裏稼業とカカシさん(続く......かもしれないリメイク)   作:chaosraven

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冒頭

 

 

 

 Pi Pi Pi Pi Pi......

 

 チェストの脇に置かれた電話機が内線の着信を知らせる。

 耳に響く高周波の音は、カーテンが閉め切られた仄暗い部屋に響き渡る。暫くして、チェストの直ぐ側のベッドでもぞもぞとブランケットが動き始める。

 かと思えば、細身ながらも筋肉質な腕がニュッと現れ、チェストへ伸びると手探りで電話機を探し始め、やがてお目当てのスイッチを黙れとばかりに叩き付けた。

 

 

『起きなさいレイ。緊急の依頼よ』

 

 

 スピーカーから流れたのはアルト域の女性の声。どことなくピリピリとしたムードを醸し出す声、平時に聞けば思わず身を引き締めてしまうだろう。

 しかし、部屋の主にとっては無理矢理叩き起こされたにも等しく、電話に出たものの寝覚めの悪さからくる苛立ちを隠さずに口を開いた。

 

 

「…あァ?? 依頼だと?」

 

 

 寝起き故に声帯も開かず、機嫌も相まって低い声が出る。

 

 

『アンタを直々にご指名、かつ急ぎも急ぎの緊急依頼よ。格好整えて早く下に降りてきなさい』

 

「チッ…コッチは寝不足だっつうのに」

 

 

 文句を零すも、お前の都合など聞いてられないと相手はすぐさま電話を切ってしまう。

 寝不足にも関わらず叩き起こされた為に、物凄く居所が悪い腹の虫を抱えつつ、一先ず言われたとおりに用意を整える。

 

 接近戦用の高周波放射式のマチェット、コンバットナイフ2本を腰ベルトのホルスターにセット。続いてガンホルスターに愛用するFive seveNを装着。その際、コッキングをしてちゃんと装填されているかも忘れずにチェック。

 そして、愛機のFN P90も同様にチェックした後、セーフティを掛けて腰ベルトの背面に設けられたマグネットラックへ装着する。

 本来のP90の外装は樹脂成形だが、彼は仕事によっては必ずしも常にP90を構えない為、必要に応じ着脱可能な改造を施していた。勿論、重心バランスを損なわない様に、重量配分は左右シンメトリーに整えている。

 

 最後に、予備弾倉や万一の際の非常物資を詰め込んだジュラルミン製のハードザックを背中に背負う。中身のチェックは眠りにつく前に終わらせている。問題は無い。

 

 呼び出しから僅か3分後、一瞬にして仕事人(フィクサー)の装いとなった彼は部屋を出て、階段を降りて、正面入口を真っ直ぐ進んだ先の受付へ。そこには長い茶髪をポニーテールにし、その上に三角巾を巻いた若い女性がいた。

 ただし、顔は向かって左斜めに置かれたモニターに向き、エンジニアばりのスピードでキーを打ち続け、時たまトラックボールマウスを転がしてはまたキーへ。顔付きもいつになく険しい。彼女はチラと男…レイを視認すると、目線で此方に来るよう促した。勿論、打ち込む手が止まることはない。

 

 レイは状況が切迫している事を認識し、一先ず話を聞くことにする。

 

 

「話を聞こうか」

 

「ちょっと待ってて。アンタの端末にリンクさせるわ」

 

 

 そう言われ、懐から端末を取り出すレイ。画面を点けたちょうどその瞬間、彼女の使うアドレスからデータが飛んでくる。嫌そうな顔のまま受け取ったファイルを開き、中の資料を一通り流し読んでいく。

 

 

 事の経緯と依頼内容は以下の通り。

 大手の戦術人形メーカー『鉄血工造』。その戦術人形を生産する『第三兵器産業廠』なる工場で、つい2時間程前に戦術人形の強奪事件が起こった。

 普及モデル(ローグレード)ならばまだマシだったが、奪われたのは鉄血がハイエンドモデルと位置付ける上位モデルであった。

 

 機体名『SP65 Scarecraw』

 電子戦を主軸に、浮遊型のメーザービットを用いて攻撃を行うのが特徴。ハイエンドに位置付く機体としてはある程度お値段が抑えめで、多少奮発してでも普及モデル(ローグレード)よりは強力な戦力が欲しい顧客にピッタリ、あわよくばコレを入門モデルに他のハイエンドにも導線を、というのがコンセプトだそう。

 

