Acxis   作:ユ仲

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Chapter2-8

 夏。

 本格的な夏。本格的に夏。

 

 相も変わらず、日々を襲う熱射と日射。

 何だかそれにはもう慣れたというよりかは、諦めたという感じが相応しい。

 強い日差しの下にあっても休日となれば、街は人で騒々しさと慌しさ、そして活気に満ちていく。

 そんな人々には、よくもまぁと思いはするけど、僕らも今日はそんな人達の仲間入り。

 

「あー、ほら行くよ?シャル」

「……うん」

 

 暑さに負けず、笑顔で楽しそうにしている人々の群れ。

 そんな中をどうにも落ち込んでいるシャルの手を引きながら、進んでいく。

 そうやって歩きながらも、思い返すのはつい先日の事だった。

 

 

 

 

 AMS。

 パイロットスーツを介して、機体と思考とを繋ぐコントロールシステム。

 使用には慣れという物が必要だけれど、一度慣れてしまえば機体の操縦性という物は格段に向上する。

 そしてその効果範囲は頭部や手足は勿論の事、人が持ち合わせていないブースターや兵装の使用にもそれが及ぶ。

 

 機体の機動イメージ。

 それを思い浮かべるだけで、機体はこちらの操作を補助しそれを再現してくれる。

 そのイメージはより具体的であれば具体的である物ほど、AMSによる再現率もまた高くなっていく。

 まぁ、言うまでもなく機体限界を超えた機動は不可能だし、適切な操縦には知識と時には自身の技量という物さえ要求されてくるので、使うのは簡単だけど使いこなすのは容易ではない物だと言える。

 

 それはさておき。

 

 機動イメージという物。

 具体的なそれを思い浮かべるには、まずは何が出来て何が出来ないかという事を知らなくてはならない。

 例えば、新たに採用された新装備ともなると、それはさらに顕著だ。

 そこで行われるのが機体のテストという物。それは基本的なデータ取りという意味合い以外にも、搭乗者の慣れという言う意味合いも持ち合わせている。

 

 こうして現在、機体を加速させているブースター。これもその新装備の一つではある。

 あまり上がって来ない速度、それは今までの物よりその出力が明らかに低い事を示している。

 しかしそれが、この新たに採用されたブースターの特徴でもあるとは聞いていた。

 遅い加速、ただそれだけでは欠陥品なので、それを補うメリットというのがあるのだけれど、その真価という物、それは今も尚、実感はできている。

 

 視界に表示されているエネルギー消費、それが噴射時間と移動距離に対して格段に少ない。

 それが示している通りに、このブースターが実現させているのは長時間の継戦能力。

 海上戦闘をも考慮に入れているとはシゲさんの言葉だが、ジェネレーターのエネルギー回復速度を考えて見れば確かにそれは十分に可能だろう。

 

 そうして機体を移動させていると、幾分か速度が落ちているとはいえアメリカ程の敷地はないので、直ぐにその境界が見えてくる。

 さすがに外に出るのはまずい。という事で直ぐさま行うは方向転換。

 AMSを介して機体に伝えられていくそのイメージ。

 それは両肩部に備え付けられた新武装によって、即座に再現される。

 イメージを現実化するかのような、左右のノズルからの一瞬の噴射。

 急激に生み出された推進力で行われた、機体のその場での即時旋回。

 

 その新武装、両肩部追加ブースターの使用によるエネルギー消費も付随内蔵されている大容量キャパシタのお蔭で、消費の方はほとんど見られない。

 まぁ、短時間での連続使用には本体のエネルギーも使わなきゃいけないらしいけれど。

 

 それはそうと、とりあえずテストも一通り消化、オペレーターの指示に従いながら予定通り機体をハンガーへと向かわせていく。

 

『おおー!!』

 

 それはゆっくりと乗り入れたハンガー内。

 突然聞こえて来た、聞き覚えのあるどこか懐かしい声。

 

『新装備とか、ズリいぞー!!』

 

 はしゃぐようなテンション。

 センサーが捕捉した先にいるのは短い金髪にむんっと腕を組んだ暑苦しい筋肉隆々の巨体。

 

『はぁ。おい、少しは落ち着け』

 

 その巨体に後ろから蹴りを入れているのは、豹などの肉食動物を連想させるような、すらっとした体付きのどこかクールな印象の女性。

 彼女は文句を言っている筋肉達磨を無視すると、やがてこちらに向けて手を挙げながら口を開いた。

 

『やぁ、久しいな少年!』

 

 それはやはり懐かしい姿。

 もう数カ月ぶりになる、アメリカで別れたはずの人達。

 ジャックとラナ、二人の姿が何故かそこに現れていた。

 

 

「しかし、面白い事になっているようだな?」

 

 テストを終え、対Gスーツから着替えた後、いつものようにベンチに腰を掛けているとラナがそんな事をいきなり言い出して来た。

 

「面白い?」

 

 その意図をよく理解ができず、首を捻っていく僕。

 どうにも困惑しているこちらの様子を見ながらも、ラナがその言葉を続けていく。

 

「ああ。無人機にBFF、この間はローゼンタール……。いやはや千客万来、大人気じゃないか?」

 

 大人気ね……。

 まぁ、それはたしかに周りから注目とか期待とかが集まるのは悪い気分ではないけど。

 

「敗戦続きですけどね」

 

 というか、厄介事にも巻き込まれてる事は喜んでいい物なのだろうか?

