Acxis   作:ユ仲

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Chapter1-2

 見渡す限りの荒野の中を駆け抜けていく。

どのような悪路をも駆けるための無限軌道、クローラ。

 見るからに重厚な装甲。

 

 それは一見するといわゆる戦車のようなものであった。戦車のようなもの、そう、それを戦車と断定するには確かにいささか違和感がある。

 

 まず、現代の戦車の象徴とも言える砲塔が見当たらない。いや一応、砲塔に属するかもしれない部分は、確かに武装は存在している。しかしそれは一見して厚いと分かる重厚な金属塊に機関砲とみられる四つの発射装置と思しきものが備え付けられているのが見受けられるのみで、回転機構は見受けられず、そもそもこれでは現代における戦車としては到底火力不足だろう。

 

 だが、なによりも大きな違いがそこにはあった。戦車に「腕」などが存在していただろうか?

 

 荒野を疾走する戦車の前方、いくつかのオブジェクトが出現する。ターゲットドローン。それは撃破するべき目標だ。戦車もそれは分かっているのだろう、備えられている機関砲により射撃。延びてゆく火線。命中。倒れるような形でオブジェクトが消える。

 

 続いて後方にオブジェクトが出現。

 

 本来であれば、そこで砲塔を回し発砲するなり、少し時間をかけ旋回を行う等を行っただろう。しかし、この戦車もどきには回すべき砲塔は存在しない。そして、ここでそれは戦車と決定的に異なる最大の様相を見せる。

 

 不意に、走行しながら車輌後方が持ち上がる。普通なら故障か何かのトラブルか、と予測をつけるところだ。だがそれはその予測を大きく裏切ることとなる。

 

 車輌後方はさらに持ち上がり、いやそれは正確な表現ではないだろう。

 

 それは明らかに立ち上がっていた。前方のクローラが爪先に、クローラの後方が重厚な装甲を備えた脚部へと変わる。それは戦車ではなく巨人の類であった。四mを越える巨人。

 

 PX−03 TYPE−GAEA

 

 プロジェクトの三番目。重装甲高火力をコンセプトとした三機目の機体、それこそがその戦車もどきの正体であった。

 

 片脚を軸にし、速度を利用しての急速旋回。両腕は前方に、狙いは出現したオブジェクトへ。ロックオン。発射。

 

 次の瞬間、腕に付随している盾型のミサイルランチャーから誘導射撃が放たれる。放たれたそれは狙いを寸分違わずオブジェクトに飛来。命中。撃破。それと同時に機体は戦車へと姿を変形。再び荒野を駆けて行く。

 

 

 一方、別の試験場でもまた機体のテストが行われていた。

 

 疾走。跳躍。急旋回。着地と同時にブーストジャンプ。空中での方向転換。着地。急加速。

 

 それは縦横不尽に荒野を駆け回り、跳び回る。勿論、そうしている間にも狙いとなるオブジェクトは出現を続け、その度に撃破し続けられている。純白の装甲に赤いポイントがよく映える、空中を軽快に跳ね回るそれは、まさしく高機動性を体言してみせる機体であった。

 

 PX−02 TYPE−URANUS

 

 文字通りの高機動性高運動性をコンセプトに持つ軽量二脚の試作機。プロジェクトにおける二番目の機体だ。

 

 時にカラス足と称される折れそうな程に細い脚部。流線形のコアと頭部。長い両腕部もまたこの機体の特徴といえるだろう。機動性を確保する為に限界まで削られた装甲。空力特性をも考慮して形作られたデザイン。軽快な高速三次元機動。それは、重量二脚のガイアとはまるで対極となるような戦闘スタイルであった。

 

 

 

「まったくもって特徴的だなぁ」

 

 狭いコクピットの中で息を吐く。重装甲高火力のガイアと高機動のウラヌス。搭乗しているジャックとラナの性格を考えると機体に合いすぎであると思う。確かに彼らの経歴からすれば当然なのかもしれないが。

 

 自らの機体の中、出番を待ちながら二人のテストの様子をモニターで確認し、そんな事を考える。

 

『レイヴン、時間です。テストを開始してください』

「了解」

 

