裏稼業とカカシさん(続く......かもしれないリメイク) 作:chaosraven
最近はドルフロやってないけれど、カカシさんに魅入られてたあの頃を思い出しながら、当時の未熟な頭では書けなかった内容で書いていけている...と思いたい。
20000字オーバーなので、お暇な時に1話から通しで読んでみて下さいましm(_ _)m
依頼人のメイド改めエージェントを後ろに乗せ、標的のいると思しき拠点へと向かうレイ。
漆黒の暗闇を走る事暫し、拠点から2km程離れた所でエンジンを止め、慣れた手つきでカモフラージュを施す。その間、エージェントは手を前で組みながらも絶えず周囲に気を配り、目を光らせていた。
程なく出立の用意が整い、右手に端末を携えたレイ。彼の顔には先程とは違い、フルフェイスヘルメットではなく、複数の電球が仄かに紅く光るバイザーがある。いよいよ態勢が整ったということなのだろう。そこへ2人に対し通信が入る。
『聞こえる?』
「聞こえてる」
『結構。と言いたい所だけど、勝手な事はやめて欲しいわね』
ピクリ、僅かに眉を顰めるレイ。
心做しか口を尖らせつつ反論をする。
「スタンドの様子見てたんなら分かってるだろ。こういう手合いは来るなっつった所でどうせ勝手に来るんだ。だったら下手に引っかき回されるよりは、最初から連れてきたほうがまだ戦況をコントロールし易い筈だ」
「仰る通りです。事実、断られても私は単身乗り込むつもりでおりました」
『んぐっ...』
スピーカー越しに僅かにくしゃくしゃという音がした。大きく呆れさせる様な事があったり、仕事がどうにも上手く進まず気持ちが焦れた時、アインスがついついしてしまうクセである。長く指通りの良い髪に左手を差し込み、髪を掻き鳴らすというクセ。つまりは相応のストレスを感じている事の証左でもある。
当然である。
エージェントは連絡役を果たした後は、工場へ戻る手筈となっていた。依頼人からは彼女を戦闘に参加させろとは一言も言われていないし、同時に彼女自身も歴とした"商品"である事から、万が一この戦闘で損傷するような事があれば話が拗れかねない。
レイの決断は本来のタスクに必要のない、しかもかなり高いリスクを自ら背負い込む行為と言える。万一があれば、誰が賠償するのかという話だ。
一方で、レイの言う事もまた一理ある。管理下に無いまま下手に動かれるなど、しかも彼女の場合、やろうと思えば拠点を丸々爆撃する事も出来てしまう。
だが、だがしかし。
何があっても依頼人の商品を傷付けたら不味い。やっちまったらどんな展開が待ってるか。思わず頭を抱え、髪を掻く事2秒。両手で机を叩いたアインスは半ばヤケクソに言い放った。腹を括った。
『...あぁもぅっ!! 何かあったらアンタの報酬から天引きだからね!』
「あ゛???」
その瞬間、ドスの効いた声を発したレイは殺気を振りまく。
当てられたエージェントは堪らずビクリと身を震わすが、表面上はあくまで毅然とした態度を装いつつやり取りを見守る。
もちろん、彼女の細かな機微を見逃す男ではない。微かな変化も察知できない様では、裏社会で
とはいえ、報酬から天引きされるのは死活問題。一言物申そうとした所へ、
『どうであれ勝手に連れてきたのはアンタ。文句は受け付けないわ』
「...」
と、ピシャリ。ぐうの音も出ないとはこの事か。
荒っぽく頭をガシガシ掻くと、大きく息を吐く。先程までの怒り混じりの殺気は立ち消え、纏う雰囲気が
「...まあいい。オペレーターはお前だ。プランを」
『...ったく。それじゃあ、進行を説明するわ』
言うや否や、レイの端末に敵拠点と思われる廃ビルとその敷地の見取り図、それとレイ達の移動中、並行して現地に送り込んでいた空撮ドローンによる赤外線画像が送られてきた。
敷地はオフィスとなる5階建ての横長ビル、それとその敷地にある広めの駐車場で占められ、ビル内部の何処かに目標を捕らえていると思われる。
敷地は広く取られており、四方を柵に囲われている。この柵は3mに届かない程の鉄柵であり、強引な突破を図らなければ出口は正門のみとなる。また周囲は住宅地だった為、背の低い戸建てやアパートが並ぶ程度。拠点の候補地を絞れた理由である。
レイはまず、撮影された赤外線画像を開く。
駐車マスなど関係無しに、それでいて全車が出口に顔を向けて綺麗に整列して配置されている。
車種はテクニカルが4台、全車上部に機関銃らしきものを装備。荷台に幌を着けたトラックが3台、ハンヴィーが3台の計10台。逃走時には各車1台ずつのフォーメーション、本命或いは囮にだけテクニカルを1台プラスして散開し、追手を撒こうとでも考えているのか。レイは顎に手をやる。
トラックの周囲には人影は見当たらない。近辺を根城にする者達になるだけ見つからない為か。が、角度を変えて写された画像には、いずれの車両にも運転席に白い影が見られる。他のメンバーが乗り込み次第、すぐ脱出出来るように控えている様子。
また別のカットには、廃ビルを真横に覗く構図のものがあった。2階、3階の窓ガラスには、銃を構え外の警戒をする者の影が写されている。4階、5階には捉えられる範囲には人は居ない様だが、時間を置いて布陣が変わる可能性もある。油断は出来ない。
(流石にハイエンドに手を付ける意味は分かってるって事か)
続いてビルの内部。様子はレイもよく覚えている。
というのも実はこのビル、元々水道インフラに携わる企業の拠点の一つだった。何故か建物の地下に市街を流れる下水道管に直接アクセス出来る広い構造体を有しており、残存する資料には周辺下水の水質調査等の業務を事業所内で完結させる目的があったと記載されていたが・・・実際にはそういう体で何か企んでいたのだろうと結論付けられていた。
普通そうした設備はわざわざ掘削費用を掛けて地下に拵えるより、地上の浄水場に併設させる方が効率的に運用出来る上、重要な公共インフラであるにも関わらず運営元が民間企業であった事から、水道料金の値上げ、及びそれで住民と揉めた際の裏工作でも企図していたと見るのが自然であろう。事実、組織もその様に捉えていた。
