GB4-クローバー/フラグメント   作:青いカンテラ

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SS03『お隣のお姉さんに』

 朝は一日の始まり。気怠くて、少し慌ただしい。学校のある日は準備をする時間で、休日には昼まで惰眠を貪る時間。今までは、ただそれだけだった。でも今は、違う。あの人が来るようになってからは・・・。

 

 

 

「ふぁ・・・」

 

 鼻孔をくすぐる香ばしい匂いで目が覚めて、もぞりと体を起こす。香ばしくて、少し甘いその香りは、パンが焼ける匂いだ。ダイニングキッチンの方から漂ってくるそれに導かれるようにして向かうと、あの人が台所で鼻歌まじりに朝食の支度をしていた。

 

 私が声を掛けるよりも先に気がついたのか、いったん料理の手を止めるとこちらに振り向いた。

 

「あ、レイちゃん起きたんだ。おはよ~」

「・・・おはよう、ございます・・・」

 

 胸元に「さくらの」とひらがなで書かれた、大きなハートマークの付いたエプロンが揺れる。ついでに、そのエプロンを下から大きく突きあげているものも。その圧倒的な、ともすれば暴力的とも言えるほどの質量を前に、思わず自分の方に目が行きそうになって、頭を振った。どうやら私はまだ寝ぼけているらしかった。あんなエベレスト級マウンテンと比べたところで、朝から虚しい気分になるだけなのに。

 

「朝ごはん、もうちょっとできるからね。先に顔洗っておいで?」

「・・・はい」

 

 台所に向き直って、火の加減を調整しながらピンク色のフライパンでベーコンと目玉焼きを焼き始めたその人は、サクラノ・レアさん。私が通っている私立聖ドミニオン学園の保険医であり、私の隣の部屋に住む隣人であり、そして週に何回かはこうしてご飯を作りに来るお姉さん・・・なのだった。お姉さんといっても、私よりも背が低くて童顔なのもあってたまに混乱するのだけれど。年下に見えることもあるけれど、しっかりと年上でお隣の小さなお姉さん。しかも保険室の先生。色々と渋滞している。要素が。

 

 ここにいても私ができることはないので、顔を洗うために洗面台へと向かう。その最中に、なぜこうなったのかを私は思い返していた。切っ掛けは・・・朝のゴミ出しだったかしらね。

 

 あの時はうっかり3週間分くらいのゴミを溜めてしまって、特大のゴミ袋でもパンパンになっていたのを覚えている。それらをゴミ捨て場に捨てに行った時に、偶然会って声を掛けられたのが最初だった・・・はずね。それまでも部屋はお隣さん同士だし、廊下でも顔を合わせれば挨拶くらいはする程度ではあったけれど、こうしてサクラノさんが毎日とは言わずとも、週に何回かはごはんを作りに来るようになったのは、あの日が切っ掛けだったのは間違いないわね。

 

 特大のゴミ袋をゴミ捨て場に置いて、それから部屋に戻ろうとしたら、サクラノさんに「ちょっと待ちなさい」と少し強めに止められたのだっけ。聞けばゴミ袋にコンビニ弁当やエナジーバーの空き袋に、エナドリの空き缶が山のように詰め込まれているのが気になったのだとか。それらの山を見て、私の食生活が心配になったらしい。まあ、あの人も保険医としての立場というものがあるのだろうし、やはり生徒の健康と言うのは職業柄気になってしまうのでしょうね。

 

 特に隠すようなことでもなかったし、私は正直に話した。ドミニオン学園に通うため新台場ギガフロートにやってきて、寮では一人暮らし。タワーマンションのような寮には、全部屋にそれなりの広さのダイニングキッチンが備えられているけれど、私は自炊ができないから、食事はほとんど近くにあるアークエンジェル24で買い込んだコンビニ弁当やらエナドリ、エナジーバーで済ませていた。

 

 コンビニの弁当コーナーはいいものよ。品揃えの種類は多いし、安くて簡単でしかも美味しいのだから。たまに気が狂ったようなキャンペーンをすることはあるけれど・・・値段据え置きで量が増えるのなら、それはそれで大歓迎というものね。食べきれない分は分けて保存しておけばいいのだから。電子レンジと冷蔵庫を発明した人は神ね。ちなみにエナジーバーは時間がない時に食べるものよ。最近は完全栄養食エナジーバーというのがCF社から出ていて、これを一本食べるだけで一食分の必要な栄養素を全て補えるという優れもの。味のフレーバーもバニラ、チョコミント、コーラコーヒー、といった定番なものからチキン南蛮風味、うな重風味といったゲテモノまで幅広く販売されていて飽きが来ないのよね。

 

 そう話したら、サクラノさんは「はぁー」と長いため息を吐いて、それから真面目に何かを考え込んでいた。しばらくして「ヨノモリさんさえ良ければ、週に1、2回ご飯作りにお部屋上がっていい? 材料は私が持っていくから」と、そう提案をしてきた。お隣さんとはいえ、誰かを部屋に入れるのはな・・・と思ったけれど、上目遣いに「ダメ?」と聞かれて、私は「休日なら・・・」と返したのだった。

 

 あれは反則過ぎるわよ。ただでさえ顔が良すぎるのに、上目遣いでお願いって。私以外にやったら勘違いする人間を大量に生み出してしまうでしょうね。最早戦略兵器。・・・まあそんなわけで、最初は休日に晩ごはんを作りに来てくれる程度だったのが、いつの間にか朝ごはんも作りに来るようになっていた。ま、まあ、朝ごはんは一日の活力ともよく言うし? コンビニ弁当やエナジーバーでさっと済ませてしまうよりも、誰かの作ってくれた朝ごはんを食べられるのなら、その日の気力と活力も変わってくるでしょうね。たぶんだけど。

