GB4-クローバー/フラグメント   作:青いカンテラ

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深夜のラーメンは美味いので初投稿です。


SS『勇気の華01』

「チッ・・・」

「ひぇっ・・・」

 

 ギロリ、と、赤と青の瞳が睨みつける。不注意でぶつかったとはいえ、そこまで強く敵意を向けることはないのではないか、少女はそうは思っても怖ろしさから声が出せなかった。ああ、天国のお父さんとお母さん。そして地元で応援してくれているおじいちゃん・・・私の運命はどうやら今日までのようです。私はこれからこの怖い人に東京湾に沈められてお魚のエサになるのです。不出来な娘で、孫でごめんなさい。目じりに大きな涙を滲ませながら、少女は・・・エビハラ・ミユはここにはいない最愛の人たちに向けてそう詫びた。

 

「アンタ・・・」

 

 目の前の怖い人が口を開いた。すぅ、とオッドアイが細められこちらに手を伸ばしてきた。いよいよ東京湾に沈められるのだ。こんなことなら新台場ギガフロートになど来なければ、聖ドミニオン学園に入学することなく地元で大人しく暮らしていればよかった。さようならこの世、こんにちわあの世。少女はぎゅっと強く目をつむり、その時が来るのを震えて待つのだった。

 

 ・・・そもそもなぜこうなったのか。なぜ少女は目の前の人物に東京湾へと沈められるなどと妄想しているのか。それは、今から少し遡る―――。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 東京湾沖に建造された、巨大な人工島がある。『新台場ギガフロート』と名付けられたそこは、島の中心にガンプラのスペシャリスト育成を目的とした教育機関『私立聖ドミニオン学園』が聳え立つことで有名な場所である。ガンプラの振興と、そしてガンプラの技術発展を目指して日々姿を変えていく学園都市の景色を、エビハラ・ミユはモノレールの窓からぼーっと眺めていた。

 

 モノレールの車内は、ミユ以外にも乗客で賑わっていた。その多くは学生で、ミユが今から向かう『聖ドミニオン学園』の指定制服と同じものを着ている。そう、今日は1年に1度の入学式なのだ。凄まじい倍率と難度の高い入試を無事合格したことで、その制服に袖を通し、その門をくぐることを許された新入生たち。聖ドミニオン学園は初等部から高等部までの一貫校であり、本来ならばエスカレート式の内部進学をしていく。だが理事長の意向により、より多くの生徒たちを受け入れるために外部入学試験を合格すれば、高等部から新たに入学することができるようになっていた。

 

『ミユ、お前には才能がある・・・。ガンプラの、才能が。それはお前の母親譲りのものだろう。だからミユ、お前はこの学校に行くんだ・・・。ここでなら、お前の才能はもっと輝く―――』

 

 ふと、地元を出る時におじいちゃんが言っていたことを思い出した。母親譲りのガンプラの才能。そんなものが自分に本当にあるのかはわからない。ガンプラの手解きをしてくれた両親は事故で亡くなってしまった。それに、あちこちのバトル大会やコンテストでトロフィーや賞状をいくつも取った母親とは違い、自分が持っているのはせいぜいが地元の小さな大会で優勝した証だけ。自分の中に眠るかもしれない才能を信じて聖ドミニオン学園への入学手続きを済ませてくれたおじいちゃんのために、ひーこら言いながら試験対策をして、難易度の高い入試をなんとか合格したまではいい。けれどミユは、入学の日になってもまだ自分の中に才能が眠るというおじいちゃんの言葉を、信じ切ることはできていなかった。

 

「(・・・みんなキラキラしてる・・・。私なんかと違って)」

 

 ちらりと他の新入生を見てみる。念願の聖ドミニオン学園に入学できるとあって、みんな嬉しそうだ。きゃあきゃあと楽しそうに騒いでいる仲良しグループの様子に、そのキラキラとした雰囲気を前に、ミユは眩しそうに目を細めた。ここにいるみんなは、未来への不安などまるでなさそうに輝いている。才能がある人というのはきっと、こうやって輝いている人のことを言うのだろう。ならば自分はどうだろうか。輝いているだろうか。わからない。日陰者として、地元の学校でもいつも隅っこにいた自分がどうなのかは。

 

「(友達百人できるかななんて歌があるけど、私には一人だって友達はできそうにないなあ・・・)」

 

 仲良しグループから目線を外して、窓の外の景色を見る。新台場ギガフロートの中心に聳える聖ドミニオン学園の偉容が、徐々に近づいていた。

 

 

 

「終わった・・・。なんで校長先生の話ってどこも長いんだろう・・・」

 

