Acxis   作:ユ仲

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Chapter2-6

 どよめきを見せる観客席。

 

 それに囲まれたグラウンドで、渡されたアサルトライフルの感触を手の中で確かめながら、目の前の戦いを傍観者として見つめる。

 

 戦いを繰り広げているのは、ラウラ・ボーデヴィッヒの操る漆黒のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』と、シャルロット・デュノアの駆る明るい橙のIS『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅢ』この二体だ。

 

 第三世代機と第二世代機のカスタム機の戦い。

 普通に考えれば、第三世代機を操るラウラが勝つと予想するだろう。

 しかし今は一進一退。いやむしろ、第二世代機であるはずのラファール・リヴァイヴがシュヴァルツェア・レーゲンを押しつつある状況だった。

 

 ラウラに銃弾を浴びせかけるシャルロット。

 ラウラはそれをAICで受け止めていきながらも、三対六基のワイヤーブレードと両手に出したエネルギーブレードでの近距離での戦闘を試みる。

 接近していくシュヴァルツェア・レーゲン。

 しかし、シャルロットの駆るラファール・リヴァイヴは、その時には既にシュヴァルツェア・レーゲンの横を取っており、再び銃撃を加えている。

 

『詳しくは言えないけど、私のリヴァイヴは特別製だからね』

 

 かつての授業での事、シャルロットの言っていたその言葉の意味が、今なら完全に理解が出来る。

 

 ラウラが反撃をしようというその瞬間、シャルロットのラファール・リヴァイヴの背部、そこに存在する四枚の大型ブースター、その内の左右外側の二枚。

 それが一瞬噴射されたかと思うと、ラウラの死角に機体が出現し、そのまま攻撃を仕掛けていく。

 

 瞬時加速、イグニッションブーストを彷彿とさせるようなその速度。

 移動距離こそ、イグニッションブーストには及んではいないが、その発動間隔はイグニッションブーストを確実に上回っている。

 もし言葉に表すのであれば、『瞬間加速』とでも言うのだろうか。

 

 だが、そのように戦闘のイニシアティヴをシャルロットに取られ翻弄されながら、それでも食い下がっていくのがラウラのシュヴァルツェア・レーゲン。

 主力兵装であるレールカノンを失い機体の戦闘力こそ低下させてはいても、シャルロットに劣らない戦況を作るラウラには、確かな経験と実力を感じる。

 

 跳び回るシャルロット、それを追うラウラ。

 機体の性能を引き出し合いながら、繰り広げられる戦闘。

 

 どちらも決して譲れぬ、譲ろうとしない戦い。

 その行く末を、俺は手に汗を握りながらも見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 ――熱を帯びた頬。振り切られたその腕。

 

『私は貴様を認めない!』

 

 続けて浴びせられた言葉に、俺は憤慨した。

 顔も知らない誰かに、いきなり頬を打たれ、あんな事を言われれば誰でも当然そうなるだろうとは思う。

 

 でも、しかしだ。

 その言葉、千冬姉を思ってのその言葉は、自身の心、その根源に確かに響いていた。

 

 

 

 

 

 

 戦況が変わる。

 

 何とか、シャルロットに追い縋ろうとしていたラウラが急に戦闘方法を変更。突撃を狙い、前がかりになっていた状況から、機体を背後へと下げ始めた。

 そして下がりながらも、エネルギーブレードとの混合ではなくワイヤーブレードに重きを置いた中距離戦闘へと切り替える。

 

 シャルロットの方もそれを見てか、近距離での高速撹乱戦から同じく中距離戦を選択し、急遽変換したアサルトカノンとエネルギーライフルによって、下がるラウラを狙い撃つ。

 

 放たれた銃弾。対するラウラは最低限の動作。身をよじるようにしてそれを避ける。

 続いて襲う光弾。それを再び最低限の動きで避けていく。

 次から次に襲う攻撃を、ラウラが避けて避けて避けまくっている。

 いくらハイパーセンサーがあるとは言え、その回避力、集中力は異常の一言だ。

 

 その当てられない攻撃に痺れを切らしたのがシャルロット。

 先程の瞬間加速を連続で繰り出し、再び近距離戦へと持ち込もうとする。

 