 そのお陰で貴重な経験を積めてはいるのだけれど。

 それに実際の戦闘結果を考えてみると、個人的にはそう何とも喜べる物でもない。

 

「それは当たり前だろう。そんな簡単に超えられるようなら、伊達に最強などと呼ばれてはいないさ」

 

 そういってラナはモニター上、到着して早々シャルのラファールと交戦しているジャックを見やる。

 こちらもそれに合わせて、その備え付けられているモニターに目を移す。

 

 飛び回るラファールと焦った様子で追いかけようとするガイア。

 だが、元より機動性に劣るガイアではラファールに付いていく事が出来ず、常に死角を取られ直撃弾を浴びせ受け続けている。

 またそれに加え、ラファールは二枚の背部ブースターから繰り出されるクイックブーストによる高速機動を行いながらも、自律兵器『オービットカノン』を射出し続けており、はっきり言って鈍足のガイアは碌に回避行動がとれずに、先程から本当に一方的に被弾している。

 正直な所、今は硬い装甲で持ち堪えてはいるけれど、ガイアが単独で相手取るには厳し過ぎる。

 

 そんな一方的にやられているジャックの姿に、ラナはそれがさも当然であると言ったような表情で言葉を続ける。

 

「だが勘違いはするなよ?ISは最強の個であっても、無敵の存在ではない」

 

 何だか大事な事を言ってはいる気はするのだけれど、どうにもシャルとジャックの戦いの方が気になって仕方がない。

 ……って、あ、斬られた。

 

「それを証明させる為に、私達がこうして今、日本を訪れているのだからな?」

 

 エネルギーブレードをコア部に喰らい機能を停止させているガイア。それを行ったシャルはその様子を映し出すカメラに向かって手を振って来ている。

 その映像を眺めながらもラナの言葉に耳を傾けてはいたが、その中に何だか少し引っ掛かる部分がある事に気付く。

 

 ……証明?というか訪れる?

 

「それってどういう事ですか?何だか直ぐどこかに行っちゃうような言い方ですけど」

 

 そりゃあ、機体まで持ち込んでるんだから、ただの観光ではないと思ってはいたけど。

 

「ん?聞かされてないのか?今度のトライアルに私達も参加するだろう?」

 

 トライアル?……いえ、全く聞いてないです。

 

「おいおい、しっかりして欲しいもの何だが」

 

  しっかりも何も聞いてない物は聞いていない。何だか最近、キサラギの上層部が慌ただしいという話は耳にしていたけれど。

 

「……いや、つまりだな」

 

 そうして、ラナが説明するにはこうだった。

 

 合同トライアル。

 それは米軍によって行われる性能評価試験。

 元々、僕らに出番はなかったはずだったのだが、そこでトライアルの中核というか本来のトライアル機体を開発しているGAが、ACつまりアーマード・コアを有する事となったクレストに対して挑発を実行した。

 それをクレストが真に受けてしまった物だから、大変な事に。

 そんなこんなで、GAに反発して怒りに燃えるクレストによって、急遽僕らのゲスト参加が決まってしまったらしい。

 

 クレストはやる気満々、燃えに燃えて、奴等を伸して来いと無茶振り。

 ミラージュはそれを絶好の機会だと大賛成。

 キサラギはまだまだ時期尚早とクレストを諌めようとはしてたらしいけど、クレストから来た多額の追加予算の前に見事に閉口。

 結局は最大のスポンサーと大切な開発資金を相手に口出しはできなかったという訳だ。

 というか、実際には未だにキサラギが渋ってはいるみたいだけど、こうしてクレストから人員を送られては、将棋?で言うツミの状態にあるのだろう。

 

 そうやって僕らが参加する事になったそのトライアルの期日が、シャルが参加するIS学園の学校行事、臨海学校のスケジュールとも被ってしまっていた。

 

 

 そうしてその日の午後、ジャックを撃破して意気揚々とハンガーに戻ってきたシャルが、その話を聞いて落ち込んでしまったのがつい先日。

 それを見たシゲさんやラナ達が何とか元気を取り戻して来い!と僕らを送り出したのが、今日の午前中。

 そして、中々気分が戻らないシャルの様子に少々慌て気味なのが、今現在という事になる。

 

「シャル、大丈夫?」

「……うん、大丈夫だよ」

 

 どんよりとした空気を纏いながら、溜息をついているシャル。

 本当に僕らの方に参加できない事がショックだったらしい。

 

 トライアルへの参加期間は、同時に行う海上テストを含めて三週間超の予定。それに対して学園側の臨海学校は三日間。

 その為、シャルも臨海学校が終わり次第に、こちらに合流すれば良いとは言ってはみた。

 しかし実際にシャルがその申請をしてみても、トライアル参加の許可がデュノア社から降りる事はなくて、その結果、移動時間、その他諸々を考えると約一ヶ月程はこちらと別れるという事になり、シャルはこうして落ち込んだ様子を見せている。

 

 ……でも本当に、どうしたら良いんだろう?

