GB4-クローバー/フラグメント   作:青いカンテラ

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寒暖の差で風邪を引きそうなので初投稿です。


SS06『そのデミは誰が為に』

 サカキバラという男はジムが好きだった。高い拡張性に無数のバリエーション。量産機ゆえに余計な装飾のないシンプルな造形。ガンプラのキットとしても安価で入手しやすく組み立てやすい。ジムはいい。ジムは素晴らしい。一家に一つはジムを置くべし。

 

 サカキバラはジムが好きだった。傑作量産機であると信じて憚らない。だからこそ誰も彼もにジムを布教すべく、部屋には常に組み立て用・観賞用・布教用のジムを何個もストックしていた。

 

「ヨモダよ、俺は出かけてくるが、何か入用なものはあるか?」

「え? うーん、今は特にないけど・・・。サカキバラ、どこか行くの?」

「ああ。ストックのジムが無くなっていてな。補充しに行く」

「そっか。出かけるならあんまり遅くならないようにね」

「もちろんだ。寮長に睨まれたくはないからな」

 

 机の上に立つヅダと並べられたジャンクパーツを前に腕を組んで唸っていたルームメイトに声を掛けて、サカキバラはサイフとカバンを手に寮を出た。正面玄関の詰め所にいた新顔の警備員に声を掛けられたので、挨拶がてらに布教用のジムも渡しておく。カバンからぬっと取り出されたジムのガンプラを渡された警備員は困惑していたが、休憩時間の暇な時にでも組んでおくとの言質も取っておいた。これで休憩室にジムが置かれることだろう。満足げに頷き、サカキバラはストックを補充するためにいつも利用しているショップへと向かうのだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「あっ」

「む」

 

 いつも利用しているショップこと『ショップユウガサキ』に着くと、同じドミニオン学園の制服を着た赤毛の少女とばったり出くわした。彼女の名前はサワイデ・フミカ。何の偶然か、彼女もまた量産機を布教している同志である。もっとも彼女が布教しているのはジムではなく、アニメ『機動戦士ガンダム水星の魔女』に登場するMS『デミトレーナー』なのだが。同じ量産機を布教する同志ではあるが、別の機体を布教していることから、フミカはサカキバラにとってのライバルだとも言えた。

 

「ジム男さん!」

「サカキバラだ。ここで出会うとは珍しいな、デミ子よ。お前もストックの補充をしに来たのか」

「あっ、はい。それもありますけど・・・。他にもいくつか、デミトレちゃんの強化に使えそうなものを探そうかなって」

「ふむ、デミトレーナーの強化か。デミトレーナーもジムほどではないが、拡張性の高い機体だからな。だが強化と一口に言っても、その方向性は多岐に渡る。定番のキャノンタイプや高機動仕様、遠くから敵を狙い撃つスナイパータイプ、味方との連携で輝くガードタイプ・・・。そして総合力で差をつけるフルアーマープラン。ざっとこんなところか。もっと細かく分ければもっと増えてくるが、大まかでも強化の方向性は定めておいた方が漠然と探すよりもいいだろうな。デミ子はどういう方向性で強化していくかもう決めているのか?」

「えっとそれが・・・中々しっくり来るものがなくて。もうみんなのお荷物にならないようにって思ったら、あれもこれもってなっちゃって」

「お荷物・・・? どういうことだ?」

 

 ひとまず店内の小休憩用スペースに移動し、フミカはぽつりぽつりと話した。同室のルームメイトに誘われてガンプラバトル部に入ったはいいものの、目立った活躍が出来ていないこと。周りのみんなは強くて戦っている中で、一人だけ開幕に撃破されてほとんど戦うこともなく落ちてしまっていること。そのことに歯がゆさを感じ、色々と装備を試してはいるもののどうにもコレだ! と思えるものがないこと。ガンプラバトル部の面々の前では務めて明るく振る舞っている心情を、フミカは同じ量産機を布教する仲であるサカキバラに吐露していた。

 

「みなさんいい人で、私がすぐにやられちゃっても、励ましてくれるんです。だから私もデミトレちゃんと一緒に、みなさんのお役に立ちたいんです」

「チーム戦での自分の役割か・・・。俺にはアドバイスしづらい問題だな」

「ジム男さん、チーム組んだことないんですか?」

「学期末のバトルトーナメントで即席のチームを組むことはあるが、それ以外ではソロ専だぞ俺は。まあ、ジムの同志を増やしてチームを組みたいとは思ってはいるがな。それとサカキバラだ」