 しかし、ラウラがそれを防ぐ。

 ワイヤーブレードをシャルロットの予測移動点に上手く放ち、逆に追い縋ろうとするシャルロットを寄せ付けない。

 

 なるほど。そのやり取りに思わず驚嘆の息を呑む。

 ラウラが下がったのは単なる逃げではなかった。

 それは逃げではなく、機体を下げ視界を広く取ることで、死角への侵入を防止。それによって相手の優位性を潰す事にあったという事だ。

 

 臨機応変。

 どのような戦況においても、冷静に対処ができるその思考、それはまさにラウラが軍人としての強みを示している気がした。

 

 

 

 

 

 

 ラウラの俺に対する言葉。

 

 箒やセシリアや鈴は俺を気にかけてくれていて、気にするなとか、何なんだあいつはなどと、ラウラに対して怒ってくれている様子。

 しかし、俺は俺で箒達とは全く別の事を考えていた。

 

『お前が教官に汚点を……!!』

 

 ああ。そんな事は自分自身が一番分かっている。

 

 第二回モンド・グロッソの決勝戦。

 ドイツで行われたその大会。千冬姉の応援をしに行ったその日の事。

 俺は訳の解らないままに、訳の分からない組織に誘拐され拘束されていた。

 暗い部屋。拘束されている身体。

 柄にもなく、殺されるのかな、とかと思ったり、心は確実に不安に蝕まれていた。

 いきなり掠われてそんな事になれば、そりゃ心細くもなるだろう。

 

 だが、そこへ助けに現れたのが、決勝戦に臨んでいるはずの千冬姉だった。

 

 その時、気高く綺麗だったその姿に見惚れると共に安堵して。

 その後、その姿に俺が傷を付けてしまった事を知り、とても申し訳なく思った。

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、ラファール・リヴァイヴの姿が一瞬で変わる。

 

 背部中央、二枚のブースターがバックパックのような物へと変わり、肩部にはミサイルランチャーが追加、そして両腕それぞれには機体の超える程の巨大な砲身が握られた。

 

 一斉射撃。

 ミサイルが一斉に放たれ、手に持ったというか、抱えている長砲身のカノンからは砲弾が次々に放たれていく。

 

 突然それに曝されたラウラも、これはさすがに驚いた様子。

 そのミサイルの雨と砲弾の嵐によって、反撃する事を忘れ、慌てたようにそれの回避へ躍起になっている。

 

 やがて、それを撃ち終えたのか、砲撃を停止するシャルロット。

 

 それを見過ごすわけもなく、ラウラは回避から反撃へのシフト。

 イグニッションブーストを用いてシャルロットとの距離を詰めていく。

 

 加速と同時。両腕にエネルギーブレードを展開したラウラが、今度は逆にシャルロットへと攻撃を仕掛けていく。

 

 

 そんなラウラに対して即座にブレードを呼び出す事で、それを受け止めるシャルロット。

 

 しかしそれは、俺から見ても判断ミスだとしか思えなかった。

 シャルロットがブレードを受け止めた事に笑みを浮かべるラウラ。

 それもそのはず。

 その距離、クロスレンジは完全にAICの効果範囲内だ。

 

 案の定、動きが止められたラファール・リヴァイヴ。シャルロットも、しまったという驚きの表情を見せている。

 それを見てラウラがさらに笑みを深めるが、そこで何故か、シャルロットがその態度に笑みを零す。

 

 ラウラはシャルロットの様子に訝しげな表情を浮かべるものの、すぐに次の行動へと移っている。

 そして、ラウラがブレードによって、シャルロットを襲おうとしたその瞬間。

 

 ラウラにエネルギー性の雨が降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

『お前さえ居なければ……!』

 

 その事も実際に考えた事がある。

 

 親に捨てられたらしい俺達、姉弟。

 普通であればどうする事もできず。施設にでも入るしかないような、その状況。

 しかし、施設に入らなくても済むように、俺達の生活を支えてくれていたのはいつも千冬姉だった。

 

 いつも気にかけ、面倒を見てくれる。

 

