Acxis   作:ユ仲

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Chapter1-1

 現代の延長線上にある未来。

 

 世界は大きな潮流の変換期の真っ只中にあった。突如現れた新兵器による技術革新。世界的な軍事的バランスの変化。女性にしか扱えないその最新兵器の出現は、明らかな女性優位の土壌を醸成し、国民国家政府は、徐々に女性への優遇措置を始め、こぞって超兵器の開発、誘致を開始した。

 

 インフィニットストラトス(Infinite Stratos)、通称IS。宇宙での活動を視野に入れたパワードスーツ、その圧倒的な性能は各国を驚愕させ、瞬く間に魅了する。

 

 その研究開発を多くの国家や企業が競い合う一方で、戦略的価値を文字通りの一騎当千たるISに奪われた軍隊は、その規模を大幅に縮小され、かつては熟練の兵士だった者さえも、その職場を奪われ、その大半は慣れない社会へと臨んでいかざるを得なかった。

 

 しかし、社会が迎えた大きな変化の中、意識的、無意識的にせよ皆がその流れに身を任せつつある内において、それに抵抗を見せようとする者の姿も存在していた。

 

 米国軍需企業大手クレストインダストリアル社。大規模な生産基盤を用いて米国のリーディングカンパニーとして君臨していたその栄光は、ISの登場により既に過去となった。

 

 米国におけるISの開発権は技術力に優るライバル企業、グローバルアーマメンツ(Global Armaments)社、通称GAに奪われ、クレストは大規模な縮小を受けた従来兵器市場の中で遅れを取った状況を打破する方法を探る。

 

 そして、彼らの上層部の目に留まったのが、極東でのある一つの計画だった。

 

「プロジェクトファンタズマ」

 

 すなわち非IS、性別によらないパワードスーツの開発計画。ISに対する明確な対抗計画だ。発案者たる日本の如月重工は、ISの登場によってまさに風前の灯というような経営危機状態ではあったが、クレストの資金提供により持ち直し、そして計画へのクレストの参入をきっかけに、計画は本格的に進行を見せることとなる。

 

 かつて如月重工が開発を進め、ISの登場により歴史の陰へと追いやられたパワードスーツ「MT(Muscle Tracer)」の発展開発。従来技術の粋を集め凝縮し、ISに対抗する兵器を造る。それこそがこの計画の主な目的であったのだ。

 

 豊富な資金力を持つクレストとMT開発という専門性に長けたキサラギ。双方の野望と執念により始まった計画ではあったが、ここで両社にとってイレギュラーが発生する。EU所属の新興企業ミラージュ社の計画参入の打診である。

 

 それは両社にとって思いにもよらない朗報であった。そして彼らは直ちにこれを了承。こうしてIS関連技術を有するミラージュ社の加入が決定した。そのことによってこの計画はさらに加速することになったのだった。 

 

 

 

 ―――ブースト点火。加速。旋回。床から突き出ているオブジェクトを機体を左右へ滑らせスラロームで交わす。交わしたオブジェクトを一瞥し、今度はブーストを全開。急加速。ブースト停止。慣性を生かし急旋回。ブースト再点火。高速を維持したまま次のスラロームへ。そして次は………。

 

『はい、オーケー、テスト終了』

 

 どれ程の時間続けていたのだろうか、最後のスラローム終了と同時に画面に広がる研究員の顔と気楽そうな表情と声。開発の方も忙しい時期だと聞いていたけれど、それも中々順調なようだ。

 

 機体をハンガーに乗り入れ、所定の位置へ。胸部ユニット後方の複合装甲が開き、コクピットブロックが展開。同時にブロック上方ハッチが前方へスライド。対Gスーツとコクピットの固定を解き外へ。ディスプレイ一体型のヘルメットを外せばひやりとした空気が心地良い。

 

「はいお疲れさん、今日の行程は終了らしいし、今日はこんだけだから、もう休んでいいよ」

 

 日本のキサラギ重工からやってきた主任技術者のシバタシゲタツから声が掛かる。今日はデータ取りとはいえそれなりに負荷の掛かる動きをしたので、整備の方も大変だろう。

 

「了解です。先に戻ってるんで、何かあったら呼んでください」

 

 声をかけ、おうよ!という声を背中に受けつつ更衣室へと向かう。早くシャワーが浴びたい。スーツの中は汗をかき不愉快極まりない。腹も減った。シャワーを浴びたら飯にしよう。そうと決まればとにかく急ごう。さぁ急ごう。心持ち早足で基地の中を歩いていく。

 

 汗を流し飯も食い、腹も満腹気分爽快。だが、時間が余り余って仕方がない。ここは娯楽がまったくない。

 

