Acxis   作:ユ仲

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Chapter2-5

 備え付けられたモニター。

 映し出されているのは外風景。

 

 そこに映る観客席にはスーツを纏った様々な年齢人種の人々の姿がある。

 それはただの観客ではない。彼らは各国各企業を代表とした要人達だ。

 

 多くの生徒達で混み合い騒がしくあるその更衣室の中、モニターを眺めながらも黙々と制服からの着替えを進めていく。

 身に纏っていくのはナービス社製のISスーツ。

 

 耐弾機能や操縦補助機能を兼ね備えるISスーツではあるが、それに加えて着用による違和感をできるだけ覚えさせないような材質と作りにもなっている。

 

 今、身に纏っているこのナービス社製のスムーズモデルなども、その点がさらに追究されていて、『着ている事を忘れさせる』と言われるほどに、柔らかく滑らかな素材で構成されていた。

 

 そうして身に纏ったISスーツの色は橙色。裾の部分には藍色のライン。

 

 何だか派手には思えるけれど、そこからは少しでも目を引きたいという考えが見て取れ、その理由を察してみると、しょうがないのかなとも思える。

 

 ワンピース状のそれを着終えた次は、太腿の半ばまである、丈の長いハイサイソックス状の脚部スーツ。

 近くの椅子に腰を下ろし、ゆっくりと脚を通していく。

 それが終われば準備は完了。

 制服を納めたロッカーを閉め、すぐに更衣室を後にする。

 

 

 学年別トーナメント。第一学年Aブロック第一回戦一組目。

 

 転入してから、もうすぐ一ヶ月。そんな私に訪れた、学校生活での初めての学校行事。

 それはまさに最初であり、私達はこの行事のオープニングを飾る。

 そしてこの行事は、元々負けられないものではあったけれど、さらに負けるわけにはいかないものになってしまった。

 

 対戦相手はラウラ・ボーデヴィッヒ、篠ノ之箒ペア。

 対抗するのは、私、シャルロット・デュノアと一夏のペア。

 初戦からこの組み合わせになるなんていうのは、まったく持って誰かの作為か、何かの因縁としか思えない。

 

 ラウラと一夏のこともそうなのだけど、それは私とラウラとの因縁でもある。

 言い換えるのなら、デュノア社とローゼンタール社の開発競争という点での企業的因縁。

 

 ……とは言ってはみたものの、本音を言えば、既にデュノア社の未来はどうでもいい。

 

 だけどデュノア社への貢献が、私と『皆』との未来を繋ぐものであるのだとしたら、それは途端に重要なものへと変化していく。

 

 だからこそ、私は負けられない。

 それは自分自身の未来の為にも。

 友人の為にも。

 ……それに彼女の為にも。

 

 気を引き締めながら歩みを進める。

 目指すは開始される試合の当該選手用の待合室となるアリーナのピット。

 今回、コンビを組む一夏は、おそらく既にそこへと向かっているはずだ。

 

 うん、それならピットへ急いで行こう。

 そして早めに合流して、その対策と方針を立ててしまいたい。

 来るべき戦いに備え、確実な勝利を収める為に。

 

 

 

 

「一夏、行けるね?」

「ああ、もちろんだ」

 

 メインアリーナ。

 競技場を囲う大勢の観客達の前、私達は既に機体を展開して、距離は離れていながらも対戦相手たる彼女達と相対している状態にある。

 

 正面に見えるのは対戦相手。

 ラウラの乗る第三世代型『シュヴァルツェア・レーゲン』と、箒の乗る第二世代型の量産機体『打鉄』。

 対するのは隣、一夏の駆る『白式』と私の相棒『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅢ』。

 

 総合的な戦力差は未だに未知数。

 機体性能。搭乗者の力量。相性。それらを考えてみても、どちらが優れ劣っているのか、詳細な解析は出来ない。

 でも、それ以外の要素は明らかだ。

 

「作戦通りにやらせてもらうぞ?」

「サポートは任せて。だからそっちもきちんとね」

 

 コンビネーションと戦術。

 この二つが今回の勝敗を大きく左右してくるはずの要素。

 

 ラウラの力量は確かに高い。

 シュヴァルツェア・レーゲンも前評判通りの良い機体だ。

 だが、決まったばかりである箒との即席コンビと、私と一夏との一応は日頃組んでいたコンビとでは、互いの特性理解、機動理解という点でも差があるはずだ。

 

 そしてそれは私達に対して、大きく有効に働いてくれるだろう。

 

「……でも、そっちは良かったのか?」

 

 ん?

