Acxis   作:ユ仲

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Chapter2-11

 ――早く早く早く早く!

 

 噴射される一対のオーバードブースト。

 

 ――早くしないと、早くしないと!

 

 焦る気持ちを胸に抱き、機体をひたすら前方へ。

 

 ――早くしないと、本当に早くしないと。

 

 そうしなければ、間に合わない。そうしなければ、また失ってしまうかもしれない。

 

 速度はとっくに音速を超えている。

 それを超えても、尚速く。もっと速く。

 

「シャルロットさんっ!!」

 

 唐突に訪れた肩のISアーマーを手で掴まれる感触。同時に聞こえる、背後より追い付いて来た友人達の声。

 

「わたくし達で先行して、敵の注意をこちらに引き付けましょう」

「私達で奴を倒し、一夏の仇を取ると共に、必ず彼らを守るぞ!」

 

 それらは私に対しての気遣いを見せながらも、非常に真摯で真剣な表情で紡がれた言葉だった。

 

「……ありがとう」

 

 二人に対して心からの感謝を。

 セシリアと箒、その二人の提案に従って、機体をさらに加速をしていく。

 やがて私達を追う二人からも、先に行ってなさいという通信が入る。

 それに対して感謝を告げると、セシリアのブルーティアーズを中心とした、IS三機での編隊を組みながらひたすらに進んでいく。

 

 逸る心。焦る気持ち。ただそれだけが膨らんでいく。直ぐに、今直ぐにでも彼らの元へと駆け付けたい。

 でも、未だに距離がある。距離があるのに時間がない。

 相手は強力な存在だ。一刻も早く行かないと、手遅れになる。

 

 目標は銀の福音、シルバリオ・ゴスペル。

 驚異的な機体から、凶悪的な機体へと変わったそれが、私達の敵となる存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 海上。

 

 それは建造物や車、それに加えるように運用に飛行許可が必要となるような雑多な地上と違った、ほぼ完全なオープンスペース。

 

 背部中央二枚のブースターによるオーバードブースト。

 左右の二枚によるクイックブースト

 それらを組み合わせた三次元高速機動。

 

 一応はこうしてその広い空間を使って、元より保有する強襲装備での高速機動の試運転中。

 でも今は既存装備の機動テストだけじゃなくて、送られて来た新装備のテストをも兼ねているので、そちらの方ももちろん忘れてはいない。

 

 上げてもらった飛行型の仮想標的。そこに備え付けられている銃口から、こちらに向けての銃弾が放たれる。

 

 それは、クレストやキサラギで見たような模擬弾ではなくて、実破壊をもたらす本物の銃弾。

 生身の人が当たればもちろん命に関わって来るものなのだけれど、今の私はリヴァイヴに包まれていて安全面では、まず問題がないので実戦タイプにしてもらった。

 

 迫り来る実弾、その軌道をハイパーセンサーで捉えながら、新装備、その機能を試していく。

 リヴァイヴの両肩部に装着された平面状、見ようによっては盾にもアンテナにも見えるそれ。

 

 装備を起動。イメージインターフェイスを通じて、弾道を遮るイメージが機体へと伝えられる。

 そしてそのイメージを再現して見せるのが、その新装備。

 私の目の前、こちらを狙い飛翔していた銃弾が空間に縫い付けられ空中で静止する。

 作動確認。起動エラーも機体への過負荷もなく全く問題はなし。

 

 しかし、そうして少しほっと息をついたのもつかの間、再び発射される銃弾。

 今度は多方向複数。それに対してはシステムを変更。

 マニュアルからセミオートへ。

 すると機体のシールドバリア、その外側にもう一層の不可視の壁、イナーシャルキャンセラーの防御壁が形成される。

 

 そうして、その壁に接触していく銃弾。

 形成されたイナーシャルキャンセラーによって運動エネルギーを中和された彼らは、ただただ柔らかくシールドバリアに受け止められた。

 

『SAIC』セミアクティブ・イナーシャルキャンセラー。

 

 こう名付けられた機能武装。

 これがデュノア社から新しく届けられた新装備であり、それはいやそれらは、デュノア社の得た新機体のコンセプト『リアルタイム・マルチロール』を実現するための重要なピースだった。

 

 

 

 臨海学校、二日目。

 

 今日は一日中自由時間だった昨日と違って、本来の目的を果たすための時間となっている。

 本来の目的、つまりは非制限空間での機体運用。私やラウラなどの専用機持ちにとっては、それに加えての送られて来る新装備の運用テストを含んだもの。

 

 海から陸へ。砂浜に着地をしながらリヴァイヴを起動状態から待機状態へ。

 一息ついて空を見上げてみれば、天気は昨日ほどの快晴ではないけれど相変わらずのいい天気。

 そうして待機所、休憩スペースへと歩いていく。

 

「ん、シャルロットか。早いな、もう終わったのか?」

 

 掛けられる声。

 それは目の前、休憩中というよりは少し手持ち無沙汰な様子の、ドリンクボトルを片手に持った一夏からのもの。

 

「うん。大した数もなかったからね」

 

 そんな一夏に返事を返していく。

 その私の言葉は謙遜でも何でもなく、ただ事実だけを述べたもの。いや下手をするとこれだって大袈裟かもしれない。

 

