小鳥遊ホシノは死を覚悟した。回復が間に合わないことを理解したのだ。
動けぬ状況の中で。
巡る走馬灯。
懐かしき青い春の記憶。その風が、もう良いとささやく。
(もうここで終わってもいいんだよ)
『もう…休んでもいいのかな…』
(ホシノちゃんは十分にやってきたよ)
『そうだ…やれるだけやった…ここまで…一人で』
五体を投げ出す。これで終わっていい。
木偶の拳が迫る。その振り下ろされた拳は…
しかして。
木偶が振り下ろした拳は…
木偶の肉体ごと空中で止まる。
「…?」
「ホシノ…ちゃん…」
「ユメ…先輩?」
「生きて…お願い…」
そこにあったのは、ユメ先輩の笑顔であった。
もう、死んでしまったと思っていた。
私の大切な人。
魂が肉体を凌駕する。その瞬間、ホシノは体を目いっぱい動かした。
すぐさま振り下ろされる地点から移動すると、反対側の壁に移動。
一撃をもらっただけで砕けてしまうほどのもろくひび割れた心は
しかし、最後の最後に彼女は言った
「生きて…」と
もう会えないと思っていた人が言ったのだ”生きて”と
そうだ。この程度の傷であきらめてはならない。
そもそも、なぜこの程度の傷であきらめる必要があったのか。
思考は正常に戻った。
そう確信できるほどの違和感。
『何をされたのかは知らないが…心が操られていた。そんな感じ上がした』
そうでなくては理由がつかない。このうちに眠る憎悪の炎は簡単に消せるものではない。
きっと、ユメ先輩はこの復讐を望まない。
だから…これは私のわがままだ。
あなたのように大きな心を持つことは私にはできない。
あなたのようにはなれない。
そんな私をどうか許してほしい。
この復讐が終わったら、あなたのもとへ行きます。
小さく嘲笑する。
『いや…私は地獄行だろうな…』
木偶がフリーズ状態から直る。
小鳥遊ホシノは向かってくる木偶を前に一つ深呼吸をした。
肉体が、まだ代償との狭間に存在する中。
現在、可能な最小限のリソースを用いて最適な動きへと肉体を変化させる。
「動ける。十分だ」
言葉が出たのを皮切りに、木偶は全速力で攻撃を仕掛けてきた。
速さも重さも十全。今まで戦ってきた誰よりも早い動作と重い攻撃を乗せた攻撃を。
しかし、攻撃はすべて小鳥遊ホシノに流されていく。
木偶である以上、思考を用いた攻撃は不可能であった。
すべての攻撃が単調かつ直線的。
今なら垂直降下の攻撃もかわすことができる。
攻撃してくる手はランダムであれど、それらはすべて小鳥遊ホシノの想定範囲内にとどまるものであった。
もはや攻撃は通らない。ここからは時間との勝負だった。
木偶は無意味な攻撃を延々と繰り返す。
完全に威力を流されるとその衝撃は自分の身を締めていく。
そこから十分間に及ぶ猛攻が続き、木偶は異常をきたし始めた。
威力、速さ、ともにお粗末になっていく。
この肉体に何が入り込み、動かしているのかは定かではない。
しかし、限界を超えて動かせば、性能が落ちてくるのは当たり前である。
小鳥遊ホシノは木偶の性能が限りなく低下したタイミングで、脳天の腫瘍を破壊。
身体に回し蹴りを加え、追撃。心臓部にある腫瘍を破壊する。
破壊された腫瘍の内側から空洞が出現。ためらう間もなくその心臓部に右手を差し込むと、その内側にいた"モノ"をつかんだ。
引きずり出される本体と思しき肉塊。おぞましき形をしたそれは、感情こそなかったものの、笑っているように見えた。
「こいつか…」
肉塊を握りつぶすと、ユメ先輩の肉体はだらりと力なく寄りかかってきた。
「…」
ユメ先輩の身体を横たえると、そのフロアを後にした。
連邦生徒会会長室ーーー
「私の傑作の改造人形まで…」
「惜しかったですね。やはり、一筋縄ではいかないのですよ」
「……」
「しかし、一度受けただけのマインドコントロールに気付くのはやはり勘が鋭いといいますか、おぞましいものがありますね」
「今も急速に成長し続けている。彼女が受けた傷もアドバンテージとは言えなくなってくるでしょう」
「会長…」
「そろそろ出ますよ」
”私、自ら”
次章”最終編”【連邦生徒会争闘】