 唐突なタイミング。神妙な表情で一夏がこちらに問い掛けてくる。

 

「あいつとは、友達なんだろ?」

 

 ああ、そういうことか。

 この間の出来事。

 その影響で欠場せざるを得なくなった二人のことがあってなのか、今日の一夏はいつにも増して気合いが入っている気がする。

 その出来事を抜きにしても、ラウラには何かあるみたいだけど。

 

 それはそうとして、今は私のことか。

 

「うん。一方的かもしれないけど、ラウラの事は友達だと思ってるよ」

 

 私にとってラウラは友達だ。

 ラウラから見たら違うのかもしれないけど、それでもいつかは、互いに友達になりたいと思っている。

 

 一夏にそう答えた後に、でも、と言葉を切ってさらに続けていく。

 

「友達だと思っているからこそ、悪いことは悪いって正してあげなきゃいけない」

 

 先日、IS稼動の授業時にラウラが起こしたこと、やったこと。

 セシリアとリンを相手に直接的な戦闘を含んだ騒動を起こし、二人を嬲るかのようにして痛め付け傷付けたこと。

 挑発に乗った二人にも責任があるとはいえ、それはとても見過ごすことはできない問題だ。

 

 実際にそう思って、その日の放課後、ラウラに対して注意をしたものの、まったく聞く耳を持ってはくれなかった。

 

「どうしても言葉が届かないのなら、それこそ力づくにでも、ね。……私、何か間違ってるかな?」

「いや、俺もそれで良いと思うぜ?駄々っ子にはキツく言い聞かせる事も必要だからな」

 

 いつも一方的な肉体言語によって、織斑先生と語り合う一夏がそれを言うのは、説得力があるのか無いのか、どっちなんだろう?

 

「ま、まぁ、その為にも今日はとにかく、勝つぞ?」

「もちろん」

 

 何だかこちらの視線を感じ取ったのか、ごまかすように気合いを入れる一夏。

 それに応えてこちらも頷く。

 

 ただ、一夏にはああ言ったけれど、私がラウラに対して思っていることはそれだけではない。

 加えて、一夏にはまだ言っていないこともある。

 それらを心に伏せたまま、今はただ始まりの時を待つ。

 

 

『会場の皆様、まもなく試合が開始されますので……』

 

 響く会場アナウンス。一瞬、そちらへ気が向かったけれど、意識はすぐさま目の前へ。

 浮かぶ空間投射ディスプレイ。その画面上、カウントダウンが遂に始まった。

 

 未だに喧騒を纏う観客席に対して、ただただ静けさに充ちるグラウンド。

 白と黒。

 髪も機体も正反対のカラーリングをした二人が睨み合うようにして、見つめ合っている。

 

 進み行くカウント。

 緊張感さえ漂う場の空気。

 そうして相対した状態で目の前の数字が残りの10を切った時、一夏が口を開いた。

 

「シャルロット、それじゃあ俺は先に行く。……できるだけ、遅れるなよ」

 

 そこにあるのは静かな闘志。それを密かに燃やしながらの言葉。

 

「そっちこそ、開始早々ノックアウトとかは止めてよね?」

 

 対して返すは、おどけるような軽口。

 

「……まぁ、多分大丈夫だ」

 

 頷く一夏。消えていく数字。

 やがて数字が0を示した時、会場内に試合の開始を告げるブザーが鳴り響いた。

 

 そして、それは一瞬。

 白い影を曳いていくように、たった一つの瞬きの間に、一夏の乗る白式の姿が掻き消えた。

 

 イグニッションブースト。

 瞬時加速と言われる加速技能。

 それを駆使し、白式は一発の銃弾となってシュヴァルツェア・レーゲンへの奇襲を仕掛けていく。

 

 一夏の操る白式のワンオフアビリティー『零落白夜』はISを一撃で落し得る強力な武装だ。

 今回はそれを使っての先手必勝、一撃必殺を狙っての奇襲を行った。

 

 