 そして遂に開始される自らのテスト。そうと決まれば、始めから全速力で。

 

 始めの数歩を強く踏み出し、そのままブースターにより加速。エネルギー残量に気を配りながらも加速の手は緩めない。

 

 最高速度へと到達しようとしたところでオブジェクトが出現。浮遊移動型のターゲットドローン。浮遊移動とランダム回避を延々と続けるもので攻撃力は皆無、そもそもの移動力機動性自体はたいしたことはない。

 

 計四つ。斜め前方左右に二つ。FCSは既に対象を捕捉。速度を維持したまま右腕のアサルトライフルを目標へ重ねる。

 発射音。まずは一つ。続けて二つ。

 

 後方にもターゲットの出現を確認。速度を利用し、滑るように急旋回。ドリフトターン。右腕はその間も目標を捕捉中。旋回中の連続射撃。これで計四つ。

 

 次は新たなターゲットを確認し、狙いを定める。前方正面並んで再び四つ。

 

 高速移動用のブースターを起動。緊急用高出力ブースター、オーバードブースト。

 

 甲高い吸引音。直後に機体を強烈なGが襲う。オーバードブースト、略称OB。それが為すのは、オーバードブーストにより圧縮された空気とそれの単一方向、急速かつ連続的な放出。それは四mにもなる鋼の巨人に高速移動を実現させるほどの出力を持つ。

 

 急加速。急接近。前方に目標を確認。

 ……五つ。六つ。

 高速移動中の射撃にて二機を撃破。続いて目標に接近、オーバードブーストをカット。機体は徐々に速度を落しながらも、その勢いは尚健在。

 

 左腕武装、実体ブレードを起動。擦れ違い様に七つ。斬り付けられたターゲットは火花を散らしながら、中心から上下にその身を別ける。

 

 機体を残りの目標へ旋回させながら、オーバードブースト再起動。急加速。ブレードの切先は目標へ。

 

「八つ」

 

 刺突。内部構造を貫かれたドローンは機能を停止。左腕を引き抜き、ブレードから邪魔なそれを分離させる。同時にレーダー上、ターゲットが再び出現。

 

「……うわ、どれだけやるんだ?」

 

 再び機体を目標へ。疾走する黒い機体、目標を捕捉する赤いアイセンサー。丸みを帯びた流線型。右腕にアサルトライフル。左腕には実体ブレード。専門性ではなく汎用性、バランスと万能性を求めたその機体。

 

PX−01 TYPE−CHRONOS

 

 プロジェクトの一番機。基礎であり、基本であり中心。

 それがこの機体の正体だった。

 

 

 

 

 

 

 ハンガー。

 

 そこは巨人達の眠る場所であり、整備員にとっての戦場だ。少し肌寒い今の気候においても、そこだけは今も尚、熱気に溢れている。

 

 指示を出す声と確認する声、時には怒声すら聞こえてくる。とにかく慌ただしく人が動く。稼動部のチェック、損傷具合の診断、データ入力、新たなパーツの運搬、各部パーツの交換……。そのような状況においても彼らは自身の為すべき事を確実に行っていく。それは彼ら自身の趣味や興味故に、果たすべき義務故に、そしてなにより彼らの持つプライド故に。

 

「……ぷは」

 

 そんなハンガー内の様子を見ながら、降機の際、整備員に渡されたドリンクボトルで喉を潤す。味はなかなか表現しにくい味だが、その中身がスポーツドリンクであることはわかる。温度は少し温め。こちらの身体にも気を使ってくれてのことだろう。

 

「……ふいいぃ」

 

 ベンチの隣で座っている度でかい筋肉塊も、今はドリンクを煽りながらぐでーんと脱力状態にある。気持ちは確かに分かるけど上半身裸の塊は……正直少しキモチワルイ。汗まみれだし。

 

「まったく今日は疲れたな、おい」

 

 ぬめぬめ筋肉団子こと、ジャックはぐでぐでーんという状態を維持したままこちらに話し掛ける。

 

「皆、いつもよりピリピリしてましたし、あとテスト内容もいつもより明らかに増えてましたしね」

「そうかー、増えてたか?」

「はい、増えてました」

「増し増し?」

「ええ、増し増し」

 