『前提として。何が何処にあるかってのは大凡覚えてるでしょうから、詳しい説明は省くわ。ただし、今の使用者達がバリケードを作ってたりして、道筋が変わってる可能性は十分に考えられる。それと内部には電気も通ってない、せいぜいが相手の用意した明かりがある位でしょう。多少なりとも敵の方が有利。ここまでで何か質問は?』
「あの、大凡覚えてると言うのは一体...?」
早速エージェントが手を挙げ、2人に問う。
「ウチらは周辺状況の把握も兼ねて、人の住んでない廃墟みたいな所にゃ定期的に忍び込んで調べてるんだ。前回入ったのは約半年前。その時の担当は俺だ」
『だから、内部を一々解説する必要は無いってわけ。敵に手を加えられたところ以外なら大概は頭に入ってる筈よ』
「そういう事だ。で、具体的なプランをお聞かせ願おうか?」
『ええ。今そっちに出すわ』
すると、画面は近辺の地形図へと切り替わり、現在地の上に2つ、白と青のピンが表示される。白はレイ、青はエージェントを示しており、間もなくピンは廃ビルに向かって動くと途中で分かれていく。白は廃ビルの比較的近く、それでいて周囲の建物によってビルからは死角となるマンホールに、青は駐車場に停められたトラックを見下ろせる高さのアパートの屋上に。
尚、このアパートには屋上に登る階段室がある。
『先ず、レイはこのマンホールから下水道を通ってビルの中に潜入して。地下に潜った時点で無線は使えなくなるから、以降は地上階に出るまで無線は封鎖。内部からの電波に気付かれる可能性もあるからね。接敵したら何かしら
「問題無い」
『エージェントはピンで示した所から戦闘態勢で待機。万が一敵の逃走行動が本格化した際は、そこから牽制弾を撃ち込んで動きを封じて。逃げるなら、恐らく目標をトラックに載せようと動く筈、そこを押し留めるわ。殺って良いヤツはドローンを通して私が判断する。貴女は此方からのデータリンクに従って攻撃して』
「かしこまりました」
レイは一度端末を胸に仕舞うと、先ずは腰に掛けられた高周波マチェットを抜く。
電源を入れ、刀身が熱を持ち紅く染まるのを確認。刹那、目にも留まらぬ太刀捌きを見せると、紅い刀身の残像として残る。程無く電源を落とし、鞘の中へ。動作に問題は無い。
続いて腰に留めたP90を取り出し構える。セーフティを解除。一度マガジンを外し、チャージングハンドルを引いて装填済みの弾薬を排莢。取り出したものを再度マガジンに詰め直しリロード、改めてハンドルを引いて薬室へ再装填。トリガー部にあるセレクターを回し、掛けられていたセーフティを掛け直す。次に解除するのは敵に近付いてから。
そして、背中のジュラルミンバッグから取り出した専用の
主力武装のいずれも問題無い事を確認したレイは、廃ビルのある方へ顔を向けた。
「よし、いつでも行ける」
「同じく、用意は出来ております」
『それじゃあ、行動開始。先ずは指定したポイントに向かって』
レイはマンホールがある近くの建物の陰に、エージェントは下層と屋根を繋ぐ階段室の裏、廃ビルの死角になる面に隠れている。
『そこからは別行動になるわ。レイはマンホールの蓋開けて下水道に潜入。その後は臨機応変に動いてちょうだい。エージェントは動きがあるまで隠れたまま待機。事態が動き次第速やかに武装展開、攻撃態勢に入って。ただし、貴女の攻撃は使えば一発で位置がバレてしまう。故に、貴女が戦闘に加わるのは手段を選んでられなくなった時に限らせてもらう。何か質問は??』
『他に私に出来る事はございませんか? ただじっとしているだけだなんて、そんなの...』
懇願する声。ただ待っているだけだなんてとても耐えられない、そう言わんばかりの感情の篭った声。
しかしアインスは譲らない。確実な成功に導く為に、指示した動きが最適解であることを静かに告げた。
『悪いけど、最もスムーズな遂行になる目算が一番高いのがこの方法よ。貴女は戦力としては確かに強大だけど、肝心の実戦経験は殆ど無いでしょう? どう動けば上手くいくか、事故無く進められるか、そのノウハウは私達の方が持っている。だからこそ何度でも言うわ。確実に、無事に目標を救い出したいのなら、私の
『...ええ。仰る通りです』
『分かってくれて何よりよ。故に貴女に言うわ。
『...分かりました! あの子をどうか、よろしくお願い致します』
レイは直接姿を見てるわけではないが、その時彼女が深々と頭を下げたのを脳裏に思い描いた。
さて、お話はここまでとしよう。やるべきことを成すために。
レイは背中に背負うジュラルミンバッグを下ろすと、中から艶という艶の一切が無いマットブラックの防塵マスクを取り出し、身に着ける。以前通ったとはいえ、内部は土埃が堆積した風通りの悪い空間。顔を隠す目的も兼ねて、口元も覆ってしまう。月光に煌めく金髪に顔面を覆うマスク、視野を確保する為の眼孔の形に縁取られたレンズには、彼の青い瞳の代わりに無機質なバイザーが備わる。複数のアイレンズが仄かな紅い光を放ちながら。
いささかトンチキな格好なのは百も承知だが、このマスク自体には電子的な部品は空気中の物質を観測するセンサーと、その情報をバイザーや端末に飛ばす無線ユニット、バイザーのモードチェンジボタンと連動した感圧スイッチと、それらを駆動させる電池しか無い。
逆に言えばそれ以外、暗視装置やその他の機器との連携機能は備わっていない為、今回はこの形で展開する事とする。どうせ、見た者から殺していくのだからという事情もある。
彼はマンホールの蓋に指を掛ける。そのまま反時計回りに75度回したのち、力を込めて見た目よりも軽いそれを持ち上げる。これの重さは約900g。人が通れるサイズの蓋は本来約40kg程あるため、
マンホールの中から引っ張り戻せる位置まで蓋を動かすと、レイは身を滑り込ませる様に中へ入っていき、内から蓋を引っ張り閉じてしまう。ただし時計回りに回転はさせない。脱出する際にスムーズに開けられる様に整えたのち、バイザーの暗視モードをONにしたレイは音を立てぬまま梯子を下りてゆく。
