空より降り注ぐ、多数のエネルギー性の砲弾。
機体の回避行動とエネルギーシールドでそれを避け、避け切れない物は確実に防いでいく。
その弾幕を越えたらオーバードブーストを起動。
メインブースターの低出力をこれで補い、敵へと接近する。
右腕武装、アサルトライフルを放ちながらの接近。左腕にはエネルギーブレード。
目の前には、交戦中の敵機。
急速に詰まっていく距離。
それは普段であればやらないような事、無謀にも真正面から切り掛かっていく。
敵機、銀の福音、シルバリオ・ゴスペル。
VOBでの接近とその後の交戦。
この戦闘が始まってからどれ程の時間が経ったのだろうか。
それはとても長いようにも感じるし、恐ろしく短い物にも感じる。
ただ分かるのは、今の戦況が悪くはないという事だ。
徹底的な回避重視であるという事。それは一夏達の戦闘映像によって既に把握はしていた事。
でも、百聞は一見に如かずとでも言うのだろうか?
見て感じるよりも実際に交戦してみると、そのシルバリオ・ゴスペルの持つあやふやさみたい物がまじまじと実感出来てくる。
本来、戦術において回避を重視するという物は悪い物ではない。
戦闘機にしたって、戦車にしたって、歩兵にしたって、当たらなければそれに越した事はないのだから。
でも回避をあまりに偏重するとなると、それは大きく変わってくる。
本来、攻撃すべきタイミング。しかも決定的な物を逸してまで回避を選択する。
確かに援軍や支援が来るの待つという事なんて理由があれば、それでも良いだろう。
だけど何の理由もなく、そんなタイミングをみすみす逃す何て言うのは、ただ愚かと言わざるを得ない。
……まぁ、そのお陰でこちらが助けられてるのだから、文句よりは感謝がしたいけど。
それは、ともかく。
相手の行動のちぐはぐさと稚拙さ、それによってこちらが優勢に進められているのも確かで、そんな相手の行動原理のお陰で思い切った攻撃を仕掛けられるというのも確かだった。
オーバードブーストでの突撃。
同時に行ったエネルギーブレードによる斬撃が易々と軽く回避される。
行動自体は稚拙ではある、だが機動性を含めた回避性能は極めて高い。そこだけは本当に厄介だ。
――警告。背後より敵機にロックオンされています。
不意に、思考を他所へと飛ばしていると聞こえてくる、要警戒を告げるアラート音とシステム音声。
本来であれば、相手が相手なので焦りに身を任せて対応する所ではある、しかし今はそんな焦りなんて物は必要がない。
落ち着きながらも動作は早く。肩部ブースターを使用。
一瞬の噴射と共に変わる視界。その中に捉えるのは、ウラヌスのエネルギーカノンとガイアのレールカノンを回避に尽力し、こちらへの攻撃を忘れたシルバリオ・ゴスペルの姿。
先程はこちらが背中を取られていたのに、今度はこちらが背後を取っている。
左背部エネルギーカノンを起動。
その無防備な背中にアサルトライフルの銃撃とエネルギーカノンの高エネルギー射撃を浴びせていく。
それでも背を向けたままに、左右へと機体を大きく揺らしまるで木の葉のように、攻撃を避けて見せるシルバリオ・ゴスペル。
この相手の行動を稚拙だなんだとさっきは言ってみたけれど、実際にはこうして簡単に避けられている現状に、少々のいらつきがあっての事だというのを否定はしない。
現在における最大の障害。
シルバリオ・ゴスペルの異様な回避能力。ひいてはそれを為している、極めて高い機動性とハイパーセンサーによる全周囲把握能力。
この内の特に後者。『人』では不可能のはずのその完全把握を、暴走しているこの機体がやってのけてしまっている。
更には、そこから得られた情報を機械的合理的に判断、瞬時に解析して、こちらの攻撃を読んでくるのだから、もう何とも言えない。
きちんとした人が操れば、その戦術と性能からおそらくは圧倒的な強さを発揮し、ISを暴走させれば、そのコア?AI?が異様なまでの回避性能を発揮する。
これらがもし同時に発揮出来るようになったらとふと思うけれど、そんな恐ろしい事が今、出来ていない事に感謝を捧ごう。
と、そんな事をしている内にラナが仕掛け、やはり回避をされては死角を取られている。
だけど、こちらも思考に耽りながらもきちんと適切なポジションを取っている。
そしてシルバリオ・ゴスペルがラナへと仕掛ける前に、僕とジャックで仕掛け回避行動を誘導。こちらへの注意を引いて、ラナに対する攻撃をキャンセルさせる。
誰かが直接攻め、それを残った二人がカバー。
単純明快なこれが、今僕達が取っている戦術という物だった。
相手の範囲攻撃を警戒して散開状態に。
一人が常に二人をカバー出来る位置を取り、常に敵をその視界に捉えておく。
独断での勝手な行動を禁止して、チームで守り、チームで攻める。
丁度、三角形の中心にシルバリオ・ゴスペルが来るように常に動きながらも、互いをカバーし合う。
そんな、おそらく相手が有人機であったら直ぐに破られていただろう物。
でも何度も何度も見直した一夏達の交戦映像と、実際に戦ってみての感覚から、きちんと嵌まってくれている事が分かる。
戦術的に優位に立つ事。確かにそれは非常に好ましい。
だけど今現在目下の問題は、劣勢下にありながらも全く被弾を許さないこの相手に、どうやってダメージを与えていくか、という事になる。
ただでさえシルバリオ・ゴスペルはISの制御リミッターを解除してあり、エネルギー切れという物が狙えない状況。
通常なら定石の絶対防御によるエネルギー消費狙いも、その保有エネルギー量から普通に発動させたのではあまり効果がない。
絶対防御の連続起動、極短時間での大幅なエネルギー減少を起こせばあるいはとも聞いたが、そんなのを一体どうやって引き起こせば良いのか?
それには何よりもまず、攻撃を当てなければいけない。
しかも大火力を短時間の間に。
アサルトライフルをシルバリオ・ゴスペルに放ちながらも、その解答を探っていく。
当然の事ながら、そのアサルトライフルの銃弾もハイパーセンサーによって弾道を見られたのか、それとも銃口からの軌道予測からなのか、とにかく避けられている。
その回避機動も最小限。
ラナやジャック、二人からの攻撃からも合わせて、最適な機動を取られて回避されている。
暴走。おそらく、生きていると言われるコアの異変による物。
米軍やGAによれば、パイロットのコントロールも利いてはいないという事だから、確実にそれが原因だろう。
ISは生きている。シャルはそう言ったが、その本質はやはり機械であると僕は思う。
だからこその合理的な行動、機動。
異様に被弾を恐れている事は気になるけど、その他の行動は全てが本当に合理的だ。
そうすると、そのハイパーセンサーと人を遥かに超えた演算能力、それを超えるにはどうするのか?
それらを撃ち貫くにはどうすればいいのか?
