Acxis   作:ユ仲

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Chapter2-10

 ――これより、ミッションの内容を説明します。

 依頼主はアメリカ合衆国国防総省。

 ミッションオブジェクティヴは現在も尚、暴走を続けるシルバリオ・ゴスペルの捕獲または無力化となっています。

 多大な危険を伴ってはいますが、これはアメリカの威信と沽券に関わる重要なミッションです。確実な遂行を期待しています。

 

 

 

 

 

 在日米軍横須賀基地。

 

「えーと、こちらが本計画の一番機、中量二脚型、機体名『クロノス』になります」

 

 今日も今日とて、何故かの機体の説明会。

 昨日は米軍の人達が中心ではあったのだけど、今日は東洋風のアジア人、いや、つまりは日本人、ひいては自衛隊の人やお役人さんっぽい方々が目の前に存在している。

 その事に、そういえば日本の防衛省もスポンサーになっていたなぁとそんな昔を思い出して、納得と共にちょっと感じる懐かしさ。

 

「機体のエネルギー関連についてですか?あ、はい、詳細についてはお答え出来ませんが、超高密度水素吸蔵合金を利用しておりまして……」

 

 けれど、そんな納得と今の状況に関しての理解は別物な訳で。

 説明自体は別に構わないのだけれど、こんな事ばかりをさせられていたら、そもそも何の為にここに来たのかすら忘れてしまいそうだ。

 

「販売時期と値段?すみません、それは自分の口からは何とも」

 

 ……そんなのは僕に聞かれても困る。

 

 格納庫を案内しながらも、ふと海の方に視線を移すと、そこには海を走る戦車の姿。

 正確には海面を浮遊する戦車モドキ。

 

 圧縮空気を機体底面から常時噴出する事により、水上移動を可能にしたその新装備。

 ホバータンク。そう呼ばれている脚部パーツへの換装を終え、今現在、こうしてテストを行っている三番機。すなわちジャックの乗るガイアの姿がそこには見えた。

 

 こうしてジャックのガイアは疾走中。僕のクロノスは説明のネタの真っ最中。ラナのウラヌスは姿こそ見えないけれど、きっとどこかでテスト中。余った僕は説明中。

 

 そんな僕らの行動の違いに内心の小さな溜め息をつきながら視界を戻し、連れて歩いているお客さんを見てみると、ガイアの方へと皆その視線を集中させている。

 どうにも熱中している様子なので、今の内にちょっとだけ息を抜かせてもらおう。

 

 

 こんな事をしている本日は、横須賀基地に到着した昨日を入れての二日目。つまりは日本からハワイへと出発する予定の日。

 未だに資材やパーツは搬入中で、説明はすれど邪魔にならないように、きちんと気を付け抜かりはなし。

 

 元々今日には説明会の予定もなかったはずだったのに、朝方になって突然スケジュールに入って来たものだから、迷惑とまでは行かないけれど、個人的には大混乱だ。

 

 シゲさんは昨日に引き続いて忙しくて対応が出来ず、他の整備員の人も同じく不可能。

 あちら側の要求が機体を良く知る人物との事だったので、一応の知識を持っていた僕にお役が回って来てしまっていた。

 

 本来だったらクロノスのテストを行いながらも、新装備による高機動戦をどうやって行うか、機体の換装後から考えていたそれを試してみようと思っていたのに。

 ついてないというか、巡り会わせが良くないというか、何だか溜め息しか出て来ない。

 

 ……ホント、シャルが羨ましいな。今頃、何してるんだろう?

