プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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今回はルビーちゃん。なかなか思うようにいかない時期ですが、彼女なりに思い悩んでます。


思いがけない出会い

「アイドルになりたい」

 

 何度目かの言葉を、私は諳んじる。

 

「ダメだ」

「どおして?」

 

 兄はそう言って聞いてもくれない。

 

「大手事務所はハードル高いわよ。なってからも競走あるし」

「そんなの分かってるよ」

 

 ミヤコさんものらりくらりとしていい返事はしてくれない。

 

 私は星野ルビー。伝説のアイドルアイの子供。そして、その前世は天童寺さりなという、幼くして死んだ子供だった。

 

 だからというのもアレだけど、私はアイドルになりたい。それは前世的な意味でも共通した想いだ。

 

 でも、身内は誰もいい顔はしない。それも分かる。アイドル業界に関して知りたくない情報をいっぱい知ってしまってるから。

 

 生活は苦しいし、その先に行ってなんの保証もない。本当に若いうちしか出来ない仕事なのだ、アイドルは。

 

 だからといって、この情熱は止められない。

 

 ママと同じ舞台に立ちたい。

 

 それはアイに対しての思いもあるけど……やっぱり自分の欲求に他ならない。

 

 それに、芸能科のある学校に通いたいという思いもあった。ママは高校まともに行ってなかったって聞いてるし、前世でもそこまで長生き出来なかったから。

 

 なんで芸能科? と思われるでしょ? 実は偏差値が思った以上に低いので基本おバカな私にも余裕で入れると思ったからだ。

 

『なあ、ちゃんと授業聞いてたのか?』

『ここ、中一の範囲だぞ?』

『アタマ空っぽだなぁ』

 

 ……バカ兄貴の罵詈雑言は、ともかく。

 

 芸能科に入るには事務所所属が必須。そのために私はアイドルになるんだっ!(本末転倒)

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、君」

「え?」

「ちょっと時間あるかな? 僕、こういう者なんだけど……」

 

 道玄坂辺りでナンパまがいに声をかけてきた人が懐から出したのは名刺だった。

 

『これは……チャンス到来?』

 

「やあ、ルビーちゃん。こんにちは」

 

 そこにさらに声をかけてきた人がいた。

 

「鏑木さん」

「ちょっと野暮用でね。こちらの方は」

「きゅ、急用がっ! また今度ね」

 

 私が知り合いの男性と話してるのを見て、スカウトの人は足早に去ってしまった。手の中に残るのは名刺だけ。それを鏑木さんは手に取り、ため息を付く。

 

「地下アイドル事務所か」

「お知り合いなんですか?」

「今のやつは知らないけど、社長とは何度か。まあ気にしなくていいよ」

 

 そう言って彼は名刺をポケットにしまう。ああ……私のチャンスが。

 

「ちょっと、お茶に付き合ってくれるかな? おじさん一人だとどうも足が遠のくところでね」

「! お供しますっ!」

 

 ころっとスカウトのことを忘れてしまう自分。なんだかなぁ……

 

 

 

 

 

「じゃあ、ルビーちゃんはアイドルになりたいんだね」

「はい。でも、ミヤコさんもお兄ちゃんも反対らしくて……」

 

 いわゆる喫茶店では無くて、フルーツパーラーっていうのかな? 周りには女性客ばっかり。コレじゃ確かに男の人は入りづらいかもね。

 

 私はおっきいパフェを頼んだ。前世でも今の人生でも、多分食べたことの無いサイズ。鏑木さんは少し驚いた顔をしてた。

 

「女の子はスゴイよね。そんなのペロリだもん。うちの娘もそうだけど」

「お子さん、いるんですか」

「今年で十一、早いもんだよ子供の成長ってのは」

 

 そう語る鏑木さんの顔に少しお年を召した感じ……まあ、おじさんだもんね。

 

「アイドルかぁ……」

「もしかして、鏑木さんも反対側です、か?」

「いや。僕はそちら側の人間だからね。君みたいな可愛い子なら大歓迎だよ」

 