 

 その落ち込み様、正直言ってかなり深い。

 

 元々シャルが行ってみたいと言っていた場所だったので、今日はこうやって遊びに来てみたのだけれど。

 電車の中で話し掛けても、その落ち込みようは拭えなかったし。

 皆に薦められていた映画に行ってみても、どうにも頭にその内容が入っていない様子だったし。

 仕舞いには、ラナ謹製の指針書というかラナやキサラギスタッフの人達がいつの間にか考案作成していた、お勧め場所一覧を見ながら行き先を考えていっても、今のシャルを元気付けられるような物、場所が全く解らない。

 

「とりあえず、何か軽く食べとこうか?」

「……うん」

 

 話しかけてみても、やはり未だにどんより空気のシャル。

 近くの店からクレープを適当に二つ買い、近くの休憩スペースに腰を下ろして、それを二人で食べていく。

 柔らかい生地に甘い生クリーム、そこに加えられたラズベリーソースの酸味、確かに美味しいとは思うのだけれど、今は何だか味気ないというか何と言うか。

 まぁ、理由は言わずもがな。

 

 どうにも落ち込んでいるシャルの事が気になっていて、食べても食べた気が全くしない。

 以前に僕が落ち込んでた時は、シャルとシゲさんのお陰で直ぐに立ち直れたのだけど、僕にはそれが上手く出来ない。出来そうにない。

 何だかその事に対して、無性に無力感と共に悔しさを感じる。

 

「……ダメだな、僕は」

「え?」

 

 クレープを片手に思わずこぼれてしまった言葉と、シャルの僕の言葉に対する反応。

 その様子に自分自身が先程考えてしまった物、それを思わず声に出してしまう。

 

「いや、僕は無力だなってさ。……ホント、役に立てなくてごめん」

「そんなことないよ!」

 

 僕が口にした言葉とシャルが発した強い否定の声。

 その声は周囲にも響いていて、周りを歩いていた人達が少しこちらを窺うような視線を送ってきている。

 正直、あまりに突然だったので僕もかなり驚いた。

 

「……ごめんね。いきなり大きな声出して」

 

 その後、本当に申し訳なさそうに謝ってくるシャル。

 それは元々こちらの言葉が原因なので、逆にこちらも謝っていく。

 

「僕の方こそ……いきなり、変な事言っちゃって」

「私こそ、ごめん」

 

 僕がそうして謝ると、また何か落ち込んだ様子を見せる。

 そこで感じるのは、そんな様子と共に訪れる気まずいというよりは何となく重たい空気。

 何が悪いって訳じゃないんだけど、互いに一歩足りないような、出来そうなんだけど今はどうしようもないような感覚。

 

 個人的には好きな空気ではないので、どうにかしたいとは思う。

 きっとシャルも同じ事を考えているとも思う。

 でも打開策は浮かばない。本当にどうすれば良いのか。どうすればシャルを元気付けられるのか?励ましてあげられるのか?

 

 何とか考えてはみても、やっぱりダメだ。

 まともなというか、真っ当な物が浮かんでこない。

 本当に足りない人生経験。発想力。その他色々。

 こんな時に、何のアイディアを浮かべられない自分の頭がどうにも恨めしい。

 

 そんな空気のままに、進展も無く時間だけがただ過ぎていく。

 やがてクレープも食べ終わってしまったので、包みを捨てる為にとりあえず腰を上げる。

 

 しかし、そうして立ち上がったそんな時。

 

「ほら?お姉さん、元気だして」

「え?」

 

 本当にいきなりの状況というかタイミングで僕らに言葉が掛けられていた。

 それによって聞こえてくるのはシャルの少し驚いたような、どこか呆気に取られたようなそんな声。

 

「そこのお兄さんも、もっとしっかりしないと。女の前でシャキっとしないやつは男じゃねー!……らしいよ?」

 

 シャルに向けられていたそれが、今度は僕の方へと向けられていく。

 

「そうか、いや、そうだね」

 

 だがその掛けられた言葉、それは確かにもっともな、実に的を得ている物ではあった。

 