 

 不意に思うのはそんな事。

 昨晩の電話も落ち込んだ様子を少し見せてはいたけれど、結局最終的には元気そうで楽しそうだったし。

 そう、それにしても、海。その事が本当に羨ましく感じる。

 シャルは海でもたくさん遊んだよって言ってたのに、僕らはこうして眺めてるだけ。

 海を眺めるのは別に嫌いじゃないけど、遊んで楽しかったと聞いてるのに、遊べないというのは中々気分的には複雑で。

 

 せめて、向こうでなら……とも考えもする。でも、向こうでも機体の説明係をやらされたりするような気がしてならない。

 その可能性、何だかどうにも否定が出来ない。

 GAのいる場所では迂闊な行動を慎めとか、自由行動は無しだとかってクレストに言われそうだし。そもそもそんな暇があるのかさえ不明だし。

 

 あ、何だか落ち込んで来た。シャルにはあれだけ落ち込むなとか、楽しんで頑張ってとか言ってたけれど。

 

 まぁでも、実際にはそう落ち込んでもいられはしない。

 

 あれだけ言っといて僕が落ち込んだりしていたら、シャルに嘘をついてしまったような気がしてならないから。それは、何だか嫌な事だから。

 ならば、境遇や状況に文句を言ってもいられはしないだろう。

 やるなら悔いなく全力で。出来る事を出来るだけやろう。

 

 ……と、そうやって自分自身に気合いを入れていると、何だか周りの視線が痛い。

 思考から戻って気が付いてみれば、今までガイアを見ていた人達が大丈夫か?とでも言いたげな表情でこちらに見て来ていた。

 

 おっと、いけない。ついついお客様方を放って置いてしまった。

 

「えーと、何か改めて質問のある方はいらっしゃいますか?」

 

 要集中。要集中。

 新たに問い掛けられた疑問に答えながらも、こんな時間を過ごしていく。

 

 

 どっこいしょ。

 掛け声と共にコクピットの中へ。身に纏うのはいつものパイロットスーツ。

 観衆からのオーダーは、動いてる所を近くで見たいというわくわくとした子供のような笑顔での要望。

 

 ちょうどそこを通り掛かったシゲさんに尋ねてみれば、とりあえずの了承が得られた。という事なので、対Gスーツに着替えた後、早速システムを起動。機体をゆっくりと動かしていく。

 立ち上がったクロノスを見て、おおーっ!という驚きの声が上がる。

 やっぱり、そういう驚きとか歓声とかそんなのが向けられる気分は悪くない。

 

 ――でも、それはそんな時だった。

 

 周囲から上げられた声に対して、調子に乗ってちょっとしたパフォーマンスを見せようとしていたその時。

 

 ――突如基地に、緊急を告げるサイレンが鳴り響いた。

 

 確かにそれはまったくの前触れもない物。普通であれば緊急対応訓練の物かと、思うのかもしれない。

 しかし、今はどうにも様子がおかしい。

 

 この鳴り響くサイレンによって、訓練であればその対象となる米軍の人達だけでなく、クレストやキサラギのスタッフ達までもがにわかに慌ただしくなり始めている。

 

 そしてやがてのクロノス、コクピット内。ディスプレイに真剣な表情のシゲさんが現れ、その言葉を告げた。

 

『……緊急召集。パイロットは至急ブリーフィングルームに集合、だって』

 

 

 

 

 

「では、現在の状況を説明する」

 

 明かりの落とされた艦内ブリーフィングルーム。

 ある種の暗室となったその中で、艦の指揮官である艦長が前方のディスプレイの横に立ちその口を開く。

 

「つい先程、ハワイの太平洋司令部を通じて、緊急の連絡がここにも入った」

 

 発せられた声は老成された落ち着いた物であり、普段であればそこに柔らかさや穏やかさを含む口調になるはずなんだけど、今そこに含まれているのは厳格さと明らかな緊張だった。

 

「約一時間程前に、ハワイで海上テスト中にあった機体がパイロットのコントロールを振り切り、突如暴走を始めた」

 

 言葉と共に画面へと映し出されたのは、全身を銀で染め上げた一体のIS。

 奇妙な形状、頭部から後方へと伸びる一対。これまた銀色の翼がまず目に付く。

 

「機体名『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。諸君らが向こう(ハワイ)で競い合う予定であった機体だ」

 

 問題の元凶、その機体の説明。

 その言葉と共に艦長が手元の情報端末を操作すると、そこには別の二体のISが画面上に表示された。

 

 ……っ!