 聖ドミニオン学園の入学式を終えて、講堂からぞろぞろと出て行く生徒の波の流れに乗りながら、ミユはひとりごちた。皆さん入学おめでとう。その言葉を言う前に、あるいは言った後に長々と話ができるのは校長先生に求められるスキルなのだろうか。とにもかくにも入学式は終えた。あとは人の波に乗って振り分けられたクラスに向かえばいい。そこで自分の席を確認して、ホームルームで自己紹介をして・・・。学校の入学式なんて規模の違いがあっても似たような流れになるものだ。

 

 それにしても、とミユは思う。この聖ドミニオン学園、話には聞いていたものの生徒の数がとにかく多い。どこを見ても人、人、人。平均より少し下くらいの身長のミユよりも大きな背丈の人もいて、いま自分がどこにいるのかさえ分からなくなってきた。人の流れに乗ればいいと思っていたが、早くも前言撤回をしなければいけないようだ。このまま流されていたら日が暮れても教室に辿り着けそうにない。それは困る。入学早々にホームルームをスキップするなど、不良のレッテルを張られかねない。

 

 小さな体でどうにかこうにか人の波をかき分けていく。ともかく一度流れの外に出なければ。そこで現在地を確認して、それから教室に向かおう。幸いにも生徒手帳も兼ねるスマートフォン型の情報端末は入学式の前に配られているから調べることができる。

 

「ぷはっ・・・。なんとか抜け出せた・・・」

 

 すぽん、と何かの効果音が鳴りそうな勢いでミユは行き交う生徒たちの作り出す波から脱出した。それにしても人が多い。有数なマンモス校というのは伊達ではない。あまりにも人がいすぎて、わりと人見知りする性質なミユは眩暈がしてきそうだった。喧騒から少し離れて静かなところで一息つくと、生徒手帳を開いて地図アプリを開いた。高等部1年生の教室はここからそう遠くはない。

 

 地図を頼りに歩いていると、ドンッと誰かにぶつかってしまった。あう、と尻もちをついたミユは「す、すいませ・・・」と謝ろうとして

 

「チッ・・・」

「ひぇっ・・・」

 

 ギロリと睨まれた。ドミニオン学園指定の制服の上からいかついジャケットを着ている黒髪の少女である。赤と青という、左右で色違いの切れ長の瞳が、ミユを上から鋭く睨みつけている。怖い。どう見ても不良だ。この学園には3つの生徒会が存在し、その内のひとつである「ゲヘナ」という生徒会には、荒くれた生徒が多数在籍している・・・とネットの噂で見たことがある。どうやらあれは本当のようだった。

 

 入学初日からこんな不良少女にぶつかるなんて、あまりにも運がない。新台場ギガフロートは恐ろしいところだから、何かあれば東京湾に沈められて魚のエサにされる。ともネットの噂で見た。きっとこれから自分はその魚のエサにされるのだ。ああ、天国のお父さんとお母さん。そして地元で応援してくれているおじいちゃん。どうやら私の人生はここで詰みのようです。不出来な娘で、孫でごめんなさい。目じりに大きな涙を滲ませながら、ミユは心の中でそう詫びた。

 

「アンタ・・・」

 

 不良少女が口を開いた。すぅ、オッドアイが細められ、ミユへと手を伸ばす。これからむんずと掴まれて、東京湾に放り込まれるなりするのだろう。そうなればおじいちゃんはきっと悲しむだろうな。ミユはぎゅっと強く目をつむり、その時が来るのを震えて待つのだった。

 

 しかし・・・。

 

「アンタ大丈夫? ケガとかしてない?」

「はぇ・・・」

「てか、ひとりで立てる? ほら」

 

 腕を掴まれはしたが、それは東京湾に放り込むためではなく、尻もちをついていたミユを立ち上がらせるためだった。冷たい海に入ることを覚悟していただけに、不良少女のその行動は予想外だった。

 

「と、東京湾は・・・沈めたりは・・・」

「は?」

「ナ、ナンデモナイデシュ・・・」

 

 また睨まれて、小さく縮こまる。ひとまず東京湾に沈められることはなさそうだ。

 

「そのリボンの色、アンタ一年生でしょ。一年のクラスならあっち」

 

 リボンの色でミユが一年生だと当たりを付けて、不良少女は教室のある方向を指さす。彼女の気が変わらぬうちに、ささっと頭を下げてさささっと速足で歩く。その途中で名前を聞くのを忘れたと思い出すが、今から引き返して名前だけ聞くのもなんだかおかしいかなと思い、そのまま教室に向かうのだった。

 

 

 

 教室でのクラスメイトたちとの初顔合わせとなる自己紹介も、つつがなく終わった。正確にはミユともう一人、カ行の苗字の人が自己紹介をするときに噛んだり形状崩壊しそうになっていたが、それ以外は概ね順調だった。

 