 そう言ってカップを傾ける。ちなみにヌワラ……エリアだっけ? 茶葉とかよく知らないけど私も同じものを頼んでいる。

 

「でも、その気持ちも分かるよ」

 

 ティーソーサーにカップを置くとそう言う鏑木さん。

 

「苺プロの子だったら知ってるよね。B小町のセンターの話」

「……はい」

「あんなことは滅多に起こらない筈なんだけど、人は何で狂うのか分からない。結局、あの事件の容疑者も自殺してしまったしね」

 

 ……嫌なことを思い出させる。

 あれは私達にとっては最悪の事であって……軽々しく話されるのは耐え難いことだ。

 

「アクア君も、ミヤコ氏も、君を気遣ってる。それは紛れもない事実だよ、煩わしくてもね」

「……わかってます」

「だろうね。でも、憧れは止められない、か」

 

 そう。

 憧れは止められない。

 

 憧憬は生きる希望。それが無くちゃ生きてる意味は無い。

 

「うちのコとは正反対だ」

 

 ん?

 

「どういうこと、ですか?」

「いや、何ね。うちのコは君に劣らず可愛いんだけど……少し達観してるところがあってね」

 

 そう言って見せてくれたのはスマホの写真。

 

「うわ、可愛い♪」

「でしょお?」

 

 ブロンドかと思ったけど、若干白いからプラチナブロンドって奴かな? 顔の造作も整ってて、日本人離れしてる。私もそんじょそこらの子には負けないけど……同い年になったらどうかな? 少なくともビジュアルだけでは勝てないかも。

 

「普通の子供は芸能界に少しは憧れるもんだよね」

「私の友達なんかは、全員そうですね」

「だよねぇ」

 

 手元のケーキにフォークを入れて口へ運ぶ。この年の人にしては食べ方が上手。子供に付き合ってよく食べてるのかもしれない。

 

「子役が足らなくて急遽代役を頼んだんだけど……なんか反応が薄くてね」

「え? もうデビューしちゃったってコトですか?」

「名前は出してないし、ウィッグで誤魔化してたからそこまでは目立ってないと思うけどね」

 

 そう言って見せたのは今日あまの最新話。そしてそのシーンは妙に気になったところでもあった。

 

「この子……この子なんですよね?」

「うん。我が子ながらよくやってくれたと思う」

「……」

 

 見たときの違和感。Vの中での彼女とは明らかに違う。私は兄ほど役者とか演技に詳しくないけど、そんなわたしでも分かる。

 

 華やかな芸能人ふうの見た目の彼女が、完全に埋没している。よく見れば顔立ちもいい。ウィッグで黒髪になってるけど、それでも整っている容姿は隠せてない。

 

 でも、この子には目がいかない。

 

 有馬かなのオーラもあるのだろうけど、それだけでは納得出来ない。

 

「身内の贔屓だと思うけど、初めての演技にしてはよく出来てる。なのに本人にその気は無いって言われてさ」

 

 そんな子もいるんだなぁ。私にはよく分からない。

 

「そういえば、君に会いたいと言っていたよ」

「え、? 私に?」

「アクア君の妹だから、という訳なのかもしれない。でもやけに固執しててね。何度かミヤコ氏にも打診してるけど忙しいらしくて」

「わ、わたし、個人的にはすごく暇ですけど。今日とかでも全然、オッケーですよ?」

 

 こんな可愛らしい子なら、私も会ってみたい! そう意気込んでみたけど、鏑木さんは少し困った様子だ。

 

「それなら私がミヤコさんに話してみますっ!」

「いや、それは……」

 

 携帯を取り出しミヤコさんへコール。四の五のとごねる彼女からようやく許可を引き出すと鏑木さんへピースをする。

 

「君はかなり強引だね」

「母譲りなのでっ!」

 

 やれやれと納得してくれた鏑木さんは、レシートを持って立ち上がる。

 

「今日の夕食はたしかシチューだったと思うけど、よかったら食べていく?」

「ゴチになりますっ!」

 

 業界人的にこう返すのが正しいと思った。

 

 

 

 

 鏑木さんの車で約二十分。そこは閑静な住宅街。ちゃんとした一軒家ですごく驚いた。プロデューサーって儲かるのかな?