 まぁ、そうして行った奇襲だったのだけれど。

 白式の背中を追いながらも前方を見ると、そこには、AICの網に機体を捕らえられて静止する一夏の姿。

 

 ……うん、やっぱり。でも、これも想定通り。

 

 策は第一案から第二案へと移行。

 リヴァイヴの背中、四枚のブースターを噴かしながら、高速で白式の背中を飛び越えていく。

 

 視界は白から黒へ。

 停められている白式から、レールカノンを構えたシュヴァルツェア・レーゲンへと移り変わる。

 目に映るラウラもこちらに気付いてはいるはずだが、動きのない無防備な状態。

 右手に呼び出したアサルトカノンによって、そこを撃ち抜いていく。

 

 まずは白式を狙うレールカノン。続けて装填、次は直接機体へ向けて。

 

「くっ!」

 

 レールカノンに対する攻撃により、白式への照準を外されると、直ぐに機体を後退させていくラウラ。

 そこに、畳み掛けるような追撃を加える。左手にもマシンカノンを展開。

 そして、ラウラへと浴びせゆく大量の銃弾。

 

「私がいることを忘れるな!」

 

 しかし、そんな言葉と共に射線上へと飛び込んで来たのは、実体シールドを掲げた箒とその機体、打鉄の姿。

 打鉄は銃弾をシールドで弾くと、そのまま、手に持つ刀状の実体ブレードで切り込んでくる。

 

「させるかよ!」

 

 箒がラウラを守ったように、今度は一夏が私を守る。

 私に向けられた斬撃との間に、イグニッションブーストを用いた一夏が入り込み、斬撃をその手に持つブレード『雪片弐式』で受け止めた。

 

 白式によって勢いを止められ硬直する打鉄。それを見逃すわけにはいかない。

 すぐにリヴァイヴを回り込ませ、大きな隙を見せている打鉄に向けて銃撃を……って。

 

「何っ!?」

 

 その時響いたのは一夏の声ではなく、後方へと勢い良く飛んでいる箒のもの。

 

 引き金を引いた瞬間、いきなり視界から消えたと思ったら箒自身の驚きの声と共に飛んでいた。いや、飛ばされていた。

 大きな音と共に墜落に近い形で着地する打鉄。

 よく見ればシュヴァルツェア・レーゲンが、その機体にワイヤーブレードを収納している最中だった。

 どうやら、あれで箒を助けたらしい。

 

「……邪魔だ」

 

 ……どうやら、助けたわけではないらしい。

 

 箒もそのラウラの行動に文句を言っているが、それは確かに言いたくもなる。

 助けてくれたのはありがたいことだとは思うけど、投げっぱなしといった感じで僚機を放り投げていたのだから。

 

 ……まったく、チームなんだから、もうちょっとやりようはあったと思うよ、ラウラ?

 

 そんな風に思いはするけど、試合中での相手の不仲は喜ばしいことに間違いはない。

 

「一夏」

「ああ、わかってる」

 

 両手にエネルギーブレードを展開し、白式へと突っ込んでくるラウラを見ながら、一夏へと言葉を掛ける。

 

「手筈通りに、な!」

 

 その返事と共に、白式はシュヴァルツェア・レーゲンと交戦状態へと入っていく。

 

「さて、箒?あなたの相手は私だよ?」

 

 その光景を背中に機体を加速。シュヴァルツェア・レーゲンと同じく、白式へと向かおうとしていた打鉄に機体をぶつける。

 

 両手に持つのは実体ブレード。

 双振りの刃が相手の一振りの刃と打ち合い、火花が散らされていく。

 

「くっ!……だが、その程度の剣の腕で!」

 

 そうして、一瞬、吐くような呼気と共に振るわれる太刀。

 その軌道は綺麗な孤を描きながら、こちらを狙う。

 

 こちらもその孤に合わせて、ブレードを当て、刃の軌道を受け流す。

 しかし、受け流したにも関わらず、瞬時に翻り再び襲い来る刃。

 それには、もう片方のブレードを使い何とか対応。

 

 それでも執拗に襲い掛かってくる鋭く、重く、速い斬撃。

 徐々に、その剣撃に押し込まれながら、確かにこれは、と心の中で呟いた。

 

 

 私と箒。

 こうして打ち合うまでは、注意すべきはラウラのみだと考えていた。

 搭乗経験。戦闘経験。どれも私やラウラに比べると、長いとは言えない所か、短いと言っても良いものであり、そのIS適性を含めても、とても脅威にはなりえないだろうと。

 

 しかし、どうだろう。

 こうして打ち合ってみれば、手数が多いはずのこちらが完全に押されている。

 

 何より驚いたのはその剣の流麗さだろうか?