 ホームルームの後は早くも気の合う同士でのグループが形成されつつあり、人見知りで内気なミユは誰にも声を掛けることも声を掛けられることもなく、きゃいきゃいと騒がしい教室から出て行った。先に荷物が届いているであろう学生寮へと向かう道すがら、先輩や在校生たちによる「生徒会への勧誘合戦」が行われていた。ある生徒は合理主義な『ミレニアム』の素晴らしさを説き、ある生徒は気品と優雅さを備える『トリニティ』の歴史を口にし、ある生徒は自由な『ゲヘナ』の力強さをアピールした。

 

 聖ドミニオン学園には多くの生徒を束ねるための生徒会が3つあり、それぞれ別の特色を持っている。一応この3つのどれにも当てはまらない補生徒会『アリウス』というのも存在しているが、勧誘の必要がないのかアリウスの名を口にしている生徒はここにはいないようだった。

 

「か、か、か、考えさせて・・・!」

 

 熾烈な勧誘合戦に巻き込まれていたミユは、目をぐるぐるにさせながら精一杯そう言ってその場を凌ぐしかなかった。3つの生徒会、たった一度の学生生活の中で、そのいずれかを選ぶというのは、その後の学園生活も左右しかねない。そうでなくても入学早々でキャパシティーの限界が近い。今はどこの生徒会に入ったからいいか、を考える余裕など残されていなかった。

 

「あば、あば、あばばばばばば・・・」

 

 ミユ以外にも勧誘合戦に巻き込まれて右往左往している生徒がいるらしい。群がる生徒たちに阻まれて姿までは見えなかったが、震えた声だけは聞こえてくる。そんなこんなとしていると、しゃらくせぇガンプラバトルで勝負だ! との声と共に、ガンプラを手にした生徒たちが駆けて行く。ガンプラのスペシャリストを育成するための学校だけあり、揉め事もガンプラバトルで決める、というのは自然な流れだった。

 

 ミユを勧誘していた生徒たちもいつの間にかいなくなっており、人が減ったことでようやく一息つく。これ以上ここにいるとまた絡まれるかもしれない。肩に掛けていた学生カバンを担ぎなおして、ミユは学生寮に向かって一歩踏み出そうとして、

 

「あれ、アンタさっきの・・・」

 

 後ろから掛かった声に、ミユは動きを止めた。つい最近聞いた覚えのある、低めの声。ギギギ・・・と油の切れたブリキのような動きで後ろを向くと、そこにはジャケットのポケットに手を突っ込んだ不良少女が立っていた。

 

「アンタこんなとこで何してるのって、そんなの聞くまでも無いか。勧誘合戦、ダルいよね」

 

 言いながら、不良少女はポケットから棒付きキャンディを取り出すと包装紙を取って口に放り込む。それをコロコロと口の中で転がしながら、じっとミユのことを見つめる。一方見られているミユは、ヘビに睨まれたカエルのような心境だった。なぜ自分に声を掛けてきたのか。やっぱりぶつかったことは許していなくて、気が変わったから東京湾に沈めようとしているのか。やはり自分の命運はここまでなのか。天国の以下略。

 

「ねえアンタ」

「は、ひゃいっ、や、や、やっぱり東京湾ですか・・・?」

「はぁ?」

「ナンデモナイデス・・・」

「アンタさあ、どこの生徒会に入るかもう決まってる?」

「い、いえ・・・まだ・・・全然・・・」

「あっそ」

 

 コロコロと口の中で転がしていたキャンディの棒を持って、不良少女はガリ、とそれを噛み砕く。棒だけになったそれを包装紙に包んでポケットに突っ込むと、代わりに新しい棒付きキャンディを取り出して、ミユに向ける。

 

「ならさあ、アタシらんとこに来なよ。3つの生徒会どこでもない、第4の生徒会・・・補生徒会『アリウス』にさ」

「はへ・・・」

 

 ニヤリと、鋭く()を覗かせて、不良少女は名乗った。

 

「アタシはカミオイノヅカ・カズサ。アリウスの牙」

 

 

 

 

 

 




TIPS:

【エビハラ・ミユ】
 私立聖ドミニオン学園に編入試験を受けて入学した高等部一年生。人見知りで内気な性格が災いし、万年ぼっちな少女。凄腕のビルダーだった母親と同じ才能がある、と育ての親の祖父に聖ドミニオン学園への入学手続きを進められなんとか入学した。しかし自分と違ってキラキラと輝く他の生徒たちを見て、自分には祖父に言うように母のような才能があるのだろうかと懐疑的。使用するガンプラはオリジナルのSDガンダム『ネバーワイス』。



【カミオイノヅカ・カズサ】
 私立聖ドミニオン学園の高等部に通う学生。学園の指定制服の上から鉄華団のジャケットを着ている。ポケットには棒付きキャンディと、食べた後の棒と包装紙が詰まっている。目つきが鋭く、そのつもりがなくとも睨んでいると勘違いされてしまう。所属しているのは3つの生徒会のいずれにも属さない補生徒会『アリウス』。アリウスの牙を自称している。
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