 だって私に送られて来たのは、本来の実証用装備の中で唯一完成が大きく遅れていたあのSAIC発生器のみ。

 のみとかだけと言うとマイナスイメージなのかもしれないけれど、あれが到着した事でデュノア社の概念実証機体『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅢ』の試作装備、高機動性が売りの『アサルト』、レーゲンモデルを意識した『デストロイ』、ティアーズモデルを意識した『ロングレンジ』、これらが一応一通りは揃うことになる。

 

「ところで一夏は何をしてるの?」

 

 こちらに話し掛けて来た後、何かを見詰めるようにして空を見る一夏。その行動について今度はこっちから聞いてみる。

 

「ああ……あれだよ」

 

 聞いてみても、やはりどこかを見詰めたままの一夏。

 そんな彼が指で指し示す先、そちらを見てみれば、なるほどとその理由が一目で理解が出来た。

 

 ――空を翔ける紅い機体。

 

 それは、仮想標的から放たれた多連装のミサイルを一刀の飛翔する斬撃で切り伏せ、尚も撃ち出される誘導弾の軌道の網をまるで踊るかのように掻き乱し、そして発射元となったドローンをその両手に持った双振りの刀によって四分割に斬り別けていく。

 

 それを何度も何度も繰り返していて、彼女の前に張られる多数の弾幕の中でたった一発の被弾もせずに、上がった仮想標的、その全てをただの金属塊としてその地に墜としていく。

 

 何より驚くべきなのは、その高機動性。

 回避機動を含めた戦闘機動の全てが、イグニッションブーストなどを使用せずに、イグニッションブースト並の超高速機動を成し遂げている事。

 それだけでも、その機体の持つ極めて高いスペックが窺える。

 

 やがてとりあえずのテストを終え、紅い機体が地上へ舞い戻って来た。

 

 その機体『紅椿』の搭乗者である篠ノ之箒。つまりは箒が、機体を待機状態に戻しながら地上に降り、少し興奮した様子でこちらへと歩み寄ってくる。

 

「凄い、凄いぞ、紅椿は!ちゃんと見ていたか、一夏!?それにどうだ、シャルロット!これなら、お前にだって今度こそは負けんぞ!」

 

 そうやって、一夏と私に問い掛けるその表情はとにかく喜々としたもので、本当に意気揚々といった感じ。

 というか箒ってば、まだ以前の事を根に持ってたんだね。

 

「ああ、確かにすげえよ……」

 

 私は機体への感想より箒に対しての感想が先に来てしまったのだけど、一夏の方はと言うと、先程の光景を目の当たりにして思わず言葉を失ってしまっている。

 でも箒が新たに得たあの機体、あれが凄いというのは当たり前、当然の事だ。

 だってあれは……。

 

「ふっふーん!何たってあれは、私が箒ちゃんの為だけに作ったんだからねー!」

 

 そんな陽気で気楽な言葉と共に現れたのはある一人の女性。

 

 兎の耳のような髪飾りが特徴的な、おそらく現在、世界で最も有名で最も重要視されているその人。

 加えて言えば、世界を変えた、誰の手も届かない領域に存在する天才の中の天才。

 

 ……篠ノ之束、その人、本人によって作り出された最新機体なのだから。

 

「それでそれでー?どうだい、箒ちゃん!紅椿の乗り心地はさ?」

「あ、はい。大分良い感じではあります」

「でしょでしょ?いや~喜んで貰えて何より何より!お姉ちゃんも頑張った甲斐があったという物だよ!お、姉、ちゃ、ん、が!……頑張った甲斐がね」

 

 非常にテンションの高い篠ノ之博士と、それに対して非常に落ち着いた様子で答えていく箒。

 実の姉妹だという話なのだけれど、何だか箒の態度はよそよそしい。

 篠ノ之博士が話し掛けては、少し冷たく箒がさらっと、それをいなしていくようなそんな会話が先程から続いている。

 

「もう~冷たいなぁ、箒ちゃんってば~。……でも、これが世に言うツンデレって奴なんだね!大丈夫、お姉ちゃんはちゃんと分かってるよ!」

「だ、誰がツンデレですか!?」

 

 それでもめげずに話していく篠ノ之博士は、ある意味凄いと思う。プラス思考過ぎて。

 

「ふふふのふー!そんなの箒ちゃんに決まってるでしょ?だっていっくんに対してだって……」

「ね、姉さん!?」

 

 そうして、からかわれるようにして顔を赤くした箒。

 どうやら今回の舌戦では箒の敗北みたいだ。

 その当の博士とはいうと、身に纏った雰囲気を少し変えて、その状態で箒の事を見つめる。

 

「……箒ちゃん。やっと私の事、お姉ちゃんだって呼んでくれたね?」

 

 それは一瞬。一言だけではあったけれど、どこか真面目で、何となく悲しそうだけど嬉しそうというか。

 だけど嬉しそうで悲しそうというか、感情が入り混じった複雑そうなもの。

 

「それじゃあ、お姉ちゃん宣言を貰った所で、今日のノルマは終~了~!私もやる事あるし、箒ちゃん、いっくん。テストとか色々頑張ってね~」

 