 振るえば瞬時に翻り、美しさを伴ってこちらを的確に襲う。

 

 それはまさに、個人の才能に積み上げた努力と、磨き抜いた技術があってこそのもの。

 その剣閃は、以前に手合わせをした一夏のそれの、さらに上の上を行く。

 ISという延長物を背負ったとしても、その剣を実現させる彼女は、強かった。

 

 

 ……だけど、いやだからこそ、惜しいと感じた。

 

 いくら剣の腕が私より遥か高みにあったとしても、振るわれる刃がどれだけ美しかったとしても、その機体では彼女自身の力を出しきれず、それ故にこのリヴァイヴには勝てない。

 

「……ごめんね?」

 

 一言、言葉を漏らし、今まで打ち合っていた刃を変換していく。

 そこに現れるのは実体シールド。

 それをもって、振るわれる刃を弾く。

 

「なっ!?」

 

 刃を弾き、次に聞こえたのは箒の驚きを示す声。

 しかし、それはどちらの意味での驚きだろうか?

 

 刃が突如現れた盾によって弾かれたことか、それともこうして私が『その視界から消え、背後を取っていること』か。

 

 箒が私を見失っている、その間にもこちらは武装を再び変換。

 両手に握るのは、そうして現れたショットカノン。

 引き絞られるトリガー。

 それと共に放たれる対シールドバリア用の散弾。

 多数に別れた弾丸が至近距離から打鉄を襲う。

 

「くっ!?」

 

 打鉄が被弾による衝撃を吸収しきれず、箒の苦悶の声と共にその機体を宙へと浮かす。

 

「一体、何が……?」

 

 それでも尚、機体にダメージを受けつつも、こちらを振り返ろうとする箒。

 しかしその時には再び、こちらは『クイックブースト』によって打鉄の背後へと回り込んでいる。

 

「そんな……後ろだと!?」

 

 それに気付いた彼女は、何とかこちらに振り向く様子を見せているけれど……やっぱりもう遅い。

 

 両手では再度の変換。

 打ち合うことでもなく、切り合うことをも想定していないその武装。

 ただ一瞬で振り抜き、切り抜くことだけを求めたその刃。

 高出力エネルギーブレード。いやその短身はブレードというよりはダガーとでもいうべきなのだろうか。

 

 双振りのそれを打鉄の無防備の背中へと振るう。

 

 シールドバリアを異とも介さず、打鉄本体へと至る、二つの光刃。

 そして刃は打鉄のISアーマーをも破壊して、機体に絶対防御の発動を選択させた。

 

「……やられ、たのか?」

 

 強制的にシステムを停止する打鉄。

 それに包まれた箒は、呆然としたように言葉を小さくこぼしている。

 

「うん。ごめんね?」

 

 悔しそうに俯く箒に対し一声をかけ、リヴァイヴをもう一つの戦場へと向ける。

 そこには案の定、シュヴァルツェア・レーゲンに押されつつある白式の姿があった。

 

 それを見てすかさず、ブースターを展開。

 背部中央の二枚のブースターユニットによる『オーバードブースト』。

 圧縮される空気とそれが吐き出されることによる甲高い噴射音。

 

「く――――ぉぉ!!!!」

 

 背後では箒が空を見上げ何かの声を上げている。

 だけど、オーバードブーストの音に掻き消され、それを聞き取ることはできない。

 

 PICとオーバードブースト、二つを併せたことによる超高速状態で、苦戦を続ける一夏の支援へと向かう。

 

 

 

 

 

 目前に迫った光景。

 そこでは零落白夜を発動したは良いけれど、やはりAICに捕らえられている一夏がいた。

 そして、やはり試合開始直後と同じく、捕らえた白式にレールカノンを放とうとしているシュヴァルツェア・レーゲン。

 

 だけど忘れてはいけないよ、ラウラ。

 この試合がコンビでの戦いであることを。

 

