裏稼業とカカシさん(続く......かもしれないリメイク) 作:chaosraven
だけど、チマチマ少しずつ出力出来たから上げます。
※旧版をご存じの方へ
旧版で語ってた内容とはここから大きく動きが変わりますので悪しからず
漆黒の闇夜、街灯の一つも無い、ただ只管荒れ果てた地を真っ直ぐ貫く道。ところどころヒビ割れたり、グリフィンや商売人の輸送車が行き来するせいで轍も目立つアスファルトは、最低限車が通れる程度といったコンディション。俺の乗る『ネラ』のような高速疾走する乗り物では、持ってる性能をまともに発揮など出来ないだろう。普通なら。
こちらとすれ違う車のドライバーが尽くギョッとした目で俺を見るのを感じる。当然だ。精々60-70km/hが出せる安全域であろうデコボコ道を、極太のタイヤを履いた巨大なバイクが倍以上の速度ですれ違うのだ。風圧で車体は大きく揺れるし、何より目の前にライトが見えたと思った数秒後にはすぐ真横を走り抜ける。大抵の人間は驚くというもの。
メーターは150km/h前後を行き来している。真っ暗闇のデコボコ道をこの速度で走るのは正気の沙汰ではない。勿論、その感覚は俺もちゃんと持っている。なら何故、自殺志願のような運転なのかといえば、単純に急ぐ用である事と、この道が俺にとってはホームグラウンドだから。
どの辺りにどんなギャップがあるか、ネラがそれを拾ったらどんな挙動をするか、取られたハンドルをどうカウンターを当てるかは全て身体が覚えている。メットの裏面にHUDで表示される地図と当て嵌めれば、例え星と月明かり、ヘッドライト以外の光源ゼロな暗闇でもこの速度で走れるというわけだ。
唯一気を付けなくてはならないのは、明かりも点けずにエンストやパンクして止まってる車、あるいは強盗目的のザコ共がバリケード代わりに車を止めてる場合。尤も前者はハイビームで走ってれば直ぐに気付けるし、後者の場合もこの辺を根城にしてる奴等はネラの音と俺の事を知っているため、此方を認知した場合はハザードを3回点滅させて抜かせるのを暗黙のルールとしているらしい。結果、邪魔者のいないスムーズな夜間走行が可能となる。
偶に新入り共が我が物顔で絡んで来ることもあるが…。
Pi Pi Pi Pi...
『聞こえる?』
「聞こえてる」
間もなく目的地に着く頃合いを見計らってか、拠点にいるアインスから無線が入る。
『依頼主から使いがスタンドに着いたって連絡が入ってる。背の高い女だから、見ればすぐ分かるって言ってたわ。
今スタンドの監視カメラを
アインスはどうやら集合場所のカメラをハッキングして様子を伺っているらしい。目標らしき人物が確かにそこに居るのは結構。ツールを受け取り次第速やかに現場へ向かえるというものだ。
その人物の服装にアインスは引っ掛かりを覚えてる様だが、別に一緒に来るわけでも無いので気にしない事にする。
『…まあ良いわ。依頼主のお使いはスタンドでアンタを待ってる。機材を受け取ったら直ぐに現場に向かって。オペレートは任せて』
「…了解」
ちょうど、正面左手に目的のスタンドが見えてきた————
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待ち合わせ場所のスタンドに着いて20分が経った。
あの子が拐われてからはもうすぐ3時間、時計の針が進む度に己の内で焦りが増す。
敵の狙いは正確には分からない。
非合法的に売り飛ばすだけなのか、それとも技術解析を試みてのことなのか、襲撃した敵の目的がはっきりしない為に、想定し得る最悪が幾つも浮かんでは消えてを繰り返す。身体は緊張で小刻みに震え、
先程からスタンドのレストスペースで不味いコーヒー片手に待ち人を待ち続けているが、この数時間でいくらでも身体が可笑しくなってしまいそうだった。
(お父様はああ言っていたけれど…)
己の敬愛する男の言葉が脳裏に過ぎる。
約3時間前
鉄血工造第三兵器産業廠に突如武装した兵士達が出現した。それも外から仕掛けて来たのではなく、前触れ無く工場の内部で突然現れたのだ。
敵はレーンで生産途中の人形には目もくれず、真っ直ぐあの子のいる精密メンテエリアへ突き進み、中にいたエンジニア達を全員撃ち殺した後、メンテナンスのため
通常、不正に持ち出された人形は直ちに特殊なビーコンを発する様に造られているが、工場にあった受信機器全てが一つ一つ丁寧に破壊されてしまっていた。
ここまでやられた原因は、工場の管理職陣に内通者がいたこと。詳しい経緯はまだ判明していないが、大方金で買収されたのだろう。
武装集団は目的地手前までは用意していたウチの制服でなりすまし、着いたら化けの皮を脱いで邪魔者を全て殺した。招き入れた管理職の男諸共、その場にいた全員を。