 そんな表情も切り替わるのは、とにかく早かった。

 直ぐに独特の陽気な口調と性格へと再び戻り、一夏と箒に声をかけてはその場を立ち去ろうとしている。

 そして当然のように、私に対しての言葉はない。

 

 どうにも一夏の話によると、篠ノ之博士は箒や家族といった身内の人や織斑先生や一夏といった幼馴染みにしか心を開かず、その他の人には無関心どころか状況によっては敵意さえ剥き出しにしたりするらしい。

 この運用テストの前も、セシリアが博士に話し掛けてみてはいたのだけれど、言葉だけでズタボロにされていて、ひどく落ち込んでしまっていた。

 

 天才故の特殊性、そんなものがそこにはあるのだと思うのだけど、わざわざ危険を侵そうとも思わないので、私はそんな博士と一夏達との会話を眺めるだけにしておく。

 

「あ!あと、そこの金髪ちゃん。君って確かミラージュの子だよね~?」

 

 でも、そんな博士の去り際、私に声が掛けられた。

 

『え?』

 

 いきなり過ぎるタイミングで、思わずきちんとした返事が出来ない。

 ふと気付けば、一夏や箒まで同じような反応をしている。

 

「あのね?金髪ちゃんの国では、それが挨拶なのかなー?失礼だとは思わない?」

「あ、いえ、すみません」

 

 そうして呆然となっていると、不機嫌そうな声が博士より掛けられ、少し慌てながらも謝っていく。

 

「まぁ、良いよ別に。それで?金髪ちゃんはミラージュの人、だったよね?」

「はい。確かにそうですけど?」

 

 それでもやっぱり、根底にあるのは他者への無関心。

 というよりは興味のあるものにしか反応しないという事なんだろうか。

 

「ふふーん、話は色々聞いてるからさー。……まぁ、せいぜい頑張るんだね?」

 

 掛けられた言葉はそれだけ。

 それだけを言うと、今度こそ私達に背中を向けて、その場を立ち去る篠ノ之博士。

 

 ミラージュに対しての興味。ただそれだけを言い表す為に話しかけて来たのか、それとも他に理由があるのかはよく分からない。

 何となく困って、一夏や箒とも顔を見合わせるのだけれど、二人もよく分かってはいない様子。

 とりあえず、考えても答えは出ないので、他の皆のテストの様子を見ながら、それが終わるのを待つとする。

 

 

 そしてその後、緊急の要件で運用テストが中止となった事で、今日という日は大きくその趣を変えていく。

 

 

 

 

 

 

 ベッドの上、眠り続ける一夏。

 

 その身には余すことなく包帯が巻かれ、ISという盾を持ちながらも、その被害、そのダメージがどれ程の物だったのかという事が、そこから窺い知る事が出来る。

 部屋の中では、彼の僚機として迎撃に出ていた箒がずっと寄り添っていて、部屋の外では、誰もが未だに落ち込んでいる様子を見せている。

 

 ――ハワイ沖で試験稼動中にあった、GA社とオーメル社の共同開発機体の暴走。

 

 そのGA社よりIS学園に持ち込まれたこの緊急を要する案件に、一撃必殺を誇る白式と最高性能を誇る紅椿での迎撃が決定された。

 そうして実際に出撃し戦闘を優勢に進めてはいたのだけれど、トラブルもあり、結果としては一夏の乗る白式が撃墜。任務は完全な失敗に終わった。

 

 その後、私達に課されたのは待機命令。

 状況に変化があるまで動くなという言葉。

 それに従い、私達は気分を落しながらも、続報を新たな命令を待ち続けている。

 

 

 正直な所、きっと誰もこんな事になるとは思ってはいなかったんだと思う。

 確かに可能性はあった。やられる可能性はあった。それが実戦であるのだから。

 

 でも一夏なら大丈夫だと、きっとやり遂げて見せるだろうと皆は信じて疑ってはいなかった。

 だからこそ、その一夏が墜ちた今、皆はこうして落ち込んでいる。

 

 空間を占めるのは沈黙。

 時折聞こえるのは溜め息だけで、誰もが口をつぐみ、誰もがその場を動こうとはしない。

 

「……ねえ、皆?いつまであたし達はこうやってうじうじしてれば良いんだと思う?」

 

 そんな誰もが言葉を失っていたその時、さっきまでは箒と同じくらいに落ち込んでいた様子だった鈴が、私達に語り始める。

 

「確かにさ、一夏があんな怪我までさせられて、あんな事になっちゃって悲しいよ、悲しいけどさ。でも、それ以上に私には、沸き上がって来てる物もあるのよ」

 

 一夏の事、それを想いながら語られる言葉。それだけが今の私達の空間に響き渡っている。

 

「……あたしは、あの機体をブチのめしたい。悲しいけど、それ以上に一夏の仇をこの手で取りたい」

 

 響くその言葉。向けられるその瞳。

 そこには燃えるような色が浮かび上がっていた。

 

「アンタはどう思う?セシリア?」

「同感ですわ」

 

 即答。

 その色が周りへと伝染していく。

 

「ラウラ、アンタは?」

「当然だな」

 