オーバードブーストを起動し、シルバリオ・ゴスペルに接近しながら、エネルギーブレードを展開する。
その瞬間に、素早くこちらに反応し回避機動を取る敵機。
呆れる程に早い、相変わらずの反応。
そのまま接近し、エネルギーカノンを放っても見るが、完全に射線が読まれている。
素早い反応。構えた瞬間には既にこちらが捉えられていて、その軌道さえもが読まれている。
……合理的な判断、予測される軌道、異様なまでの危機管理能力。
では、その銃撃の予測される軌道が脅威でない物だったらどうなるのだろう?
合理的な判断、その理解を超えた場所からだったらどうなるのだろう?
ふと考え付いたそんな事が疑問となって、機体を動かし目標を追いながらも、脳内を駆け巡る。
状況は優勢。
しかし、正面からまともに戦ったのではおそらく勝てない。
ハイパーセンサーの完全作用。IS自体による驚異的な演算力と合理的な最小限の回避機動。異様な危機管理能力。
包囲戦で攻めたとしても、まともに攻撃が当たらない。
自身を襲う『脅威』その全てに反応して、機体の極めて高い性能をもって回避する。
脅威に反応する。脅威に対応する。
ならば、それを逆手にとっての攻撃を。相手の理解を越えた攻撃をやってみよう。やって見せよう。
「ラナ、ジャック!」
その為には自分一人だけじゃなくて、二人の協力が必要だ。
『何だ?問題でも、起きたか?』
『おおっ!今は、ちょっと、待ってくれ!』
そうして話し掛けながらも、死角を取られそうになっているジャックへの援護はもちろん忘れていない。
『ふぅ、助かったぜ。……それで何だ?』
ジャックへのターゲッティングを外させ、狙いを絞らせないように、再び、シルバリオ・ゴスペルに包囲戦を仕掛けて行きながらも、二人に説明をしていく。
「どう?ちょっとした案に乗ってみない?」
とは言っても、その内容の詳細は省く。
『……それだけ言われても、こちらとしては非常に困るのだが』
『まぁ、俺は良いぜ?お前の事だし、どうせ碌でもない事でも考えてんだろ?』
そんなことをジャックには言われたくないが、確かにその指摘は遠からず、否定はしない。
「ジャックはこう言ってるけど、ラナはどうする?」
こうやって話している間にも、やはりこちらからの攻撃を避け続けているシルバリオ・ゴスペル。
それでも、攻撃の手を緩めずに、ラナへと問い掛ける。
すると、聞こえたのは大きな溜め息。
『……全くしょうがない奴らだよ。どうにも説明する気がないみたいだからな。まぁ、やらせてもらうさ、だが無茶はするなよ』
やれやれといった感じで渋々了承をしてくれるラナ。心の中ではきちんと謝っておく。後でもきちんと謝っておこう。
でも、今からやろうとしている事を説明すると、多分ではなくて絶対に反対されるので、それを考えるとやっぱり出来ない。
「それじゃあ、まずはラナ。いつも通りこっちの動きに合わせて」
『うむ、分かった』
と、なんだかんだ言っても、ラナはちゃんと従ってくれる。
「それで、ジャック。今回はジャックが肝だからよく聞いて」
『おう』
それで今度は、ある意味主役となるジャックの方へ。
「何があってもこっちの言葉に従って、絶対に戸惑わないで躊躇わない事。良いね?」
『ちょい待て。そりゃ一体……』
早速、戸惑ってしまっているので、念を押す。
今、戸惑ってもらっても困る。もっとしっかりしてくれないと。
「……良いね?」
『わ、わかった』
何だか堅い返事だけど、とりあえず了承は得られた。
こうなれば、後は状況を整えて実行に移すだけ。それを成功させるだけだ。
とは言ってもやる事はほとんど変わらない。
仕掛け、隙を作り、そこを狙っていく。
まぁでも、違う所と言ったら、
『って、おい!』
仕掛けている僕が、シルバリオ・ゴスペルとガイアとの射線を完全に塞いでいる事ぐらいの事だ。
声を上げるジャックに対して、その行動を押し止めるように言いながらも、オーバードブーストによって急襲をかけていく。
ブレードを展開。
それによって、やはりこちらに警戒をしてみせる銀色の機体。
ラナもこちらの動きに合わせて動き出しており、シルバリオ・ゴスペルはそちらの方にも意識を割いている事だろう。
さてこれから、行うのはある種のトリックプレイ。
その結果が吉と出るか、凶と出るか、それはやってみなければ分からないけれど、敵の行動、反応範囲が予想通りの物だったらきっと成功するはずだ。
突撃。
右腕武装アサルトライフルを撃ち放ちながら、未だにガイアの射線を閉じたまま、ジャックへと依頼というか、合図として叫ぶ。
「撃て!ジャック!」
こちらの言葉、それに一瞬息を呑む声が聞こえる。
だけどその直後、現在の僕らの中での最大火力、ガイアの主砲、大口径レールカノンがこちらに向けて放たれた。
砲筒の間で生み出されるローレンツ力によって、大きな推進力を与えられた砲弾。
それが超高速で、空間を切り裂きながら飛翔する。
シルバリオ・ゴスペルとガイアを結ぶ射線上。
このままでは、そこにいる自分に当たり、フレンドリーファイアとなってしまうだろう。
でも、それもきちんと把握済みの事。
ガイアの砲撃の直後、すぐに砲弾の進路を開けるようにして、機体を軽くずらし、その敵に至るまでの道筋を作り出す。
僕のすぐ横を抜ける砲弾。つまり今は、シルバリオ・ゴスペルを蹂躙せんとレールカノンの砲弾が真っ直ぐ突き進んでいた。
シルバリオ・ゴスペルもその迫る脅威をようやく察知、直ぐに回避行動を取ろうとする。
しかし、攻撃の察知に遅れたその時間、それが致命的な隙となった。
飛翔する砲弾が緊急回避中のシルバリオ・ゴスペル、その左翼に命中する。
砲弾の保有する運動エネルギーの大きさに、シールドバリアはほとんど効果を為さずに貫通。
たった一撃でACの腕部を楽々奪い取るその破壊力が、シルバリオ・ゴスペルの左翼を蹂躙し根本から翼を散らせていく。
……作戦は成功。全ては予想通り。
でも、そんな事に安堵をする暇はなく、被弾によってバランスを崩した敵機に追撃を掛けていく。
けれども、さすがISと言った所。
片翼、推進器を失っても、直ぐに体勢を立て直し再び回避行動を取ろうとする。
しかし、その遅くなった機体を襲うのが、高熱量の光。
ラナの放った背部武装エネルギーカノンが、今度はシルバリオ・ゴスペルの右翼を散らせていく。
突撃をする自分の目前。
そこにいるのは、高機動性という最大の武器を失った哀れな敵の姿。
高機動を実現していたウイングスラスターを散らされたその敵は、あまりにも遅かった。
エネルギーブレードを最大励起。