 はぁ。ぐびり。

 

 どちらからともなく、自然にこぼれる溜息。そして二人とも同時にボトルを傾ける。とにかく今日はいつもより疲れた。モニタリングスタッフも今日はどこか緊張した眼差しと声色で、整備スタッフもかなり気合いの入った様子ではあった。理由はよくわからないが、とにかく今日は特に緊張感溢れる雰囲気のテストであったのだ。

 

「……おっと、あいつもやっと戻って来たか」

 

 筋肉達磨がふと呟く。視線を追ってハンガーのメインゲートに視線を向ければ、そこにはハンガーへと入ってくる白い機体が目に入った。

 

 軽く地面を震わせるような歩行音。それは大きく「2」と描かれた整備台(ピット)まで歩を進める。整備台直前で向きを変え、後ろ向きで整備台に機体を着ける。

 

 そして所定の位置へ移動させると、膝を床へと着き降機体制へ。コア後部のコクピットブロック展開と共に搭乗員が降機。それを見た近くの整備員は自分達の物と同じドリンクボトルとタオルを手渡す。

 

 その搭乗員は渡されたドリンクボトルを片手にヘルメットを外しながら、整備員達の労いの声を背中にこちらへと接近。

 

 ……ヘルメットを取ったその表情はやはり少し疲労気味。

 

「よう、お疲れさん」

 

 筋肉はその搭乗員――当然ながらラナである――に脱力体制のまま声をかける。

 

「いやはや、全くその通り。大分疲れたよ。とまぁ、そっちも大分お疲れのようだがな」

 

 苦笑いで声を返すラナはいささかげんなりとした表情。実際無理もない。軽量級という最も機動性が高く、最も高いGが掛かる機体を操っていたのだから。いくら職業柄、Gに慣れているとは言っても、キツイものはキツイ事に変わりはないだろう。

 

「今日はいつもよりハードでしたからね。理由はよく知らないですけど」

 

 着機したばかりの白い機体――ウラヌスの方に視線を移すと、早速シゲさんの指揮の元、整備員達による作業が始まっていた。

 

「む。……よく知らない?君は理由を知らされてないのか?」

 

 何だか意外そうにラナがこちらに問い掛ける。というか、え?理由知ってるの?

 

「おいおい、俺もそんなもん知らされちゃいねえぞ?」

 

 隣からも自分と同じ感想。自分だけ省られたのではなくてほんの少しの安心を感じるが、同類扱いにほんの少しのがっかり感。

 

「おかしいな?私はテスト直前に知らされていたのだが」

 

 ラナはボトルとヘルメットを抱えながらも不思議そうに首を捻る。内容は少し気になるもののそれはともかく……

 

「その話は飯食いながらにでもしませんか?」

 

 外はもう暗闇んできているし、早く汗も流したい。腹も減ったし、そもそも今日のスケジュールは既に消化済みの筈だ。

 

「ふむ、では話は後でそうしようか。今は汗が煩わしくて堪らんからな」

「俺はどっちでも良いぜ?空腹なのは同意だしな」

 

 ラナ、ジャック、共に同意見。

 

「よし、それじゃシャワーを浴びた後でPXの何時もの場所、ということで」

 

 うし。了承した。それぞれの了解の言葉を聞き、シゲさん達に声を掛けた後、シャワールームへ向かう。全身にべたつく汗が不愉快だ、早く洗い流してしまいたい。

 

 

 

 

 PXアゲイン。

 

 目の前には二つの山がアゲイン。

 

 料理にがっつく二匹の獣もアゲイン。

 

 ……やっぱり今更だけど、二人は良い大人なのにこの食事の態度というのはどうなのだろう。別にマナーやらなんやらを守れとは言わないが、やはり豪快過ぎる。ジャックはともかくラナの方は二人ほど子供がいた気がする、というかいる筈なんだけど。

 

 フォークでパスタを丸めて取り口へと運ぶ。相変わらず美味しい。シゲさん達キサラギの調理スタッフが派遣されてると、聞いたことがあるけどその影響なのだろうか?

