Acxis   作:ユ仲

9 / 38
Chapter1-8

『それでは、戦闘を開始して下さい』

 

 オペレーターの開始の合図と共にブースター点火。流れていく景色。センサーに神経を集中、視線はただただ前方を見据える。

 敵は遠方。今回の相手はターゲットドローンのような無人機とは比べ物にならない存在だ。

 

 開始されて間もない時間、早々と鳴り響くアラーム音。それを聞くとほぼ同時に機体を右へと移動。

 

 ――着弾。

 

 過ぎ去って行った場所、先程まで自身が存在していた場所がその砲撃によって刔り取られる。

 それはこちらを狙う長距離砲撃。

 今回の目標は、こういった開けた戦場において特に恐ろしい存在となる。

 

 機体を直線にではなく、左右への機動を混ぜ滑らせていく。その度に地面を穿つ砲弾。回避運動。同じリズムは付けてはいけない。あくまでも不規則に。相手の予測を裏切るように。

 

 弾道予測。左背部レーダーユニットが、いくつか放たれた砲弾から、その発射元を特定する。

 発射元は全てが別の物。しかし、それはこちらの背後に向けての軌道を示している。

 すなわち、これは移動しながらの砲撃。それもこちらの死角へと回り込むような機動をしながらの物。

 

 得られた予測針路へ向けて旋回。

 オーバードブースト起動。

 

 収束し生み出されるエネルギー。それは機体を前方へ押し出す推進力と化す。

 急加速。放たれる砲撃も遥か背後へ。

 

 高速で流れていく視界。そして右背部。右腕部武装に付随し増設された複合センサーが、移動を続ける目標を遂に捉える。

 

 前方、視界を横切るように移動を続ける車輌の姿。それは機体に備え付けられた砲身をこちらへと向け、絶え間無く砲弾を穿き出し続けている。

 

 オーバードブースト停止。

 

 通常ブーストで機体を移動させ、尚も敵砲撃を回避。

 

 センサーは敵を映し続け、FCSは目標を捉えロックオン。

 右腕部、長距離用ライフル。長大な銃身、そのトリガーを引き絞る。

 炸裂音。共に解き放たれる高速の弾丸。

 

 偏差射撃。移動目標の針路に置くように放たれた銃弾。それは高性能FCSと高精度のライフルにより、必中の精神を持って放たれた物。

 だが命中するかと思われた時、そこに変化が起きた。

 車輌から人型へ、それは劇的な変化だ。目標は変形による速度減速により、こちらの必中として放たれたそれを回避する。

 

 変形、減速。その動作の中で方向転換。その機体の銃口は、真っ直ぐこちらへと向けられる。

 

 ――警告。目標より射出体多数。

 

 それはこちらでも肉眼でも捉えている。誘導弾。ミサイル。いつしかモニターで見たそれが八つ。

 

 オーバードブースト再起動。回避の為に機体を急加速。

 回避の為に、距離を詰める為に、ただただ前方へ。

 

 同時にハードポイントの接続を解き、左腕部にマシンガンを装着。

 左右の武装による迎撃で急激に迫り来るミサイルを迎撃する。異質でアンバランスなダブルトリガー。

 

 四つを撃墜。二つが誘爆。残り二つはその旋回半径からの脱出に成功。背後で行き場を失ったミサイルの爆発音。

 これで誘導弾からの脅威からは抜けた。

 しかし、そこに安堵する暇などはない。

 

 敵機体、両腕、二丁のガトリングと先程まで放って来ていた右肩グレネードによる弾幕の構築を開始。

 圧倒的な火力。その前では中長距離の撃ち合いなどではまず勝ち目がない。

 

 いくらこちらが機動力に優れ、相手の攻撃をかい潜りながら、いくらかの銃弾を当てようとも、それは重厚な装甲に防がれ有効打ともなりはしない。

 そしていずれはこちらの数倍、火線の網にその身を捕らえられ、物言わぬスクラップへと変わり果てる事となるだろう。

 という事は、こちらの勝機はただ一つ。

 