 確かに千冬姉は、料理や掃除といった家事はまるでダメだし、私生活では下着を脱ぎっぱなしにするぐらいにずぼらだし、すぐに暴力を振るっても来る。

 それでも、千冬姉には大きな感謝ばかりがあって、それと共にやはり申し訳なさが残った。

 

 そしてそれは、時々思っていた事だった。考えてしまっていた事だった。

 

 俺さえいなかったら、千冬姉はもっと好きに生きていけたんじゃないだろうか。

 好きに働き、好きに遊び、好きな生活を送れたんじゃないだろうか。

 好きな男だっていたかもしれない。

 誰にも話していない夢だってあったかもしれない。

 もっと他にも好きな事、やりたい事がいっぱいあったかもしれない。

 

 その可能性を俺という存在が摘み取ってしまっていたのだとしたら、それはとても悲しい。

 

 ……まぁ、昔、うっかりその事を口にしたら、無言で間接技のオンパレードを喰らったので、それ以降は考えないようになったけど。

 

 それでもとにかく、ともかく……俺はいつも無力で、いつも千冬姉に守られてばかり。

 

 結局の所、今までの織斑一夏という人間は、何かやりたい事もなく宙に浮いたままの存在だったと言ってもいい。

 

 学校に通って、弾達と馬鹿をやって遊んで、バイトをして、また学校に通って……。

 何がしたいのか?何がやりたいのか?

 千冬姉からの庇護を享受したまま、そんな自分の事も解らずに日々をただただ過ごしていく。

 

 だから、何の因果なのかは知らないが、IS学園に入った事で何かが変わる予感はどことなくあった。

 ……確かに周りは女子ばかりで大変ではあったけれど。

 

 その後、箒と再会し、セシリアに出会い、鈴がやって来て。

 友人が増えて環境に慣れていく中で、白式という専用のISを得た事。

 つまりは力を得た事で、朧げながらにもその考えが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 一体何が起こったのか?

 

 それはまったく分からなかったが、それでもラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが大きなダメージを受けたという事だけは認識ができた。

 

 まったくの不意打ちによる、多数のエネルギー砲による攻撃。

 

 単発であればたいしたことのないダメージだっただろうが、それが雨霰と降り注ぎ、シュヴァルツェア・レーゲンのISアーマーを蹂躙し破壊していった。

 ほぼ無傷のシャルロットに比べれば、機体の各所に被弾をしており、勝負は既に決まったかのように見えるこの状況。

 

 だがそれでも、ラウラの瞳は勝利を諦めてはいなかった。

 ワイヤーブレードも大半を損失、エネルギーブレードも左腕部の装甲破壊によって片手にしか展開が出来ていない。

 それにも関わらず、左二基のワイヤーブレードと右腕のエネルギーブレード、たったそれだけの武装で、盤石といった様子のシャルロットへ迫ろうとするラウラ。

 

 その気概、その執念、一体それは何を原動力としている物なのか?

 ふと、そんな事が気になってくる。

 

 性格?

 単なる負けず嫌いという訳でもないだろう。

 

 軍人としての誇り?

 でも彼女には軍人らしさはあっても、それを名誉とするような態度はなかった。

 

 じゃあ、最新の機体を与えられた責務から?

 それはあるかもしれないが、責務というよりは機体を奪われる事への恐怖といった感じだ。

 

 そう、恐怖。

 それをも感じさせるまで、そのラウラの様子は異常な程に必死だった。まるで、もう後がないと言うかのように。

 

 そうして鬼気を纏いながら、迫るシュヴァルツェア・レーゲン。

 それに対してシャルロットは冷静だ。

 

 ワイヤーブレードを避けながらも、ラファール・リヴァイヴは背中のバックパックから何かを射出し続けている。

 さっきまでは全く気にもならなかったそれ。

 グレネードカノンとミサイルの一斉射という派手なパフォーマンスをブラフとして、撃ち上げられていたらしい、その花弁状の何か。

 

 それはやがて上昇を止めると、空中で、折り畳まれた三枚の羽を展開、そのままシュヴァルツェア・レーゲンの追尾を開始する。

 その様子はどこか、セシリアのブルーティアーズのビット兵器に似ているようにも見える。

 

