Acxis   作:ユ仲

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Chapter1-9

「青いね~」

 

 僕の隣でシャルが目の前の光景を見ながら呟く。

 

「青いなぁ」

 

 そして、僕はシャルの隣で頭上を見上げながら呟く。

 

 眼前に広がるのは青い海。

 頭上に広がるのは何処までも続く青い空。

 天候は快晴。まったく持って今日という日はバカンス日和と言えるのではないだろうか?

 

 そう、もう分かると思うが、何を隠そう僕たちは今日、皆で海へとやって来ていた。

 

 

 

 ……船で。

 文字通り海、太平洋へとやって来ていた、もう一度言うが船で。

 それも客船なんて物ではなく軍用艦で。

 

 

 

 あの司令による発表の後、各スタッフの移動先がクレストから通達されてきた。

 

 僕やシャルル、シゲさんは日本へ。

 ラナはフランスへ。

 そしてジャックはアメリカで留守番、ではないけど、クレストの本社の方へ。

 

 それぞれの国と場所を目指して一時的ではあるけど、その道を別にした。

 それぞれの愛機と共に。また会おうという約束をして。

 いや、実際きっとまた直ぐに会えるのだろうけれど。

 

 

 

「それで、何でまた一々、揚陸艦なんて代物を持ち出して使ってるんですか?僕たちというか、クレストは」

 

 ホント、なぜなのか?輸送機で向かえばすぐに着くのに。

 どこからかパラソルを持ち出し、甲板の上、ビーチチェアに横たわっているシゲさんに問い掛ける。

 

「いや、それが何かね。クレストの上層部がえらく気合い入っちゃっててさぁ」

 

 軽い感じ。雰囲気だけはバカンスなシゲさんが語る。

 

「こうやってさ『運用艦を持ち出して行く事で、実際に実用段階まで既に開発が進んでいる事を知らしめるのだ!』とか言っちゃってるんだよねぇ」

 

 少し呆れたようなシゲさんの表情。

 そこには呆れと共に諦めさえ感じられる。

 

「……でも実際は海軍の方と結託してたみたいでさ。海軍としては何とか艦船を減らされまいとしててね、それをクレストに頼み込んで、こうして大々的にアピールする事で何とかしようとしてるわけなんだよ」

「……大人の事情ってわけですか」

「その通り、大人の事情だねぇ」

 

 はぁ、と一緒に溜め息。

 

「俺個人としても輸送機で行った方が楽だし早いしで、良かったんだけどねぇ」

 

 やれやれと首を振るシゲさん。

 右手にグラスを持ち、いつもの野暮ったい眼鏡がサングラスに代わっている分、説得力はない。

 

「でも私、こういうの嫌いじゃないですよ?」

 

 そこで加わってきたシャルの声。

 

「たまには良くないですか?こうやってのんびりするのも」

 

 まぁ、確かに。プラス思考で考えればそうなのかもしれない。

 

「何にしても、後一日、二日ゆっくりしてると良いよ?」

 

 はーい、と二人でそろって返した了承の言葉。

 

 それでは、さて、本格的にどうやって時間を潰そうか?

 

 

 

 

 という事でやって来た格納庫。

 

 図書室で読書に浸るのも良いが、今は何となくそんな気分ではない。

 それに、日本に着いたら一時的だが別れなくてはいけない物の場所へと行く。

 

 そこでは広い格納庫の中、機材や何やらに囲まれる中で膝を着いた降機体勢の黒い機体――クロノスがその出番を今か今かと待ち望んでいた。

 だけど、今回、用があるのはそっちではないのでスルー。

 今回の目的は、格納庫の端っこの傷が所々に目立つパワードスーツ、MTの方だ。

 

 頭部横のレバーを引いて、コクピットオープン。

 そこに慣れた手つきで、身体を滑らすように、両手両足を入れていく。

 スティック操作。開いていた装甲が閉まって行き、目の前にはセンサーから送られる外部の映像と機体の所々に注意を促す表示。

 

「大分無理させてたしなぁ」

 

 シャルと初めて出会った日のジャックの動作、あの日以外にもジャックが機動制御に挑戦し、その度に何度も転んでいた。

 最終的にはストップ&ゴーくらいなら普通にこなせるようにはなっていたが、前々からパーツが傷んでいたのも合わせて、現在のように損傷報告が出ている。

 

 それでも、戦闘機動は出来ないが、通常動作、日常動作くらいは出来る。

 

 機体の固定を外し、格納庫内で確認の意味も含めてその動作を行っていく。

 腕を回したり、胴体部を前後へ反らしてみたり、左右へ捩ってみたり、一つずつその感触を確かめるように。

 身体に馴染んでいるという感覚。

 今でこそ、前方で待機しているクロノスの方に慣れてしまったが、こうして乗っているとその乗り方、操り方を身体が未だに忘れていないのがよくわかる。

 