 

 そしてディスプレイに現れた見覚えのある機体、その姿を見て、声を上げてしまうのを済んでの所で押さえながらも、思わずその息を呑みこんでしまう。

 

「現在においては、GA独断での依頼により、IS学園からの新型機二機からなる迎撃部隊がこれに対して既に出撃。今も尚、交戦中であるとの報告が入って来ている」

 

 その上げられた迎撃機、一体の赤い機体には見覚えはなかったが、それとチームを組むもう一体。それには確実に見覚えがあった。

 騎士甲冑をイメージしたかのような全身を白で纏め上げた機体。

 友人である織斑一夏の専用IS『白式』、それがディスプレイ上に表示されていた。

 

「まぁ、彼らが上手く迎撃に成功すれば良いのだが、もしもという事もある。その為にも……ん?何だ、一体どうした?」

 

 そうして、艦長が言葉のまとめに入ろうとしたその時、艦長の様子が変わり、その耳につけた通信端末で、おそらくは艦橋だろうか、どこかとのやり取りを開始した。

 

 その表情、元より真剣で少々の緊張が入り混じっていたそれが、通信を通して益々の緊張で彩られ、その険しさが段々と増していく。

 やがて彼は通信を終えると、そのままの険しい表情でこちらへとどこか重たそうにその口を開いた。

 

「……諸君。悪いが状況が変わった」

 

 その言葉、その意味は分かる。

 だが、その表情から察する事が出来るのは、決して状況が好転したわけではないという事だ。

 

「ついさっき、この件についての新たな情報が入った。先程、迎撃機が目標のインターセプトに失敗。目標によってその二機が撃墜されたとの事だ」

 

 撃墜……。

 それは有り得ない事ではない。しかし信じたくはない情報だった。

 少し呆然とする自分をよそに、艦長はそこでだと言葉を置いて、その先を続けていく。

 

「この事実に際し、我々に対して本国より正式な依頼、いや命令が下された」

 

 艦長はそこで言葉を切ると一度水を口に含み、それを喉へと通した後に、ある種の決心の色を言葉に込めて、吐き出していく。

 

「クレストインダストリアル社は、直ちにACを用いてこれの迎撃に当たり、目標、シルバリオ・ゴスペルを追撃。これを捕獲もしくは無力化せよ……以上が本国からの通達だ」

 

 言葉が語られた後、ブリーフィングルームに漂うのはどこか騒然とした様子。各スタッフだけでなく、僕らパイロットの間にもそれは勿論の事。

 ジャックなどにおいては、艦長に向けて怒号すら上げていた。俺達は軍の犬じゃねえ、玩具じゃでもねえんだぞ!と。それは心の底からの怒りを込めて。

 しかし艦長は慌てず、あくまでも冷静。

 ジャックを始めとした反対派に問い掛けるようにして、言葉を紡いでいく。

 

「命令とは言ったが、実際にはこれは強制ではない。……だが、これだけは覚えておいて欲しい。今も尚、暴走を続けている目標は非常に強力な機体だ。もし、これが市街地などに飛来したのなら、どのような悲劇が引き起こされるのか?」

 

 その言葉、たったそれだけの言葉で室内が静まり返った。

 そして悲痛な表情を顔に浮かべながらも、僕らにその願いと思いが掛けられる。

 

「確かに卑怯な言い方かもしれない。私を責めてくれても怨んでくれても、一向に構わん。だが、これは今、君達にしか出来ないミッションであると私は考えている。……すまんが、よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 ――目の前に映る戦闘風景。

 

 シルバリオ・ゴスペルに対して、白式に乗った一夏と紅い機体に乗った箒さんとが挑み、凌ぎを削る戦いが演出されている。

 

 戦況はほぼ互角。シルバリオ・ゴスペルはいつしかの無人機であった黒い機体、あれを彷彿とさせるように、一夏のエネルギーブレード『零落白夜』を確実に回避しながらも、戦闘を続けていた。

 

 やがて、戦局は終盤へ。

 一夏が戦闘海域内の密漁船を庇おうとした影響で、それまで何とか優勢に進めつつあった状況が崩壊。

 移り変わった状況の中で一夏は、エネルギー切れを起こした箒さんを身を挺して庇いながら、多数のエネルギー砲を被弾、海へと落下していく。

 