 しかし、その数は明らかに違った。

 射出されていた十を超える花弁が、ラウラに対してエネルギー砲による一斉射撃を開始。

 先程、ラウラを襲った、エネルギー性の雨を再現して見せる。

 

 その花弁自体の動きは決して早くはない。

 AICを使えば上手く無効化はできるかもしれない。

 だが、ラウラの正面、ラファール・リヴァイヴからもアサルトカノンとマシンカノンによる弾幕が迫る。

 

 実際に戦った事で疑念から確信に変わった、AICの弱点。

 効果対象への強い集中が必要であること。

 そしてそれは、今の状況、全包囲からの一斉攻撃を受けている現状においては、ラウラの敗北を示していた。

 

 それでも尚、被弾を省みずに突き進んでいくラウラ。

 そんなラウラに対してシャルロットは、その手に変換したエネルギーブレードを、突き出すようにしてその腕を前へと差し出した。

 

 

 

 

 

 

 宙に浮いたままの自分。無力だった自分。千冬姉に対して憧れと畏怖と申し訳なさを抱いていた自分。

 

 そんな俺が突然ではあったけど、手に入れた力。IS。白式。

 調子に乗るな馬鹿者めと、拳骨を食らう毎日。

 確かに俺は未熟ではあるけれど、その力は確かに、俺に目標を与えてくれた。

 

 ――千冬姉を守りたい。

 

 今まで守られて来た分、今度は俺が守りたい。

 その朧げだった物。それを明確な形として気付かせてくれたのは、皮肉な事ではあるが、ラウラだった。

 

『私はお前を認めない!』

 

 そりゃそうだ。

 

『なぜお前のような奴があの人の弟なんだ!』

 

 確かに相応しくないかもな。

 

 ……ああ、認められなくて当然だ。

 千冬姉の弟として相応しくないと見られるのも当然の事だ。

 俺はまだ無力で弱い。ただ偶然にISを操縦できたってだけの男だ。

 

 だがそれは……『今はまだ』。

 

 

 

 

 

 

 シュヴァルツェア・レーゲンの動きが完全に停止する。

 シャルロットの刺突によって絶対防御が発動し、そのエネルギーを使い果たさせたのだろう。

 

「よう、お疲れさん」

 

 遂に戦いが終わった事を確認して、シャルロットへと近付き、労いの声をかける。

 

「ん、一夏か。……えらいえらいよく我慢できたね」

「……って、おい」

 

 それに対し、ほとんど傷を負っていないシャルロットは、少しおどけた様子でこちらに答えてくる。

 てか、なんだそれ?俺は犬か何かのペット扱いか?

 ははは、と笑い、言葉を続けるシャルロット。

 

「……いやでも、勝てはしたんだけどね。レールカノンを壊してなかったら、分からなかったかも」

 

 俺には圧勝のように見えたけどな。

 

「それは、こっちが万全の状態で迎え撃ったから。結果は確かにこうなったけど、力に差があったわけじゃない。状況と展開。それが私に有利になっていたってだけだよ」

 

 謙遜を見せるシャルロット。

 確かにシャルロットが押してはいたが、ラウラは主力兵装を失いながらにそれをよく凌いでいた。

 有利だったシャルロットが、時折攻めあぐねていたのを見ても、そこからラウラの状況対応能力の高さが見受けられ、それはラウラの高い実力を証明していた。

 ……いや、シャルロットは、それに負けてないぐらいに強かったけど。

 

 そして、そのラウラ。

 そちらへ視線を移すと、停止された機体の強制解除が始まろうとしているようだ。

 当のラウラ本人は敗北のショックからか、俯いたままに微動だにしていない。

 

 やがて機体に紫電が走り、強制解除が開始される。

 

 ……しかし、その時だった。

 

「ああああああァァァァっ!!!!」

 

 突如として上げられる絶叫。

 俺とシャルロットを襲う電撃。

 背後に大きくステップを踏み、それを回避。

 横を見れば、シャルロットも同じく回避に成功している。

 

 変化を見せた状況。変貌した様子。

 再度、ラウラに視線を送る。

 

