧げなせいで、姿も声もよくは分かっていない。

 

 彼はリビングのサイドボード下から、何かを取り出してくる。

 

「とりあえず最近のを」

「ほう。あるばむ、というやつか」

 

 かなりの厚さのそれにはびっしりと写真が収められていた。それに移るのはあどけない笑顔のある特定の少女の姿ばかり。

 

 金にも銀にも輝く髪に、白磁の肌。青玉(サファイア)のような瞳は星のように瞬いて見える。

 年の頃は黒と同じほどだが、理知的な面持ちからは知性を感じる……アイツ、バカじゃからなぁ(嘆息)

 

 うずうずとしながらアルバムを覗き込む男……なんか、うっとおしい雰囲気を醸し出しておるな。

 

「かわいいでしょう?」

「黒もかわいいぞ?」

「方向性の違いですよ」

「まあ、確かに」

 

 この男の笑顔が無性にムカついてくるのだが、頷くしかないというのは事実。幾度となく現し世の美女、美少女というものを見てきた憶えがあるのだが、その中でも一、二を争うほどと言えるだろう。

 

 まるで、人の身に在らぬほどに。

 

「もしや……」

「どうかした?」

 

 考え込む私に彼が聞いてくる。が、答えたのは私では無かった。

 

「どうかしたのは、パパの方じゃないの?」

 

 凛とした声音。声だけだと云うのにその姿を想起させる。

 

 振り向いた先にいたのは、紛れもなく。

 

「お主が、月代(つきよ)か」

「? なにいってるの?」

 

 腰に手を当て、強気な姿勢を崩さない。その全身からは、人の身には過ぎた力の片鱗を感じた。

 

『やはり、こやつか』

 

 ここに黒が引き寄せられたのも、この因果やもしれぬ。

 

「笑ってるの?」

「……そのようだな」

 

 片翼との邂逅に、私は自然と口角を上げていたようだった。

 

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