 自室からふと風景を見渡す。既に太陽は無く夜の帳が落ちている。人の営みを感じさせる光も無いというか、広い基地以外の建物が全くない。そこは砂漠だった。位置も録に知らされていない。これは元々そういう契約だ。所謂、機密という奴か。ただアメリカの何処かであることは分かっている。契約元はクレストとだし。

 

 机上の本を手に取る。同僚に借りた古ぼけた一冊の本。よくある設定、ありきたりなストーリー、自分が生まれるより前にヒットしたラブストーリーらしい。暇だと愚痴をこぼしたら同僚が押し付けてきた物だ。いい年した子持ちが今更、ラブストーリーとか、というか何故自分にラブストーリーなのかなどと思うところは色々あるが、暇潰しには最適ではある。ちなみに自分が生まれる前だと伝えたら拳で殴りかかってきた。理不尽だ。

 

 まぁ、それはさておき、何故、根無し草である自分がここにいるのか、ふとそんなことが思い浮かぶ。

 

 あの頃は連戦続きで曖昧ではあるが、北アフリカでの革命に参加していた頃だったと思う。いや、確かにその時だった。いざ、思い出してみると、彼等の第一印象がとても強く印象に残っている。戦闘が終わった、まさに終結直後、周りが薄汚れた戦闘服に身を包んでいる中で、小綺麗なスーツを着た集団がこちらに歩いているのを見れば、印象にも残るだろう。

 

 いくらイチゴイチエが基本の傭兵とはいえ、戦場を共に駆け抜けた仲間達とそうでないかの判別ぐらいはできる。あの時はそんな場違いな連中を摘みに、終戦と勝利に浮かれてぱあッと一杯やりに行こうぜ、てな感じで盛り上がっていた気がする。彼等が自分の前に来なければ。その時の様子を一言で表せば何故?という率直な感想で事足りる。

 

 その後は、大きな報酬に釣られてほぼその身一つでアメリカに乗り込み、様々なテストを受けて今に至る。

 

 何の為に今こうしているのか?と聞かれれば金の為と答えるだろう。その金は何の為と聞かれたら、自分にその答えは見つからない。戦って戦って戦い抜いて来たけれど、戦う意味を考えるとその意味は未だに見いだせない。あえていうならば惰性、なのだろうか?過激な惰性もあるものだと自分でも思う。戦う意味、生きる意味、自らの目的。考え出したらきりがない。

 

 思考を中断し時計を見れば、既に真夜中に踏み込み始めようとしていた。本の中身も録に頭に入っていない。明日もまた朝早い、今日は寝るとしよう。

 

 

  

 

 今日のテストの内容は間接部の耐久及び機体の負荷限界のテストだ。機体の開発は順調なことこの上ないらしく、基本動作の開発行程もいよいよ終盤。そろそろ戦闘を考慮したテストも視野に入れている、だそうだ。

 

 

 いつもの試験場、障害物を走って交わし、その後、ある程度の重量のあるオブジェクトを規定の位置へ運ぶ……。それを延々と繰り返す。耐久テストなら専用の装置を使ってやって欲しいものだが、所謂こだわりというものらしい。延々と続く耐久テスト。いつの間にか無駄な思考を切り離し、無心で作業を行っていた。

 

『オーケー、オーケー。もう良いよー』

 

 は、と気付けばテスト終了。いったいどれ程の時間続けていたのだろうか、膝の間接への重大ダメージのアラームと同時に画面に広がる研究員の顔とそのどこか満足げな表情と声。それなりの結果はでているようだ。

 

 機体をハンガーに乗り入れ、所定の位置へ。胸部ユニット後方の複合装甲が開き、コクピットブロックが展開。同時にブロック上方ハッチが前方へスライド。対Gスーツとコクピットの固定を解き外へ。ディスプレイ一体型のヘルメットを外せばひんやりとした空気が心地良い。

 

「ほいほい、お疲れさん。今日の行程は終わりだから休んでいいよ」

 

 技術主任のシゲさんから声が掛かる。今日は間接部にかなりの負担をかけた。膝部の電磁筋肉、いわゆるアクチュエータ系も取り替えないといけないし、整備の方も大変だろう。

 

「わかりました。先に戻ってるんで、何かあったら呼んでください、そんじゃお疲れ様でした」

 

 声をかけ、おうよ!という声を背中に更衣室へ。早くシャワーが浴びたい。スーツの中は汗をかき不愉快極まりない。腹も減った。シャワーを浴びたら飯にしよう。そうと決まれば急ごう。さぁ急ごう。心持ち早足で基地の中を歩いていく。

 