 その映像はそこで途切れている。

 

「……もう一度、始めから」

 

 機体に命令を送り、彼らを追って送られていた長距離光学観測機と人工衛星の情報から再現された、その戦闘映像を記憶に刷り込んでいく。

 敵機体、シルバリオ・ゴスペルの機動を何度も何度も……。

 

 敵と一夏達、実質的なその戦力評価は、やはり一夏達の方が上回っていたと自分は解析する。

 ただあそこまで戦況が均衡していたのは、暴走するシルバリオ・ゴスペルの行動パターンがそれを補っていたからだった。

 

 徹底的な回避重視。自機への極軽度ダメージは無視をするものの、明確なダメージソースが存在する場合は、その回避を最優先とする。

 実際に反撃は、その回避と同時かワンテンポ遅れてから行われているのを確認している。

 

 ある種の逃げの戦術。

 だが、多数放たれる多連装エネルギー砲と極めて高い機動性がそれを補い、シルバリオ・ゴスペルを勝利へと導いていた。

 

 彼我の性能差、それはアーマード・コアつまりはACにとっては、まだまだ大きすぎる。

 敵機体の最高速度はマッハ2を超え、そこにPICによる自由自在の三次元機動が加わえられる。

 さすがに通常戦闘の速度域ではそれより格段に下回っているようだが、ACにとってみれば、それでも異常な性能差だ。

 

 実際にこのままいつものように戦えばそこには絶望しか残らず、万が一にも勝利の可能性はないだろう。

 

『よう、行けるか?坊主?』

 

 幾度目かの映像が途切れるとそこに、先程のブリーフィングの時とは打って変わっての笑みを浮かべる、ジャックの姿が現れる。

 

「ええ、勿論。ジャックさんの方は?米軍の犬にはならないんじゃないの?」

 

 こちらの言葉にうっせいやいと反応すると、ジャックはそのまま笑みを湛えたままに答えた。

 

『おうよ。俺はもう軍の犬じゃねえし、犬になる気もねえ』

 

 そう言いながらも、顔には未だに浮かんでいる笑顔。

 

『だがよ……俺は元々、仲間や人を、誰かを守る為の盾だったからな。あんな危ねえのを放って置けやしねーんだよ』

 

 そうして何かを誇り、胸を張るように答えたジャック。

 日本じゃまだ遊んでもないしな!そうそうブッ壊されても困る!と少しおどけるような仕種も見せてはいるのだけれど、そこには一人の人間としてのジャックの信念のような物を見た気がする。

 

『まぁ、そういう事だな』

 

 そんなジャックに続いて現れたのがラナの姿。

 ラナの態度やら雰囲気はいつも通り。マイペースというか飄々としているというか、とにかく一本太い芯が入っているような感じ。

 

『それに、もうすぐ機体の準備も終わる。お前達も重々気を引き締めておけよ』

 

 ラナの言葉に、はい&おうとそれぞれの返事を返しながら、今はこうしてその時を待つ。

 

 ディスプレイ上、センサーが捉えている映像はまさにその準備中の物。

 機体の前方部及び間接部等に、構造保持用の高耐熱性増加装甲が備え付けられていく。

 それは横で作業が行われている、ウラヌスやガイアについても同じ様子だ。

 同じようにしてその装甲が取り付けられていく二つの機体。

 

 見るからに無骨な装甲。

 これから待ち受けるのは高機動戦だというのに、そのコンセプトに真正面から刃向かっているようなそれ。

 しかし、それにもきちんとした意味があった。

 何たってこれは、敵からではなく自分から自らを守る為の装甲なのだから。

 

 

 

 そうして二機の装着風景を眺めていると、到々こちらのその準備が終わったようで、作業を行っていた整備班の人達が機体から離れていく。

 

 それと同時に動き出す機体。やがてクロノスは艦のエレベーター内へと運ばれ、そのまま甲板を目指し上昇。

 