 今日はシャルを元気付ける為に来てるのだから、確かに僕が落ち込んでいても仕方がない。

 むしろ逆に僕がもっと頑張らないでどうするというのか。

 アイディア、出来る事の引き出しは確かに少ないけれど、それでも、落ち込んだシャルをそのままになんて選択はまずない。

 ……押してダメなら押して押して押し続けるのみ。

 何とかどうにか諦めず、シャルの気を晴らすべく行動に次ぐ行動を心掛けよう。

 

 そうと決まれば、気合いを入れろ、僕。

 いつまでも自身が落ち込んでる暇なんてないし、シャルの落ち込んだ表情を見ていたい気持ちなんて、更にないのだから。

 

 と、早速行動に移ろうとは思ったけどその前に。やはり、明らかにしないといけない事がある。

 それは自分に頑張れと言い聞かせてから、ようやく深く疑問に思った事。

 いつの間にかいた第三者、僕とシャルとに話し掛ける見知らぬ存在の事。

 

「えっと……君は?」

 

 立ち上がったままに、話し掛けられた方向、そちらを直ぐに振り返る。

 だけどそこには誰の姿もない。

 しかし視界の下方、微かに入っていたのは少し跳ねた黒い物体。

 その黒を追い掛けて視線をずっと下げていくと、そこには僕らに話しかけて来たと思われる幼い少年がいた。

 

「ぼく?」

 

 そう言って、自分の事を指差しながら首を傾げる一人の少年。

 おそらくというか、多分十歳にも届くか届いてないだろうという年齢。

 

「ぼくはシズカだよ。お兄さん」

 

 そんな少年が笑顔を浮かべながら、話し掛けてきていた。

 

 

 

「それで?お兄さん達は何でまたケンカなんてしてたの?」 

 

 先程、シズカと名乗った少年。

 彼が僕とシャルとの間に座り、まるで小動物のようにクレープをぱくつきながらこちらへと尋ねてくる。

 

「……別に私達はケンカなんて」

「うん。別にケンカをしてた訳じゃないよ」

 

 そう僕らはケンカなんてしてはいなかった。

 ただシャルが落ち込んでて、それを僕が励ます事が出来てなかっただけ。

 

「ふーん、そうなんだ。でもせっかくあそびに来てるんだから、もっと楽しめばいいのに」

「それはそうなんだけどね」

 

 そうして、少年の言葉に答えている時に何か視線を感じるなと思ったら、シャルが申し訳なさそうな表情を浮かべてこちらを見つめて来ていた。

 ……まったく、別にシャルが悪い訳じゃないのに。

 

「まぁ、別に良いけど」

 

 こちらの話を妙にさばさばとして態度で聞き流す、何だか大人ぶったというか、どうにも背伸びをしている感のある少年、シズカ。

 そんな印象はあるのだけど、美味しそうにクレープにかぶりつく光景は歳相応の幼さを感じる。

 そうやって食べ続けているシズカ少年。すると今度は、何かを思い出したようにそれをこちらに問い掛けてきた。

 

「そうだ!……ねぇ、お兄さんお姉さん。セレンを知らない?」

 

 その単語、セレン。それは何を指し示す物なのだろうか?

 そんな名前の元素があった気もするけれど。

 

「えっと、それは誰かの名前?」

「そうだよ」

 

 まぁ、そうなんだろうね。

 いきなり元素名を聞かれても、こっちは反応に困る。

 

「……ねえ、シズカ君?お母さんかお父さんは一緒じゃないの?」

「お父さん?お母さん?ちがうよ、セレンだよ」

 

 そこで僕に代わるように彼へと問い掛けたのは、シャルの声。

 それに返ってくるのは、少年のそうではないという主張。

 でも、親ではないとすると姉か妹なのかな?

 確かセレンというのは女性名だったと思うし。

 

「セレンはセレンだってば」

 

 うーん?

 姉妹説も外れ。もしかしたら友達?

 しかし、この年齢で友達とだけでここに来るとは思えない。

 

「それじゃ、そのセレンって人がどうしたの?」

「うん。セレンの買い物が長くなりそうだったから、ちょっと散歩してたんだけどね」

 

 セレンさんとやらについての質問をしてみると、返って来たのは予想外の答え。一瞬、その言葉に意識が固まる。

 

「それでもどったらさ、セレンがいなくなっててさ」

 

 いやいやいや……。

 

「そしたら、セレンが迷子になっちゃって」

 

 いやそれは……。

 

「まったく困るよね?良い大人が迷子だなんて」

 

 こちらが抱いた疑問もいざ知らず、誰かの真似をするかのように、やれやれと肩を竦めるような仕草を見せているシズカ少年。

 

「えーとさ、シズカ君、いや、シズカって呼ばせてもらうけど」

「べつに良いよ。それでどうかした?」

 

 彼は相も変わらずの様子で、セレンが迷子であるという事を信じて疑ってもいない。

 

「……それってそのセレンって人が迷子なんじゃなくて、君が迷子なんじゃないのかな?」

 