 武装変換。

 右手に握るのはエネルギーライフル。

 狙い撃つのは、発射体勢に入っているレールカノン。

 引かれるトリガー。放たれる光。

 

「ちっ……デュノアか!?」

 

 撃ち抜かれた砲身の爆発と同時に、レールカノンを切り離したラウラが、後退をしながらも憎々しげな視線をこちらへと送ってくる。

 

「ったく、遅かったな」

 

 そんな危機を脱した状況に、ホッとしたような表情を見せながら、軽口を叩いてくる一夏。

 

「助けに来ただけ、ありがたいと思ってほしいな」

「おいおい……」

 

 見ればその白式の姿は各所を損傷した満身創痍に近い状態。

 一歩遅ければ、墜とされていたのではないだろうか?

 

「それで……残りのエネルギーは?」

 

 こちらの様子を注意深く窺うラウラに視線を合わせながら、今の相方に対して尋ねる。

 

「あー、すまんがガス欠寸前だ」

 

 申し訳なさそうに答える一夏。

 つまりは、さっき発動させていた零落白夜で、エネルギーを使い切っちゃったわけなのか。

 

 でもそれは、こちらからすれば好都合。

 

「……じゃあ、はい」

 

 アサルトライフルを右手に展開。

 それを白式に手渡していく。

 

「って、これ?」

「そうだよ。一夏が今まで使ってた奴。……いざとなったらそれで自分自身のことを守ってね」

 

 手渡したのは、日頃の授業で一夏にもその所有権を分け与えていたもの。

 弾は既に装填済み。ついでに追加の弾倉もいくつか渡しておく。

 シュヴァルツェア・レーゲンに対抗するには心許ないものではあるけど。

 

「――だから、今から一夏は手を出さないで」

 

 今から始めようとしているのはラウラと私とでの一対一の戦いだ。

 それは一夏には言ってはいない第三案。

 私の中では実行が決まっていた出来事。

 

「おい、それはどういう……」

「……私にはね、まだ一夏には言ってないことがあるんだ」

 

 一夏の疑問を遮って言葉を紡ぐ。

 

「何で今回、一夏とペアを組んだのか?気にはならなかった?」

 

 開きかけた口を閉じるその様子。

 どうやら気にはなっていたらしい。

 

「確かに一夏と授業で組んでたのもあったけどね……でも、やっぱり打算があったからだよ」

「打算?」

 

 訝しげな表情。

 まぁ、いきなり利用してました、なんて言われたら確かにそうはなるよね。

 

「うん、だって一夏って目立つでしょ?あのブリュンヒルデの弟で、しかもISを操れる唯一の男子。……一夏が思ってる以上にそれは、重要なんだよ」

 

 それは誰もが注目する存在だ。

 ISに関わる国家企業、その全てが。

 今、こうしている間も、観衆達はこちらの一挙手一投足を観察しているだろう。

 

「私にとってはその目立つってことが何より重要だったから」

 

 それはデュノアとしての役割であり責務。自社製品の性能アピール。

 それと共にデュノア社のシャルロットから、普通のシャルロットに変わるために必要なこと。

 

「そうなのか……」

「どう失望した?」

 

 口調を落とし呟く一夏。

 そんな彼にその落ちた心中を問いただす。

 

「いや、まったく。……そんな悪ぶった演技に、引っ掛かるとでも思ったか?」

 

 すると一夏は大きく息を吐いた後、呆れたような視線をこちらへとぶつけてきた。

 

「あれ?解っちゃった?」

 

 うん、確かに演技ではあったのだけれど。

 

「当たり前だろ?普通、そんな見え見えの演技に引っ掛かる奴が……」

 彼だったら真面目に引っ掛かってくれるんだけどなぁ。

「……あー、あいつは引っ掛かるな、うん。あいつ、意外と単純だからな」

 

 一夏の言葉、私の言葉。

 共通して思い浮かぶのは、一人の少年。

 常識人ぶっておきながら、なにかと世間知らずな彼の姿。

 

 ……話がずれた、今は彼の事は置いといて。

 

「でも、それ以外にもさ」

 

 それは私の持つもう一つの理由。

 

「私の友達は私が助けたい」

 

 ある意味で最も大きなウェイトのもの。

 

「助ける?」

「そうだよ、ラウラは昔の私。だから今度は私が助ける番なんだ」

 