「あ、それならジム男さんもガンプラバトル部に入りませんか!? 部員募集中なので!」

「いや、遠慮しておこう。聞いたところ部員は全員女子だけのようだし、そこに男一人が混ざると、百合の間に挟まる男だのと言われかねんからな。そしてサカキバラだ」

「百合の間・・・?」

「こちらの話だ」

 

 こほん、と咳払いをして誤魔化す。百合の間に云々はともかくとして、ガンプラバトル部の立ち上げをしたのは、高等部2年のスズシロ・ノアだという。ガンプラのスペシャリスト育成を目的としたドミニオン学園に存在しないガンプラバトル部。前にあんなことがあって、第二生徒会と第三生徒会が強く反対している現状でも、その部の設立に諦めていないのはさすがだと言いたいところだが、正直あまり深く関わり合いにはなりたくないというのもまた、本音だった。それよりかはジムを一人でも多く布教したい。

 

「だが、しっくり来る武器か・・・。ふむ」

 

 サカキバラは何やら思案した後、カウンターにいた筋肉モリモリのスキンヘッド・・・ショップユウガサキの店長、ユウガサキ・マサヒサのところに向かうと何事か話をしてフミカのところに戻って来た。

 

「デミ子、ガンプラバトルをするぞ」

「バトルですか?」

「ああ。店長からガンプラバトルシミュレータ使用の許可も貰った。ガンプラの悩みはガンプラバトルの中で見つかるはずだ」

「ガンプラの悩みはガンプラバトルの中で・・・。わかりました、バトルしましょうジム男さん!」

「サカキバラだ」

 

 ショップユウガサキの奥、最大3対3でのガンプラバトルができるように組まれた筐体型ガンプラバトルシミュレータに、サカキバラとフミカは生徒手帳を兼ねるスマートフォン型の情報端末をセットし、互いのガンプラを読み込ませる。

 

 ルールはベーシックな殲滅戦。バトルシチュエーションは戦闘開始時にランダムに3種類の武器が配布されるランダムウェポンバトル。ガンプラの読み込みが完了すると、バトルフィールドに向けて発進するための仮想カタパルトが展開される。

 

「サワイデ・フミカ、デミトレちゃんいきます!」

「サカキバラ・マサ。ジム、出撃する!」

 

 名乗りと共にカタパルトが作動し、フミカのデミトレーナーとサカキバラのジムが打ち出される。今回選択されたのは、見渡す限りに砂の海が広がる砂漠地帯。フミカにとっては直近の戦いで苦い思いをさせられた戦場でもあった。

 

「砂漠・・・。ううん、前とは違うもの、きっと大丈夫! えっと、武器コンテナは・・・あそこか!」

 

 フミカは開幕即落ちした苦い記憶を振り払い、スタート地点に設置されている武器コンテナを探す。探し回るなんてこともなく、出撃した地点のすぐ近くに灰色のコンテナがあるのを発見し早速開いて中身を確認する。

 

 中に入っていたのは、シールドとレーダーの機能を併せ持つレドームシールドと、上下に銃身が分かれているレールガン、そして鞘付きのアサルトナイフだった。ランダムで引き当てた武器としては、中々悪くないだろう。レドームシールドを左腕に装備し、アサルトナイフを後ろ腰にマウントすると、レールガンを構えて移動する。サカキバラもすでに武器をコンテナから回収しているだろう。どこから仕掛けてくるかわからない以上、周囲を警戒する。

 

「っ! 後ろ!?」

 

 レドームシールドによって拡張されたデミトレーナーのレーダーが、背後に接近していた敵を捉える。ついさっきまではレーダーに映っていなかったことから、ステルス系の装備を引き当てたらしい。

 

「完全に背後を取ったと思ったが・・・!」

「レドームシールドにアンチステルス機能があって助かりました!」

「ピンポイントで引き当てるとは運がいいな、デミ子よ!」

 