 即答。

 色に乗せられた熱が周りへと伝えられていく。

 

「シャルロットはどうする?」

 

 その色と熱、それは私も例外ではなく。

 

「一夏は私の友人だよ?それに、友達がそんな事をされて黙っていられる程、私は出来た人間じゃないよ」

 

 即答。

 燻っていた心に、それらは強い炎を燈していく。

 

「そう。なら決まりね。セシリアとラウラ、シャルロットは敵の現在地を何とか探って。……箒はあたしが何とかして見せるわ」

 

 そうして決まった私達の為す事、やるべき事。

 

「という事で各自……」

 

 分かれながらも協力していく事に、皆で掛け声を一つ気合いを入れようとしたその瞬間。

 

『至急、専用機持ちは風花の間に集合しろ。良いな?至急だ』

 

 丁度良いのか悪いのか、織斑先生からの集合の号令が放送で伝えられた。

 

「散開!……って、あれ?まぁ良いわ。皆、とりあえず、行くわよ」

 

 でもやはり、それを無視する事なんて出来ないので、皆で擬似ブリーフィングルーム、擬似作戦室と化した宴会場へとその足を向かわせる。

 

「ん?携帯?」

 

 そんな皆と一緒に歩いていく中で、懐に感じたのは小刻みな振動。

 

「シャルロット、何をしている。さっさと行くぞ」

 

 振動源、携帯電話を取り出して見ると、ディスプレイに表示されているのは『シゲさん』という四文字。

 用件は確かめたい。でも、今は織斑先生の言う至急の要件に遅れるわけにはいかない。

 シゲさんには申し訳ないけれど、ラウラの言う通りに、その振動を気に留めず皆の背中を追い掛けていく。

 

 

 

 

 

「お前達に集まってもらったのは、何という事ではない。分かってはいると思うが、状況に変化があった」

 

 暗い室内、臨時の情報室となった宴会場では、織斑先生と山田先生の二人が私達を待っていた。

 掛けられた言葉。それはやっぱり予想通りのもので。

 

「つい先程、米軍より連絡が入り、独自の追撃隊を編成したとの事だ」

 

 その内容は私達の予測を大きく裏切るものだった。

 

「現在も飛行を続けるシルバリオ・ゴスペルを彼らが追っている。……山田先生、映像は出せますか?」

「はい。……これが約20分程前に、海上封鎖を行っていた教員用機体によって捉えられた映像です」

 

 そうして、空間投射ディスプレイに映像が現され始める。

 おそらくは、機体のセンサーによって拡大視された映像。距離は近くはない。

 

 やがて、そこに映し出されていったのはひどく無骨な姿だった。

 前面を分厚い鎧で固められたその無骨な姿、それが後ろに大きな炎を引いて空を駆け抜けていく。

 

 実際には私も見た事はない、けれど見覚えはあったその姿。

 

「これは?」

 

 映像に対して誰かが尋ねる。

 

「これはだな、米軍側が編成した……」

 

 答えるのは織斑先生。でもきっと、この場にいる誰よりも私がそれの事を知っているはずだ。

 

「アーマード・コアです」

 

 なぜならそれは、普段より慣れ親しんでいたもの。親しい彼らと共にあったもの。

 

「デュノア?」

 

 私の言葉に織斑先生が疑問を寄せるが、今は画面の機体について説明をしていく。

 

「長距離強襲用ブースターと、超音速機動時に生じる発熱、高速機動時に掛かる各部への負荷モーメント、それによる機体損傷を防ぐための増加装甲。それらを装着した機体がその映像の物です」

 

 実物を見たわけじゃない。その装備のコンセプトとなるデータを見た事があるだけ。

 でも、それに見間違いはなかった。彼ら、皆の機体を見間違えるはずがなかった。

 

「……つまりはデュノアの言う通りだ。米軍はクレスト社に追撃を依頼した。お前達も会った事のある奴はいるだろう?彼らが今現在、シルバリオ・ゴスペルを追撃している」

 

 続くのは私の説明を補足する先生の言葉。

 その内容、米軍とクレスト。

 加えて映像の三機が日本側からの出撃であるのを考えると、あれがやっぱり彼らである事が証明されていた。

 

「それでしたらわたくし達も支援に!」

 

 そこで挙げられたのが、先程に私達がやろうと考えていた事。

 セシリアによって、それが織斑先生に宣言される。

 

「それは駄目だ」

「え?」

 

 だけど、返って来たのは否定の言葉だった。

 

「米軍からは、手出し無用との言伝が届いている」

「そんな!?」

 

 それは、政治的問題。個人の力の範疇を越えた壁が存在している事を意味していた。

 その事に驚いている私達に対して、織斑先生はどこか忌ま忌ましいというような表情を浮かべながらに、語る。

 

「……彼らからすれば、どちらに転んでも損はないのだろうさ。シルバリオ・ゴスペルが勝てばその性能の証明ができ、アーマード・コアが勝てば自国が技術を持つ、それの有用性が証明出来る」

「ですが、それでもし、一般人に被害が出たりでもしたら……!」

 

 そこに反論していくセシリア。その言葉、考えられる中での最悪の出来事を想定してのもの。

 しかし、織斑先生はそれに対しても、忌ま忌ましげな表情を変えはしない。

 