 それはあの時。

 彼とラウラとの模擬戦の後、行われた食事会で彼と話していたラウラの視線、態度、表情から見えたもの。

 それに加えて、日頃を共に過ごしてわかったこと。

 

「……いや、そっちの事情はよく解んねえけどさ」

 

 一夏は、私の言葉に少し戸惑いを見せている。

 

「そこまで言うなら、行ってこいよ」

 

 でも、それでも。こちらの言い分を認めてくれた。

 

「うん。言われなくても」

 

 それに答える返事は少しそっけなくだが、感謝の気持ちはそこへ乗せて。

 一夏の了承を取り、ならばと機体をラウラへと向けて、その一歩を踏み出していく。

 

 そうして、ラウラの許へ赴こうとしたその時、強い口調で一夏は私の背中に声をかけてきた。

 

「でも、だ!」

 

 うん?

 その一夏、こちらに向けているその表情は真剣そのものといった感じ。

 

「ピンチになったら、俺も乱入するからなっ!」

 

 ライフルを掲げながらのその言葉は、一夏らしいといえば一夏らしい。

 

「いや、でも、それは必要ないかな?……だって」

 

 かけられた声に首だけを振り向かせるが、すぐに視線はラウラへ。

 そしてそのまま正面を見据え、一夏に、ラウラに、自分自身に対しての宣言を行う。

 

「――私は負けないから」

 

 絶対的な勝利、その誓いを。

 

 

 

 

 シュヴァルツェア・レーゲンの前にまで移動した後、ラウラと私とは互いに視線を送りながら、無言のままに対峙していた。

 どちらも動かないその状況で、私は改めて目の前の少女について考える。

 

 以前の食事会。彼に一人の人間としてではなく、兵士としての面影を見出だしていた彼女。

 日々の生活の中では、楽しさや充実感からではなく何かに追われるかのようにして、必死にその力を誇示し求めていた彼女。

 

 それらはまるで、そうすることで自分の意味や居場所を確かめ、示そうとしているかのように私には見えていた。

 そしてそれは、その自己を求める必死さは、どうしようもなくかつての自分を思い出させるものだった。

 

 

 自分の居場所、自分の価値。

 それがそこにしかないと思い、ただそれを求めてがむしゃらに生きる。

 

 厳しい世界。

 思い通りには行かない願い。届かない想い。

 かつての幸せはどこかへ消えて、ただ辛くて悲しくて寂しくて、そんなものが満ち溢れていた世界。

 

 でもある日、そんな世界に変化が訪れた。

 

 そして、世界がそれだけではないことを知った。

 世界が悲劇だけじゃないということを知った。

 それを教えてもらった。そして救ってもらった。

 

 感じた温もり。どこか安心できる温かさ……。

 それを今でも覚えている。

 

 

 だから、今度は私の番だ。

 今度は私がそれを伝える番だ。

 

 もしかしたら、これは私の単なる我が儘なのかもしれないし、彼女に押し付けようとしている迷惑なのかもしれない。

 

 でも、例えそうだとしても、私は彼女に知って欲しい。伝えたい。

 世界の広さを。自身の価値を。

 世界は辛くて悲しいものだけど、同時にとても楽しくて素敵なものでもあるのだと。

 自分で思っているよりも、自身が必要とされているのだと。

 

 それでも、これまで彼女に何を言っても意に介されることはなく、その言葉は届かなかった。

 でも、それなら。

 言葉を介して届かないのなら、今度は直接彼女に届けよう。

 

 心と心、想いと想い、それをぶつけたその先に。

 

 だからこそ、一夏に譲ってもらったこの機会を無駄にはできない。

 

「行くよリヴァイヴ。……そして一対一、勝負だよ?ラウラ」

「ふん。……何を言い出すかと思えば、その時代遅れ(アンティーク)で何ができる?」

「ふふ、この子がアンティークなのかどうかは、その身で確かめると良いよ?」

 

 交わされた言葉。

 それをきっかけにして、私のリヴァイヴとラウラのシュヴァルツェア・レーゲン。二つの機体が戦闘速度へと移行する。

 

 これから始まるのはシャルロット・デュノアとしての私と、ラウラの友人としての私、その二人の私の大切な戦い。

 

 決して譲れない戦い。

 その火蓋が今、切って落とされた。

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