 と、この時点で鉄血にとっては大きな事件だが、盗まれたのが量産型であればまだなんとかギリギリマシだった。最悪自爆させればそれで解決すると。万が一奪われた人形を解体でもされて技術流出するくらいなら、いっそ丸々吹っ飛ばした方が損失は少ない。

 

 この事件、よりによって一番最初に生み出された初期型(オリジナル)が盗み出されてしまった為、鉄血としては是が非でも取り返さなくてはならない、というのが経緯であった。

 

 それ自体はまあいい。レイは端末を下にスクロールする。

 

 そこには本来ならば事前情報が幾つも載っている筈なのだが、画面には依頼遂行に必要な情報がほとんど載っていない。

 

 内訳は、

 敵の詳細:不明

 敵の拠点:不明

 敵の規模:不明(強奪時は一個分隊程度の少人数で襲撃)

 敵の目的:人形の技術解析?

 備考:敵は工廠から西方向に車で逃走。人形が機密回線でビーコンを発してるので、専用の端末があれば現在地は辛うじて分かる

 

 依頼内容:戦術人形の奪取、敵の殲滅

 

 報酬:40万ユーロ

 

 

 

 見る見るうちに嫌そうな顔付きが露骨なモノになっていく。そして読み終えた彼は一言。

 

 

「帰って寝て良いか?」

 

「指名だっつってんでしょうが」

 

「けっ」

 

 

 ピシャリと言い切られては是非も無し。彼女は謂わば、レイの属する組織の実質的なトップなのだから。無理に抵抗して反感を買えば、彼にとって不利益や不都合が生じる。直に呼び出された時点で流れは決していたのだと理解したレイは、最早睡眠時間の確保が叶わぬ諦めと共に大仰な溜め息を吐いた。

 

 

「何が不満なのよ。緊急だっつうから、ギャラも増せる分だけたんまり乗せといてやってるのに」

 

 

 彼女の言い方にカチンときたレイ。一度は飲み込むつもりだった文句を放つ事に決めた。

 

 

「睡眠欲は三大欲求の1つなのご存知??」

 

「寝言は寝てから言いなさい。さもないと今夜絞るわよ」

 

「寝かせろよ」

 

 

 ピリついた雰囲気で文句の応酬を返す2人。

 しかしこれでは話も進まない。レイは胸元からタバコを取り出し口に咥えると火を点けようと…女に射殺す様な目で睨まれた為ライターは仕舞った。

 

 とはいえ出したものを箱に戻すのもと、咥えたまま話し始める。

 

 

「依頼内容も、想定される現場も、大凡単騎で片付けられるとは思えねえ。

 戦術人形1機が盗まれたから取り返してほしいってのは良いさ。ところが敵の正体は不明、アジトも不明、分かってるのは逃げた方向で、頼みの綱はパクられた人形が機密回線で送り続けるビーコンのみ。ほぼ1からの捜索で、挙げ句アジトの見当付いたら敵を殲滅して無傷で取り返せ? 無茶な話だ」

 

 

 言い分はごもっとも。

 攻略に必要な情報が軒並み抜けていては、何が必要でどう動くのが最適解なのかがまるで分からないのだから。チームだろうが単独だろうがその重要性は変わらず、むしろ単独なら尚の事重要度は高くなる。

 

 

 レイは自身の働きには自信を持っているが、だからといって好き好んでハイリスクな仕事に手を付ける趣味は無い。例え界隈でちょっとした異名を付けられていたとして、死ぬ可能性の高い事を進んでやろうとは思わない。

 

 ハイリスクハイリターンとよく言うが、何処まで命を掛けるかの線引を確と持つレイは、未だキーを打ち続ける女…仲間から『アインス』と呼ばれる彼女を細めた目で鋭く見つめる。

 

 対してアインスはというと、視線を感じて一瞬目を合わせるもそれだけ。特に気にした素振りも無く只管打ち続け、手を止めぬまま徐ろに口を開いた。

 

 

「確かに、アンタに送った資料には必要な情報が揃って抜けてるわ。せめてもう少しまともな情報を寄越せって言ったけど、工場で軽い銃撃戦があったとかでそっちに掛かりきりなのか、未だに返事も来やしない。

 しょーがないから、私自ら"今"手を()()()()()よ」

 

「手を打ってるねぇ…」

 

 

 細めたままの目をアインスの手元へ一瞥。

 最早エンジニアを通り越してハッカーの如くタイピング、レイは彼女が是が非でも自分を向かわせようとしているのを感じ、憂鬱な気分で再度溜め息を吐いた後、問いかけた。

 