「その時は暴走した機体自体が悪いとでも言うつもりだろう。我々に責任はない、とな。それに忘れたのか?私達IS学園も『暴走事故』を起こしている事を」

 

 それはあの日、私達が日本へ来た日の出来事。

 世間には真相が告げられず、暴走したISによるものとして知られている事。

 

 『奇跡的』に一般人への被害は出なかったものの、ISに対する不安というものが、その時には一時的に高まったりもしていた。

 

「例え被害が出たとしても、アメリカに対してではなく『ISの安全性』についての批判が多くなるだけだ」

 

 あの日の出来事の時も、やはり同じだった。

 

 メディアは、その後に登場したアーマード・コアへの話題と問題は解決したという虚偽の発表で彩られ、多くの人々がそれに意識を反らされて。

 懐疑派、反体制的な考えを持つ人もIS学園への責任を問う声は少なく、女尊男卑の象徴となってしまっているISの存在自体に疑問を投げ掛けていた。

 

「そして、どれだけの人々から批判や不信感が集まろうとも、結局……ISの力、その有用性に最も信奉を寄せているのもまた、一般の人々なのだからな」

 

 ISとは未来である。そんな事を言っていた人もいた。

 医療輸送産業軍事、解明されれば人類の科学技術が半世紀は進むとまで言われる、未知の技術の塊。オーバーテクノロジーの結晶。

 それでいて、現代を作り上げた象徴であり、目標であり、憧れ。

 国家代表操縦者がアイドルやモデルを兼任して、それを応援し崇める人達がいる今ではその言葉が最も相応しい。

 

 未来であり、夢。

 それが一般の人々のISに対する認識だ。

 

「例え旅客機が墜ちても多くの人々に利用され続けるように、ISもまた、疑問が投げ掛けられたとしてもその存在に揺るぎはしないのだろうさ」

 

 確かにそうなのかもしれない。

 例え人が亡くなっても、そこには人々の想いと願いが掛けられているのだから。

 どんな悲劇が起きたとしても、世界は変わらず回って行くのだから。

 何も変わらずに、ただ淡々と。

 

 ……でも、それを認めてしまっていいのだろうか?

 

 GAもオーメルも米軍も、きっと水面下では動いてはいると思う。

 面子のため、利益のため。最低限のそれを守るために動いてはいると思う。

 

 その中で命を掛けさせられる人がいて。そんな事を知らされず、誰かのために挑む人がいて。

 彼らがもしいなくなっても、日常は流れていくだけで。

 

 ……それをそんな事を認めてしまえるのだろうか?

 

 私は、それを認めたくない。そんな事は認められない。

 仲間であり友人であり家族であり、大切な人達である彼らを失うなんて事は。それを容認するなんて事を。

 

「……デュノア、どうした?」

 

 話が終わり、皆が黙り込んでいる中、織斑先生がこちらに話し掛けてくる。

 そんな言葉も、今は私の心には虚ろ。

 どうすれば、皆を助けに行けるのか?そんな事ばかりを考えてしまっている。

 

「……あ、いえ、携帯が」

 

 あまつさえ、口から出て来たのはそんなデタラメ。

 さっきまで鳴っていたのは確かだけど、今は全く鳴ってはいない。

 

「携帯?連絡?……誰からだ?」

「あ、はい。織斑先生も面識はあるかと思いますが、シゲさん、キサラギの柴田班長からです」

 

 私の言葉に何かを考えるような表情を浮かべる織斑先生。

 その表情はシゲさんの名前を出すとさらに深まった。

 

「……デュノア、とりあえず緊急の連絡かもしれんだろう。電話に出ていいぞ」

「あ、はい。すみません」

 

 不意に嘘を付いてしまった事、いまさらそれを言い直すのもおかしいので、一度、室外へと身体を運ぶ。

 外を出て直ぐ、廊下。一応、携帯の方を確認しておく。

 その着信履歴、そこに並ぶのはシゲさんの名前。

 

 余程の用件だったのだろうか?

 ふとそう思ったけれど、そこに一つの可能性が見えた。

 

 ……もしかしたら、彼らについての事かもしれない。

 

 そうして着信履歴よりかけ返そうとした丁度その時、携帯電話が手の中で振動を始める。

 名前を確認。そのシゲさんからの連絡だ。

 急いで通話ボタンを押し、電話に出ていく。

 

「もしもし?シゲさん、一体、どうし……」

 

 そして、そこから聞こえて来たのは、

 

『シャルちゃん!シャルちゃんだね!?そこに、近くに、誰でも良い!責任者の人はいるかい!?』

 

 シゲさんのひどく慌てた声だった。

 

 

 

 

 

 

 

『聞こえていますか、皆さん?』

 

 機体のディスプレイに浮かぶ山田先生の真剣な表情。

 私達五機からなる迎撃部隊は目標への移動を続けながら、その通信を受け取っていく。

 

『今からそちらに、キサラギ社から送られている映像を映します』

 

 先生の言葉。キサラギ社からの映像。

 それは、先程連絡をしてきたシゲさんからもたらされた物だ。

 

 ――俺いや私は、如月重工、技術統括本部長、柴田繁達と申します。突然ではあるのですが、あなた方に依頼をさせて下さい。

 

 それは日頃のシゲさんではない、完全に仕事用の真剣なシゲさんの声と表情だった。

 

 ――現在、私達の送り出したアーマード・コア、AC部隊が敵ISを追撃中である事はご存知かと思います。

 

 直接、IS学園に連絡をしても、門前払いにされてしまったみたいで、私の携帯を通じて伝えられた事。

 

 ――そこで、です。確実性という事を考慮し、あなた方に協力をお願いできないでしょうか?