お父様…工場長は通報を受けて直ぐにセキュリティを作動させたものの、内通者の事前の手引でセキュリティが自動では作動しなかった事、諸共スタッフが殺されたせいで事態の認知と初動が遅れ、戦い慣れた敵が逃げる方が早く、まんまと逃げられてしまったのだ。
私自身、義体のキャリブレーションの為の一時的な
一刻を争う事態。直ぐ様起こされた私は、敵が逃げた方向へ只管
敵は巧妙に姿を消してしまい、捜索用の装備を持たない私では見つけ出す事が叶わなかった。
一方、お父様は工場首脳陣の緊急会議を開き、その場で本社とも回線を開いて報告。公的権力に解決を依頼しようとして、経営陣からストップが掛かった。
曰く内通者の手引でまんまと人形を盗まれたなど、会社の信頼を損なうスキャンダルになりかねない。この1件は決して表沙汰にはしてはならない、知られぬように取り戻せと。なんてこともないように言ってのけた。
言いたい事は理解は出来る、だがそれは余りにも無茶というもの。
お父様は声を荒げて事態の重さを説いたそう。が、結論は変わらず。頭を抱えた彼は、丁度捜索から戻ってきた私だけを会議室に残して皆を退室させた後、鉄血が保有する
誰に連絡をと問えば、首を横に振って一言。
「御上の望む通り、表に現れない
そう言った彼の顔は酷くやつれていたが、同時にほんの少しだけ張り詰めていた筈の気を緩めた笑みが浮かんでいた。
それからお父様の指示が飛び、スタインフェルド主任とその部下が大急ぎで特殊ビーコンを拾う端末の用意を始める。ありあわせの大型端末に特殊ビーコン専用の受信ユニットを無理やり基盤に組み込み、並行して本来の端末に入っていたソフトウェアをなんとか移行先のOSに噛み合わせる作業に2時間近く。
焦りと緊張から多くの汗をかいた主任が端末を完成させると、私は礼もそこそこに半ばそれをひったくる様にして駆け出した。
「ま、待ちなさいっ! リーリャ!!」
「待てるものですかッッ!! 早く探さないと!!」
「待つんだリーリャ」
ドスの効いた声が私を呼び止める。
思わず身体が固まってしまったその時、お父様は静かに語りかけた。焦燥に駆られる私を諭すように。
「急がなければならない、だが悪戯に力を消耗するのは望ましくない。君は既に先の捜索で多くのエネルギーを消耗しているはずだ。これ以上がむしゃらに探すのは君自身も危険に晒してしまう」
「ですがっ!!」
「故に
リーリャ、その端末を持って西側へ向かった先のガソリンスタンドに向かいなさい。そこで先方に端末を渡して、直ぐに此方へ戻ってくるんだ」
「嫌ですッ! 私もあの子を探しに————」
「聞き分けなさい、リーリャ」
その声は抑揚の無い平坦な音で、その声には静かに燃え盛る怒りが滲んでいた。
「二人共失う事だけはあってはならないんだ。…分かってくれるね?」
「…はい、分かりました」
「…無力な私を、恨んでくれて構わない」
お父様はそう言って、手元のラップトップに何かを打ち込み始める。その時、お父様からメッセージが届いた。
送られたのは位置座標。地図に当て嵌めるとガソリンスタンドのよう。それと、受け渡しの際の合言葉。『カカシとメイド』というフレーズは、私とあの子を示している。
そこで、用意した機材を速やかに受け渡し、あの子を救い出してもらう。私は端末を渡したら直ぐに此処へ戻る。
…冗談じゃない。誰とも分からぬ
やったことの落とし前は付けさせてもらう。私の、この手で。そして、殺されたスタッフ達の無念も晴らさなきゃいけない。
…きっと、帰ってくる時には平手の一発も覚悟しなくてはなりませんね。
「ではお父様、行って参ります」
「あぁ、
お父様達に一礼し、ガソリンスタンドの近くへとテレポート。存在こそ知られているが、テレポート技術はまだまだ世間に普及しているとは言い難い。驚かせて目を付けられるよりはマシと判断し、転移先の場所から徒歩10分程の道程を真っ直ぐ進む。
街灯の一切無い真っ暗闇の道路脇を歩くと、煌々と光を放つスタンドへと辿り着いた。
店主の男には待ち合わせだと伝えた上で、暫しサービスカウンターで待たせてもらう。
と、その時だ。
南の方角から妙に重く響く排気音が聴こえる事に気付いた。サービスカウンターを出て道路沿いまで行ってみるも、音の主らしき光はまだ見えない。けれども、その音は確かに此方に近付いてきているのだ。まるで悪魔の唸りとも呼べるような、そんな重い音を響かせて。…しかも、かなりのスピードで此処へ近付いている気がする。
その時、サービスカウンターから出てきた店主の男が後ろから私を呼んだ。男の顔にはまるで厄介者が来るとばかりの嫌そうな表情が浮かんでいる。
