新台場ギガフロートに展開している多くの店舗には、GBBBBより以前の筐体型ガンプラバトルシミュレータが置かれている。これは新台場ギガフロートが、ガンプラ文化の振興や、産業発展の場となることを期待されて建造されたという思惑も関係しており、一部を除きガンプラを扱う店には最低でも一台のガンプラバトルシミュレータが設置されることになっている。
それはショップユウガサキも例外ではなく。新台場ギガフロートの建造にも出資しているGHCの援助もあり、最大3人でのバトルができる規模のガンプラバトルシミュレータが設置されている。そして、ガンプラバトルシミュレータがあるということは遊ぶためにはガンプラが必要ということであり、ガンプラが必要となればそこには必然、ニーズが生まれるものだ。
日曜日の午後。客入りのピークも過ぎ去り、フユカはガンプラの製作スペースで一つのガンプラを製作していた。作っているのは、機動戦士ガンダムSEEDの外伝作品、C.E.73
一通りパーツを切り終えたら、次はゲート痕の処理をしていく。デザインナイフであえて少しだけ残したゲートの残りを削り、数種類のやすりを使い分けて
やすり掛けという単純作業に集中することで、他の雑念を全て追い出し心を無にできるのだと。しかしフユカは違った。やすり掛けは楽しい。自分の手で、指先の感覚で出っ張っていた表面を均し、あるいは面出しをしていく。些細な力の加減で結果が違ってくる。その繊細さを要求される作業が、好きだった。
「―――うわ、すご・・・」
ほぼ本体のパーツのやすり掛けを終え、残すは武器とバックパックのみとなったところで、思わず漏れたような、そんな声が耳元で聞こえた。いったん作業の手を止めてそちらに顔を向けると、手元を覗き込んでいる少女と目が合った。朱色混ざりの金髪に、くりっとした紫色の目。リップの塗られている唇はぷるんと艶がある。胸元の大きく開いた制服を着ているが、制服が違うのでドミニオン学園の生徒ではなさそうだ。
「・・・誰・・・?」
「・・・え、あっ、ごめん! ジャマする気はなかったんだけど、店員さん、すっごい集中してガンプラ組んでたからついつい見惚れちゃった! けど、ほんとーにすごいね。ガンプラってこんなに早くパパッて作れちゃうものなの?」
「・・・慣れてる」
「あ、そっかそうだよね。ガンプラショップの店員さんだもん、ガンプラ作るのも慣れてるよね! うわー、慣れたらこんなにパチパチーって切って、ササーってやすったりできるんだー。って、あたしとお喋りしてたら作業進まないよね! どうぞどうぞ、あたしのことは気にせずに続けてください!」
「ん・・・」
促され、作業に戻るフユカ。といっても残りは手持ち武器のビームライフルとバックパックの各パーツだけだ。ものの数分と掛からずにやすり掛けを終えると、組み立ててストライクノワールは完成した。組み立てほやほやのガンプラを見て、少女はほわー、と目を輝かせる。ねぇねぇこれ触っていい!? とフユカに許可を取るや、手の中に収まるストライクノワールを
「はぁー・・・すっごい。なにこれもうプロじゃん。プロの仕事じゃん? あたしとそんなに歳変わらなさそうなのにこんなすごいことできる子がいるなんて、わざわざ新台場ギガフロートまで来たかいがあるってもんでしょ」
ストライクノワールを返して、少女は一人何事かを呟く。そして提げていたカバンからガンプラの箱を取り出した。
「ねえ店員さん。ここってせーさくだいこー? とかしてたりしない? あたし、ネットで調べたんだけど、ガンプラを代わりに作ってくれるサービスがあるって聞いて、もしかしたらって新台場ギガフロートまで来たんだけど」
「・・・せいさく、だいこう・・・?」