熱量を更に増した光の刃でシルバリオ・ゴスペルへと斬り掛かっていく。
一閃。
両腕による防御ごとその本体を斬り、機体はその後方へと抜ける。
おそらくはこれで絶対防御が一度は発生したはず。だけど、それではまだ足りない。
追加ブースターを起動。一瞬の噴射によって、急速旋回。
同時に左背部エネルギーカノンを展開。アサルトライフルも構え、シルバリオ・ゴスペルに銃身過熱や残弾も考えず、ただただ撃ち放つ。
碌な回避行動を取れない目標へ、連続的に、続々と突き刺さっていく銃弾と光弾。
それは今まででは考えつかない程に。銀色の機体を確実に捉えていく。
やがて機能を停止させ、重力に従い落ちていくシルバリオ・ゴスペル。
心に沸き上がる想いを抑えながら、落下する機体の様を見届けていく。
そして水面に達したシルバリオ・ゴスペルは、大きな水しぶきを上げ海中へと没していった。
「……HQ。こちらクロノス。ミッションに成功、目標の停止を確認」
報告と同時。通信の向こうでは、まるで騒ぎ立てるような歓声が大きく響く。
『うっしゃー!!』
こっちでもジャックが大声で叫び、ラナも笑顔を浮かべている。
これで任務が終わった。
ISの撃破。相手に助けられた形ではあったけれど、それを今ここに、一応は達成する事ができた。
本当にラナやジャックにはもちろんだけど、シルバリオ・ゴスペル自体に助けられた部分がやはり大きい。
あの合理的な行動と判断。
おそらくは周囲に存在する、自身を捉え得る脅威の完全把握。
それは確かに強力ではあったけれど、その合理性に潜んでいた落とし穴。
自身への脅威を把握するという事。それは自身への脅威でない物への意識を省くという事、僕はそう考えた。
つまり、『フレンドリーファイアになるような物』、自身の脅威足り得ないそれを、脅威とは認識しないんじゃないかと。そうすれば、当てられるんじゃないかと。
その結果として、シルバリオ・ゴスペルは初めての大きな被弾をして、僕らに撃破されるに至った。
『これより、目標の座標を特定する』
そんな風に先程の戦闘の事を考えている間にも、ラナが沈んでいったシルバリオ・ゴスペルの位置座標を確認している。
水の中でも大丈夫なんだろうかと、ふと疑問には思うけど、元々は宇宙でだって活動できる代物なんだから、きっと問題はないのだろう。
どんな環境においても、搭乗者を保護できる機能が付いているみたいだし。
そういった技術が集められて構成されているISという物、それはやっぱり異常な物だなと改めて感じる。
『座標は……ん?なんだこれは……?』
そうした、落下位置を確認している真っ最中。
確認途中のラナの姿を眺めていると、目標が沈んで行った海中にまばゆい光が生まれていくのが見えた。
――警告、敵機体より高エネルギー反応を確認。
突然のアラート。
機体がそれを告げたその時、大きな光が海を突き破り、空中に生まれ落ちる。
輝く光の翼。それを大きく広げたその姿。
それはまるで、聖書に記されし天使の姿。
福音を告げる者。彼の者が今ここに。
圧倒的な圧力を持って顕現した。
『セカンドシフト……?まさか、どういう事だ?』
『おいおい……一体、何の冗談だよ?』
「様子がおかしい、各機警戒を怠る、な……」
そうして、復活したシルバリオ・ゴスペルに相対し、こちらが二人に注意を促す言葉を伝えようとしたその瞬間。
光だけを残し、その姿が掻き消える。
――La……♪
いきなりスピーカーを通じて聞こえ始めた誰かの声。それは何かを歌っているようにも聞こえる。
『ジャック、後ろだ!』
そして、最初に気付いたのはラナだった。
互いに離れた距離にいる僕ら三機。
そのガイアの背後に再起動を果たしたシルバリオ・ゴスペルの姿が現れている。
ラナの声に身体は即座に反応、アサルトライフルを構え、直ぐ様、敵へと撃ち放つ。
しかし、敵機の姿が再び掻き消え、その姿を見失う。
そんな目の前で見せ付けられた異様な速度。
以前見たイグニッションブースト、その目にも停まらぬその速さと同等、下手をすればそれ以上の速度。
先程までのシルバリオ・ゴスペルも異常な機動性を誇ってはいたが、今の存在はそれを更に超える異常な速さと機動性を持っているように思える。
――La…La……♪
また、歌がコクピットの中に響く。
今度は上空にその姿を現していた。
だが、今のそれに敵意は感じない。
空で歌い、踊るように舞う姿は、何かへの喜びを感じさせるかのようだ。
「……二人共、警戒を」
それでも、注意だけは怠らない。怠ってはいけない。
注意を喚起するこちらの通信に、二人共真剣な表情で返事をしてくる。
――La?……La!
やがて、空を舞う動きが止まり歌が止んだ。
その主だったシルバリオ・ゴスペルは、上空で静止、静かにこちらを見下ろしてきている。
――La……♪
そして、歌が再び聞こえ始めたその瞬間。
天使を象った翼より、エネルギー性の砲撃が降り注いだ。
「各機、来るぞ!」
『了解!』
羽根のような、光の砲弾。
それを機体を左右へと動かしながら回避し、左腕のエネルギーシールドによって防いでいく。
先程と変わらず、一撃毎の攻撃力はあまり高くはない。
加えて、エネルギー武装に対して相性の良いエネルギーシールドならば、この程度の攻撃なら防ぎ切れる。
そうして降り注ぐ攻撃の中、反撃を試みようとしたその時。
『くっ……!』
ラナの苦悶の声が通信越しに響き渡る。
見れば、ウラヌスの真横に突如シルバリオ・ゴスペルが現れ、攻撃を仕掛けている。
ウラヌスは何とかシールドを展開。
しかし、いくら相性が良いとは言っても、至近距離で、極多数の攻撃を受ければ、その防御容量を越えて防ぎ切れなくなる。
「ラナ!」
直ぐにラナの援護に向かう。動きながら撃ち放つは、エネルギーカノン。
敵に脅威を認識させて、ラナからこちらへ注意を引いていく。
軽い機動。それがさも当然であるかのようにシルバリオ・ゴスペルが攻撃を避けて見せる。
続いて放ったアサルトライフルに対しても同じく。
こうやって、僕が引き付けている間にラナはオーバードブーストによって、一時離脱。
戦況はこれで振り出しに。
だけど、シルバリオ・ゴスペルの様子と行動。それは大きく変化していた。
視界から消えるその銀色。
回り込まれたかと警戒するが、訪れたのは予想外の出来事。
『ラナっ!』
聞こえた声。今度のそれはジャックの叫び。
オーバードブーストで離脱中のウラヌスの背後、そこにシルバリオ・ゴスペルが現れている。
ラナもそれに気付き、直ぐに反転。回避行動と共にシールドを構えて防御体勢を整える。
一方、ラナを追っていたシルバリオ・ゴスペルは、