 

「さっきから何を調べてる?」

 

「第三工場近隣のアジトに出来そうなところを片っ端」

 

 

 それだけ返してまた画面へ。指先も絶え間なく動き続ける。

 現時点の地図、それから組織が有する()()を頼りに、工場の周囲360度を文字通り虱潰しに探しているのだろう。が、決定打となる情報が欠けているせいで、確実に此処だといえるポイントが割り出せず、捜索に苦労している様子。

 

 レイはカウンターから身を乗り出してモニターを覗き込む。映し出されてるポイントは計17箇所。いずれも10数人は隠せる施設ないしは廃墟や人口の空白地帯である。

 自身の真横に顔が接近してきたため、細めた横目でレイを見るも彼は気にも留めず、口元のタバコを指先に画面を指し示した。

 

 

「仕掛けてきたのが1分隊規模だったなら、少なくともそれだけの人数を仕舞い込んでもバレねえ場所が必要だ。腐っても最大手の軍需メーカー相手、しかもブツの輸送中でもなく直に施設へ仕掛けてる以上、準備の為の拠点が必ずある。加えて、実行部隊の留守を守るメンバーも要るだろう。同規模か多少の人数差はあれど、小さな一個小隊程度を収める箱があるはずだ」

 

「でしょうね。アンタならこの中から何処を選ぶ?」

 

 

 彼女の眼前で指に挟まれたタバコが画面をなぞる様に動く。

 

 

「連中は人目に付くのを嫌う筈だ。ココとココとココはギャング被れのチンピラや浮浪人の溜まり地になってて、意外と人目につきやすい。俺ならこの辺りはパスする」

 

 

 画面の3箇所を指し示すと、間髪入れずアインスはその結果を反映させてゆく。

 

 

「この辺一帯の箱も集落から程近いからハズレだ。あぁ、あとそこも」

 

 

 次いで複数のポイント大きく丸で囲い、追加でもう一点をまとめて除外。

 残るポイントは2点。いずれも周囲に人里の無い、過去に放棄された施設だ。片方は旧文明の企業ビル建屋、片方は公会堂の廃墟。ただし、どちらも第三工場から西方向に位置している。どちらが本命なのかは分からない。

 

 

「2箇所まで絞り込めたけど…」

 

「俺がリーダーならどちらを使うのもアリだな。人目も無ければそこそこの広さもあり、中は恐らく当時の備品なんかはそのままなんだろうから、即席のバリケードだって作れる。目標に搭載されたビーコン発信器さえどうにかすりゃ、後は直ぐに放棄しちまえば良い」

 

 

 レイは右腕の時計を見やる。

 時刻は事件発生からもうすぐ2時間半が経過しようとしている。

 想定される敵の目的を考えると、一刻を争う事態であるのは間違い無い。何故なら————

 

 

「…時間を置き過ぎれば鉄血が通報したPMC、いやハイエンドなのを加味したら下手したら正規軍が出てくる可能性もある。その前に離脱して足跡を断つ、か」

 

 

 もっとも、実際の鉄血は表の戦力ではなく、彼ら"ウラ側"の戦力を頼っているのだが、盗んだ相手がそんな事情を知る由も無い。いずれにせよ、早急に追跡を開始すべき状況なのは間違い無い。

 

 

「そういう事だ。時間との戦いだが、決定打が無きゃこっちも動くに動けねぇ。依頼主の言うビーコンを受け取るモノが無きゃ、ハズレの方に向かっちゃって間に合いませんでしたなんて事にもなりかねない。行った先が発信器だけの可能性もありそうだが」

 

「チッ…っと、噂をすれば依頼主からだわ」

 

 

 アインスは耳に付けたインカムに指を添えると、電話口の相手と会話をし始める。と、直ぐさま高速でキーを打ち始め、間もなくレイの端末に新たなメールが届く。

 

 メールには先程話の上がった『ビーコンを受け取る機器』の受け渡し場所が座標で示され、地図に当て嵌めると第三工場から西方向に少し進んだ辺りのガソリンスタンドを示している。予想されるポイント双方の何方にもロス無く向かえる中継点。これならば受取後にスムーズに現場へ到達出来るだろう。

 

 受け渡しの際、依頼主から指定された合い言葉は『カカシとメイド』。

 妙な単語の組み合わせに少し眉を顰めるが、一先ず捨て置き端末を懐へ仕舞う。

 その時、アインスと目があった。

 