 ステルス迷彩のマントを脱ぎ去って姿を現したサカキバラのジムは、レーザー対艦刀を振り下ろす。フミカのデミトレーナーはその一撃をレドームシールドで受け止め、反撃にレールガンを撃つもジムはサイドステップで回避する。たかがジム。されどジム。ガンプラの作り込みがそのまま実際の性能に反映されるガンプラバトルにおいては、量産機でも良好な反応速度を誇るのである。

 

「なら次はこれでどうだ、デミ子!」

「またステルス迷彩で隠れたって、私にはアンチステルスが・・・えっ!?」

 

 再びステルス迷彩マントで姿を隠したジムを見つけるべく、レドームシールドのアンチステルスを使おうとするフミカ。しかし、デミトレーナーのレーダーはノイズが走ってまともに機能しなくなってしまう。ジャミングシステム。どうやらサカキバラはステルスとジャミングという、妨害に特化した装備を二つ引いていたらしい。

 

 ガンプラバトルにおいて、レーダーに映らなくなるステルスやレーダー機能を阻害するジャミングは強力である。レーダーとは戦場で敵味方の位置を常に把握するための『目』であり、その目を欺かれ、塞がれるのは勝負の行方に影響することもしばしばある。ゆえにそれらに対抗するアンチステルスやアンチジャミングの存在は重要だった。

 

 今回は1対1の個人戦だが、これがチーム戦となってくるとその重要度はさらに上がってくる。ステルス・ジャミング対策を怠った結果、敵のステルス機にかく乱されて各個撃破され敗北した。なんて話はガンプラバトルではそこら辺に転がっている。

 

 思えばМAID-МAIDENのメイドさんたちとの戦いもそうだ。開幕にステルスで接近してきたミスミのジェスタCZは、フミカがその身を囮にすることで姿を現した。フミカは撃破こそされたものの、結果としてヨツバやノアがステルスキルされるのを防ぐことができたのである。だがそれは、どこまで行っても結果論だ。あの時はたまたま敵が前に出たフミカのデミトレーナーを倒すことを優先した。だからアタッカーの二人が撃破されるのを防げたに過ぎない。もしあの時、ステルスを『見通す目』があったのなら・・・もっと楽に戦えていたかもしれない。

 

「(・・・わかったかもしれない。私と、デミトレちゃんのやるべきこと・・・!)」

 

 カチリと、ピースがハマったように感じた。行き詰まっていたデミトレーナーの強化プラン。方向性も定まらず暗闇の中さ迷っていた所に、一筋の光明が差す。ようやく見えてきた、ガンプラバトル部の優しいみんなに貢献でき、味方との連携でこそ輝く新しいデミトレの姿!

 

「戦闘中に考え事とは余裕だな!」

「っ!」

 

 ステルス迷彩マントを脱いで飛び出して来たサカキバラのジムが、レーザー対艦刀を横薙ぎに振るう。レドームシールドが両断され、左腕にもダメージを負う。レールガンを放つも、咄嗟のことで狙いが定まっていなかったせいで砂漠の砂を穿つに終わった。ジムはステルス迷彩で姿を消し、レーダーはまだジャミングが効いているためかノイズが走っていて使い物にならない。どのみちレドームシールドが破壊された以上、アンチステルスで探し出すことができなくなってしまったので大して変わらないが。

 

「(落ち着いて、ジャミングは強力だけどずっと使えるわけじゃない。ステルスだってその場から消えてるんじゃなくて見えなくているだけ・・・。それにスラスターを使えば熱探知に、動けば音響センサーに引っ掛かるんだから)」

 

 それでもフミカは冷静を保っていた。状況はよくないが、まだモニターもセンサー類も生きているから完全に詰んだわけではない。それに新しいデミトレの姿も見えた。こんなところで躓いているわけにもいかないのである。

 

 感覚を研ぎ澄まし集中する。完全に察知できないステルスなど存在しないのだ。MSは動けば何かしら察知できる。

 

「・・・っ、そこです!」

 

 わずかに空間が揺らいだのを見逃さずレールガンを撃つ。砂塵の舞う空間を電磁加速された弾丸が貫き、何かがバチバチと火花を散らして爆発を起こした。効力を失ったステルス迷彩マントを脱ぎ捨て、ジムが姿を現す。撃ち抜いたのはジャミングポッドだったらしい。ジムの左肩で黒煙を上げる装備をパージすると、レーダー機能が回復した。

 

「まさか撃ち抜かれるとは思わなかったが、これで小細工はなしだ! 真っ向勝負!」

 