――敵機より、高エネルギー反応を確認。
突如響くシステムの警告音。こちらの視界で捉えられたのは、今までにはなかった行動。
シルバリオ・ゴスペルのその頭上。光の翼の間に大きな光が集束していく。
脳裏に語りかけるのは危機感と焦燥感。あれはまずいと、そう告げる第六感。
「避けろ!」
ラナへの言葉と共に敵に放った銃弾。
しかしそれは、遅すぎた物だった。
シルバリオ・ゴスペルからウラヌスへ光が走っていくのが見える。
それはシルバリオ・ゴスペル自身の機体長程に大きな光。今までの範囲攻撃用の拡散タイプではない、集束された純破壊をもたらす為のそれ。
ラナからしたら視界を埋め尽くすような極大の光が、ウラヌスを飲み込もうとする。
『すまんな。これ以上、力になれそうにない』
ウラヌスと光とが接触した直後に聞こえたのは、ラナのそんな申し訳なさそうな声。
光が過ぎた場所を見れば、こちらの牽制が功を奏したのか、それとも回避行動による物か、砲撃角度がずれ、脚部をほぼ付け根から失った状態のウラヌスの姿。
白い機体はゆっくりと落下。幸いにも、近くに存在する小島へと不時着していく。
「無事か?」
『とりあえずは、な。だが、機体は駄目そうだ』
通信は生きていた。
安否の確認の為に話し掛ければ、普通に応えてくれる声。
ラナは機体を気にしているみたいだけど、何より機体は換えれば良い。今は、ラナ自身に怪我がなかった事を喜ぶべきだろう。
『相手が悪すぎる。お前達、早く……何!?』
そうしてラナがこちらを気にかけ言葉を掛けようとした時、ラナの様子に変化が訪れる。
――警告。敵機にロックオンされています。
通信越しに響いて来たのは、ウラヌスのシステム音声。
それは今も、こちらからの攻撃の回避を続けるシルバリオ・ゴスペルが、戦闘不能に陥っているウラヌスを狙っている事を意味していた。
直ぐにオーバードブーストを起動。高速でウラヌスの下へ。
しかし、こちらとウラヌスとの間には距離があり過ぎる。
そして、シルバリオ・ゴスペルはこちらよりも尚、速い。
……間に合わない。
シルバリオ・ゴスペルがウラヌスを見据え、エネルギー砲の発射体勢に入ったのが見えた。
幸いにも、そこに集束する光はなく、おそらくは拡散タイプ。
だけどそれは、装甲が薄く脚部を失い身動きの取れないウラヌスにとっては致命的な物。
『やらせるかよ……』
万事休す。そう思ったその時、シルバリオ・ゴスペルに多数の銃弾と光弾が襲い掛かっていく。
『やらせてたまるかってんだ!!』
その声、その叫びはジャックの物。
ガイアをオーバードブーストで移動させながら、シルバリオ・ゴスペルに対して、自身の保有する多数の武装を撃ち放っている。
放たれるそれは、弾幕。暴力の網。鋼鉄と熱線の嵐。
シルバリオ・ゴスペルとて拡がる網の回避は容易ではなく、一度捕まれば、再び先程の二の舞となる、それを理解しているのだろう。
ウラヌスへの攻撃を止め、回避に専念して見せる敵機。
そうして相手を回避行動で釘付けにしている間にも、ガイアがウラヌスを庇うかのようにして、シルバリオ・ゴスペルからの射線上に入った。
『ラナ!早く機体から脱出して逃げやがれ!』
ジャックの心からの叫び。
叫びながらもラナを狙っていた敵へ放たれる弾幕は、ミサイルをも加えて一層の彩りを見せる。
だが、それも長くは続かなかった。
シルバリオ・ゴスペルが反撃行動へと移行する。
『糞が!……当たれ、当たれよ!当たりやがれよ!!』
空間にちりばめられた銃弾光弾砲弾誘導弾、その多々の軌道を読み切っての進撃。
歌を背後へと残しながら、網をくぐり抜けていくシルバリオ・ゴスペル。
前へ前へ前へ……。
踊るように、舞うように機体が揺れ、銃撃が、砲撃が空間だけを切り裂いていく。
ガイアも決死に狙いこそしているが効果は見えず、距離だけがただただ縮まっていく。
――La……♪
そして、遂にガイアの正面にまで達した、その機体が一層の歓喜の声を上げる。
大きく開かれた光の翼。
ガイアがシールドを構えようとするが、間に合わない。
至近距離より、ただガイアだけを目標とした多数の砲撃達が解き放たれる。
『畜生……、ラナ、逃げ』
ジャックの声。
被弾による物と思われる多数の爆発音の後、その通信が途絶した。
だが、それでも攻撃が終わらない。
支援に向かうこちらからでもその様子が確認出来る。
連続的に被弾したガイアに対して、通信が途絶したジャックに対して、仕返しと言わんばかりに尚もその砲撃が続けられていく。
ガイアに着弾していくエネルギー砲、そんな連続的な被弾の衝撃によって、ホバーで浮かぶ無骨な機体は勝手に後退を始めてさえいる。
「くっ、そ……!」
ようやくたどり着いた二人の下、歌うシルバリオ・ゴスペルへとオーバードブーストを起動させた高速状態のままに、ライフルで狙い撃ちながらのブレードによる接近戦を挑む。
銃弾は掠りもせず、斬撃が空を切る。
狙い通り、これで良い。
お陰で狙いはこちらへと移ってくれたようだ。
「ラナ。……ジャックを頼んだ」
通信を送る。
そうして二人のいる島から離れるように、退がりながらもシルバリオ・ゴスペルを牽制していく。
聞こえて来たのは、ラナにしては珍しく弱々しい反応。
だけど、通信が途切れたといっても、まだジャック自身がやられたと決まった訳じゃない。
ラナの反応に後押しが必要かとも思うが、どうにもこちらにも余裕がない。
あちらは完全にこちらを獲物と認識したようだ。ラナとジャックを忘れたかのように、嬉々とした歌を響かせながら、こちらへと迫って来ている。
出来る事を出来るだけ、今はそれしか僕には出来ない。
「……っ」
機体に走った大きな衝撃。
朦朧としていた意識を、それは揺り動かしてくれる物だった。
それにしても、酷い頭痛だ。視界も赤く染まっている。
一瞬、負傷でもしたかとも思ったが、頭痛自体はすぐに治まったし、赤かったそれは、機体の知らせる損傷報告と脱出を推奨するシステムによる物だった。
――全武装損失。頭部センサー損失。両腕部損失。両脚部損失。コアに深刻なダメージ。
満身創痍のその中で、今も尚、生きているのは、たった複数機のサブセンサーのみ。
それさえも映像は粗く、ただぼんやりと、夕焼けに染まろうとする外風景を映し出しているだけだった。
そこに映るのは、夕焼け背景に輪郭のぼやけた銀と光。つまりは敵機。
白く強い光が太陽に重なりながら、翼の間に集まっていっているのが、何となく分かる。
――警、告。敵、機よ、り、高エネル、ギー反応を、確認。早、急に退、避して、下さい。
コアにダメージを受けすぎたせいか、システム音声も途切れ途切れだ。