ガンプラバトルシミュレータを遊ぶためにはガンプラが必要であり、ガンプラが必要ということは、そこにニーズが生まれる。それは例えば、G-BASEやショップで無改造の完成品を貸し出しているレンタルガンプラだったり、あるいは何らかの事情などによってガンプラを組み立てられない人が、ビルダーへお金を払って代わりに要望通りにガンプラを製作してもらう代行業などである。ガンプラの製作代行はちょっとした小遣い稼ぎの手段として、ドミニオン学園の生徒にもしている者がいることは、フユカも知っていた。
「そう、せいさくだいこー。あたしってぶきっちょだしガンプラだって組み立てるの初めてだから・・・。このウィンダムって子、うまく組み立てられる自信とか全然なくってさー。そこで誰かに代わりに組み立ててもらえばいいんじゃね? って思って調べてたら、新台場ギガフロートがいいらしいよ? ってマブダチに聞いてやって来てみたら、店員さんに会ったってわけ!」
「・・・」
「どうかな、店員さん。あ、お金のことなら心配しなくてもいーよ! あたしこのためにバイトして貯めてきたから!」
フユカの沈黙を、本当に支払えるのか不安だと思ったのか、少女はふふーんと胸を張って見せる。それなりに大きいものが、その分制服を下から押し上げる。
「・・・ガンプラは、自分で作ったほうが・・・いいんだよ・・・」
「え、で、でもあたしぶきっちょだし・・・それに、ガンプラを作る道具だってないし・・・。この子も店員さんみたいな上手い人が作った方が、きっと喜ぶよ」
「道具は貸してあげる・・・。作る時はずっと横で見てるし・・・それに、あなたが作ったほうが、この子もきっと・・・嬉しいんだよ・・・」
「店員さん・・・。わ、わかった、あたしやってみる!」
むんっ、と胸の前で拳を握り、少女はフユカの隣に座ってウィンダムの箱を開けた。中の袋からランナーを取り出して机の上に並べる。HGであるウィンダムのランナー数はポリキャップやエフェクトパーツを除けば5と少ない。ガンプラを作るのが初めてだという彼女が作るには丁度いいガンプラだと言える。
「説明書通りに・・・まずは、胴体から・・・。パーツは二度切りする、のがいいんだよ・・・」
「二度切りって、アレだよね。すこーしだけ残して切るっていう」
どうやらある程度の知識はあるらしい。ニッパーを使い、必要なパーツをランナーを少しだけ残してパチパチと切り取っていく。はみ出した部分をデザインナイフで慎重に削っていき、残りはやすりで均す。何度も説明書を見ながら、胴体を組み上げていく。
「・・・なんで、ウィンダム?」
少女の作業を見ながら、ふと気になったことを口にする。どのガンプラを初めて手にするかは個人の自由であるところであるが、やはり華やかな活躍をする主人公機が初めてのガンプラとなることは多い。その点ウィンダムは、言っては何だが地味だ。本編でも目立った活躍というものは少ない機体である。
「あー、ウィン戦って知ってる? とにかくウィンダムが主役の、ウィンダムばっかり出てくる漫画なんだけど、初めて読んだときにトキメキっていうの? 感じちゃって。ウィンダムは量産機でたくさんいて、それでも戦いの中で輝けるんだ! っていう想いに心動かされたって言うか・・・変、かな?」
「ううん・・・。ガンプラを選ぶのは、自由、だから・・・。どんな理由があっても・・・いい・・・」
「えへへ・・・よし、胴体と頭もかんせーい!」
パチリ。組み上がった頭を胴体に取り付ける。初めてのガンプラで、初めて完成させたウィンダム。よくよく見ればゲートを削る時に刃を深く入れすぎて抉った箇所や、やすり掛けが甘くてザラついている箇所もある。しかしそれも、初めてガンプラを作ったという感動の前では勲章のようなものだ。
「よーし、このまま腕と足も作っちゃおう!」
より一層気合を入れて、少女は残りに取り掛かる。パチパチとパーツを切り取り、ゲートを削ってはやすりを掛けて、パーツ同士を組み合わせる。やる気ブーストが掛かったことで、それから1時間ほどで初めてのガンプラ作りは終わりを迎えた。