 彼女は自身の背後を親指で指し示しながら大きく頷く。

 以て彼も頷きを返すと、音も立たぬ流麗な駿足で来た道を駆け戻る。降りてきた階段の脇を通り過ぎ、暫し走ると、やがてこの建物の中にあるガレージへと辿り着く。

 

 中に居た人物はレイの顔を見るとニヤリと笑い、手に紐でぶら下げていたヘルメットを投げ渡した。

 

 

「事故るなよ、レイ」

 

「誰に言ってる」

 

 

 メットの中に入ってたキーを手に取り、頭に被りながら、ガレージの中央に鎮座するモノへと歩み寄った。

 艶めかしさすら覚える程の漆黒に染められた、流麗な線を描く巨大なボディ。ソレは二輪車の筈だが、一般的な常識で語られるものとは姿を大きく異としていた。

 

 全長3245mm 全高1456mm 全幅965mm

 

 大凡バイクと呼ぶには余りにも巨大。大き過ぎて、最早スタンド無しに履いているタイヤだけで自立しているほど。まるで大戦前のコミックスにでも出てくる様な車体が、走り出すその瞬間を今か今かと待っていた。

 

 レイは車体に跨ると共に、左手のクラッチレバーを引きながらもう一つの受け取ったモノ…キーを専用のホルダーにセットする。すると、正面の液晶メーターパネルが点灯し、黒背景にメーカーと車種のロゴを表示する。メイン電源が入り、イグニッションの用意が整った証だ。

 

 ヘルメットの内で薄っすらと弧を描く唇。右手の親指に掛かる赤いボタン、コレがエンジン始動のイグニッションスイッチだ。左手を一杯に引きながら、レイはそれを押し込んだ。

 

 

 次の瞬間、セルモーターがエンジンを呼び起こし、耳慣れぬ者には重苦しさを感じさせる程のアイドリングが響き始めた。聞く者全ての腹の底を揺らす重低音は喧しくも心地良く、そしてこのクルマが並大抵のモノでは無い証左でもある。

 

 排気量5194cc V型8気筒自然吸気式エンジン

 形式名『8 Diablo』

 悪魔の名に相応しい、まるで地獄からの唸り声の様な音を撒き散らしながら、けれどもその身体(ボディ)は静かに走り出すその時を待つ。

 

 その名は『Luce Nera(黒い光)

 淑やかな、そしてたおやかなその身に、悪魔の如き心臓を宿した乙女。それが、このバイクに込められた"イメージ"であった。

 

 始動の瞬間素早く左のつま先でニュートラルに切り替え、暖機が終わるのを待つ。その間、端末と車体とヘルメットをワイヤレスで繋ぎ、データリンクさせるのも忘れない。とそこへ、アインスからの通信が届く。

 

 

『聞こえる?』

 

「聞こえてる」

 

『そう。目標は奪取された戦術人形の回収、及び敵構成員全ての抹殺よ。憂さ晴らしに思う存分暴れてきなさい』

 

「捕縛しなくても良いのか?」

 

()()()()が向こうのオーダーよ。大分頭に血が回ってるみたいだったけど、向こうの事情は知らないわ』

 

「ふぅん…」

 

 

 後で冷静になった時に依頼をひっくり返すのではと嫌な予想が過ぎるが、まぁその時はその時だと頭を切り替える。程無く始動直後のアイドルアップが終わり、平時の回転数へ落ち着く。

 

 レイは前傾姿勢で両側のレバーを握り、左足をシフトアップして一速に入れる。直後、ガレージのシャッターが擦れるような金属音を鳴らしながら上がり始めると、暗闇に包まれた光景が少しずつ現れる。

 

 センサーが前方の明るさを検知し、指示せずともロービームが外を照らす。視界は良好、月も出ていて全くの真っ暗闇というわけではない。その上路面はドライ、うってつけのコンディションだ。

 

 

 ガシャン、シャッターが開ききる。

 レイは後ろに立つ男へ振り返る。

 

 

「行ってくる」

 

「気を付けろよ」

 

 

 レイは頷き、右手を振って前を向く。

 水温、油温、オールOK。右手のレバーをほんの一捻り、それだけで悪魔は腹を揺らす唸りを上げた。用意は全て整った。

 

 アクセルオン、(レイ)黒い光(ルーチェ)と共に闇世へと走り出す。悪魔の唸り声を響かせながら。

 

 

 

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つづきません。
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