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俺には、ヨモダ・トウヤには周りに注目される輝くような才能も、周りをあっと言わせるすごい特技もない。ただちょっと人よりガンプラバトルが出来て、ガンプラ作りも上手ってだけの、そんな感じのどこにでもいるような男だ。
私立聖ドミニオン学園に入学できて、俺はやれるんだ、才能があるんだ。なんて、調子に乗っていた時期もあった。けれど、いつの世もどこにでも上には上がいるんだぞってなもんで、いわゆる『本物』の輝きを目にしたことで、伸びようとしていた鼻もへし折られてしまった。今は何とか、ドミニオン学園を卒業するために奮闘している。結局俺みたいなのにできることなんて、それくらいなものだ。
・・・なんて、そんなことを言った日には10歳上の兄に「なに中学生のガキが大人ぶったこと言ってんだ」と小突かれるだろうけどさ。それでも、それでも俺にだって、諦めたくないことのひとつくらいはある。高嶺の花だって分かってても、俺が持っていない輝くような才能に嫉妬で焦がれそうになっても。それでも君のことが好きなんだ、と叫びたい人がいるんだ。
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しつこく残った夏の暑さに少し気怠さを感じる週末の、日曜日の午後。俺は毎週のように通っているガンプラショップ、掲げられた看板に『ショップユウガサキ』とガンプラのランナーを組み合わせたような文字で書かれたその店に、やって来ていた。
店の中は冷房がよく効いているけど肌寒いってほどじゃない、快適な涼しさ。日曜の午後だからなのか店内にいる客の姿はまばらで、俺以外にはガンプラの特価コーナーを眺めている親子連れや、水星の魔女のガンプラコーナーで『デミトレーナー』の箱をいくつもカゴに入れている女の子くらいしかいない。
そんな客を横目に俺は、まっすぐにカウンターへと向かった。そこにはショップユウガサキの店名がプリントされた紺色のエプロンを付けている銀髪の女の子が、腕を枕代わりにしてカウンターに突っ伏して寝息を立てていた。営業時間中に堂々と昼寝をしていてもいいのだろうか、と思わなくもないけど、ここまでいっそ清々しいほどに寝ているのを見ると一周回って気にならなくなるのかもしれなかった。
「ユ、ユウガサキ、さん!」
「んぅ・・・?」
俺が呼びかけると、その女の子・・・ユウガサキさんは伏せていた頭をのっそりと持ちあげて眠たげに反応した。それから二度、三度と左右で色が違う瞳を瞬かせて「くぁ・・・」と小さくあくびを噛み殺す。
彼女は、ユウガサキ・フユカさんは、記憶にある限りでは大体こんな感じだった。学校でクラスにいる時も、授業中も、友達と話をしている時だって・・・いつも眠そうにしていて、ぼんやりとしていて・・・ハーフやクォーターだって話も聞かないのに、鮮やかに輝く銀髪や左右で色の違う瞳(オッドアイというらしい。ネットで調べた)というその日本人離れした見た目も相まって、なんとも不思議な雰囲気を纏っている。
そんな、どこか浮世離れしたような美少女のユウガサキさんに惹かれている男子は後を絶たない。かくいう俺もその一人なんだけど・・・。まあそれは置いとくとしても、ユウガサキさんの密かな人気はとても高い。朝に登校すれば下駄箱にラブレターが詰め込まれていたり、校内にユウガサキさんに惚れている男の紳士協定『FFF団』なんて集団が結成されるほどには。ちなみに俺もその団員の一人だ。
ちなみにそのラブレターたちの行方だけど、行き先は大体二つ。通りがかった清掃ロボットのエサか、あるいはシュレッダー室にある大型シュレッダーのエサである。一度通りがかりにエサをあげてる現場を見たことがあるけど、普段は表情もあまり変わらないユウガサキさんが珍しく、とても面倒そうな顔をして清掃ロボットにラブレターの山を食べさせていた。
それを見て俺は、自室で密かにしたためていたラブレターをバラバラにした上でゴミ箱にシュートした。俺も他のやつらみたいにラブレターを出して朝の仕事を増やす男、なんて思われた日には立ち直れそうもない。それに、本人に読まれることも無くゴミとして出されることを考えれば資源の無駄ともいえるわけだし・・・。
それに俺には、土日の密かな楽しみがある。こうして訪れたショップユウガサキでのユウガサキさんとのささやかなひとときという楽しみが。読まれずにゴミに出されるラブレターを出すよりも、本人と何でもないことを話しているほうがずっと有意義だろう。