地下10m程の地点で水道にまで来る。ただし、とうの昔に水道は止まっている。また、毒ガス発生の類も無い事は確認済。古く劣化したコンクリートの管を、気配も音も殺し、P90を構え、しゃがんだまま狭い通路を歩んでいく。
既に電波など届かない環境だが、どこをどう行けば廃ビルの真下まで辿り着けるかは把握している。迷いない足取りで進むレイは無事にビル直下の地下空間まで到達するも、そこで初めて人の気配を察知した。レイはマスクのこめかみにあるスイッチに触れ、仄かに紅く光るバイザーのアイランプを消灯し、陰に隠れながら様子を伺う。
ビルに通ずる階段への道にアサルトライフルを持った男が2名。いずれも視線は此方側に向いているが、銃を右手に持ちながら左手にはタバコを持っている。どうやら地下から忍び込んでくる奴なんかいないだろうと高を括り、のんきに一服を決め込んでいる様だ。光源は男たちの足元にある軍用のランタン一つ、仄かに周囲を照らすのみ。バイザーを通常光学モードに切り替え、兵士の頭の装備を観測するが、暗視装置の類は身に着けていない。周囲を見ると、ランタンの傍に二つの暗視装置が置かれている。即ち、敵はこの暗がりを裸眼で見ているという事。
(しめた。バカが見張りで助かった)
ならばやる事は簡単だ。
既にレイはP90のドットサイトを覗き込み、
ほんの少し顔を出し、バイザーの視界で兵士の様子を伺う。兵士の目線が仲間のいる方へ向いた。その瞬間、身を乗り出しつつ照準を開始。同時に引き絞られ始めた引き金は、
弾丸は持ち上がった銃身の影響で照準点より僅かに上向いた射線で進み、それはまっすぐ兵士の脳幹を撃ち抜く形で着弾した。その間もレイの意識は既にもう一人の兵士にも向けられる。弾丸が意図した弾道を描き、着弾が確定的となったところで、彼は愛銃と共に自身を右回りに動かしてゆく。
そして敵の脳が仲間の死を認識した時にはもう、
レイは油断無く周囲の観察を行う。暗視機能による視野と、自らの聴力を生かした
...この付近に、彼以外の人間は居ない様である。張り詰めた気をほんの少しだけ緩めたレイは殺した兵士の傍に屈むと、肩に付いた部隊章のワッペンをひっぺ剥がした。完全なダミーの場合も考えられるが、何かしらの手掛かりにはなるであろう。適当な所にしまい込むと、自分が出てきたルートの陰へ2人の死体を隠す。階段からの死角に追いやってしまえば、多少なり事態の発覚を遅れさせられる。
尚この時、この仕事が終わった後に死体の後処理が必要になるのを思い出したレイ、若干気分が下がった。
愛銃を構え、地上へ続く階段へ静かに駆け出した。
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階段を上り、1Fへと来たレイ。
地下へ続く階段は正面玄関と反対側にある。彼のいる場所は建屋本体と地下への階段室の境界にあたる位置で、外から見た時、階段室のみ出っ張ってる作りになっており、窓は無い。階段室は建屋内裏手側の通路に面しており、レイは通路の様子を伺う。先ずは左手から。
(通路には明かりの類は置かれてない、と。音にも反応は無し、隠れられるモノも手付かずに...うん??)
遮蔽物...等間隔に置かれた170cm近くある観葉植物の枯れ木に目をやったレイは違和感を覚え、枯れ木の全身をよく観察する。すると、鉢植えの下部から薄っすらとした線が横に伸びているのを視認。さらによく見れば、線は真横だけでなく斜め上に向けて複数の角度で伸びており、暗視モードで視認出来るとなれば、自ずと答えは絞られる。
(トラップを仕込んでやがるのか...面倒な)
反対側にも目を向けると、やはり同じ様な仕込みをされている。これでは枯れ木横を通り抜けた途端、何が起こるか分かったものではない。どちらに抜けようにも罠を超える必要がある。内心舌打ちをしつつ、どうやってトラップを超えるか思案する。
とその時、此方側の通路へ近付いてくる足音が聞こえてきた。足運びから察するに巡回の様だ。一応、鉢植えのサイズはしゃがみ込んだレイの全身をギリギリ隠せる程だが、一旦はこの場でやり過ごした方がローリスクと判断。左右から迫る敵の様子を伺う事にする。
程なく、通路の奥から武装した兵士が左右1人ずつ現れる。装備はいずれも地下の兵士と共通。ただし此方はメットの下にしっかりゴーグルの様なモノを装着しており、此方に振り向く直前それを視認したレイは咄嗟に身を隠した。
(おっと、危うくバレる所だった...待てよ? 上手く行きゃトラップも何とか出来るか?)
ふと、レイは一つの案を思い浮かべた。
2対1の状況でリスクは高まるが、上手く行けば仕掛けられたトラップを突破出来るかもしれない。
音を出さぬ様に深呼吸...刹那の間に、まるで影そのものの様に気配すらも溶け込んだレイは、音を頼りに兵士が枯れ木の直ぐ側まで来たのを聞き図らい、
「よう、異常は?」
「あるわけねえだろ。似たような所がゴロゴロあんのに、ピンポイントでこの拠点を割り出せる筈がねえ。奴等が気付いた時にゃ、俺達はとっくにトンズラこいてる」
「ハハッ。違いねえ」
トラップのある枯れ木、それらに挟まれる地下への入り口を跨いで、ペアと思しき巡回役同士で会話が始まった。彼等は敵が来るなどあり得ないとばかりに陽気で、流石にメットやゴーグルを外す程では無いにせよ、ピンと気を張り詰めたという程でもない様子。
この雰囲気であれば、何か目標の情報でも喋るかもしれない。レイは彼等の会話に意識を向ける。
「しっかしよぉ、隊長もビビり過ぎじゃないか??」
「何がだ」
「このトラップだよ、これ」
音の反響から、左手の兵士が枯れ木の側まで歩み寄り、罠を指差しているのを察知。彼の行動にレイは微かに眉を顰める。
(おいおい、かなりトラップに近付いてやがる...自分で触れやしないだろうな??)