店主は口を開こうとした。
けれど、彼の言葉が私の耳に届くことはなかった。
悪魔の唸り声のような、ドロドロと響くエンジン音がすぐ後ろで響いたから。
途端、来やがったとばかりに顔を強張らせる男。後ろを振り向けば…なるほど、これだけ大きなエンジン音を唸らせるのも得心がいった。
二輪車、ではあるのだろう。だがサイズが規格外過ぎる。タイヤも二輪車は愚か四輪車でもココまで太いものは無い程の極太で、接地面の大きさからスタンド無しで自立出来る程。
漆黒に艶めかしく輝く流麗なボディはまるで乙女の様に、けれども心臓の鼓動はまるで悪魔の様なおどろおどろしい響き…初めて見る車両だけれど、気付けば私の目は釘付けにされていた。
しかし店主はそんな私を庇う様に、バイク同じ黒一色のライダースーツを纏う人物の前に立ち、一言。
「...来やがったな」
「ああ。急ぎの用があってな」
「ウチの店で騒ぐなよ?」
「もちろん」
「けっ...」
どうだかな、と言いたげな店主はやれやれと頭を振った。
ライダーの彼は肩を竦め、私の方へ向き直る。
「アンタが依頼人の使いだな? 機材を寄越してくれるか」
「その前に。疑う訳ではありませんが、
唐突な振りに怪訝な顔をする店主と、少し首を傾げる彼。しかしそれも程無く答えに思い至ったらしく、淀みなくこう言った。
「
どうやら彼が
「結構です。手短に使い方をご説明しますわ」
店主は彼が正しく私の待ち人であることを理解し、去り際に手を振りながら店へと戻ってゆく。
私はバッグから例の端末を取り出し、彼に手渡した。
画面を点け、簡単な操作方法をレクチャーしていく。
すると流石は
「…以上です。質問はありますか?」
「問題無い。必要な機能だけ分かっていれば十分だ」
「ありがとうございます。…ですが、敵の拠点は未だ分からないままです。不躾ですが、本当に助けて頂けるのでしょうか?」
そう。私達はあくまで工場から西に逃げたところまでしか追いきれていない。ビーコンも衛星経由で直に座標を伝えるのではなく、発信地の大凡の方角が信号強度から分かる程度。明確な位置が分かる訳では無く、探し出すのにも時間が掛かってしまうだろう。
しかし、彼は思いもしない事を言ってくれた。
「心配要らない。依頼された時点で拠点の候補地は2箇所まで絞り込んでいた。後はビーコンの方角が分かれば————」
彼はバイクに取り付けていた自身の端末と、渡した端末の二つを持って並べた。
彼の端末には北を頂点とした地図が。今いるスタンドと、候補地らしき二つの地点が赤丸で示されている。
その横にあるビーコンの受信角度の情報を照らし合わせると…
「此処から南西方向の廃ビルにいる可能性が高い?」
「ご明察。居場所の見当さえ付けば後はどうにか出来る。後はプロに任せな。貰った金の分はきっちり働くさ」
そう言って、彼は急ぎバイクに跨がろうと踵を返す。
「お待ち下さい」
私は彼を呼び止めた。
首だけ振り向いたものの、顔が見えずとも怪訝な表情を浮かべてるのがありありと伝わった。
「まだあるのか? 急ぐ依頼なんだろう?」
「ええ。そして、単騎では相応のリスクが生じるのも理解しておりますわ」
首を傾げる。
「そこは使いのアンタが気にしなくたって良い。それも込みでこっちも割増で貰ってる」
「だとしてももう一騎居れば、あの子を連れ戻す勝算は上がる、そうでしょう?」
何が言いたい? 彼の口から問われる前に、私はスカートの裾を両手で高く摘み上げた。露出狂とも取れる奇行に一瞬戸惑い、その直後現れる二本のウェポンアームを目に捉えた彼。まるでブリキの玩具の様な動きで下向きだった顔を向き直る。
「…鉄血工造が誇るハイエンドが一翼、『SP47
直後、彼の纏う雰囲気が一気に変わる。
殺気、覇気、それらが入り混じり研ぎ澄まされた気迫。同時に手にしている端末を目にも留まらぬ早さでフリック、彼は画面に映るであろう検索結果と私の姿を一瞥し、ふっと笑う。
「————面白い。良いだろう、乗りな。使える戦力が増えるなら願ったり叶ったりだ」
顔が見えずとも分かる。彼は今確かに笑みを浮かべていると。
バイクに跨った彼の後ろに私もお邪魔する。その時、リアのサスペンションが深く沈み込むとピクリ、彼の肩が少しだけ跳ねた。確かに、アームを含めた義体の重量は見た目通りではない。が、仮にも女の形をしている相手に向けて、
「飛ばすぞ。俺の骨折らねえ程度にしっかり捕まってろよ!」
返事をする間もなく、重低な咆哮を響かせバイクは動き出す。極太のタイヤが生み出す強力な摩擦が確と路面を掴み、まるでカタパルトから打ち出された様な強烈なGが、私の身体を襲った。
念の為申しておきますが、続きません