 

「お、タイミングばっちりだね。朝ごはん出来てるよ。ささ、座って座って」

 

 顔を洗ってダイニングに戻ると、サクラノさんがテーブルにお皿を並べ終えたところだった。こんがり焼き目のついた食パンに、よく焼かれたベーコンと目玉焼き、それにドレッシングの掛かったサラダ。飲み物は、私がエナドリ以外で唯一買い置きしている午〇の紅茶アイスティー。これが今日の朝食。・・・私だったら、パンかベーコンエッグかのどちらか、あるいは両方を焦がしているわね。自分のことよ、悲しいことに容易に想像ができるわ。そう思いながら、サクラノさんの向かいに座る。うん、いい匂いだ。

 

「・・・いただきます」

 

 パンにバターを塗って、一口齧る。さくりとした食感に、ふわりとバターと小麦の風味が口の中に広がる。朝は白米派だったのだけれど、サクラノさんが朝ごはんを作りに来るようになってから、朝はパンもいいなと思うようになっていた。いやまあ、焼き魚と白米とみそ汁という、日本の朝ごはん定番セットが出てくることもあるけれど。それでも朝にパンを食べるのもいいな、と思い始めているのは確かだ。目玉焼きは絶妙な塩加減で、ベーコンも丁度いい焼き加減をしている。これは・・・私の好きな感じだ。サクラノさんがごはんを作りに来るようになってからそれほど経っているわけではないけど、この人に私の好みを把握されつつある・・・気がする。

 

「どう? 美味しい?」

「・・・はい。美味しいです」

「そっかー、よかった! レイちゃんって、美味しいって思うもの食べるとすぐ分かるから、好みを把握するのはそんなに難しくなかったんだけどね~。けれどやっぱり本人が食べて感想を貰うのが一番だから」

 

 にこにこと、そんなことを言うサクラノさん。私はそんなに分かりやすいのかしら。自分ではそんな感じはしないのだけれど。

 

「レイちゃんってば、すぐ顔に出るよ~? いっつもかわいいな~って見てる」

「か、からかわないでくださいっ」

 

 照れを隠すためにサラダを勢いよく食べる。もしゃもしゃ。・・・あ、このドレッシングも私の好きな味・・・。それにしても、かわいいなんて、学校では務めて明るい感じに振る舞っているから、言われ慣れていると言えば慣れている言葉だけけれど、なんだかサクラノさんにそう言われると心がざわつくというか。なんだか落ち着かなくなるのよね。

 

「本心なのにな~。って、もうこんな時間・・・。私は先に学校に行くけど、食べ終えたらお皿は水につけといてね」

「はい。・・・いってらっしゃい、サクラノさん」

「はーい、いってきます。あ、そうそう。今日のお弁当はレイちゃんの好きなもの詰めたから、期待しててね」

 

 そう言ってサクラノさんは、エプロンを外して冷蔵庫のマグネットフックに掛けて出かけていった。最初は晩ごはんだけだったのが、朝ごはんもご馳走になって、お昼もお弁当を用意してくれて・・・気がつけば私の食生活にかなり入り込んで来ている。それでも悪くないと思えるのは、サクラノさんに胃袋を掴まれつつあるから、なのかしらね。

 

 

 

 

 

 




TIPS:

【ヨノモリ•レイ】
 私立聖ドミニオン学園高等部一年生。属しているのは第一生徒会「ミレニアム」。小柄なので中等部だとよく勘違いされるが、これでも数少ない高等部からの編入組。

 銀髪に青い瞳の少女。お隣のお姉さんことサクラノ・レアの食生活改善によって肉付きは良くなり、とある部分もCカップになるなど多少変化が起きている。難関とされるドミニオン学園の入試を受かるだけあり、ガンプラのビルドもバトルの腕もかなりのもの。さらに性格も明るく、距離感も近いためクラスメイトの男子たちに「ヨノモリを好きなのは俺くらいだろうな・・・」と思われている。どこかの親戚の少女と同じである。

 しかし私生活ともなるとガンプラ以外はダメダメで、少し気を抜くとゴミは貯め込むし服は脱ぎっぱなしで食事はコンビニで買ってきたコンビニ弁当やエナジーバー。飲み物はエナドリか午〇ティー。たまに寝ぼけて冷蔵庫にガンプラを入れているなんてこともある。

【クロスボーン・ガンダムX-13改•改シルバーバレット】
 レイが使うガンプラ。ベースキットはクロスボーン・ガンダムX-1改•改。闇ルートに流れたX-13の一機を、他の機体のパーツで改修したという設定。そのため右腕はF90、左腕はドーベン・ウルフ、脚部はVガンダムにそれぞれなっている。

 機体カラーは銀色がメインで青の差し色。これは『エンジェル•コール』を巡る戦いで活躍したクロスボーン・ガンダムX-0にちなんだもので、さらに銀は魔を祓うという伝承から、銀の弾丸(シルバーバレット)と名付けられた。

 武装は原型機のものを一通り使用可能な他、一部F90のミッションパックと脚部のハードポイントにオプションを装備できる。胸部ガトリング砲は多目的ランチャーに換装されており、ヒート・セラミック弾や閃光弾を装填する。
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