「クレイモアに赤外線レーザーを使った信管を取り付けて、地下からの入り口を囲む様に設置。しかも威力も人間1人木っ端にするのに十分ときた。
レイは得心した。顰めた眉は変わらないが。
妙に気が抜けた危険な綱渡りをし始めたと感じていたが、新兵というならばそれも納得だ。無論、兵士のしてる事は危険と隣り合わせである。罠を解除するならまだしも、その気配は無い。しかも所属組織まで軽々と口にして、敵の潜伏を一切考えない振る舞い。普段ならアホの兵士だと歓迎するところだが、今兵士は危険物の直ぐ側にいる。レイの中に嫌な予感が湧き始める。
「立派と言ったって、実際には破産間近の中小PMC。その上起死回生の一打と銘打って、なけなしの金で鉄血の偉い奴を買収してまで高い戦術人形をパクってきたんだ。もしこの作戦が失敗すれば、俺達は新人ベテラン問わず丸ごと破滅だ」
事前に聞いていた情報とも合致する。裏付けが取れた。が、そんなことよりもレイはとにかく兵士の動きが気になって仕方無い。なまじ顔を出せない分、余計におかしな事にならないだろうかと気が気でない。
「そりゃあ分かってるけどよ...んっ、ふぇ、へっ————」
その時、レイの全身に猛烈な悪寒が走った。何故なら、兵士は赤外線レーザーの出ている目の前に顔がある状況で、今まさにくしゃみをしそうになっているのだから。
(おいおいおいおい耐えろよ?耐えろ?そのまま吹いたらお前死ぬぞ??)
だがその願いは届かない。
「へぇっくし!!!!《Pi---》あっ」
(ポンコツかっっ!!)
無情にも、無機質な電子音が微かに鳴った。レイは咄嗟に屈み、耳を塞いで衝撃に備える。そして息をする間もなく、仕掛けられた罠は死神を解き放つ。
建物を震わす爆発、ほぼ同時に撒き散らされる兵士の血肉だったモノ、通路沿いに設けられた付近の窓ガラスを残らず粉砕する威力...大凡罠というには余りに殺意に溢れたそれの始動により、敵は一気に迎撃態勢を整え始めるであろう。
しかも質が悪いのは、この出来事にレイの否は一切無いことである。しかし、構造上地上のフロアに出られるのは今いる階段しかなく、加えて左右から通路が伸びる状況。挟み撃ちになる可能性が高い。
「なっ...そんなっ、おいウソだろ《Pi---》え」
(オメェもかよっっっ!!!)
そこへ右手側の兵士も爆発で吹き飛ばされ、パニックになったせいか罠の事など頭から抜け落ちた様に駆け出し、そして自ら死神を解き放ってみせた。
先と同様、殺しに充分過ぎる威力の爆発が兵士を木っ端微塵に粉砕する。結果、2度の大爆発が起こった。しかも当事者はどちらも自爆。経緯を知る由は失われた。なればネズミの攻撃と見なし、敵は迅速に目標の運び出しに入るであろう。控えめに言っても状況はクソ。レイは堪らず舌打ち、頭を荒っぽく掻くと、P90を腰のホルスターに留め、高周波マチェットとFive-seveNを取り出した。
こうなってしまってはスピード勝負。目標の運び出し迄にどれだけ戦力を削れるかになる。右手にマチェット、左手にはサブアームであるFive-seveNを装備。素早く敵の懐に潜り込み切り捨てる。離れた敵には銃で牽制。
深く息を吸い込み、吐き出す。
たったそれだけのことで、レイの気配の全ては周囲の影に深く溶け込んでしまう。
(————行こうか)
バイザーの駆動モードを暗視と通常光学の併用モードに切り替える。同時に、消灯されていた紅いランプが再び灯る。これはレイが本気を出すサインでもあった。
レイは陰から勢い良く駆け出した。
レイとの通信が途絶して20分弱。敵拠点の上空150m程を滞空しているドローンのカメラが、地下との連絡階段近くの窓ガラスが爆砕する様子を捉えた。これはレイが隠密行動から戦闘前提の事態に移り変わった事を示している。即ち、"火花"だ。
早速レイに向けて回線を開く。
「思ったよりも早かったわね?」
返答は無い。が、インカムが彼の息遣い、それと微かながら肉を切り裂く様な音を拾っている。それと時々、敵の物と思しきアサルトライフルの発砲音が...あ、今一階の窓ガラスが追加で割れた。
空からでは内部の様子など伺うべくもないが、今のところ怪我などは無さそうである。
「今いるのは1FのC2付近で間違い無い?」
廃ビル内部の図面。座標点で大凡の位置を把握し易くするため、横軸を図面左手よりアルファベットでA〜G、縦軸を上より1〜5までで線を引いている。地下との連絡階段があるのがD1地点。そこから図面左手方向に移動し、さっきまでいた通路の一つ手前側にある通路に入り、そこで接敵したのだろうと見る。
『ああ、そうだ...よっ!!』
カチっ、カチっという音とくぐもった銃声。対して画面には時たま、窓から漏れるマズルフラッシュが白く点滅してる様子が見られる。それだけではない。トラックに乗りこんでいた筈の兵士らも、一部が何故か銃を携え建屋の中へと向かっていく。
脱出を優先するのではないのか? 折角用意していた体制を崩してまで中に戻す意図は何か?