 これがシズカの話を聞いた僕の個人的な意見。というかむしろ一般的にもこう思うんじゃないだろうか。

 

「なに言ってるの、お兄さん?ぼくは来年には十歳だよ?迷子になるはずなんてないよ」

 

 こちらの言葉に今度は、どうだと言わんばかりに胸を張って答える目の前の少年。

 それは十歳という響きにどこか誇らしげで自信満々と言った態度。

 

「いや、でも、初めにふらふらっと店を出ていったのは君の方だろ?」

「うん、そうだけど?」

 

 それでもまだ理解できていないというか、よく分かっていないというか。

 

「普通はそれを迷子って言うと思うんだけど」

 

 多分というか、確実に。

 僕が勘違いとか、聞き違いとかをしていなければ完全に。

 

「え?」

 

 そう言って、黙り込んで考え込む目の前の少年。

 何とは無しにシャルの方を見ると、こちらの意見に同意をしてくれている様子で仕切に頷いてくれている。

 

「……なに?もしかして、セレンじゃなくてぼくが迷子なの?」

 

 やがて、沈黙を破り口を開いたシズカ。

 その様子は先程とは大きく異なり、本当に真剣な様子だ。

 

「うん。多分」

 

 それに答えるのは一言。

 この子が無意識の内にではあっても、迷子になっていた事を疑う余地は全くない。

 でもそうなってくると、そのセレンさんという人は今頃、この子を懸命に探し回っているのではないだろうか?

 

「そっか、ぼくが、迷子なのか」

 

 僕がそうやってセレンさんについて考えていると、不意に自分に言い聞かせるような口調が聞こえて来た。

 だけど、その声はどこか少し震えていて。

 

「ぼく、が……迷、子……」

 

 ……って、泣いてる!?

 

 何やら変わった声に視線を向けてみれば、そこにあったのは潤んでゆく瞳。目を拭う動作。途切れ途切れになっていく声。

 彼はどうにか泣くのを我慢しようとしているみたいだけれど、それは傍目から見ればどう見ても、完全に泣いている状態だった。

 

「いや、ほら大丈夫。大丈夫だから!」

 

 慌てながらも何とか宥めようとはする。

 それでも、泣き出したら止まらないというのが子供という物。

 そのままシズカは、顔を歪ませえぐえぐと泣き始めた。

 彼もさっきから、ずっと何とか泣くまいと必死に涙を抑えようとその目を拭ってはいる。

 しかしそうやって拭う度に、涙は瞳から溢れ流れ落ちていっていた。

 

「……あー、泣くなというか、泣かないで」

 

 それを見て懐かしさを感じると共に、そんな目を擦り泣き続けるシズカの頭を軽く撫でていく。

 掌に感じるのは見た目通りに小さな感触と、泣いている事で体温が上がっているのか、少し高めの温かさ。

 そうして撫で続けていると、突如僕の腹から鳩尾の辺りを一瞬の軽い衝撃と重さが襲う。

 

『泣いてないもん』

 

 日本語訳にするとそんな感じの事を言いながらも、いきなりしがみついてきた少年。

 丁度僕の腕の中では、セレンさんとやらに何かを言う声と一緒に泣き声が聞こえている。

 時折、ずぴーという確実に泣き声じゃない物も聞こえては来ているけど、今は着ているジャケットよりこちらの方が心配だ。

 

 えぐえぐ、ずぴー。

 

 聞こえてくる音が示す通りに、現在進行系でジャケットにはダメージが募り続けていく。

 でも今は、しがみつかれたままの体勢で待機中。

 始めの勢いこそは既に見られないが今も尚、泣き続けるシズカの背中を手で支え、鼓動に合わせたリズムを取りながら、どうした物かと考える。

 

 ……まぁ、結論は決まってるのだけれど。

 

 泣きたいなら泣きたいだけ、泣かせておけば良い。

 つまりは、泣き止むのを待つしかないという事。

 

 そんな体勢でただただ待っていると、不意に僕の懐へと伸びていく腕が見えた。

 懐の未だにえぐえぐと泣いているシズカに対して伸びる、どこか見慣れた女性らしさを感じさせるその手。それはやがてシズカに到達すると、優しくその頭を撫で始める。

 

 伸びて来たその方向。

 そちらに顔だけを向けて見てみれば、あの落ち込んだ様子をどこかに飛ばし、シャルが優しげな表情で彼に手を伸ばしていた。

 

 

 

 

「お兄さん、お姉さん!さっきのことは絶対内緒だからね!」

 

 あれから、シズカがようやく泣き止んだ後、涙やら何やらで大変な事になってるジャケットを脱いでから目的地へと向かっていると、いきなり彼が突っ掛かって来た。

 

「はいはい、内緒ね内緒。君が大泣きしてたのは誰にも言わないよ」

「絶対だよ!絶っ対だからね!」

 