「おーい、何やってるのー?」

 

 声の方向を思わず注視、その後、ふぅと息を吐く。

 その方向、クロノスの向こうから歩いているのは何かの飲み物を持ったシャルの姿。

 彼女がこちらへ向けて手を振りながら歩いて来ていた。

 

 その姿を確認すると共に機体を元の位置へ戻していく。機体が勝手に動いたり、ズレたりしないように固定の方もしっかりと締めながら。

 その後、コクピットを開放。シャルの前へと降り立つ。

 

「ちょっと久しぶりに動かそうと思って……ってどうしたのさ?」

 

 シャルに返事を返そうとすると、こちらへ来たシャル自体はMTを興味深そうに見つめている。

 

「話には聞いてたけど、すごいね。私物なんだよね?」

「うん、そうだけどって、あれ?見せた事なかったっけ?」

「そうだよ。いつ見せてもらえるかって楽しみにしてたのに……」

 

 いきなり、しゅん、と落ち込んだ表情を見せるシャル。

 うっ……なんか、こういうのは心が痛くなる。正直、対処法がわからない。

 むむ、一体どうすれば……?

 

「なーんて冗談だよ。そんなに慌てなくてもいいのに……それに、はい」

 

 いや、まったく、シャルは表情が豊かになったのは良いけど、こういう事にそれを使ったりするから困る。

 

「……ん、ありがとう」

 

 軽く投げられたドリンクを受け取る。おそらく中身はスポーツドリンク。

 少量ずつ口に含み、喉を潤していく。

 

「それにしても、かなり年期の入ってる機体だよね」

 

 おそらくは装甲各所の傷を指して言っているのだろう。

 それを示すように、機体へとに近付き、そこかしこにある傷を手で撫でながらこちらへ問い掛けてきている。

 

「まぁ、五年は乗ってたからね。よくよく考えたら、継ぎ接ぎの補強とその場しのぎの整備でよく動いてたもんだよ」

「……そっか、かなり思い入れのある機体なんだね」

 

 シャルは、何か慎重なというか、どこか遠慮がちなというか、とにかくそういった表情を今度は見せている。

 シゲさんに何かまた、ろくでもない事を吹き込まれたのかな?別に話されて困るような事は何もなかったとは思うけど。

 

「というか、あれ?今更だけど、これ、えーと……マッスルトレーサーだっけ?」

 

 話を変えようとするような質問。答えはイエス。略してMT。

 

「……MTも一緒に持って来たんだ?」

 

 ああ、確かにそれは気になるかもとは思う。

 別に緊急性を必要とする物でもないし、

 実際にMTからの発展開発なんかは、僕らが着任するずっと前に終わっている訳だし。

 私物とは言え、こんな場所をとる物をどうして持ってきたのかというな感じで、思うところはあるかもしれない。

 でも、それにだって答えはある。

 

「うん。何か日本でMTを見せたい人がいるってシゲさんが言ってて、ついでに何か、その人が格安で全面的に、内装も含めてオーバーホールもしてくれるって話だったからさ」

 

 それを受けない手はないだろうと思って。

 

「へぇ、そうなんだ。この子もまた綺麗に生まれ変わるんだね」

 

 この子?

 

「ああ、うん。フランスにいた頃はさ、ほとんどというか、私の専用機みたいな形で使っていたISがあったから」

 

 成る程。それで愛着が湧いたんだ?

 

「ん~?愛着と言えば愛着なんだろうけど、ちょっと違うかな?」

 

 何だか勿体振って話すね?

 

「ふふ、知りたい?」

 

 ……、やっぱり良いや。また今度という事で。

 

「ち、ちょっと待ってよ、そこは私に聞いてくる場所だよ?」

 

 はいはい、冗談だよ冗談。さっきやられた仕返しという事で。

 

「むぅ」

 

 まったく、何を膨れてるんだか?自業自得だよ。自業自得。

 まぁ、それは置いといて、話の続き、教えてよ?

 

「む……」

 

 はぁ、わかったよ……あぁ、どうか卑しく無知な私めに教えて下さい、シャルロット姫殿下。

 こんな感じで良いんでしょ?

 

「うむ、よろしい。教えてしんぜよう」

 

 はいはい、……でも、本当にシャルはその動作というか、表情の使い方が上手くなったよね。

 

「あ、うん。ラナさんが『あいつは落ち込んだりした表情に弱いから、使っていけ。きっと面白いぞ』って言ってたから」

 

 オーケー、ラナの仕業か。

 後で仕返しを……とは思ったけど、こちらがやられている光景しか浮かばないのは何故だろう?