「トラックからも兵士達が降りて建屋に向かってる。数は2」
『なに? 増援にしても半端な。それにドライバーも要るだろう』
「案外、アンタの正体に勘付いたからかもね?」
『だったら尚の事車ン中で待ってるべきだ...ろっ!!』
「目標の行方は?」
『分からん。それを調べる前に場が動き出しちまった』
「は? アンタが爆破したんじゃないのっ?」
『違う。アレはミスった新兵共の自爆だ。巡回役の2人とも、自分からクレイモアに近付いた挙句起爆させやがった。おかげで何もしてないのにこのザマだ、アホらしくて涙が出る』
「自分から起爆って...」
新兵、クレイモア、近付いた挙句の起爆、大体の状況は予想出来た。御愁傷様としか言えない。不可抗力でなってしまったものはどうしようもないのだ。
その時、一階の窓から3回大きな閃光が漏れる。マズルフラッシュよりも間隔が広く、そして光量も比較にならない程大きい。スタンでも使ったか。
続いて肉を切る音、空気の漏れる音、ゴポっと何かが溢れるような音を細かに、そして何度も拾うレイのインカム。3発のスタンで徹底して目潰し掛けたところへ、敵の懐へ乗り込んで直に切り裂きに行っている様子。
そう、これこそがレイの真髄。
闇に紛れ、影に溶け込む
何せ、拳銃はおろか、モノによっては
故にアイツは、私達の存在を認識してる裏社会の者達から、畏怖の念を込めてこう呼ばれている。
または...
「良い暴れっぷりね?
『甚だ不本意だ』
どっちかと言うと、こっちの方が呼び名としては有名かもしれない。
アイバイザー表面のアイランプ。これらは点灯すると仄かな紅い光を放つ。点灯する理由には、複数人で行動する際の自身の視認性を上げる事などが挙げられるが、単独での潜伏活動には寧ろ無用な筈。ならば何故敢えて点けているかというと。
『この余計な
発砲音2発、牽制射を放ったか。程なく敵からの攻撃が彼の近くに着弾。特に慌てる様子も無く、Five-seveNのリロードを進めているらしい。そしてまた2発のくぐもった発砲音、おや、詰まりかけか?
「陽動は?」
『ビビらせりゃ良い』
「OK。エージェント」
『お待ちしておりました』
画面に映る敷地図を手早くタップ。エージェントに送信する。
「指定ポイントに向けて攻撃用意。着弾時の爆発エネルギー量が1.3
『えっ? たった1.3MJ、ですか??』
攻撃指示が来たと思ったら、想定よりも小さなエネルギーで指定され驚いたのか。しかし、現状わざわざ派手に吹っ飛ばす必要も無い。それに何より。
「必要十分。それと残ってる車両は後で回収するつもりだから壊さないで。さぁっ、攻撃用意!」
『は、はい! 発射準備完了!』
「発射!」
直後、アパートの屋上からメーザー弾が発射され、間もなく指定ポイントに着弾したのをドローンが捉えた。軽く地面が噴き上がる程のエネルギー。それでも、目の前の敵に意識を向けていた兵士達の気を逸らすには十分。そして、その時間はレイが命を刈り取るのにも、十分。
発砲音、それと肉を切り裂く音の後、ふっと吐いた息をインカムが拾う。
『助かった』
『礼には及びません』
「レイ、目標は?」
『星はまだ見つかってない。少なくとも1Fには居なさそうだ。ところで、敵の正体の手掛かりが掴めた』
「へぇぇ??」
『それは...何処の馬の骨が???』
殺意に満ちた声が聞こえ、一瞬身が強張る。仲間に手を出した愚か者の手掛かりが掴めたともなれば、彼女の反応も当然か。
『自爆したヤツが喋ってたが、奴らは『レインファル・アーミー』とかいう中小クラスのPMCらしい。主武装はAK-47。死体のメットや戦闘服を見るに、装備はある程度使い込まれた形跡がある。装着してる軍用ゴーグルも、大戦の頃に普及してたロークラスモデル。工場のお偉方を買収し、ハイエンドをパクったのを起死回生の手と言っていた。多分、倒産寸前で目標をウラに売り払おうとしてたのかもな』
レイの情報を元に、組織のデータベースを調べてみる。
レインファル・アーミー社、新ソ連領とグリフィン管轄のY19区域境界線に本拠を置く小規模PMCだ。大戦終結後の2050年に創業し、街道や施設に商店の警備、長距離移動中の護衛等を生業としていたが、グリフィンが第二世代戦術人形を本格的に運用し始めた事でシェアが激減。近々では社の存続が困難な程の状況に追い込まれていた様だ。まさに倒産目前。このご時世、差し押さえでもされればどさくさ紛れに何もかも持っていかれかねないから、まさに死活問題と言える。。
だとするならば、鉄血の機密の塊であるハイエンドを強奪し、ウラの市場に高値で売却するのは手の一つではあるのだろう。尤も彼等を囲う状況を鑑みればむしろその逆、自らにチェックメイトを指したとしか思えないが。
おまけに、奪った
何故
いや、待て。
スケアクロウは電子戦にも対応した偵察モデル。電子戦...ハッキングでもして何か企んでいた?? 倒産目前の企業がやらせそうなこと、口座をハックして金を横流しするとか? ...無いな。やれと指示しても出来る訳がない。そんな簡単に攻め込める程、銀行のセキュリティはザルじゃないのだから。
じゃあ何故スケアクロウを盗み出したのだろう? もしや、