 だがそこには、シュヴァルツェア・レーゲンの姿はどこにもなかった。

 そこにあるのは漆黒。

 少女の形をそのままに闇がそれを覆っていく。

 

 正体不明。黒い何か。

 だが、その何かが腕に持つそれは、自分がよく知った、見覚えのある物だった。

 

 形成された闇。赤いアイセンサーがこちらを捉える。加速。中段で振るわれる『雪片』。

 

 視線で捉えた一閃と、咄嗟に構えた雪片弐型とが、一瞬火花を散らし、こちらの腕が弾かれた。

 経験と直感。相手が動き出す前に後方へ緊急回避。

 それでも、腕に走る痛み。

 直後に振るわれた上段からの一撃を避け切れず、左腕を刃が掠った。

 

 滲み出る赤い血液。完全なガス欠の為に消えていく白式。

 だが、それはどうでもいい。

 問題は、その斬撃すらも見知った物であったことだ。

 しかもそれが、本来であれば『俺を両断しているはず』のものだったことだ。

 

 ……言葉はいらない。

 

 心に怒りを湛え、感情のままに拳を握る。

 目標は目前の機体。

 それに向け、拳を振りかぶりながら駆け出して行く。

 

「一夏っ!?何をしている!」

 

 声と共に引かれる身体。

 地面と接触する背中。腕とは別にそれによって感じた痛み。

 

「馬鹿が!死にたいのか、お前は!?」

 

 地面に腰を付けた俺の頭上、打鉄を纏った箒は本気で怒鳴り付けてくる。

 その箒の心、気持ちは解る。

 だが俺もまた、本気だった。

 

「……認められねえ。認められるわけがねえ」

 

 そう本気だ。本気で全力で、俺はあれを否定する。

 

「……あんな、千冬姉を冒涜する物を、認められる訳がねえじゃねえかっ!!」

 

 いつも俺を守ってくれていた、その千冬姉を真似た物。

 あまつさえ、千冬姉の心も想いも理念も存在しない、その表面、形だけを真似た物。その力だけをなぞろうとした物。

 

 千冬姉は力があるから千冬姉なんじゃない、力があって不器用で優しいから千冬姉なんだ。そこに想いがあって、それを為そうという断固とした意志があって、それらを貫く、貫き通す強さを持つのが千冬姉なんだ。

 

 それなのにあれは、意志も想いも何も無い。力だけが千冬姉だと言わんとばかりに存在している。

 それを冒涜と言わずに何と言うのか?

 千冬姉を貶める、ただそれだけの存在。そんな物を認められるはずがない。許しておけるはずがない。

 

「一夏、お前は……」

 

 箒が何かを言っているが、視線はあの黒い機体へ。

 決して認められないあの黒い機体へと向ける。

 

「いや待て。……だが、どうする?生身のお前が何をする気だ?」

「それは……」

 

 箒の言葉に思わず言い淀む。

 箒の行動。俺に掛けてくれた檄のお陰で、頭は少し冷静になれた。

 いや、そもそもだ。

 絶対に勝たなきゃいけないのに、何も考えず、感情のまま無謀に飛び込んでいくのはバカのやることだ。

 ……まぁ、さっきの俺自身の事だが。

 

 こういう時だからこそ、冷静にならなくてはいけない。

 いくら想いを燃やしたとしても、その熱を理性で制御できなければいけない。

 

「だったら外部からエネルギーを持ってくれば良いんじゃないかな?」

 

 その方法に悩んでいたその時、今までじっと黙って話を聞いていたシャルロットが口を開いた。

 

「うーん?本当だったら、私がやっても良いんだよ?……いや、やるべきなのかな?」

 

 シャルロットが紡ぐ少し軽い同意を求めるような口調。

 常識的に、普通であったらその言葉の通りだろう。

 

「……甘く見るわけじゃないけど、相手はブレード一振り。残りのオービットカノン、グレネードやライフル、制圧しようとすれば、きっとそれは、可能だよ」

 

 未確認の相手。

 こういったのは確かな力を保有しているシャルロットみたいな存在か、今になってようやく動きを見せ始めた学園側に任せれば良い。

 