 了承の返事にも少し焦った様子で、念を何度も押してくるその小さな姿。

 正直、何だか子供らしくて和む。

 

「ふふっ」

 

 その必死な様子を見て、同じような事を考えたのか、シャルは思わず笑みを溢してしまっている。

 

「あっ、笑ったな!なんで笑うんだよ!」

 

 その笑いに対して、ぷんすかという擬音が似合いそうな様子で軽い怒りをあらわにする幼い少年と、その反応を見て再び笑みを浮かべる、先程まではどうにも落ち込んでいたはずの少女。

 横から見ていても、それは何とも穏やかなというか和やかな光景だと思う。

 まぁでも、何はともあれ、シズカもシャルも一応は元気になったみたいで良かった。

 

 頬を膨らませながら詰め寄るシズカと、そんな迫り来る小さな頭を再び撫で始める事で迎撃していくシャル。

 次第にシズカは始めの勢いをどこに忘れてきたのか、段々と大人しくなり為すがままに撫で回されている。

 見ているだけでも何だか面白いので、ずっとこうして二人を眺めていても良いのだけれど、シズカの事というか彼を探しているだろうセレンさんの事を考えると、こうして立ち止まってもいられない。

 

「おーい、二人共?」

 

 そんな二人に声を掛けると揃ってこちらを向いて、はーい、という返事をした後、再び歩き始める。

 

 僕の右手にはシズカ。シャルの左手にもシズカ。

 二人で彼を挟んで歩く姿はまるで、20世紀にあったというロズウェル事件の写真のようにも見える。

 

 まぁ、案外間違ってはいないかもしれない。

 泣き止んだ後のシズカの行動と言ったら、あちらこちらにちょろちょろと確かに迷子になった事も頷けるような行動と様子だったから。

 

 そんな彼を拘束する為に、シャルが考案したのがこの歩き方。

 とは言っても、シズカも別にそれを苦にすることは無く、楽しそうに話をしながら歩いているので全く問題はない。

 

「へぇ、お兄さん達はアメリカから来たんだ?」

 

 そしていつの間にか、話は僕らの出身というかどこから来たのかという話題に。

 

「まぁ、正確には僕が北アフリカからで、シャルがフランスからなんだけどね。……場所は分かる?」

「何言ってるの?ぼくだってもう子供じゃないんだよ?それくらい知ってるよ」

 

 自分で色々と言ってるだけはあって、確かにシズカはその歳にしてはかなり賢い。

 でもやっぱり、時々見せる大人ぶった姿が、逆に子供っぽさを強調して見えるけれど。

 

「でもそうすると、お兄さんもお姉さんもぼくの所と近いんだね」

「僕の所って?」

「うん。元々ぼくはイタリアにいたからね。そこでセレンと会って一緒に日本に来たんだ」

 

 へぇ、日本人じゃなかったんだ。てっきり名前といい髪色や顔付きといい、日本人だと思ってた。

 まぁ、それはさておき、セレンさんはイタリア人なのか。

 そして、そのセレンさんについて語るその言葉とか表情を見る限り、シズカにとってはきっと家族のような人なんだろう。

 

「でも良かったね。もうすぐそのセレンさんにも会えるよ」

 

 そんなシズカの身の上話を一緒に聞いていたシャルが、笑いかけながら前方を指差す。

 その方向、歩いていく先、そこには施設のインフォメーションセンターが見えて来ている。

 僕たちの目的地、ここでセレンさんを呼び出してもらえば、きっとすぐにでも駆け付けてくれる事だろう。

 

 でも、その前に……。

 

「そういえばシズカ。君のフルネームって何て言うの?」

 

 インフォメーションセンターで呼び掛けをしてもらうにしろ何にしろ、ファーストネームだけではどこの誰かも分からない。

 シズカだけでその受付をさせてしまうのも可哀相だし、代わりに請け負ってしまおう。

 

「霞」

 

 僕の問い、それに対してシズカは一言、そう答える。

 

「霞シズカ。それがぼくの名前だよ」

 

 

 

 

 

「ばいばーい!お兄さんー!お姉さんー!」

 

 シズカの遠ざかっていく声。

 そんな再会の喜びをにじませた声には、手を振って応える。

 

「じゃあねー!シズカ君ー!」

 

 シャルもまた、シズカに届くようにと声を掛けながら手を振っている。

 シズカと僕らのやり取り、それを見て彼の保護者いや母であるセレン・ヘイズさんが、その黒髪をこちらに軽く下げた後、その手で小さな手を大切そうに握り、そのまま歩いて行く。

 

 あの後、インフォメーションセンターに着いたのち、直ぐにシズカがインフォメーションセンターで待っているという館内放送を流してもらった。

 やがて半ば駆けるようにしてやって来たのが、黒髪の眼鏡をかけたパンツルックの女性。

 そして彼女は、シズカを確認するや否や彼を即座に強く抱きしめていた。

 