...やめたやめた。敵の目的は私達の仕事には関係無い。依頼された通りに仕事を遂行するだけ。
『2F、F5に来た』
廃ビルの2階。F5地点は2階にあるオフィスの入り口と階段、業務用エレベーターがあるエリアの隅。正面玄関寄りの壁面に身を寄せているようだ。
「敵の気配は?」
『居るな。相当苛立ってるらしい。喚いてらっしゃる』
「敵はなんて?」
しぃ~、と微かな息使いが届くと共に、しばし無音が続く。1分と経たない内、突然離れた場所で扉を開け放つ音、次いでブーツが床を踏み鳴らす音がドタドタと。敵はすぐ側に潜伏するレイの存在に気付かず、階段を上下のどちらかに進んでいったよう。
敵が走り去った後、ため息混じりに口を開くレイ。
『まだ何処かに敵が隠れてる筈だ。絶対何処かにいる、必ず見つけ出せ、だそうだ』
「それで? 出てきた敵は何処へ?」
『全員下に降りてった。それと兵士達も浮足立った動きだった。もしかすると、部隊にベテランが殆どいない可能性もありそうだ』
「...泥舟と共に沈む気は無いって事かしらね」
『さぁな』
マチェットを構える音。レイが動き出した。
数歩進み、音を立てぬよう静かに深く息を吸う。その時、ガチャリと扉が開いた。
一瞬の静寂、直後ドサっという音と共に、レイのものではない荒い息遣いを拾い始める。
『抵抗は勧めない。素直に全部吐け』
チャキリ、マチェットのフレームが鳴る。どうやらレイは
念の為、備えておくか。
「エージェント。さっきと同じ攻撃を、今度はビルのこのポイントに撃ち込む用意をしておいて。敵の隙を作るわ」
『かしこまりました』
「レイ、始めて」
すぅ、微かな息。
『しゃ、喋ったら助けてくれ、るか?』
『素直に吐けばな。それと、俺は嘘ついても直ぐに分かる。目や表情を見りゃ直ぐに。目は口ほどに物を言うともいうだろう? 死にたくなきゃ、素直に全部話せ』
『わ、分かった、話す、話すから命だけは...!』
返答は刃を押し付けるのみ。命乞いは要らないから早く話せとばかりに。
『まず、所属と名前を言え』
『そ、それは...』
『答えろ』
『くっ、れ、レインファル・アーミーのゴルバ・フルシチョフだっ』
ゴルバ・フルシチョフ、
元新ソ連陸軍第207小隊所属、階級は伍長。2055年退役、同年に部隊長階級として入社。ちなみに同社の専務が従兄弟だそうで、そのコネで入ったと思われる。
プロフィールはこんなところだが、写真を見るにまぁ太り気味な印象を受ける。顔や首周りに余分な肉が付いており、体格も大柄。それも筋肉以外のものの比率が多そうで、まともな職業軍人、というには少々疑問符が付く。
彼の実績を見てみると、これもまた隊を率いる指揮官としては三流以下と言わざるを得ない。顧客とのトラブル、勤務態度、指揮能力の不足、その上プライドだけは高いせいで業務改善命令にも不服従。挙げ句には他の部隊長の成果を横取りするずる賢さを発揮していたようだ。あらあら、叩けばどんどん埃が落ちてきそう。
ひょっとするとこの会社、ゴルバを迎え入れた事で現状まで落ちぶれたのではなかろうか。優秀な人材は別にこの会社でなくても仕事は出来る訳で。ははん、読めてきた。
『次。お前含め実行隊は何人だ?』
『じ、実際に盗み出したのは12人だっ。その後此処に合流した、それで、私を含め此処には41人の兵がいるっ!』
41人、予想通り一個小隊規模の人員で来ているのか。レイの言う自爆で2人は死んでいる。それとトラック10台のドライバー役10人、残りは29人として、レイは何人殺った? 後で確認しよう。
「概ね調べがついたわ。星の場所を聞いてくれる?」
『結構。それじゃ本題だ。盗んだモノはどこにある??』
チャキリ、敢えてマチェットを鳴らす事で恐怖を煽る。
器が知れれば納得だが、いよいよ過呼吸になりそうな程息が煩い。
とはいえ、これを失えば今迄の敵の行動が全て無駄になる。流石に時間稼ぎの一つもあるかと思ったが...。
『ひぃぃぃ、上だ、3階にある!』
『本当に???』
『ほ、本当だっっ! 我々が鉄血から盗み出した人形は3階にある! さぁ言ったぞっ、言ったから助けてくガホッ』
バキっ、骨を折る音が鳴ったかと思うと、シュルシュルと私にとって耳慣れた音が鳴り始め、程無く止まる。問題無く拘束出来た様だ。
『黙らさせて拘束した。...ビーコンも確かに真上から来てる。言った事に嘘は無さそうだ』
『でしたら! 早く敵を倒して、あの子をっ』
「勿論そのつもりよ。でも焦らないで。敵にとっては金蔓であると共に人質でもある、気は抜けないわ」
『くっ...あと少しなのにっ』
歯軋り、あともう少しで手が届くというなか、焦れる気持ちが現れるのも無理は無い。しかし、事態は今伝えた通り。敵にはもう破滅以外の道は無い。ならば、死なば諸共と余計な
これも扉の開閉を検知するセンサーを設置し、内部に解除役と星を警備する人員を置いていれば問題は無い。爆弾もごく少量の炸薬であれば、離れれば多少衝撃が来る程度で済む。だが至近距離で弾ければ、如何に少量であっても爆発とはダメージになる。すなわち、人質の完成だ。
とその時ドローンのカメラが、ビルを出て我先にとクルマに駆け寄る兵士達を捉える。
おや、なんと全員トラックの荷台やハンヴィーに乗り込み始めた。まさか、ゴルバを見捨てる気か?