 

 がつがつばくばく。

 

 ラナの話が気になるのだが、今は二人ともそのような話を聞ける状況ではないようだ。結局話が聞けるのは食後になりそうだ。デザートのチョコプリンをスプーンで切り取り口へと運ぶ。美味しい。甘すぎず少しビター、それでいて苦過ぎるということはない、ほど好い甘さ。美味しい。食は進めど、話は進まず。

 

 

 

「ぐぇっぷ」

 

 真正面に位置どる筋肉体から奇怪な鳴き声が。

 

「おいジャック、汚いぞ」

 

 筋肉体の横に座るハスキーボイスは優雅に食後の紅茶なんかを楽しんでいる。ラナはジャックより上なのか。胃の容量的に。

 

「へいへい……所でラナ、ハンガーで言ってた話っつうのは一体何なんだ?お前さんだけ知ってたみたいだが?」

 

 少しふて腐れた表情を切り替え、ジャックがラナに尋ねる。そういえば目の前の光景のお陰で忘れてたよ、その主旨を。

 

「ふむ、そうだな。まぁ、別にたいしたことではないんだが……」

 

 ラナは口につけたカップをソーサーに戻し、脚を組み直しながらこちらを見つめ再び語り始める。

 

「今回のというかだな、私達が今こうしてテストに赴いているこの計画の事は知っているだろう?」

 

 それはもちろんだ。

 

 ISに対抗できる兵器の開発計画、プロジェクトファンタズマ。日米仏、キサラギ、クレスト、ミラージュの三社の共同による一大計画。

 

「その通りだ。ちなみにキサラギ側によるネーミングだそうだ。まぁ、それはどうでもいいとして、テスト機体の調子は始めの頃に比べてどうだった?」

「俺は上々だと思うぜ?基本動作、変形機構、どれもトラブルは減ってきてるし、動き自体も滑らかになって来ているしな」

 

 確かに。実際に操縦していると分かるのだが、自分達が機体特性を理解して来ている事以上に、今までテストによって得られたデータから反映させたソフトとハードの調整が大きくその機体の動作に関連してきている。

 

「そう、テストは順調だ。まだシステムが完璧ではないにしても、基本動作等のテストなどはもう完了段階に入っているらしいからな」

 

 それはシゲさんから聞いている。ミラージュからの操作系のパーツの納入が遅れているらしい。だが、それ以外はもう次のテストに入っても良い頃合だろう、と。

 

「それで話の本題なのだが、今日はその完了段階すなわち、実際の商品となるだろう機体のちょっとしたお披露目会だったというわけらしい」

 

 ……お披露目会?

 

「そう、お披露目だ。とはいっともそれを目にする事が出来たのはごく一部だからな。限られた人間に対するデモンストレーションであると言った方が良いか」

 

 そこまで言って、ラナは再びカップを傾け息をつく。

 

「別に俺はいつも通りにするだけだから、お披露目だ、デモだ、とかはどうでもいいんだがよ、整備員達の緊張は半端なかったように見えたぜ?その緊張するほどのお偉いさんってのは一体誰なんだ?」

 

 ジャックも納得のいかない表情を浮かべ、ラナへと問い掛ける。それは自分も同意見だ。共同三社の企業のトップ程度なら整備員達は既に慣れたことだし、緊張することはない。ならばスポンサー関係?それもかなり大きな……。

 

「正解、かなり大きなスポンサーだ。だが、ただ普通のスポンサーじゃあない」

「ただの、それは企業レベルではないってこと?」

「そうだよ、今日のお客様は企業じゃない、国家だ。うちの国防総省(ペンタゴン)に日本の防衛省。どうやら奴らは本格的に動き始めるらしい」

「軍備の拡大ですか?」

「恐らくな。十年以前の軍事的優位性を未だに忘れられないのだろうさ」

 

 十年前までアメリカが持ち合わせていた軍事的優位性。それはISの登場により、消え去ってしまった。戦力的にもさらには対費用効果という点でも大きく優れるIS。

 ISの数が戦争の結果を左右するとまで言われ、それに伴う軍縮運動によって、ISに対し無意味とされた従来兵器はその居場所を追われ、多くの機体、車輌が博物館や航空ショーへの利用など民間に払い下げられ、次々に戦場から退いていった。