それでもシステムが教えてくれている事は十分に理解している。
つまりは、敵がこちらを本気で殺しに来ているという事。
全く以って趣味が悪いとは思う。
人で、人の機体で散々遊んでおいて、身動きが取れない所でとどめを刺すなんていうのは。
死への恐怖というよりかは、敵への愚痴ばかりが先に出る。
「ったく、何が天使だよ。コイツ、ただの悪魔じゃないか」
キリスト教なんてちょっとかじった程度しか知らないけど、福音なんて大層な名前をしておいて、その実は悪の手先?だったなんて、何だかある意味洒落が効いていて面白いのかもしれない。
そんな事を考えている内に、光が段々と大きくなって来ている。
……これは、確かにまずい。
けれど、先程から脱出をしようにも、コクピットの開放部が地面によって塞がれていて、緊急用の脱出装置も起動しない。
八方塞がり。万事休す。四面楚歌……は確か全く違う意味だったか。
とにもかくにも、どうする事が出来ないこの現状。
その事にどうしても、大きな溜め息が出てしまう。
結局、僕は勝てなかった。証明出来なかった。
アーマード・コアの存在価値を、シゲさん達の努力という物をきちんと証明する事が出来なかった。一夏の仇を取る事さえも出来なかった。
その何も出来なかった状況に加えて、こうして今の現状も、碌に身動きが取れず何も出来ない。
現在の敵に至っては、こちらに向けて砲撃をチャージ中。つまりこれから未来にも出来なさそうだ。
状況現状統合考察。
多分おそらくだけど、高確率で、僕はここで終わるのだろう。
それを考えると、皆の期待に応えられなかった事がやっぱり何だか申し訳なくて、気が滅入って落ち込んでくる。
でも、落ち込んでいく中で思うのは、ラナとジャック、二人の事。ラナの無事は確認をしているので、あとはジャックの方。
あれは通信が切れただけだと信じたい。
ガイアのコアへのダメージ自体はこっち程ではなかったはずだし。
今は二機とのデータリンクは切れてしまってはいるけれど。
……ああ、後はそうだ。大切な事を忘れてしまう所だった。
シャルとの約束、それを守れないで申し訳がない。
帰ったら遊びに行こうと言ってたのに、こんな形で裏切ってしまって申し訳がない。
あれだけ楽しみにしてくれていたのに、一緒に行けなくなって申し訳がない。
願わくば、シゲさん達やセシリアさん、ラウラさん達と一緒に楽しんで来て欲しい。
僕も楽しみではあったのだけど、とても行けそうにはないから。
これが俗に言う走馬灯という物なのだろうか?
よく分からないけど、やり残した事、思い残した事が脳裏を駆け巡る。
そうやっている内に、どうやら相手の方も準備が完了したようだ。
光が眩し過ぎて、画面上にシルバリオ・ゴスペルの姿がよく確認出来ない。
それ程のチャージ量。いくら何でもやり過ぎだろうと感じて、思わず笑いがこぼれてくる。
――La…La……♪
すると、笑いに応えるようにして聞こえ来た歌声。
おそらくはそれは発射の合図。
きっとそれは最期の時。
自分の最期ぐらいは自分で見届けよう。
視界を赤く染めるパラメータを消し、ディスプレイから溢れる光だけを見据え、今はただ、じっとそのまま、時を待つ。
暗転する視界。
目の前に広がるのは影だった。
宗教なんて物はとっくの昔に捨てた自分が言うと、おかしく感じるが、これが死後の世界という奴何だろうか?
いや、天国というと白のイメージがあるから、これは地獄?
それは僕にお似合いの場所かもしれないけれど、それにしては五感がはっきりし過ぎている。苦痛という物も感じない。
……パイロットスーツに包まれた四肢とヘルメットの重さからすると、どうやら僕はまだ生きているらしい。
そんな事を確認した後は、ディスプレイに意識を集中させる。
相変わらず、ぼやけた外風景。よくよく見ると、影ばかりの絵の中に紫電が飛び散っているのが分かった。
膨大な光とクロノスの間。そこに盾が立ち塞がり、その光景を為している。
その姿。見えるのは四枚の翼。
飛び散る光の粒子。それによって照らし出されて目に映る光景。
何故か視線が引かれたのは、一つに束ねられた金色の尻尾。
何だかそれは普段から見覚えのある物で、とても良く見慣れた物だ。
やがて、どこかから聞こえた爆発音によって、光の粒子が消滅していくと、目の前の存在が少し疲労感と安心感を表に出すようにしながら、こちらを振り向いた。
『……大丈夫、だよね?』
唐突に画面へ浮かび上がったウインドウ。そこにあったのは、何だかとても久しぶりに感じる顔、表情、姿。
「まぁ、何とか。……それにしても、昨日振りだね」
『うん。昨日振り』
両手に溶解しかけたシールドを持つ、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅢ。
そのISという鎧を纏った彼女、シャルロット・デュノア、シャルの姿がそこにはあった。
コクピットブロック緊急開放。
小さな炸裂音と共に、感じる小さなG。
そうして暗い密室から、夕焼けに染められつつある、広い開かれた空間へ。
開いていてく上方ハッチ。シートとの固定を解きながら、そのまま地上へと降り立つ。
「っと」
覚束ない足元。
縺れ倒れそうになる身体を、機体に手を着く事で何とか押し止める。
「本当に大丈夫?怪我はない?」
ISに包まれたままのシャルの表情。それはこちらをひどく心配している様子。
そんな彼女にはこちらが健在である事をきちんと示しておく。
「大丈夫だって。機体は、もう駄目そうだけど」
ヘルメットを取りながら、前者はシャルに対しての言葉。後者は無残な姿に為り変わってしまったクロノスに対しての言葉。
頭部と四肢を失い、コア部のみで目の前に横たわるクロノス。
シルバリオ・ゴスペルのエネルギー砲によって所々が溶け変形し、辛うじてその原形を留めているに過ぎない装甲。
それは太刀打ち出来ず、役に立たなかった証拠ではなく、被弾をしても尚、懸命に僕を守ってくれた証だった。
どこか歪んだそれに感謝を込めつつ、その表面に触れていく。
「……ラナさんとジャックさんは大丈夫なの?」
そうしていると聞こえて来たシャルの真剣な声。
「ああ、もちろん。二人とも元気だよ」
申し訳ないけど、そんな彼女には嘘を付く。
本当はジャックに関しては分からない。
でも今は、シャルが知るべき、気にするべき事ではないと思うから。
「シャルは、行くんだよね?」
「……皆が、待ってるから」
そう。
シャルはこれからあの空へ向かう。
セシリアさん達と敵とが戦い合っている戦場へ。