「でも!……一夏はそれじゃダメなんだよね?自分の手でそれを証明したいんだよね?」

 

 シャルロットにしては強い視線と言葉。

 それが俺へと真っ直ぐ向けられている。

 その視線から目を離さないまま、答えを出す。

 

「……ああ。これは誰の手でも力でもない。俺がやらなきゃいけない事だ」

 

 いや、義務や強制とかじゃない。やりたい事なんだ。俺が成し遂げたい事なんだ。

 それはきっと千冬姉の為でもなく、まさしく俺自身の為に。俺の目標の為に。

 そうしてこちらの表情を窺うなりに、そっかと呟くと、シャルロットは表情を和らげながら頷いた。

 

「うん、なら良いよ。リヴァイヴのエネルギーを全部あげる」

 

 しかし、そこで掲げられた指。

 

「ただし、条件が二つ」

 

 人差し指を立てながら、そこには真面目な表情。

 

「必ず勝つ事」

 

 そんなのは当たり前だ。

 それは前提条件であり、絶対条件。

 

「そして……ラウラを私の代わりに救ってあげて」

 

 二本目。中指を加えながら、こちらに示すその表情は少し深刻そうな物。

 それは懇願に近いような物ではないだろうか。

 

「あの子は決して悪い子じゃない。ただ怖がって怯えてるだけだから」

 

 シャルロットが語る事。

 その詳細は俺には解らない。

 

「だから、彼女の手を引いて見せてあげて。……もっと広い世界をさ」

 

 でも、その言葉に含まれる気持ちや想い。

 そして、戦闘の中でのあいつの様子。

 ラウラもまた、重たい何かを抱えているという事だけは理解が出来ていた。

 

「ああ。わかった」

 

 ならば、その頼みをどうして断れるというのか?

 俺は強くその言葉へと頷く。

 

「うん。じゃあ、始めるよ」

 

 こちらの返答に満足したのか、笑みを浮かべるシャルロット。

 同時に白式へとエネルギーが流れ込み、その息が急速に吹き返されていく。

 

「一夏っ!!」

 

 生き返った機体。

 それを敵へと向けた時、背中に何か懸命な様子の箒の声が掛けられる。

 

「……負けるな!必ず勝ってこい!!」

 

 それは俺への信頼、声援だろうか?

 不安や心配も含まれてはいたが、まぁとにかくそんな物だ。

 

「おう、任せておけ!」

 

 顔だけを振り向かせ、ISアーマーに包まれた握った拳を掲げる。

 もちろん、顔には笑顔を浮かべて。

 

 負けられない戦いではあったが、気負いはなかった。

 心には適度な余裕さえ感じられた。

 負けるはずがない、勝つのは俺だと。

 その明確な自信と確信を持って。

 

 そうして、黒い機体と対峙する。

 

 

 

 

 

 

 きっと千冬姉は、俺が千冬姉を守る事を奨めないし、好ましくは思わないだろう。

 

 俺が何時だって守られる側だったから、庇護の対象だったから。

 ……それでも俺は、千冬姉を守りたい。

 千冬姉が好ましく思わない以上、確かにこれは自己満足に過ぎないのかもしれないけれど。

 

 だけど弟として家族として、俺は千冬姉を守り助けたい。

 今まで守り助けられた分、今度は俺が。

 

 

 

 

 

 

 その為にも、こんな所で躓いている暇はない。

 こんな、千冬姉を汚す劣化品などに構っていられる時間はない。

 

 だから……。

 

「さぁ退けよ、デッドコピー」

 

 雪片弐式を正面へと向ける。

 その切っ先には闇を纏った黒。

 回復したエネルギーは、イグニッションブーストと零落白夜を一回分ずつ。

 普通ならそれは、頼りなく思える物。

 

 そのはずなのだが――。

 

「さっさと消えて、ラウラを返しやがれ」

 

 ――千冬姉を騙る存在など、たったそれだけで十分だ。

 

 こちらに反応し構えられた形。虚実の刃。

 それが振りかぶられると同時。

 

 俺は、静かにたぎる想いを乗せて、手に持つ刃を振り抜いた。

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