 そんなシズカを抱きしめていた西洋風ではなく東洋風の女性、セレン・ヘイズさん。

 ちょろちょろと迷子になっていたシズカに対して、幾分か文句こそは言ってはいたけれど、その顔には明らかな安堵の表情が浮かんでいて、彼の事を余程大事に思っているというのは、見ているだけのこちらにも十分に伝わって来ていた。

 

 ちなみに僕らもシズカだけを置いていくのは嫌だったので、彼に付き合う事にして一緒に話をしながらその迎えを待っていた。

 ……でもまぁ、セレンさんが直ぐにというか、本当に一瞬で来たので大した時間は経ってはいない。

 

「でも、良かった」

 

 そうして手を繋いで歩いて行く二人を見送っていると、シャルがその遠ざかっていく背中を見ながら口を開く。

 その言葉が何を指しているのかは解っているけれど、一応、何が?と尋ねてはおく。

 

「シズカ君がセレンさんに会えてさ」

 

 まぁ、それは確かに。

 二人共、互いに少し言い合ってはいたけど、その顔には常に笑顔があった。

 

「そうだね。でも僕の方としては、もう一つの意味で良かったと思うよ」

「何が?」

 

 今日あった、良かった事。

 そこに個人的な物を付け加えさせてもらう。

 

「だって、ようやく笑ってくれたから」

 

 それが僕じゃなくてシズカのお陰だって事を考えると、何だか少し悔しい気持ちもするけれど。

 まぁ、それでも良かった事には違いはない。

 むしろシズカには悪いけど、迷ってくれてありがとうと感謝をするべきなのかも。

 

「……本当に今日はごめんね?」

 

 僕の言葉に対して、何だか申し訳なさそうな表情を見せてくるシャル。

 

「ん?何が?」

 

 何に謝ってるのかがよく分からないので、それを聞いていく。

 

「私を励まそうとしてくれてた事」

 

 なるほど。でもそれはこっちの台詞でもある。

 

「そんなの、むしろ僕こそあんまり役には立てなかったみたいで、ごめん」

「そんなことないよ。気持ちは伝わって来てたよ」

 

 ……そう言ってもらえるとホントに助かる。どうにも上手くいかなくて少し凹んでたのは確かな事実だから。

 

 そんなとりあえずの内心の安堵と共に、インフォメーションセンターからどこへともなく歩き出す僕たち二人。

 すると正面のどこかを見ながらも、シャルから再び言葉が紡がれていく。

 

「……でも、やっぱり長い間離れちゃうのは悲しくてさ」

 

 ……きっとそれは、変えられない事だから仕方ない。

 

「私、何だか自分の事ばっかり考えてて……本当にごめんね」

 

 ん?

 でもそれは謝られる事なのかな、とは個人的には少し疑問に思う。

 楽しいとか悲しいとかは、結局は個々人の感情、所有物な訳で、無理に人と合わせる物でもないんじゃないかと。

 

 今日だって別に、シャルにこっちの願望と合わせて欲しいと思って遊びに来た訳じゃないんだし。

 そう、だからこそ。

 

「いや良いんだよ、それで」

 

 そして加えて、何より。

 

「僕はシャルに元気になってもらいたかっただけだから。今日なんて僕らの我が儘みたいな物なんだし」

 

 無理に振舞ってもらうのではなくて、根本的に心の底から元気になって欲しかった。ただそれだけの事。

 それに対しては、変な我が儘だねという言葉がシャルからの反応。

 だけど、そんな少し可笑しそうに笑っている彼女に対して、ちょっとした安堵を覚えると共に聞きたい事が一つだけあった。

 

「……でもさ、何で急に元気というか、元に戻ったのか聞いてもいい?」

 

 それは、その理由。

 シズカがきっかけになって、元気を取り戻した事は分かった。

 しかし、そのシズカの何がシャルに元気を与えたのかがよく分からない。

 そういった結果や始点よりかは、過程の方が知りたい。今後の参考という意味でも。

 

「うん。……やっぱり別にさ、離れちゃう事が悲しくなくなったとかそういう事じゃないんだ」

 

 質問に答えてくれるシャル。

 答えとなる言葉とは裏腹に、その表情と口調は少し明るい物だ。

 

「でもね、シズカ君の泣いてる姿とセレンさんと再会して笑った姿を見てたら、私たちだってまた会えるんだからって思えてさ」

 

 その表情には、先程の二人が再会していた時の事を思い出したのか、どこか嬉しそうな色が浮かぶ。

 

「そうしたら、少しの別れを悲しむよりは今を楽しもうって思えて来てね」

 

 つまりは、シズカとセレンさんを自身と僕らに見立ててたって事で良いのかな?