だとすれば、二人だけビルに寄越したのも納得がいく。ハナから見捨てる前提で伝令に走らせた訳だ。尤も、彼女達には全員逃がすつもりなどない。
『おい、外からエンジン音が聞こえるぞ』
「バカ隊長を見捨てて逃げるつもりね。やむを得ないわ。エージェント、正門の地面に大穴ブチ開けなさい。レイ、備えて」
『『了解』』
指示と並行して画面をタップ。間もなくチャージングが始まったかと思うと、先とは比べ物にならないメーザー弾が正門の地面目掛けて着弾した。
土煙が晴れると、そこにはオーダー通りの大きなクレーターが出来ており、敷地内のどの車両でも乗り越えられない事は一目瞭然。
続けて複数の
大穴を開けてしまった今、作戦終了後の速やかな車両の回収は不可能。むざむざ後から来るかも分からぬオモテの面々にくれてやる位なら、この場でさっさと燃やすしかない。ちょうど、棺桶代わりにもなる。
アインスは敵に向け、無慈悲に死刑執行を言い渡した。
「オーダーは敵の全滅よ。お望み通り、
『!! ...その言葉を待っておりましたッ!!』
先の攻撃からほぼ間を開けず、車両に向けて複数のメーザーが着弾。内燃機関と燃料を積んだモノを吹き飛ばすには充分過ぎた。まるで流星の様に尽く敵の車両を粉砕し、中にいる諸共全てを煤塵と化す。
『おいアインス、派手にやり過ぎやしないか?』
「オーダーは全員皆殺しよ。それと星は?」
『問題無い、見つけ出した。警戒役の兵士も居ない。尋問中に階段を降りる音が聞こえたから、恐らく逃げた先で今まさに焼かれてるところだろう。ところで厄介な事に、部屋中に仕掛けたC4と、それぞれの信管とを繋げたロープで身体をグルグル巻きにしてやがる。解除するにゃ一苦労だぞ』
「チッ...あんまり時間も無いってのに」
状況はよろしくない。
爆弾と直結したロープで身体をグルグル巻きにするなど、非常に質の悪い拘束である。下手に触れればどこかのモノが起爆するし、1本ずつ切っていくのも時間が掛かり過ぎる。
これまでの戦闘は既に周囲の住人達の周知のもと。ただの銃撃戦ならまだしも、軍用車を燃やす程の爆発もさせたとなれば、流石にやかましくて通報する奴も出てくるだろう。もしそれで鉢合わせでもすれば面倒臭い展開になる。即御用で済めば良い。後から賄賂が効く。だがここまで派手にやったら恐らくそうはならない。いの一番、危険な破壊行為の実行犯として即射殺されても可笑しくない。そうなれば、最も憂慮すべき事態に陥る。組織にとっても、鉄血にとっても。
と、その時。エージェントから鉄血公式のカタログPDFが送られてきた。
何かと思ってスキャンの後開いてみれば、エージェントのページに『テレポート機能』という項目があるではないか。...全ての資料右上に『
ともあれ、一気に事態を打開出来る有効策が提示されたのだ。乗らない手は無い。
「エージェント、テレポートするのに何か制限は??」
『重量は最大1tと少々、理論上の最大転送距離は3kmですが、実際に安全に飛ばすにはもう少し少なめの質量・短距離を見積もるべきかと』
「つまり?」
『スケアクロウの自重は112.5kg、レイさんの体重と私の自重を併せて300kgと少々、その質量を安全に飛ばすには半径2km圏内に留めるのが最善と判断します』
「なら、問題無さそうね」
『ですが、懸念点が一つ』
「ん??」
するとエージェント、何やらとても申し訳無さそうに言った。
『実はあの子を探す為に既に何度もテレポートを使用しており、ユニットのコンディションを鑑みるとあと一度が限界なのです』
「むっ...」
つまり、それだけエネルギーを多く消耗するということか。だが、使えるならば使わない手は無い。少なくとも一つずつ手作業で爆弾を解除するよりは圧倒的に手早く済む。
と思案していたその時、モニターに警告が入る。考えてた矢先、先の爆撃で遂に通報が入った様だ。組織の活動範囲に被る治安部隊には、全ての司令所のコンピューターに高度に隠蔽されたスパイウェアを仕込んである。通報が入った時、任務の発行処理を行った時、部隊が出立した時、潜り込ませたスパイウェアがデータを暗号化したうえで、ダミーも織り交ぜた複数のサーバーを経由して此方のサーバーに情報を送るのだ。と、間もなく任務の発行処理が行われ、再度通知が来る。これは急がないと本当に鉢合わせてしまいそうだ。
『エージェント、考えてる時間が惜しい。廃ビルへは俺の通ったルートを使って侵入しろ。急がないと
「そうね、時間が無いわ。直ぐに近くのマンホールに向かって。貴女なら鉄の塊も軽く持ち上げられるわよね?」
『え、ええ、それは出来ますが...』
「OK。ルートを送るわ、その通りに進めば広い空間が出てくる筈よ」
『敵の死体、それと敵が残した軍用ランタンをそのままにしてるから、近付けば明かりで直ぐに分かる筈だ。俺は君が来るまで内部の斥候をしておく。ブービートラップの類が残ってたら解除しておいてやるから、とにかく急いでこっちに来てくれ』
『わ、分かりました! 直ぐに向かいます!』
エージェントに対し、彼女から最も近い位置のマンホールを指定。それと共に地下水道のルートを送信する。これで一時回線が断絶しても分かる筈だ。
間もなく彼女は屋上からの移動を始め、5分もしない内にマンホールの内部へと入り込んだ。蓋をずらして入り、中からしっかり閉じる事も忘れずに。
同時に、治安部隊の出立が通知される。チキンレースの始まりだ。
『1Fから3FまでのF5地点の階段にトラップの類は無い。1FのD1を出て右手側に移動し、C2を経由してF5の階段へ向かわせろ。俺が通過済みのルートだ』
「オッケー。繋がったら直ぐに伝えるわ」
それから10分もしない内にエージェントの通信が復帰する。無事地上階に来れたみたいだ。廃ビルの図面にルートを示してやる。
『ありがとうございます!』
敵の居ない廃ビルは多少障害物がゴチャゴチャしてるだけに過ぎない。それでも丈の長いスカートを穿いてる彼女には動き難いはずなのだが、音を聴くにそうした物も難なく乗り越えられている様子。この辺りはやはり戦術人形というべきか。
やがて、指示した通りのルートを通って3Fに到達したエージェント。
『3Fに着きました!』
『こっちだ。慎重についてきてくれ』
「二人とも急いで。奴ら、かなり飛ばしてるわ」
『分かってる』