 

 下手をすれば、アメリカの機嫌を損なう可能性もある、彼らにも伝えていない独自の、シゲさん独断での行動。

 

 ――彼らを信じていない訳ではありません。ですが、私達にとっては結果よりもまず、彼らの安否の方が大切なのです。

 

 普段の口調とは違うけれど、シゲさんらしさというものを確かに感じる言葉。

 

 そうしたシゲさんからの依頼というか願いを織斑先生は了承した。

 キサラギからの依頼という形ではなく、国の圧力に屈する訳にはいかないという名目を持って。

 

 そしてその後、すぐに織斑先生からの命令が出されて、私達は彼らの下へと飛んでいる。

 でもそれは、確かに命令ではあったのだけれど、実際には命令だからなんて理由じゃなかった。

 私達には皆、出撃する意思と理由があったから。一夏の仇を取るため、皆を助けるため、それぞれの想いを原点とする強い理由が。

 

『……戦闘、既に開始されています!』

 

 考え事をしている中で再び聞こえて来た山田先生の声。

 声に遅れて表示された映像では、シルバリオ・ゴスペルと彼を始めとした皆の機体が、戦闘を始めていた。

 

『これは……シルバリオ・ゴスペルが押されているのか?』

 

 次に聞こえて来たのは織斑先生の少し驚いたような声。

 その言葉通り、そこにはシルバリオ・ゴスペルが苦戦する様子が映し出されている。

 

 背部のブースターを噴かし、ブレードを振るって見せる黒い機体、クロノス。

 それはまさに一直線という軌道でシルバリオ・ゴスペルへと襲い掛かっていく。

 

 対してその目標。

 突撃していくクロノスを、ひらりと舞うような宙返りで避けると同時に、無防備となったその背中に攻撃を加えようとする。

 

 しかし、それを防ぐかのように襲う、双方向からのエネルギー射撃と砲撃。

 自身を狙うそれらに対して、シルバリオ・ゴスペルは反撃を止め、直ぐに回避を選択。

 そこに今度は、素早く旋回を終えたクロノスが、シルバリオ・ゴスペルに対して銃撃を加えていく。

 

「……皆、良かった」

 

 その映像の中の奮闘振りに、驚きと一緒に安堵の声が思わずこぼれる。

 

 恐らくきっと、この状況は誰にとっても予想外の事だったのだと思う。

 映像から目を離して、セシリア達の様子を見てみると、セシリアもラウラも映像を見たまま驚きの表情を浮かべている。

 

『ツイているというよりは、本当に上手く戦っているという感じか』

 

 そうやって私も含めて驚いている所で、聞こえて来た織斑先生の言葉。

 

『自分達の流れに引き込んで、シルバリオ・ゴスペルの行動パターン、それを上手く突いている』

 

 確かにシルバリオ・ゴスペルは、上空からのアウトレンジ攻撃に徹すれば良いにも関わらず、AC達に合わせて中近距離、しかも低空や海面上で戦ってしまっている。

 そして、シルバリオ・ゴスペルに対する彼らは、回避を何よりも重要視するという相手のパターンに付け込み、数の優位性を活かした連続的な攻撃を加える事で大きな反撃を許していない。

 

『私や山田先生が彼らを相手にしたならば、あの性能差だ、まぁ10分とは掛からずに全機を墜とせるだろう。多少の被弾を覚悟はするがな』

 

 織斑先生はそんなシルバリオ・ゴスペルの動きをまるで素人だと語る。

 あれは回避重視の戦術ではなくて、ただ被弾を恐れているに過ぎないと。

 

『だがそれでも、たださえ性能で劣る機体、しかもたった三機であそこまでやるのは容易ではないぞ』

 

 その後に出て来たのは、彼らを褒めるような言葉。

 容易ではない、それはきっとそうなのだと思うけど、彼らにしてみれば当然の事なのだとも思う。

 何て言ったって、彼らは私がミラージュとして合流する前からずっと一緒にやってきた仲だから。

 機体の運用方法や機動理論なんかを語り合って議論して、試して来た人達だから。

 

 互いの機動の癖や性格、加えて自分達の機体に何が出来て何が出来ないのか、それを知り尽くしている彼らにとって、こんなものは当然以外の何物でもない。

 

 そして少し安心した気持ちで、先生達の言葉を聞きながら支援に向かっていると、戦況に大きな変化が訪れた。

 

『あ、シルバリオ・ゴスペルが……!』

 

 それは山田先生の上げた驚きの声。

 