そんなシャルに今は他の事に気を使わせたくない。自分だけに、戦闘だけに集中して欲しい。
「敵は、強いよ」
「そうだね。分かってるよ」
僕の言葉に頷いて見せるシャル。
既に心は決まっているみたいだ。ならば、僕には他に掛けられる言葉はない。
「そっか……じゃあ、気をつけて。気をつけて行ってらっしゃい」
「うん、行って来ます!」
送り出す声を掛けると、シャルはどこか安心したような表情を見せた後、直ぐに表情を引き締め空へと向かっていった。
背中のオーバードブーストを噴かし、急速の上昇を見せながら。
その背中はやがて小さくなっていき、他の光と合流するようにして動いていく。
駆ける閃光。響いてくる発射音。爆発音。
一対五、IS同士の戦い。
今も繰り広げられる戦闘を見届けながらに、足はまずガイアの方向へ。
「ラナ?」
ガイアの足元、そこには地面に座り込むラナと、どうやって引っ張り出して来たのか、ラナの膝に頭を乗せられたジャックの姿があった。
「……この馬鹿が。私なんかを庇おうとするから」
それはどこか悲しそうなラナの言葉。
声に出しながらも、意識のないジャック、その頭をそっと撫で続けている。
「本当に、本当に馬鹿だよ、コイツは……」
まるで慈しむような手付き。
ただ優しく、大切な物を扱うような手の動き。
そんなラナに対して、ジャックの方はというと、確かに意識はないようだが、どこかを負傷しているようにも見えない。
「ラナ。ジャックは大丈夫なの?」
僕が気になっているのは、まずはそれ。
ラナの事だから、怪我の有無の確認から応急処置まではやっているだろう。
「ああ。ガイアの装甲に助けられたみたいでな、怪我もない。ただ気を失っているだけらしい」
「そっか、よかった」
ほっと息が漏れるのを感じる。
それは安堵から来る物、ジャックもラナも怪我がなくて本当に良かった。
というかジャックめ、余計な心配させやがって……。
とりあえずの安堵からラナ達への視線を外し、次の案件、空へと意識を向ける。
肉眼ではよく分からないが、そこでは光が激しく飛び交っているのが確認できる。
戦闘の光。ISとIS。その戦いの光。
視線だけは空に。地上では沈黙だけが漂い、空気と雰囲気を支配する。
「……私達の完敗だったな」
沈黙の中で呟かれた言葉。
「……そうだね」
それに一言、返していく。
返す言葉と共に思うのは、シルバリオ・ゴスペルとの戦闘の事。
初めは戸惑って、途中からは優勢に進めて、やっとの思いで撃墜して、やったと思ったらそれはまだ始まりでもなく、僕らは為す術もなく壊滅させられた。
ダメージすら与えられず、機体の影すら捉えられず、ただ墜とされて遊ばれて、無力感だけが募っていって。
無力。それは僕が?それとも皆が?
認めたくない事。それは否定だ。やっぱり、そんなのを認めたくはないし、認められない。
さっきは自分の生命すら諦めかけてはいたけど、それは手段がなかったから諦める他なかったから諦めたに過ぎない。
さっきは諦めた。でも今は助けられて、こうして生きている。
生きていて、目の前に出来る事がある。
出来る事があるのにただそれを見過ごすなんて事は出来ない。出来そうにない。
行動理念。やれる事をやる。
それなのに出来る事をやらないなんて、そんな物は嘘という物だろう。
「おい、何をするつもりだ?」
動き出した僕の背中にラナの訝しげな声が掛けられる。
「ガイアはまだ戦える。だから、やっぱり僕もまだ戦うよ」
そう。
データリンクが切れる前に確認した物。クロノスやウラヌスとは違い、損傷の表記はあれどガイアはまだ戦える状態だった。
「馬鹿か!お前は!?」
怒鳴り声。しかし、僕の身体は既にガイアの機体を登り終わり、開かれたコクピットブロックのシートに着いている。
「うん。馬鹿で良いよ。……でも、シャル達が苦戦してるから」
空を見上げれば、光の中で一層に早い銀色に翻弄される、他の色達。
「それにこのままじゃ、終われないから」
……このまま終わるわけにはいかないから。
ヘルメットを被り直し、機体に乗り込む。
スティック操作、コクピットブロックをコアに収納。
まずはデータを確認する。
見た目こそ損傷しているが、さすがはガイアと言った所。
損傷レベルは各所に中程度のレベルが見えるだけで、戦闘行動には問題がない。十分に戦闘には耐えられる。
それが分かれば良いので、早速、機体のシステムと自分とのアジャスティングを開始する。
ユーザー登録をジャックから自分へ。
パイロットスーツに登録されているデータと同調し、ガイアのパラメーターがジャックの物から自分の物へと書き換えられていく。
本来なら細かい調整も必要ではあるけれど、今必要なのは自分の思い通りにガイアを動かせるという事だけ。
今も尚、光が飛び交う空を見上げ、その完了を待つ。
センサーによって鮮明に描き出される映像。シャル達は、やはり苦戦中だ。
僕らの戦闘を見ていたみたいなので、シルバリオ・ゴスペルの性能の幾分かを把握していたとはいえ、相手は異様と言える力を持つ存在だ。
その機動性に翻弄され、数で勝っているにも関わらず戦況は良くない。
飛び交い合う光。それを為すシャルと友人達。
やがてその戦闘を映し出すディスプレイの端に、書き換え完了の文字が浮かんだ。
完了速度は意外に早い。早速、機体の確認へと移る。
スティックとペダル、そして意識を伝えるAMS。
軽く動かしてみる。やはり機体自体が重く感じるが予想の範囲内。そこまでの違和感はない。
個人の癖を反映させた機体の照準誤差も、今はクロノスでの物と同じになっていてこちらも問題はない。
ホバー移動もジャックの機動を見ていたせいか、特に気になる事もなく動いてくれている。
つまりは機体自体に問題は見られない。
となると、残りは武装だ。
右背部レールカノンと両腕のエネルギーシールド以外の全武装を廃棄。
出来るだけ機体を軽く、それにエネルギー負荷も軽く、ガイアにはシールドとレールカノンにのみ、そのエネルギーを注ぎ込んでもらう。
重武装という機体コンセプトには逆らう事になるがこれで良い。
武装も確認完了。
後は出撃するのみ。
機体を動き出せる前に再び、戦場となっている空を仰ぐ。
「何だよ、一夏。無事だったんじゃないか……」
思わず愚痴るようにして漏れ出した声。
そんな拡大された映像に捉えたのは、シャルのブースターユニットを模したような四枚の翼を持った白式、一夏の姿。
シャルやセシリアさん、ラウラさんに凰さん、そして金の粒子を放つ箒さんと共にシルバリオ・ゴスペルを追っている。
一夏の加入によって、戦況は優勢になりつつあるようだ。