 レーザー対艦刀を構えたジムがスラスターを全開に突撃してくる。それを迎撃すべくデミトレーナーはレールガンを向けるも、引き金は虚しく空音を響かせた。

 

「弾が!?」

「武器の確認はしておくべきだったな! 貰ったぁ!」

「っ・・・やあぁぁぁ!」

 

 コクピット目掛けて突き出されるレーザー対艦刀。うなじがヒリ付く感覚を覚えながらフミカは上下に銃身が分かれているレールガンでレーザー対艦刀の刀身を挟んで狙いをズラし、後ろ腰にマウントしていたアサルトナイフを左手で抜き放つとジムの胴体に突き立てた。

 

【Battle Ended!】

 

 カウンターのアサルトナイフがジムのコクピットに深々と突き刺さり、バトル終了の電子音声が響いた。

 

 

 

「負けたか。お前は強いな、デミ子よ」

「いえ! ジム男さんもステルスとジャミングの合わせ技には苦戦しました!」

「数年に一度くらいの強運を発揮してしまったからな。それとサカキバラだ。・・・それで、何か掴めたようだな?」

「はい! 見えました、私の新しいデミトレちゃんの姿が! 早速戻って作業しないと!」

 

 バトルの前、落ち込んでいた様子だったフミカは何かが吹っ切れたような晴れやかな笑顔でそう答えた。戦いの中で見えた新しいデミトレの姿。その姿を現実のものにするためのパーツは、積みプラの中にあったはず。強くなったニューデミトレで、もうガンプラバトル部のお荷物にはならない。

 

「そうか。俺も少し、ジムの構想が浮かんで来てな。その改修のためにいくつかパーツを買っておきたい」

 

 先程のフミカとのバトル。サカキバラもまた新しいジムの姿がおぼろげながら浮かんでいた。後の細かいところは、実際にジャンクパーツコーナーでパーツを漁りながら詰めていくことにしよう。そう思っていた。

 

 学生寮に戻るというフミカはその前に、いつも持ち歩いているカバンからガンプラの箱を一つ、にゅっと取り出す。それは彼女のあだ名にもなっているガンプラ、デミトレーナーだった。

 

「ガンプラバトルをした仲なので、ジム男さん、デミトレちゃんをどうぞ!」

「いまジムのストックを切らしているのが惜しいな・・・。だが、次に会ったら今度はジムを受け取ってもらうぞデミ子」

「はい! その時にはぜひとも!」

 

 それではまた! と小走りでショップユウガサキを後にするフミカ。サカキバラはどんなパーツを使うか、とジャンクパーツコーナーへと向かう。そんな学生二人を見て、筋肉モリモリで服がパッツパツになっているスキンヘッドの巨漢、ショップユウガサキの店長であるユウガサキ・マサヒサは「青春だな」と深く頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 




溢れる筋肉、飛び散る汗!



TIPS:

【サカキバラ】
 自称ジムを愛しジムに愛された男。デミトレーナーを配るデミ子に対し、こちらはジムを配るジム男。
 デミトレーナーの汎用性、操縦性の良さは認めつつも、ジムには圧倒的なバリエーションの豊富さがある! とジムを推してくる。



【サワイデ・フミカ】(守次奏さん作『ガンダムブレイカー4クローバーガールズ』)
 私立聖ドミニオン学園高等部一年生。第一生徒会「ミレニアム」所属。
 赤い髪の少女。ガンダムシリーズはあまり詳しくなく、アニメ『機動戦士ガンダム水星の魔女』を見たことがある程度。その中に登場するMS『デミトレーナー』がお気に入りで、デミトレーナーを『デミトレちゃん』と呼び布教するために常にキットをいくつか持ち歩いている。

 スマイルエンペラーで水星の魔女拡張パーツセットを巡ってトラブルに巻き込まれていた所を、カミナギ・ヨツバに助けられたことが切っ掛けでガンプラバトル部の4人目の部員になる。使用する機体はもちろんデミトーナーだが、バトルではさほど強くないことを自覚しており、すぐに撃破されてしまうことを悩んでいた。そのため、ガンプラバトル部のみんなに貢献するための新たなデミトーナーを作り上げ、第一生徒会執行部とのガンプラバトルに挑むのだった。
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