「・・・なに・・・?」
「あ、えっと、コロッケ、買ってきたんだ。アークエンジェル24で10個250円で特売やっててさ」
「・・・コロッケ・・・」
「うん。なんか台風近づいてるからだとか、なんとか・・・。よかったら、食べる?」
「・・・」
ガサガサと袋から出したコロッケと俺の顔を、ユウガサキさんは交互に見る。それから少しの間考えるような仕草をして、こくんと小さく頷いた。
「わかった・・・食べるんだよ・・・」
「あ、え、へへ・・・。いっぱいあるから、お代わりが欲しかったらいってね」
「ん・・・」
包装紙を半分だけ破いたコロッケを両手で持って、ユウガサキさんはコロッケを小さくはむ、はむ、と食べ始めた。何だこの可愛い生き物。俺も食べようかなと自分の分を出したところで、個包装のソースがあることを思い出した。ただ、今からソースあるよ! というのもタイミングを逃した感じがして、それにソースを掛けたら口の周りも汚れるだろうと思い、見なかったことにした。さらばソース。
アークエンジェル24のコロッケは揚げたてというわけでもなく、ケースに入れられた作り置きのものだったけれど、それでもまだ温かさが残っているそれは少ししっとりとした衣とごろっとしたジャガイモの食感もあって、ジャンクな味わいがする。それにしっかりとした味も付いているから、ソースが無くても美味しく食べられる。
やや小ぶりなコンビニコロッケを2口、3口で平らげると、腰に下げたガンプラホルダーからガンプラを取り出して、カウンターの上に置く。それは頭に角が生えていて、左肩に格闘用のピックが付いたシールドを持つ水色のガンプラ・・・ヅダだ。
「このヅダ、この前買ったやつなんだけどさ」
「・・・うぃ」
「対艦ライフルみたいなでっかい武器持たせて見ると、これが結構サマになっているっていうか、なんというかヅダにはヅダのカッコよさがあるってわかったんだ。よく対艦ライフルだけ持っていかれてるイメージあるけど」
「・・・」
「俺、実際にこいつを組むまではどんな機体なのかってのもほとんど知らなくってさ。それでアニメを見てみたら、これがすごく面白くて・・・ヅダも、カッコよくて輝いて見えたんだ。だから俺、思ったんだ。こいつを活躍させたいって。一緒に戦いたいって・・・ま、まあ、俺みたいなのが何言ってんだって感じだけどさ」
ははは、と乾いた笑いをこぼすも、ユウガサキさんはなぜか目を丸くしていた。あれ、俺そんなに変なこと言ったかな・・・。なんか恥ずかしくなってきた。恥ずかしさを誤魔化すように、残りのコンビニコロッケの包装紙を破いてかぶりつく。
けれどユウガサキさんは笑うでもなく、むしろ慈しむような表情で、俺の作ったヅダを見つめる。ユウガサキさんはいつも眠そうにしているし、表情もあまり変わらないように見えるけれど、本当はまるで万華鏡のようにころころと表情を変えるんだ。そのことを知っているのはきっと、彼女に想いを寄せている男たちの中でも俺くらいのものだろう。
「・・・きっと、この子も・・・喜んでるんだよ・・・。組んでくれて、一緒に戦えて・・・嬉しいって・・・」
「そう、かな・・・。だといいけど。それにしてもユウガサキさん、なんだかELダイバーみたいなことを言うんだね」
「・・・コロッケ」
「え?」
「コロッケ」
「あ、ああ・・・。お代わり? はい」
ガサガサと袋から出したコロッケの包装紙を破いて手渡すと、ユウガサキさんは両手で持ったそれをもっしゃもっしゃと食べ始めた。ついさっきの何かをはぐらかそうとした感じに見えたけれど、湧きだそうとしていた疑問は、コロッケを食べる彼女の小動物的なかわいさの前にかき消えていた。
本当に、かわいいなあ。
ユウガサキさんを、この子を好きでよかった・・・そう思えるような出来事はまだ何も起きていない。それでもこうして、何でもないような時間を過ごせるのは俺にとって尊ぶべきものだった。
俺には、ヨモダ・トウヤには、周りに注目される輝くような才能も、周りをあっと言わせるすごい特技もない。
ただちょっと人よりガンプラバトルが出来て、ガンプラ作りも上手ってだけの、そんな感じのどこにでもいるような男だ。
輝く才能に目がくらんで、嫉妬に焦がれそうになることもある。「本物」を前にして劣等感に苛まれることだってある。
そんな俺だけど、ユウガサキさんのことだけは諦めたくない。
いつか彼女に、君のことが好きなんだと、そう叫びたい。
それがいつになるやら、その日がやって来るのかなんて分からないけれど。この心に灯った小さな炎は消したくない。そう強く、思った。
ヅダはアオハルも共に駆け抜けられるのだよ。