それでも、光の翼を持つシルバリオ・ゴスペルが圧倒的な性能によって、状況を押し留めていた。
優勢にはあるが、未だに保たれる均衡。
それを圧し崩すにはきっかけが必要だ。
ならばとそのきっかけ、外部要因となるべくガイアを戦場へと推し進める。
『無理だけは絶対にするんじゃないぞ?』
そうやって聞こえた声、恐らくパイロットスーツ間での通信機能を用いた物。しかし、二つの声が重なっている物。
徐々に遠ざかる背後ではラナと、そして、ラナの膝に頭を乗せたままのジャックが軽く手を振っていた。
そんな二人に対して、笑みが浮かぶ。安心感、安堵感、やっぱりなという感情から、任せておけという二人に応えようという意思から。
左腕を掲げ自身の心を示し、今はシャル達の支援へと向かう。
空中。そこで繰り広げられる激しい戦闘。
凰さんが炎を点した砲弾を放ちながらも切り掛かるが回避され、無防備となった所を蹴撃が襲い、吹き飛ばされていく。
その直後、背中を見せたシルバリオ・ゴスペルにシャルが突撃を掛け、ラウラさんとセシリアさんがそれを援護するように、超高速の砲弾と極めて高い熱量を持った光線を放つ。
しかし、シルバリオ・ゴスペルは下がりながら砲弾と光を避けると、その場で回転するように機体を翻し、拡散型のエネルギー砲をばら撒いていく。
直線と曲線。様々な複雑な軌道を空中に描きながら、三人へと降り注ぐ光。
距離のあるラウラさんとセシリアさんは回避行動に入っている様子。
近距離で砲撃に曝されたシャルは、その手に急いでシールドを展開させ防御体勢へ。
だが、そのまま攻撃を受け止めながら押し進み、シルバリオ・ゴスペルとの距離を詰めていく。
シルバリオ・ゴスペルもただ詰められる訳ではない。
各部のブースターによるイグニッションブーストによって、シャルの死角を取ろうとする。
シャルも負けじと、クイックブーストでそれに対抗、そうして始まった死角の取り合い。
超至近距離での高速機動戦。
セシリアさんやラウラさん、凰さんもその支援を行おうとするのだが、二人の距離の近さに対して迂闊に攻撃が出来ず、的確な支援が行えない。
そこでシャルとシルバリオ・ゴスペルの戦闘に新たな影が加わる。
それはシャルのクイックブーストと同じような機動を見せる一夏と、金色の光を纏いながら、シルバリオ・ゴスペルに追い縋ろうとする箒さんの姿。
近距離で三対一、シルバリオ・ゴスペルが徐々に追い込まれていく。
シャルがショットカノンを両手に構え、接近。発射。
拡散しながら飛来する散弾。
その軌道を正確に捉えながらシルバリオ・ゴスペルは完全な回避を見せる。
だがその一瞬、回避機動中の動きが鈍った。いや止まった。
何が起きたのかは分からないが、シャルが何かをしたというのは確かだろう。
一瞬の隙、そこに切り掛かっていく箒さんの紅椿。
普通であればそのまま箒さんが切り裂いていくのだろうが、シルバリオ・ゴスペルは普通ではない。
身動きの取れないはずの機体から光が溢れ、機体を拘束するシャルを吹き飛ばし、光の翼で箒さんを捕縛する。
直後、二人と時間差で切り掛かるはずだったらしい一夏が、その隙を見逃さずにシルバリオ・ゴスペルへと突撃していく。
だが、シルバリオ・ゴスペルもそれをやはり把握済みだったようで、捕らえた箒さんを突撃をする一夏へと投げ付ける。
避ける訳にも迎撃する訳にもいかず、速度を落とし、箒さんを受け止める一夏。
そのまま、投げられた勢いを殺せずに落下を続けていく。
そうして残ったのが、再度シルバリオ・ゴスペルへと向かっていたシャルだった。
セシリアさん達の支援砲撃も為されるが、全周囲を把握するシルバリオ・ゴスペルは、それに背を向けたままで回避。
避けながらも、一気にシャルとの距離を詰めていく。
シャルもクイックブーストを使い、再びの機動戦に挑む。
だが、軌道を先読みした、敵機によってその身が捕えられた。
喉を掴み、シャルの身体を掲げるようにして見せるシルバリオ・ゴスペル。
シャルも抵抗しようとする。だが展開した武装が、光によって即座に撃ち落される。何より今は喉を強く握られ、もがく様にしていて抵抗が出来ない。
シルバリオ・ゴスペルの行為は支援砲撃に対しての盾にする物でもあり、セシリアさんもラウラさんも鳳さんも手が出せない。
一夏達も未だに復帰出来ず、そうしている内に、敵機の翼に純破壊の光が集まり始めていく。
それはまるで、シャルを抵抗への見せしめにでもするかのように。
……やらせるか。
機体を戦闘海域へと運びながら、その光景に抱く想いはただそんな一言。
セシリアさん達からの射線は塞がっているらしいが、敵にすればこちらなど取るに足らない存在なのだろう、幸いにしてこちらからの射線は綺麗に通っている。
ならばと機体を操作。
やはり、シャルやセシリアさん達に比べれば性能に劣り、出来る事は少ないだろうけれど、その出来る事を今は実行するのみ。
レールカノンのリミッターを解除。
これでレールカノンによる連続射撃が可能に。
砲身過熱、損耗も省みず、その砲身の寿命と引き換えに、連続的に砲弾を放っていく。
シャルの首を掴み至近距離でエネルギー砲を浴びせようとする、敵機を襲う複数の砲弾。
回避。
シルバリオ・ゴスペルがシャルの機体を解放しながら、レールカノンを軽く避けて見せた。
それでもこちらは、機体の警告の中も撃ち続け、敵の注意を引き付ける。
そして、回避しながらもチャージされていた光がこちらへと向けられる。
光。クロノスの中でおぼろげに見えた物と等しき光。
ガイアの機動性を考えれば、回避は不可能。
直ぐに両腕、エネルギーシールドを最大出力で展開。ガイアの重装甲を信じて防御に徹する。
解き放たれる光の奔流。
一応の回避行動は予想通りに無意味。直ぐ目の前で、守る光と破壊の光とが接触を果たす。
ぶつかり合う力。二つの光が均衡する。
しかし、保有するエネルギー量と許容エネルギー量、その差によって、エネルギーシールドの発振器には大きな負荷が掛かっていき、発振器からは白い火花が散り始め……。
直後、発振器が過負荷に耐えられず飛散。両腕で爆発が起こった。
そうして障害を乗り越えた光が、爆発をも飲み込みながらに機体を襲う。
――コアに、深刻なダメージ。危険です。
光で白く染め上げられた視界。聞こえた音声。急激なコクピット内の温度上昇。
パイロットスーツ越しにもじりじりと焼かれるような感覚。冷却機能も間に合わず、コクピット内の余りの熱の高さににスーツの生命維持機能も起動している。
そんな時、機体のどこかで再度聞こえた爆発音。
大きな衝撃がコクピットを襲い、内部の構造物が剥離、破片となって飛び散っていく。