モニターに映る治安部隊の動きが早い。車両毎に搭載されたGPSを介し、各隊の動きがリアルタイムに反映されている。どうも治安部隊の車列はハンヴィーとストライカーの混成らしく、かなりの速度で現地へ向かっている。移動速度は平均105km/h、到達まで15分も無い。
「チッ、そちらに到達するまで15分も無いわっ!」
『了解。限界が分かってるだけマシだ』
「頼むわよ...」
現状、私の手に出来る事は逐一状況を伝えるのみ。ドローンも空撮と無線中継機の役割のみのもので、攻撃の一切は行えない。祈る事しかできない。
思わず髪を搔く。無意識に焦りが出ていた様だ。ふぅっと息を吐く、頭を冷静に。
目の前のモニターには、治安部隊の車列の動きが変わらず示されている。
移動スピードから予想される到達時刻を打ち込み、レイ達のHUDに展開させた。後は、二人が無事に逃げ切るのを期待して連絡を待つのみ、だ。
「来たな。時間も無い、くれぐれも慎重に歩く様にしてくれ。スカートは膝丈位まで裾を持ち上げた方が安全だろう」
「は、はい、分かりましたが...失礼ですが、刃物をお借りしても?」
「ん?余分な丈をぶった切るのか? ならこれを使え。お宅んとこで作ってるマチェットだ。使い方は分かるな?」
頷き、レイからマチェットを受け取ったエージェントは、早速電源を入れてスカートに刃を通し始める。それは大体直線になるように切り落とされ、メイドにしてはスカート丈の短い、黒のストッキングに包まれた脚ががスラリと映える美女が現れた。
レイは切り落とされた布を拾うと、手早く結んで大きな玉にして渡し、マチェットを受け取る。
「結構、その長さなら引っ掛ける心配も無いな。それじゃ入るぞ」
「えぇ。...ところでその男はもしや?」
彼の足元には拘束された小太りの戦闘員らしき男が横たわっていた。
レイは戦闘員...ゴルバを一瞥すると、首根っこを掴んで身体を持ち上げた。
「あぁ。今回の件の実行犯だ。後々お宅らで尋問するも良し、同僚の敵討ちで痛めつけるも良し、お好きな様になさって結構ってね。とりあえず生け捕りにしておいた」
「えぇ、ありがとうございます」
ニッコリと嗤うエージェント。
それに対し、口角をキュッと上げるだけに留めるレイ。ゴルバの後の処遇など知った事では無いのである。
レイはそっと扉を開く。扉の可動範囲にはトラップと繋がる線は無く、慎重に中へと入ってゆくと、エージェントは思わず目を見開いた。
両腕両脚ごと身体をぐるぐる巻きに拘束された上、その縄の至る所に小さな赤い光を点滅させる小さな箱状のモノが取り付けられている。そしてそれらからは細いピアノ線の様なものが部屋の至る所に向かってピンと伸びており、この線に何かモノを引っ掛けてしまえば、部屋諸共即お陀仏となる事が容易に想像出来た。
「足元の線に気を付けろ。引っ掛けた瞬間終わるぞ」
「分かっております...ですがっ、これはっ!」
無惨な扱いのまま放置された目標『スケアクロウ』。下手な動きをすれば助け出す者諸共爆死しかねない、惨い仕打ち。彼女が一体お前達に何をした?何故こんな目に遭わされなければならない? 堪えようのない怒りが廻りゆくその時、続くレイの言葉がエージェントの頭に理性を取り戻させる。
「そう、だからこそ君のチカラを使いたいんだ。テレポート機能を使って、縄の内側にある目標の身体だけを転送させたい。...出来るか?」
エージェントは目の前の光景を改めて
「...出来ます! 直ぐに脱出しましょう!」
「よし。それじゃあ、コイツと一緒に連れてってくれ。さっきの話の通りなら、俺のバイクの近くまでなら問題無く飛ばせるな?」
レイはゴルバの首根っこを突き出した。まるで自分は残るとばかりの様子に、思わず怪訝な顔を浮かべる。エージェントの言いたい事を察したレイは、周囲を見渡すように指し示した。
「俺は後始末がある。俺一人なら、ここを
『コイツの言う通りよ。心配は要らない、3人で先に脱出して』
「わ、分かりました...」
そう言ってゴルバの身体を受け取ったエージェントは、巨体を持ち上げたままゆっくりスケアクロウの元に近付くと、片手に持つ布を足元に、空いた手をスケアクロウの頬に添え、瞳を閉じる。そこへ一言。
「俺も早々に此処を出る。身体がすっぽ抜けた瞬間、一斉に信管に触れ出すだろう。また後で会おう、じゃあな」
レイがその場から駆け出すと、間もなく紫電の様な色のオーラが彼女の周りから湧き上がる。スッと目を開き、彼が部屋を出て階段を駆け降りたのを見届けると、
「それでは、参りますっ!」
オーラは床以外のエージェントの触れる全てを包み、見事拘束具からスケアクロウの身体のみをくり抜く様に脱出していった。
直後、拘束するものを失った縄は重力に従い落ちてゆく。それは仕掛けられた爆弾の信管に触れる物も現れるということ。テレポートから1秒と経たぬ間に起爆、他の爆弾にも誘爆し、3Fの空間、だけに留まらず上下階の床や天井をも吹き飛ばす爆発を引き起こした。
2Fから4Fまでの窓ガラスはほぼほぼ爆散。何より、今夜一番の大きな花火が現れた衝撃は、周囲に残る建物や地面をも大きく震わせる。
同時に、爆炎はビルを燃やす業火と化し、放っておけば直ぐに建屋全体を焼き上げるだろう。そしてこの場に、まともな消火をするための水源は無い。従って、物言わぬ屍は文字通り骨だけとなる。
さて。
2Fから1Fへ階段を駆け下りようとしたところへ爆発、立っていられぬ揺れに堪らずバランスを崩し、階段を転げ落ちそうになるレイ。手を前に突いてギリギリ止まるも揺れにより手すりに頭をぶつけた彼は、想定以上の爆発に思わず悪態を吐く。
「いッつつ、アホかってんだよ...。どう考えても過剰火力だろうが...」
一先ず身体は無事。打ったところを擦りながら立ち上がる。視界のタイマーが示す時間は残り8分。割れた窓より、遠くから響く軍用車の喧しいエンジン音も響いて来た。時間が無い。
『時間が無いわ。出来る限り掃除を頼むわね』
「掃除っつったって、どうせ全部燃えるだろう」
『ビルはね? その下の水道はまだ使い道がある。何人かはいたでしょ? 掃除してくれる?』
「連絡階段は?」
『バラして良いわ』
「...了解。さてと、それじゃあ用意しますかね」
レイは背負っていたジュラルミンバッグをそっと下ろすと、中からアイテムを取り出す。お手製の
必要な道具を取り出した彼はバッグを背負い直すと、程無く自身の通ってきた道へと駆け出した。
続きません()
と書きたいところですが、半端になってる続きがあるので、そこまでは書ききるつもりでござんす。
ではまた次回(`・ω・´)ゞ