 映像では、先程までは完全に回避できていた、ガイアの放ったレールカノンを避け切れず、片翼を散らしバランスを崩したシルバリオ・ゴスペルの姿があった。

 そこにオーバードブーストによって、再び突撃していくクロノス。その左手には光の刃。

 シルバリオ・ゴスペルもバランスを立て直して、その攻撃からの回避を試みる。

 しかし今度は、ウラヌスの放ったエネルギーカノンが残った右翼を機体から削いでいく。

 

 そうして、推進力を失い死に体となった目標、その本体をクロノスが切り裂いた。

 

 防御をした両腕部のISアーマーが、エネルギーブレードによって空中に散る。

 クロノスは交差するようにして斬り付けた後、追加ブースターによって直ぐ様、急速旋回。

 右腕のアサルトライフルと左背部のエネルギーカノンを構え、そのままシルバリオ・ゴスペルへと浴びせ掛ける。

 

 斬り付けられた直後に、背後から多数の銃撃と高出力のエネルギー射撃を受けたシルバリオ・ゴスペル。

 軍用ISであり、機体のリミッターが解除されているとは言っても、ISとしての機能はそのままなので絶対防御が発動。

 すると搭乗者の保護機能も稼働したのか、身動き一つしないままに海へとその機体が落ちていく。

 やがて、シルバリオ・ゴスペルが着水。海面上に大きな水柱が立てられた。

 

 その光景。それを見ている皆が言葉を失っていた。

 だってそれは恐らくISの登場以来、初めての出来事だったから。

 従来兵器によるISの撃破。

 最新の従来兵器という注釈は付くけど、きっとこれは後々の歴史にも残っていく事だから。

 

 それが今、画面越し、目の前で為された。

 

『まさか、彼らだけで墜とすとはな』

 

 皆が言葉を失い映像では彼らがその撃破を確認している中、織斑先生の気軽そうな少し明るい言葉が聞こえてくる。

 

『やれやれ……お前達の出番はなかったようだ。各機、帰投しろ』

 

 確かに、戦闘が終わった以上、私達が向かう意味はない。

 先生のその言葉に従って、機体を翻し私達は旅館の方向へと進路を向けていく。

 

「……とりあえずは良かったですわね?シャルロットさん?」

「うん。皆、怪我もないみたいだし」

 

 そうして帰投のために飛びながら、笑顔で話し掛けてくるのはセシリア。

 彼と模擬戦や食事会を行ったからなのか、セシリアは彼らの事をこうしてよく気にかけてくれている。

 

「ううむ……確かに喜ばしい事ではあるんだがな、私としては何だか複雑な気分だ」

「あはは……、何となくだけど、その気持ちは分かるよ」

 

 どうにも煮え切らない様子で、額にシワを寄せているのは箒。

 箒に関しては、確かにそう感じるかもしれない。

 突然のトラブルがあったのは事実だけど、負けたというのもまた事実ではあるから。

 

 それに加えて出撃前、箒が織斑先生に説得されていた時には、一夏の為に!と大きく気合いを入れ直してもいたし。

 そうやって直接倒す!と大きく意気込んでいた分、拍子抜けといったものがあるんだと思う。

 でも、それは鈴やラウラも同じで、驚きと一緒に箒と似たような表情をしている。

 

 こうして色々な表情を浮かべている皆。そんな皆に囲まれながらも、私はこの結果には大満足だった。

 一夏の仇を直接取れなかったのを箒達は気にしてるみたいではあるけど、その代わりに一夏と友人関係にある彼が仇を取ってくれたし、そんな彼らも無事に戦闘を終えたみたいなので、それはもう本当に。

 

『……え?待って下さい。そんな、これはっ!?』

 

 そしてそんな時、山田先生の慌てたような声が響いた。

 

『シルバリオ・ゴスペルの再起動を確認、いえ違います!シルバリオ・ゴスペル、形態移行(フォーム・シフト)です!』

 

 フォーム・シフト。

 その声に反応して画面を見れば、そこに現れていたのは大きな光の翼を生やした、シルバリオ・ゴスペルの姿。

 

『このタイミングで、だと?……各機、帰投は中止だ、急げ!彼らが危険だ!』

 

 続いて聞こえたのは織斑先生の余裕のない言葉。

 それが発せられる前に、私は機体を彼らの下へと向けていた。

 

 全力で。全速力で。

 そんないきなり、飛び出した私にセシリアと箒が着いて来てくれている。

 速力に劣るラウラと鈴には悪いけれど、今はただ、一刻も早く彼らの下へ。

 

 ――フォーム・シフト。

 それはISにとって、大きな意味を持つ言葉だ。

 ISによる搭乗者と機体との適正化現象。

 これが果たすもの、もたらす事、それは機体の進化。

 性能の向上や特殊機能の獲得など、まさに進化と言っていい。

 その影響は絶大で、装備の独自変化や時には三割を超える速力や機体出力の上昇を確認したとの報告もある。

 

 そんなフォーム・シフトが彼らAC部隊に何を引き起こすのか、それはあまり考えたくない。

 でも、こうして向かっている間にも、状況がその考えたくない方向へと動いていた。

 