 甲板へと上がって行きながらも、サブセンサーで捉える格納庫内。そこでは整備班の皆が声援と共に手を振ってくれているのが見えていた。

 そこには誰の悲壮感もない、ただこちらを信じて送り出してくれるそんな姿。

 機体をあまり動かせないのは残念だけど、せめて心だけは彼らの思いに答えるために、一層の気合いを入れていく。

 

 そして皆に見送られながらの甲板上。

 臨時的な物ではあるが、そこではさらなる作業が行われていた。

 一足先に組み立てられて甲板上に上がり、今か今かとその出番を待っている、機体長を超える程に巨大なブースターユニットの姿。

 

 Vanguard Overed Boost

 

 VOBと略して呼称されるそれ。

 ハワイでの海上テストに用いられるはずだった新装備。

 使い切りの長距離侵攻用大型ブースター。

 初の使用がテストでもなく実戦という事になるので、少し不安こそ残るのだけれど、僕らが現在も移動中である目標に追い付くには、あいにくと今はこれしか手段がない。

 

 やがてそれが、クロノスの機体後方部のオーバードブーストに繋がれ固定される。

 はっきり言って、機体のバランス自体は劣悪だ。しかし、増加装甲がカウンターウェイトの役割も果たすと共に、バランサーが何とか調整してくれるお陰でとりあえずの機体の安定を保っている。

 

 機体パラメータから視線を戻せば、こちらに続いて上がって来た二機についても同じく接続が完了したようだ。

 その光景を見届けながら、甲板上の指示員に従い機体脚部のスラスターを使って、ゆっくりではあるけれど発進位置へと移動する。

 

 そうしてその時、ディスプレイ上に現れた20秒のカウントダウン。

 現れた数字それが減り始めると共に、艦橋との通信が繋がった。

 

『君達には困難な任務を押し付けてしまって、本当に申し訳なく思っている』

 

 現れたのはブリーフィングでも話していた艦長の姿。その表情に浮かぶのは言葉通りの色。

 その間にもカウントは進んでいく。

 

『だが、君達ならきっと成し遂げられる。……幸運を祈る』

 

 これはきっと僕だけでなく、ラナやジャックにも届いているのだろう。

 短い言葉、でも艦長から寄せられた謝罪と期待の込められた言葉。

 それが言い終えられた瞬間、カウントダウンもまた、0へと表示が変わった。

 

 するとディスプレイ上、デフォルメをされたGO!の丸い文字がアニメーションと共に浮かんだ。

 一体誰の遊び心か悪戯心か?何だか場の空気にそぐわないそれに、こぼしてしまう小さな笑い。

 だけど、今為すべき事も忘れてはいない。

 

「こちら、クロノス。出ます」

 

 短い呼び掛けと共にブースターのスロットルを全開へ。

 VOB中央、大型のメインブースターを除いた全てのサブブースターに火が点る。

 流れていく風景。

 それは通常の数倍以上の推力で機体を加速させていき、あっという間に甲板を超え海面上へとその身を躍らせる。

 

 初期加速成功。続いて二次加速へ。

 オーバードブーストを起動。

 機体のオーバードブーストによって圧縮放出された空気が、VOBのメインブースターを通じて、通常時を大きく上回る爆発的な加速力を生み出す。

 シートに固定された身体に襲い掛かる強烈なG。

 表示される速度は音速を超えても尚、上昇を続け、それに伴う装甲表面の温度上昇と風圧は増加装甲が受け止めている。

 

 そこでサブブースターの出力を絞り、超高速状態のままに後方から追い付いて来るだろうウラヌスとガイアの姿を待つ。

 

 レーダー上、速度を緩めたこちらの背後から直ぐに、高速の二つの機影が近付いてくるのを確認。

 彼らに合わせて速度を調整。機体を並べて編隊を組んでいく。

 そうして三機での移動をしながらも、改めての手順を踏む。

 

 クロノス、ウラヌス、ガイア、三機のデータリンクを開始。

 ディスプレイ上に現れる互いの位置情報、残弾数、ダメージレベルの表記。

 

 続いて衛星とのデータリンクを開始。

 人工衛星が尚も捉えている目標への自動操縦(ナビゲーション)が始動。それにより機体が進行方向を自動で微調整、目標の追尾を行っていく。

 