 一時の別れ(迷子)でも、またいずれ会えるという事で。

 実際には迷子になる事なんて予想は出来ないだろうけど、今生の別れでも無し、悲しむよりかは楽しめる時に楽しまないと損だって事で。

 

「そっか」

「うん」

 

 僕の一言の同意に返って来たのは、肯定の頷き。

 

 如何に別れの前の今を楽しむか。

 そんなシャルの言葉、確かにそれはもっともな事ではある。

 でも、その別れの真っ最中でもただ単に悲しさだけがある訳でもないと思う。

 

「まぁ、僕らは一ヶ月くらい会えないのかもしれないけど、電話とかなら向こうからでも出来るし」

 

 それは、別れの最中での楽しみ。別れを感じさせない為の物。

 

「後は、そうだね……僕らが日本に帰る時には、ちゃんとお土産も買ってくから。それにその時は会えなかった分、後でどこか遊びに行こうよ?前に言ってた動物園とか水族館だっけ?そこに行っても良いしさ?」

 

 これは別れの後での楽しみ。

 寂しさや悲しさを一時感じても、その後に大きな楽しみがあればどうにかなるのではと思っての事。

 

「……動物園に水族館かぁ、うん、楽しみかも」

 

 そこでの光景を思い浮かべたのか、少し表情を緩ませたシャルの様子。

 可愛い物好きを自称するシャルにとっては、その二つは中々に良い所ではあるらしい。

 アメリカでモノクロの肉食獣パンダがどうのと、シャルとラナとが言っていたのは覚えている。折角、東京に程近いのだから、それがいるという動物園に行かなきゃ損だという物だろう。

 

「ああ、でもその前に」

 

 後々の楽しみの前に、忠告というか助言というか激励というか声援みたいな物を送っておく。

 

「臨海学校の方を頑張ってというより楽しんできなよ。ラウラさんやセシリアさん、一夏も一緒なんでしょ?」

「そうだよ?」

「だったら、まずはそっちをね。こっちはこっちで頑張って来るから」

 

 というかよくよく考えなくても、普通に考えてシャル達の臨海学校の方が僕らのハワイ遠征より遥かに楽しそうだ。

 ハワイも観光地として有名ではあるけど、どうせ僕らはクレストとGAとの企業間闘争に巻き込まれて、それ所じゃないだろうし。海は海でもどうしてこんなに差があるのか。

 正直な所、ケンカをするのは良いけれど、その影響を直に受ける僕たちのような存在の事も考えて欲しい。

 

 ……まぁ、そんな陰鬱な事を今だけは忘れるという意味も込めて、今日これからは本当に楽しんでいきたい。シャルもこうして元気になった訳だし。

 

 そうやって改めて、今日という日に気を入れていると隣を歩くシャルから声が掛かった。

 

「ねえ?これから行きたい場所はある?」

 

 それは僕に対する質問というよりかは、ある種の確認の意味を込めた物だとは思う。

 その言葉のニュアンスから推測するに、きっとシャルには行きたい所があるのだろう。

 なら、僕はそれを最大限尊重するだけだ。

 何たって今日はシャルに元気を出してもらう改め、シャルに楽しんでもらうための休日なのだから。

 

「大丈夫。今日はシャルの好きな所にどこでも付き合うよ」

 

 僕の答え、それに聞いて隣のシャルはそっかと言葉を一度置くと、少し頬を赤くしながら何かを決心したかのように口を開いた。

 

「そ、それじゃあね……ちょっと、買い物に付き合って貰えないかな?」

 

 その不自然というか少し不審な?シャルの様子に多少の疑問は残ったけれど、僕が対して返すのは軽い了承。

 返された言葉に満足したのか、そっかと再び呟くすぐ隣の彼女。

 すると、シャルはそのまま顔を赤く染めたままに、どこかへと歩みを進めていく。

 何だかその表情や行動から、嫌なというより困った事になりそうな気配をひしひしと感じはするのだけれど、了承してしまった手前それを今更取り消す事なんてできはしない。

 そんな気配に小さな溜め息を心に一つ零し、しょうがないなと肯定的な諦めも一つ付けておく。

 

「待ってよ、シャル」

 

 握られた手を介して、引かれていく身体。

 それを彼女の横に着けるようにして並べていく。

 すると先程の早いペースの歩調が緩んで、やがてゆっくりとした速度へと変わった。

 そんな減速をしたお隣さんを横目で窺ってみれば、そこにあるのは前を向いたままの、何故か未だに赤い顔。

 何でいきなり顔が赤く染まったのかは今もよくは分からないけれど、そのまま二人で並んだままに、目的地に向けてゆっくりと歩いていく。

 

 まぁ、確かに、これから一ヶ月、一時の別れが存在しているのは間違いはない。

  だけどそれは、こうして過ごす今に比べてみれば本当に些細な物に過ぎないのだろう。

 並んで歩きながら、そんな事を考える。

 

  ふと上を見てみればそこには広がる青と照り付ける太陽。

  そんな空は未だに明るいままで、日が沈むにはまだまだ早すぎるみたいだった。

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