 フォーム・シフト後、まるで人が変わったかのような機動を見せるシルバリオ・ゴスペル。

 被弾を恐れた回避重視から、今度はひたすらに攻撃へ傾倒した攻撃重視に。

 

 さらに速度を増したその機体に加えての戦闘スタイルの大幅な変化。

 それに対して、彼らは付いていけない。

 

『あぁ、一機、戦闘不能です。続いて二機目……』

 

 始めこそはその猛攻を何とか堪え凌いでいたものの遂に捕らえられ、ラナさんのウラヌスが脚部に被弾。脚部を失って、そのまま近くの小島へと墜ちていく。

 そこに追撃を加えようとするシルバリオ・ゴスペル。

 

 それを防ぐためにジャックさんのガイアが、ミサイルやエネルギーライフル、レールカノンを撃ち尽くさんとばかりに撃ち放つ。

 同時にオーバードブーストによって、重い機体を無理矢理押し進め、シルバリオ・ゴスペルとウラヌスとの射線の間に入ろうする。

 

 生み出された弾幕。

 そんな弾幕に曝されて脅威を感じたシルバリオ・ゴスペルは、その弾幕を避けつつガイアに接近すると、至近距離でエネルギー砲を発射。

 

 ただウラヌスを守る為に、撃ち放つ事しか考えていなかったガイア。咄嗟にシールドを展開しようとするも一歩遅く、コア部にその多数が直撃していく。

 それによってガイアは力を失い、脚部のホバーによって小島に乗り上げると、そこで動きを停止させる。

 

 ほとんど一瞬で二機を撃破したシルバリオ・ゴスペル。

 

 そして彼女の次の狙いは、ウラヌスとガイアから注意を反らそうと銃弾を放つ、彼の駆るクロノスへと移って行った。

 

『まさか?遊んでいるとでも言うのか?』

 

 とにかく必死で機体を向かわせている中、織斑先生のそんな声が聞こえて来る。

 今も尚、映し出されている映像。そこにあるのは、とても残酷な姿だった。

 

 シルバリオ・ゴスペルが、二回りは大きいだろうクロノスのパーツを少しずつ少しずつ分解していく。

 

 まずは、各所の武装を。

 クロノスから剥ぎ取っては破壊していく。アサルトライフルがエネルギーカノンがレーダーが、武装の次はブースターが、センサーが。次から次へと剥ぎ取り、壊す。

 

 武装やブースターなどの付属品を粗方破壊尽くすと、次は本体に。

 

 脚部を引き千切り、頭部を叩き潰し、腕部を削ぎ落とす。

 ブースターを潰し、センサーを潰し、抗おうとする意思を折ろうとする。

 

 それはまるで、見つけた虫を解体していく幼い子供の姿の様にも見えた。

 一つずつ、一つずつ。いたぶるように嬲るように、ゆっくりとゆっくりと愉快そうに砕き斬り壊していく。

 

 しかし、そのクロノスの、彼の意思は未だに折れてはいなかった。

 

 唯一残った、色が薄く既に出力の得られていないエネルギーブレードで何とか立ち向かおうとする。

 それでもそれを軽く回避して、嘲笑うかのように振る舞うのが、今のシルバリオ・ゴスペルだった。

 

 

 もう止めてと叫びたい。もう止めろと怒りたい。

 でも、ここからでは届かない。

 

 

 そんな私の心とは裏腹に、シルバリオ・ゴスペルはクロノスのパーツで唯一残った左腕部付きのコアを吹き飛ばしてはキャッチするといったように、クロノスで遊び続けている。

 

 それは、中のパイロットである彼からすれば堪ったものではない。

 コクピットに掛かる不特定方向からのGもさる事ながら、吹き飛ばされる度に装甲が少しずつ少しずつ削られていっている。

 

 じわじわと徐々に恐怖を与えていくその様子、それは残酷ではあったが子供の無邪気さとは程遠いものだった。

 

 シルバリオ・ゴスペルの動作の一つ一つ、そこに含まれているのは明確な怒りと歓びの色。

 よくもやってくれたなと先程、墜された怨みから来ているのかとにかく強い憤怒と、その怒りを晴らせる事への歓喜の色。

 セカンドシフトに移行して以来、どこか人に近い行動を見せるようになったシルバリオ・ゴスペルからはそれが強く感じられる。

 

 高速で飛翔する私達も、その様子が細かく詳細に肉眼で捕えられる距離までようやく来ていた。

 あと、もう少し、本当にもう少しだった。

 そうすれば彼らを、今嬲られている彼を助けられる。

 

 そうして私達が向かっている中で、シルバリオ・ゴスペルは最後に残ったクロノスの左腕をも引き千切り、小さくなった機体でのキャッチボールを止める。

 

 ブースターも既になく、空中から落下していくクロノス。

 その落ちていく機体に入れられた蹴り。

 既にほとんどコアしか残っていない機体が、他の二機が鎮座させられている小島に叩き付けられ地面を滑っていく。

 

 そしてその直後、シルバリオ・ゴスペルが、すぐそこまで迫った私達の目の前で取ろうとした行動は。

 

 ――敵IS、シルバリオ・ゴスペルから高エネルギー反応を感知しています。

 

 そのエネルギー砲を、身動きの取れない彼へと向ける事だった。

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