 シャワーで汗を流し、気分一新さっぱりとした後、足は自然と基地PXへ向かう。人はやはりそれなりに。なかなかメニューは充実しているが、カウンターでオムライスが入ったセットメニューのAセットを注文。アメリカンサイズは流石に無理なので量は少なめに。料理を受け取ると窓側の席へ。席に着き食前の祈りを略し、いざ食べようとするとそこへ声が掛かる。

 

「よう、隣良いか坊主?」

 

 声を遡り、横を見上げれば、金髪を刈り上げた筋肉隆々のいかにも軍人っぽい男性と鋭利な目線と黒みがかった灰色のショートカットが特徴的な女性の姿。

 

「構いませんよ?ジャックさんにラナさん」

「ハハッ、まあ断られても座るんだがな!」

「ふむ、失礼する」

 

 金髪の男性、ジャックはあくまで豪快に。ダークグレイの女性、ラナは動作までもをクールに振る舞う。

 

「それにしても相変わらず、食が細せなぁ、だからお前はちっこいままなんだよ」

「確かに、それでは大きくなれんぞ?」

 

 ……いやいや、いきなりですね、あんた達。てかそっちが食い過ぎなだけだから。ジャックは見かけ通りにトレーの上にどっさりとした料理の山。肉、肉、野菜、肉、肉、果物。うわ、見ただけで腹一杯になりそうだ。一方でラナの方もトレーの上はこんもりと。こちらは野菜、肉、炭水化物とバランス良く。量は普通に多いけれども。

 

「二人ともよくそんなに入りますね……というか、小さくて悪かったですね」

 

 本当に余計なお世話だ。確かに自分は大きくはない、そりゃ170にも届かないけれど。ジャックが190前後、ラナも170は楽に越えているのを考えれば、これは僕が小さいわけではなく、二人が大きいだけということなのだ、きっと。それに僕は成長期の真っ只中だし、アジア人のティーンエイジャーの身長としてはそれなり程度ではなかろうか?

 

「そう怒るな。だが早く食わんとお子様味覚の坊主が大〜好きなオムライスが冷めちまうぜ」

「まぁ、そもそも私達は事実を述べただけだしな」

 

 カチンと来た。こいつら、人を子供子供と思ってからかいやがって。

 

「余計なお世話です。人の事気にしてる暇があったら、自分の食事を進めてください」

「ん?何を言ってる?こっちは普通に食ってるぞ、なぁ?」

「ふむ、全くだな」

 

 二人のトレーを見ると、いつの間にかその山は半分にまでその数を削られていた。腹の容量以前にあんたら一体いつ食べてたんだ?いや、そんなことを気にしていたら本当に料理が冷めてしまう。溜息を一つ、もう気にしないことにしてスプーン片手に食事を進める。む、やはりここの料理は美味い。今度は舌鼓を一つ。魚を切り分けサラダを摘み食事は進む。相変わらず目の前の二人のペースは異常だが。

 

「……それで、そっちの調子はどうだ?」

 

 料理を食べ終わろうとした頃、満足そうに口を拭いていたラナがこちらに問い掛ける。

 

「調子は上々ってところかな。MTと比べても操作性は悪くないからね。逆に運動性やスピード感からこっちの方がやっぱり好みかも……それで二人の方はどうなの?」

「そうだな。私の方も順調ではあるな。戦闘機と違ってあれだけ、自由に動けるのは確かに爽快だ」

「俺の方も問題はないな。あれの重厚感といいフォルムといい、そもそも俺の好みといった感じだからなっ」

 

 ジャックの方は何か少し違う気はするが、二人共やはり好感触。そう何を隠そう、この二人も自分と同じあの機体のテストパイロットなのだ。

 

 ……同じとは言っても、此処に来るまでの経緯、搭乗している機体のコンセプトはそれぞれ全く違うものだが。

 

 ジャックが重量型で、ラナが軽量型。そして自分が中量型。これがこの計画の中心となる三機の概要だ。テストパイロットも自分達三人でそれぞれの担当機体の面倒を見ていくこととなる。

 

 まあ確かになかなか大変なことではあるが悲観はしていない。これは自分に課せられた責任であり任務でもあり、そしてなによりとてもやり甲斐のあるものなのだから。

 

 

 このあとはテストパイロットらしく、担当機体の事や機体の扱い方、今後のテストなどについて話し合った。いつもは馬鹿な雑談で時間を過ごしていたので、珍しい事もあったものだとは思う。まあ、途中でシゲさん達整備班が乱入し、いつの間にか酔っ払い共の馬鹿騒ぎになっていたので結局は変わらない愉快な日常なのだろう。

 

 当然のことながら、翌日のテストは皆、二日酔いで低調であったことをここに追記しておく。

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