 ……これで何とか、とりあえずは一段落だ。

 後はシルバリオ・ゴスペルとの交戦まで、集中するなり気合いを入れるなり、はたまた逆にリラックスするなり、時間がある。

 

 では今の内に、やるべき事をやっておこう。

 

「ラナ、ジャック。気分はどう?」

 

 まずは、二人に声を掛ける。

 

『……マジ、速えーのな?』

 

 すると、ディスプレイ上に現れた、若干どこか臆したような表情のジャックと。

 

『この速さ……あぁ、懐かしい感覚だ』

 

 どこか恍惚の表情と声で呟いているラナの姿。

 高速機動に慣れていないジャックはまだしも、戦闘機で慣れているとは言え、今のラナの様子は、何だか危ないというより危ない人という感じがする。

 

 まぁ、それは置いといて。

 

「二人とも、もう分かってるとは思うけど……敵は強いよ」

『……』

 

 先程からの明るく装った様子から大きく一転、こちらの言葉に黙り込む二人。

 ラナとジャックだって、僕が言わなくともきっと分かっている。理解をしている。

 相手が今まで戦って来た何よりも強力な相手だって事は。

 だからこそ、わざわざさっきのような態度や反応を見せていたのだから。

 

「きっと勝てない。相手は圧倒的だからね。火力、機動、防御、どれをとっても反則的だ……」

 

 しかし、僕が言いたいのは、そんな当たり前の事ではなかった。

 

「でもそれは」

 

 ――自分、一人だったら。

 

 こちらの話、僕の語る言葉を、二人が真剣な表情で耳を傾けていてくれる。

 その真剣さの中に、どこか喜々とした色を滲ませながら。

 

「そう、僕一人だったらきっと勝てない。絶対に負ける。……でも、ラナ、ジャック。僕ら三人ならきっと」

『へっ、当たり前だぜ?坊主』

『……ああ、そもそもただスケジュールが詰まっただけの事だ。やってやろうじゃないか』

 

 明るい言葉とその表情。

 そこに浮かぶのは、装った訳ではない心の底からの笑顔。

 それは決して諦めからの物ではなく、来たる戦いへの希望?何だかそういった物から現れている。

 

 ならばとここで、二人に問い掛ける。

 

「僕らは攻撃力で負け、機動性で負け、防御力で負け、負け続けている……それじゃあ、僕らが奴に勝っているのは?」

 

 そのこちらからの問い掛け。

 一寸間を置いた後、僕らはタイミングを計ったかのように同時に答えた。

 

『数』

『テクニック』

「コンビネーション」

 

 言葉を発した僕ら三人、何だか全く噛み合わなかった言葉。それがおかしくて三人で笑い声を上げる。

 でもそれは、性能面での差を正しく埋め合わせる物だ。

 

 性能差を数で補い、経験と操縦技術で翻弄し、それらを組み合わせたチームワークで敵を圧倒する。

 それはかつての出来事、全ての始まりとなったあの白騎士事件によって、否定された事ではあったかもしれない。

 

 だけど、現在までにISが試行錯誤を繰り返し、こつこつと世代を重ねて来たように、クレストやミラージュ、そしてキサラギには、様々な人達の支援を得ながらも、

ただ一つの目的に向けて一心不乱に積み重ねて来た物がある。

 僕はそれが、ISの進歩に劣る物ではないと考えている。いや、逆に優っている物であるとさえ思う。

 

 性能では確かに負けてはいるだろう。そうして僕は大敗を喫してきた。

 しかし、それでも自分は証明がしたい。ISが決して追いつけない物ではないという事の証明がしたい。

 ISの技術者以上に、辛く苦しい道を必死に耐え忍んで進んで来たシゲさん達の為にも。それが間違いではなかった事を示す為にも。

 

 だからこその勝利を。今はただ目の前の敵に勝利し、その証明を持ち帰りたい。

 

 

「HQ、こちらクロノス。目標を確認した」

 