ヘルメットに破片が当たり、甲高い音を響かせる。
それはもちろん頭部だけでなく身体にも降り注ぎ、四肢や胴体、腹部を襲う強い衝撃。
でも、それを気にするよりも、今はやるべき事がある。
光が止み、こちらは存命。
機体損傷度は酷い物で、レッドアラートが機体に鳴り響き、撤退、退避を推奨こそしているが、ガイアはあの光を何とか耐え切って見せた。
確かにその中で腹部の衝撃に一瞬、気を逸らされたが、意識と視線を戦場へと戻していく。
すると待っていたのは既視感。
その光景と状況は、明確な既視感を覚えさせる物だった。
箒さんの機体と受け止めながら落下していた一夏が体勢を立て直す。
海面上で言葉を交し合う二人。
やがて、金色を纏う箒さんが一夏に触れると、その色が伝播。
箒さんの何かしらの声援を背中に受けながら、ブースターでそれに応えるような光を点して、一直線でシルバリオ・ゴスペルの元へと向かっていく。
機体軌道。位置配置。一夏が進む。
――こちらとシルバリオ・ゴスペル、二つを結ぶ射線上に乗りながら。
覚える既視感。語りかける本能。告げてくる経験。寄せるは信頼、きっと一夏なら大丈夫。
まだ辛うじて生きるガイアの主砲。そこに希望を、通信には叫びを乗せて引き金を引く。
発射直後。右背部で起こる爆発。しかし、役割は最後まで果たし尽くした。
「一夏……避けろ……!!」
叫びと共に撃ち出された砲弾。
それは、今日行ったトリックプレイ。
直感か機体の警報による物か、一夏は上手くこちらの意図を感じ取りシルバリオ・ゴスペルに向かいながらも、超高速の砲弾を半身になって避けてくれる。
砲弾が海上から空中に、二つを結ぶ真っ直ぐな線を描いていく。
同じような光景と状況。軌道。
僕と敵、二つを結び合わせる直線。
敵にとっては認識外の攻撃。弾速も、見てからでは間に合わないはずの超高速の物。
そんな砲弾は一度目と同じように命中するコースが再現されていた。
しかし、シルバリオ・ゴスペルが対応する。
回避が不可能と判断すると、翼を盾にするように前方に構え、レールカノンの砲弾を受け止めた。
翼にめり込むようにして、貫通に至らず、完全に止められた砲弾。
失敗。失敗だった。
新たな脅威に対しては敵も学習する。二度目の僕による奇襲は失敗に終わった。
……でも、それでも良い。
シルバリオ・ゴスペルの動きを一秒でも一瞬でも、止められさえすればそれで。
だって、今の一夏にとっては、たったそれだけの時間、隙で十分なのだから。
高速機動。加速に次ぐ加速。
光となり、四枚の噴射光を跡へと引きながら、さらに加速。連続的爆発的な加速。
その驚異的な加速力と速度を以って、シルバリオ・ゴスペルに向け突撃していく一夏。
右腕には、一撃必殺と言われるエネルギーブレード。
その刃が輝きを増し、大きく強い光が形成される。
白式とシルバリオ・ゴスペル。その距離がイグニッションブースト、あるいはそれを超える何かによって一瞬で縮められる。
コンマ数秒、その極短時間の硬直時間の間に、シルバリオ・ゴスペルの圧倒的な回避性能も、もはや無意味となった。
そうして、音を遥かに超えた高速状態のままに交錯する一夏と敵機。
やがて、突撃する勢いをそのままにその後方へと抜けた一夏が、確認の為にこちらを振り返る。
その頃には既に、シルバリオ・ゴスペルには大きな変化が訪れていた。
――散っていく光。
光の翼に切れ目が入ったかと思うと、その翼が大きく広げられ、一枚ずつの羽根が散っていくように、光の粒子が海へと柔らかく降り注いでいく。
それはどこか、幻想的ではあった。
真夏に雪が降ったような、そんな光景。
さらりふわりと、光雪が揺らぎをもって落ちては消えていく。
散っては消える。
羽根の持ち主も例外ではない。
散々なまでに厄介だった天使から、光が消えていく。
そして、その羽根が根本まで全て散り失せると、象徴であった銀色のISアーマーが突如消失。
搭乗者と思われる人影が空中より落下していった。
一瞬、感じた焦り。
生身で水面に叩き付けられでもしたら、大怪我では済まない。
でも、そんな事にいち早く反応したのが凰さん。
落下の開始を見るなり、直ぐに飛び出した凰さんが、海面ぎりぎりの所でパイロットの身体を滑り込むようにして見事にキャッチ。
そのまま一夏に文句か軽口か、とりあえず何かを言っている。
軽い言葉のやり取り、見て取れるのは和やかな雰囲気。
……これで本当に全てが終わった。
二人のやり取りを見る事で訪れる実感。
長いようで短くて、やっぱり長かった今回の出来事のようやくの終結に、大きな安堵の息が漏れる。
同時に切れていく集中。緩んでいく意識。
トライアルはどうなるんだろう?とか、今後の予定を考えながら、軟化していく状況。
そうやって解された現状に自身を合わせていく中、自分自身のとある異変に気付いた。
腹部に残る、何かとても、とても熱い感触。
そういえば、いつの間にか全身に倦怠感が感じられていて、異様な冷や汗をかいているのもまた実感できている。
『――う?助か――たぜ?』
そんな時、ディスプレイ上。
こちらに近づいて、何かを話しかけてくる様子の一夏。
しかし、その言葉はよく聞き取れない。
もうちょっと、丁寧に喋って欲しい。いや、それとも通信機能の故障だろうか?
とにかくどうしても聞き取れない。
『―い、――夫か!?―い!?』
全く五月蝿い。耳元で怒鳴らないで欲しい。
もしかしたら、あの不意打ちに対する文句なのだろうか?
確かにいきなり過ぎたとは思う。そこは反省もしてるし、謝罪もしよう。
けれども、結果としては成功したんだし、折角全てが終わったんだから、今は少し大目に見てくれたっていいと思う。
『大――、だ―ね?――?ふざ――な―で行――?』
次に現れたのはこちらに話し掛けて来るシャルの姿。
でも、今度はそんなシャルの顔が何だかぼやけて見える。
さっきまで、一夏の姿はそれなりにきちんと映っていたはずなのに。
「あ、れ……?」
不意に視界が揺れた。揺れている世界。一体何が揺れているのか、海か機体か自分自身か。
いや、それにしても、何だか眠くなっても来た。
さっきまではずっと強い痛みを感じていたにも関わらず、今はそんな痛覚より眠気の方がずっと強い。
重くなっていく瞼。抜けていく力。暗くなっていく視界。薄れていく意識。
声が聞こえる。姿が見える。
揺れていく声。揺れていく世界。
『―ぇ?駄――よ?起――っ―ば、――!!』
揺れと共に、段々と自身の世界には夜がやって来ていて。
最後に聞こえたのは、僕の名を呼ぶシャルの叫びだった。