 

 ではここで、ISに対抗でき尚且つISと異なり量産ができる存在が現れたらどうなるだろうか。平衡化した軍事バランス、それを一方化し得る存在。

 これに世界の覇者を名乗るアメリカが飛び付かないはずがない。

 

 まぁ、それは置いといて

 

「でもその場合、僕達は軍の管理化に置かれるってことなんですか?」

 

 確かに自分は傭兵ではあるが軍人ではない。軍に入ってガチガチの規律の中で働けというのは個人的には正直御遠慮願いたいものなのだ。

 

「いや、それは今の所は大丈夫だろう。あちらとしても、主流は次世代機のISの開発であるという話だからな。今回としてもスポンサーであるというだけで、モノに為っていたらラッキー程度の感覚だろうさ」

 

 成る程。あくまでもこちらは傍流、邪道というわけか。まぁ、今の世の中で従来兵器に賭け、時代を逆行する僕らにとっては、ピッタリと言えばピッタリかもしれないけれど。

 

「それでジャックさんはどう思い……ます、か?」

 

 この話を始まって以来、珍しく静かにしていた男の方に目を向ければ。

 

「むが?」

 

 いつの間にか追加注文をし、ひたすらに喰いまくっているジャックの姿があった。

 

「むごうごむうが、むんがむがむが!」

 

 発せられる謎の言語。解読は不可能だ。

 

「……話すなら、きちんと飲み込んでからにしろ、子供じゃあるまいし」

 

 ラナも呆れた様子。でもラナも食事のマナーに関しては、説得力ないからな?言っておくけど。

 それはさておきジャックは口の中の料理を飲み込み、ジョッキに残ったアルコールを喉に流し込んだ後に口を開いた。

 

「へ、軍なんて糞ったれだって言ったのさ。もしこの計画が軍に置かれて、軍籍になったりしたら、絶対ぇ俺は辞めてやんぜ?」

 

 はぁ、やっぱり思った通りか。

 ジャックの軍嫌い、それは今に始まった事ではない。

 ここに来る前は軍属であったジャック、彼とて十年前まではそれなり以上の名を持った戦車兵であった。軍に尽くし、戦友を守り、そうして実際に戦場を駆け抜けた猛者だった。

 しかし、ISの登場が彼の運命を大きく変える。不要とされた従来兵器群、それは彼の部隊も例外ではなかった。

 伝えられた部隊の解散命令とスクラップとされると伝えられた愛機、さらには軍備費の削減の為に戦友達の除隊を迫る上官の姿に、彼は自ら除隊志願書と共にその拳を叩きつけた。

 軍への不信。それは命を賭けて尽くしてきたものに裏切られたということを原点としているのだろう。

 

 だがしかし、訳ありなのはジャックだけではない。今こうして目の前でジャックと口論をしているラナだって、元はアメリカ空軍のトップエースだった存在だ。そんな誰もが認める花形が、こうして「陰」を歩んでいる。

 

 邪道。そこを進む者は何かしらの理由という物を抱えている。ジャックしかりラナしかり、シゲさんしかり、クレストやキサラギ、ミラージュでさえも。何かしらの理由と過去があって、今、ここで無理無謀に挑んでいる。

 無理だと呆れる者もいるだろう、馬鹿だと嘲笑う者もいるだろう。だが、それは当然のこと、既に解っていることだ。時代に逆らうとは須らくそういう事なのだから。

 

 それでも、僕らは進んでいく。いくら邪道に見えようとも訳ありの僕らにとってはそれが唯一の正道だから。

 

 そんなシリアスな気分に浸りながら目の前の口論を眺める。既に口論は話題と関係なくただの悪口ゾーンへと到達している。二人を煽り立てるギャラリー。さらにヒートアップしていく同僚、と、あ、殴った。周りではオッズがどうのという話まで聞こえ出した。

 

 とことん最後まで締まらない日常であるが、そんなこんなで忙しかったその日の幕は閉じた。

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