 そしてデータ上、レーダーに現在も飛行を続けるその機影を遂に捉えた。

 

『こちらHQ、了解した。相手には絶対防御があるので殺す気でやってくれて構わんとの事だ。いや、元より加減のできん相手ではある、全力を持ってこれを撃破せよ!』

 

 こちらの呼び掛けに応えてくれるオペレーター。

 アメリカ時代からの知り合いである彼の言葉も、今日はどこか語気が強く、まるでこちらに活を入れるかのような様子。

 普段から中々厳しい口調の彼ではある。しかし彼もまた僕らを気にかけてくれているようだ。

 口には出さないけど、彼にも日頃の感謝を捧ぐ。

 

「こちらクロノス、了解。ラナ、ジャック、聞こえたね?」

 

 同時に二人に確認を。

 

『こちらウラヌス。ああ、確認した』

『ガイア、聞こえてるぜ?』

 

 返事が二つ。両者共にやる気は満々。

 自分も勿論、やる気満々。これで三人とも心身、いや心機共に問題は無し。

 やがて目標との距離が縮まっていく中で、センサーによって拡大化された映像に小さくではあるが、その銀色の姿を捉えた。

 それに対してFCSが反応。ロックオンマーカーが未だに小さな影へと重なっていく。

 加えて同時、VOBに搭載された兵装をシステムがアンロック。すなわち、その兵装の適正射程距離内へと入り、いつでも発射ができる状態へと変わる。

 

「各機、全ミサイルの一斉射後、VOBをパージ。通常機動へと移行する」

『了解!』

 

 聞こえた返事とロックオン。敵機とマーカーが重なり、短く鳴った電子音。

 それを確認した後に、指に掛けたトリガーを引いていく。

 

 その時、小さく鳴り響いたのは、何かが外れたような音。

 直後、VOBに搭載されていた片側三十二連装のマイクロミサイルが、目標を目指し高速での飛翔を始めた。

 一機につき六十四発。それが三機分。

 計百九十二発。面飽和爆撃さえ可能であるだろう、極多数の誘導弾。

 それがシルバリオ・ゴスペルに向けて殺到していく。

 

 そして、そのミサイル群の見届けながらも、VOB及び機体保護の為の増加装甲を切り離す。

 聞こえた内蔵炸薬による破裂音。前方後方、脱落していく多数の重量物。軽くなった機体。

 操縦はそのままの慣性に身を任せ、滑空をしながら海面上へ。

 

 噴射される低出力ブースター。

 想定通りの性能に海面での機体の維持に成功。

 ラナの方も、ジャックのホバータンクも特に問題はなさそうだ

 

 そこで、放ったミサイルの方へと視線を移す。

 飛翔する誘導体。それらは間もなく目標へと達するだろう。

 

 ……これで、少しでもダメージが与えられれば良いんだけど。

 

 そうして、そんな事を思ったその時、響き渡ったのは爆発音。

 視線の先の空中には、多数の赤い花が咲いていた。

 

 全ミサイル反応消失。おそらくは目標による迎撃。

 白騎士事件を省みれば、まぁ、当たり前の事。

 レーダー上、目標は移動を取り止め、拡大されたセンサーにはこちらにその機体を向ける姿が映し出されている。

 どうやら、僕達のラブコールにきちんと気付いて反応してくれたみたいだ。

 

「ラナと僕がオフェンス、ジャックがサポート。後は打ち合わせ通り、良いね?」

『任せておけ!』

『おう!』

 

 ならば、こちらもそれに応えよう。

 

 ――起動するオーバードブースト。景色が青一色ではあるが、それが再び流れ出す。

 

 おかしな形で相見える事にはなったのだけれど、僕らの為すべき事は決して変わらないのだから。

 

 ――自分に続く機影は二つ。心強い仲間。

 

 目前に迫るは敵機。目標。IS。銀の福音。シルバリオ・ゴスペル。

 

「こちらAC01、クロノス。これより、目標との交戦状態に入る」

 

 ――敵が誇るは圧倒的性能。

 

 でも、僕らの証明と一夏の仇、その為にも今、墜とさせてもらおう。

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