「~~~っ! できたー!」
「ん・・・よくできてる・・・」
「ありがとう店員さん! 店員さんが横で見ててくれたから、ちゃんと完成させられたよー!」
「あなたが・・・がんばったから・・・。それに、この子も・・・あなたに作ってもらえて・・・きっと、嬉しい」
「はぁー! 顔良っ! 好きになっちゃいそう!」
「・・・?」
「うーん、ジェットストライカーもいいけど、やっぱり漫画のウィンダムを再現するにはエールストライカーとバズーカがほしいんだよねー」
ウィンダム完成の熱も収まって来た頃、少女は机の上に佇む自分のガンプラを前に腕組みをしていた。彼女がウィンダムを手にする切っ掛けとなった漫画、ウィンダム戦記。その作中には大気圏内用装備であるジェットストライカーではなく、宇宙空間での高機動戦闘を得意とするエールストライカーや実弾兵器のバズーカを装備したタイプも登場していた。
漫画で主役を張ったウィンダムはこうして完成した。次は漫画内の再現をしたくなるというのは、ガンプラにハマる人間のある種サガとでも言うべきものだろう。とはいえエールストライカーを入手するとなると、別にエールストライクガンダムを買う必要が出てくる。バックパックのためだけにガンプラを買うのか・・・。悩んでいると、他の客が来たということで対応に行っていたフユカが戻って来て、すすす・・・と何かの箱を出す。
「こ、これは・・・!?」
「オプションパーツセット01・・・エールストライカー・・・!」
オプションパーツセット・・・その名の通り、武器やバックパックなどのパーツだけを集めてパッケージした商品であり、鉄血のオルフェンズやオリジナル武器などが販売されている。その中でもガンダムSEED系のオプションパーツが最近になって発売されるようになり、EGストライクガンダムなどに対応するストライカーパックがオプションセットとして出ているのだった。
「え、これ一個でエールストライカーとバズーカ揃うの!? 激ヤバじゃん! アガるんだけど! このタイミングで出してくるなんて、店員さんも商売じょーずだね!」
「ん・・・。道具のスターターキットと・・・ガンプラを入れるためのホルダーも、ね・・・」
「あはは! ほしいもの全部出してくるじゃん、ほんと商売じょーず! 買う買う、お買い上げしちゃう!」
会計を済ませて、帰りの電車の時間が近いということで少女は慌ただしく帰って行った。
その帰り際。
「あたしはクドウ・アキ! 店員さん、あなたは?」
「・・・ユウガサキ、フユカ・・・」
「フユカ、かあ・・・それじゃあフユっちだね! それじゃあ、またね!」
「ん・・・」
日曜の午後。日も水平線の向こうに沈もうかという時間。ショップユウガサキの週末の常連が、一人増えたのだった。
商機は見逃さないんだよ・・・。
TIPS:
【クドウ・アキ】
朱色混ざりの金髪、紫の瞳。唇には薄くリップを塗り、制服は着崩しているなど、派手な見た目の女子高生。都内の公立高校に通う一年生。
ガンダムはCMで見たり、クラスのガンプラ好きが話しているのを聞いて知っている程度。ガンプラも作ったことはない初心者。たまたま読んだ漫画『ウィンダム戦記』で主役だったウィンダムの活躍にトキメキを感じ、初ガンプラとして探し回り手に入れた。
しかし自分で作るのは不安に感じ、製作を代行してくれる腕のいいビルダーを探しに新台場ギガフロートまでやって来た。その途中でふらりと寄ったショップユウガサキでレンタル用ガンプラを製作していたフユカを見つけ、制作代行を頼むも自分で作ったほうがいいと逆に諭される。彼女に道具も貸してもらい、初のガンプラ作りをするのだった。
キラキラしたものやかわいいものが好き。初のガンプラ作りをしてから、クラスでウィン戦を布教したり、週末にはショップユウガサキに通うようになった。