 

「ちなみに月代(つきよ)には知らせてない。せっかくだからサプライズにしようかと思ってね」

「おおう……やり手のプロデューサーだ」

「そんなんじゃないよ」

 

 駐車場から玄関へ。鍵を開けて中に入るとどこからか香ってくるシチューの匂い。これはクリームシチューだな。

 

「お帰り、パパ」

 

 とててと歩いてくる女の子が、ぴたりと停まる。小さいながらにエプロンを付けて。ちゃんとした主婦みたいである。

 

「ただいま、月代。今日はお客さんだよ」

「ルビーぃ♪」

「わっ」

 

 いきなり飛び付いてくる月代ちゃん。私の胸元に顔を埋めて、何度も顔を擦り付けてくる。なんか、子猫みたいだな。

 

 

 

 それから、鏑木家で夕飯をごちそうになった。

 

 月代ちゃんは小学生ながらもう家事も完璧にこなしてるらしい。(と、年上の威厳が……)

 

「今日は来てくれて本当にありがとう♪ ずっと、ずうっと、会いたかったの」

「そ、そうなんだぁ。嬉しいなぁ」

 

 満面の笑みの月代ちゃん。ただ、こっちから言わせるとここまで固執する理由が分からない。

 

「そのー、なんで私に? わたし、芸能人とかじゃないし……」

 

 私はただの中学生だ。当然、今は、のつもりだけど。でも、そんな私に月代ちゃんは屈託も無い笑顔を見せる。

 

「それはもちろん。ルビーちゃんだからだよ?」

「??」

 

 ゴメン、わからないわ。年下の女の子の感性が分からない……これはひょっとして私もおばさんの仲間入りってこと? ま、まあ中身と合計するとそんな感じかも、だけど。

 

 ご飯を食べたあとは、ソファで月代ちゃんとおしゃべり。今はミサンガ作るのにハマってるんだって。私も一つ貰ってしまった。

 

「こっちはアクアに渡してね」

「お兄ちゃんに?」

「魔除けが欲しいって言ってたから」

 

 くすりと笑う月代ちゃん。

 その姿に、誰かがダブって見えた、ような気がした。

 

 

 

 

 

 帰りも鏑木さんに送ってもらった。家に着くとミヤコさんとお兄ちゃんが待ってて。

 

「あなたはこういうことする人とは思ってなかったんですが」

「……成り行きだよ。ミヤコさんから聞いてない?」

「聞きましたけど……節度ある大人とは思えなかったので」

「やれやれ。手厳しいな」

 

 アクアは鏑木さんに突っかかっていた。

 

「お兄ちゃん、やめてよ」

「……ちっ」

「嫌われたもんだな。まあ、こちらも似たようなものだし」

 

 そう呟く鏑木さんは、少しだけ笑っていた。

 

 

 

「はい」

「なんだ、コレ」

「月代ちゃんから。魔除けだって」

 

 そう言うと、少し笑ってアクアは携帯を取り出す。その待ち受けには。

 

「ぷ……」

「もう、魔除けは貰ってるんだけどな」

 

 あの柔和な鏑木さんの、めちゃくちゃ怒ってる顔だった。ナニコレ、超ウケる(笑)

 

「そ、それはそれとして。はい」

「……アクセとかメンドイんだけど」

「別に付けなくてもいいけど、渡しておかないと悪いから。受け取ってね」

「……はいよ」

 

 その私の腕には別のミサンガが揺れている。赤とオレンジ。情熱と希望を表すそれは、今の私にぴったりハマる。

 

 

「頑張るぞー」

「あ、今日は俺が勉強見るからな」

「え……」

 

 今日はちょ、ちょっとハードになりそうだな〜……ぴえん。

 




月代:パパ、ありがとお♪
鏑木P:(ちょっと間違うと少女略取だもんな。これからは気をつけよ)
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