 

「ふふ、でもホントに弱いんだね。いつも、クロノスに乗ってる人とは同じ人には思えないよ」

 

 シャルは不思議そうにこちらを上から下へと、まるで珍しい物を観察するかのように見てくる。

 まぁ、でも確かに、乗ってる時と乗ってない時とじゃ、性格が変わるとは良く言われるかも。

 

「うーん。確かにクロノスに乗ってる時は鋭いというか、凛々しく感じるけど、今は何だろ?……雰囲気がこう牧歌的というか、何と言うか」

 

 ……褒められてるようには、なんか聞こえないんだけど?

 

「い、いや、褒めてるよ?ほら牧歌的だよ?羊とか山羊とか飼ってそうな雰囲気だよ?」

 

 それは褒められてる、のか?

 

「だから褒めてるんだってば……」

 

 羊と山羊、ねぇ?

 

「うっ……」

 

 いや、そういえばそれよりもさ。話の続きはどうしたのさ?

 

「話?」

 

 あれ、ISへの愛着が……って話の事。

 

「あ、すっかり忘れてたよ」

 

 ……人を牧歌的だのなんだのと言ってるから。

 

「……話を始めたのはそっちだよ?」

 

 ん?そうだっけ?まぁそれはともかく続き続き。

 

「まったくもう。……話を戻すけど、とりあえず愛着とはちょっと違うという所までは話したよね?」

 

 そう、そこまで。愛着かもだけどそれだけじゃないって、ね。

 

「うん、ありがとう。とりあえずね、ここで、始めに言っておきたいのは、ISも生きているんだって事なんだ」

 

 生きている?それは比喩的な意味で?

 

「『生きている』という事をどんなふうに見るかによってそれは変わってくるかな?」

 

 そう言ってシャルは一旦、息をついて後に、続けていく。

 

「まずは、生きるという事。それが生物的生命、つまりは細胞の代謝による化学的な反応だとしたら、確かにISは『生きている』とは言えないよ」

 

 成る程。生きているとは言っても生物ではないという事か。ふむ、成る程。

 

「でも、生きるという事が、人間的、思考と学習から成り立つ物だとしたら、ISは確実に『生きている』と言えるんだ」

 

 学び考え応用する。

 確かにそれは人が造り出した物であっても、人間的な生命と言えるのかもしれない。

いや人造だからこそ、人間的なのか?

 

「ISは学び思考し成長する。それは自己進化プログラムだって言われてはいたけど、プログラムだったとしてもそれはちゃんと生きてたんだよ」

 

 シャルの顔に浮かぶのは寂しさや悲しみといった表情。

 最近は見ていなかったが、やっぱりそれを消し去る事はできない、か。

 

「乗れば乗るほど、あの子は答えてくれたよ。それがさ、私に対しての信頼みたいに感じてた。確かにあの人に対する気持ちはあったのは間違いないけれど、あそこでの頑張りは、唯一の友人に応えたいって気持ちがあったのかもしれないなぁ」

 

 しんみりとした空気。

 そこに浮かぶのは悲哀か懐古かそれとも自嘲なのか。

 正直、その表情は納得がいかない。

 

「……、でも唯一の友人がISだとは、シャルは本当に寂しい奴だったんだな?」

「な、何で、このタイミングでそういうこと言うかな?」

 

 あえての追い撃ち。

 シャルの表情に戸惑いとやっぱりちょっと怒り?の感情が浮かんでいる。

 まぁ、それでも。

 

「いやいや事実でしょ?れっきとした事実なのだよ。シャルロット君」

「そっちこそ、MTを相棒だなんだ言っていたよね?それはどうなの?」

 

 ……否定はしない。二倍以上の時間を一緒にいた分、むしろ酷いのかもしれない?

 

「ほら見なよ。結局同じじゃないか?」

 

 それは、あれだよ。そこは似た者同士という事で……。

 

「あ、うん……そうだね、似た者同士だね」

 

 何とか場を和ませる事はできたのかな?シャルはこちらを微笑を浮かべて見ている。

 何かこちらの意図が見透かされている気がしないでもないけど、やっぱりシャルはそうやって明るい表情でいた方が良い。

 暗い表情でいるよりはこっちの方が何倍も良い。

 

 まぁでも。

 

「あ、でも相棒という点では、ずっと前から使ってるハンドガンもあるし、シャルよりは友達多いかも」

「ち、ちょっと、そういうのがありなら私にだってあるよ……」

 

 こうやって騒いでるのが一番だと思う。

 

 

 結局、時間つぶし暇つぶしという事で格納庫に来た訳だったんだけど、その殆どはこうしたシャルとの会話で消費してしまっていた。

 

 目的地である日本まで後少し。

 

 それまではゆっくりと緩やかに、やんわりと穏やかに何も起きないと良いのだけれど。

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