 最接近距離での高速機動戦闘。

 速度を活かして翻弄し、狙いを着けさせないままに撃破する。

 

 オーバードブーストから生み出される推進力、それによる速度を維持したまま、その弾幕という網の中へと飛び込んでいく。

 ガトリング砲とグレネード。恐ろしいのはグレネードの直撃と、ガトリング砲の連続被弾。それにさえ気をつければ、いくらかの被弾はしょうがないにしても、何とかこの網を抜けられるはずだ。

 

 火線の中、ふと見つけたその弾幕の穴。

 敵左側面。そこだけその火線が手薄になっている。それは明らかな隙だ。これを狙わない手はない。

 左右に機体を振る敵に的を絞らせない機動から、狙いを定め、そこを目指す。

 

 実感出来る程に薄い弾幕。これならば行けるという油断から生じた甘い判断。

 

 結論から言えばそれは敵の構じた罠だった。

 

 急速に縮まっていく彼我の距離。両腕、ダブルトリガーによって牽制しながらも左腕部ブレードを起動。前腕に備え付けられたシールド兼任のブレードユニットから、左腕部の手甲にその実体剣が移動する。それは敵をいつでも切り崩し、刺し貫く事のできる状態への移行。

 

 そして、最接近し切り掛かろうとした瞬間、機体のアラーム音より早く、第六感が危機を伝える。

 スローモーションになる景色の中、そこにはこちらへ向けられる、今まで折り畳まれ沈黙していた左肩部の敵主砲の姿。

 

 緊急回避。一瞬遅れ響くアラーム音。機体を抜ける激しい振動。右腕反応喪失。右腕被弾、大破と損失の文字が画面に踊る。

 

 敵主砲、大型レールカノン。それによってたった一撃で右腕を持って行かれた。

 

 油断。支払った代償は大きい。

 だが、それを悔いるのは後で良い。

 

 相手にも今本当の隙が生まれている。

 必殺の策で仕留め切れず、その事実への驚きによる意識の切り替えのミス。それによって反応に遅れが生じている。

 

 ならば、この瞬間を今度こそ。

 

 機体を襲った激しい衝撃により、自動停止したオーバードブーストを再点火。

 それから一瞬遅れて再加速。

 

 ようやく敵はこちらの動きに気付き、弾幕を再構築させる。しかし、こちらの狙いはそこにあった。

 狙うのはコア本体ではなく敵の武装。右肩部グレネード。

 弾幕構築からの一瞬の発射ラグ。そこを狙う。

 

 ガトリング砲の弾幕を横切りながら、左腕マシンガンを敵のグレネードカノンへと乱射。それは砲撃体勢に入り、こちらへ狙いを着けていたグレネードに直撃。

 

 砲弾の爆発。続いて誘爆。

 衝撃によって硬直する敵機体。

 こちらの眼前には敵機体の右腕損失を示す文字。これで立場は同じになった。

 

 しかし、こちらはさらに畳み掛ける。

 左腕マシンガンを放棄。機体を少しでも軽く、残るブレードに全てを託す。

 

 硬直から復活した敵機体が弾幕を慌てたように再構成。しかし、右腕を失ったその弾幕では穴が大きすぎる。

 何より、あちらの機動性能ではこちらの動きには着いてはこれない。

 

 敵の死角、右腕部方向から回り込むように接近。ここではリニアカノンも左腕部のガトリングも届きはしない。

 

 接近。最接近距離へ到達。

 そして、敵コア部を狙ってブレードを振るう。

 

 

 

『三番機沈黙。これで今回のテストを終了します。一番機帰投して下さい』

 

 テスト終了を告げるオペレーターの声。目の前では、データ上ではナマス斬りにしてあげたガイアが、もぞもぞとようやく動き出す姿。

 

『くっそー、俺の負けかよ……』

 

 映し出されるのは悔しさに歪むジャックの表情。

 

「……今回はかなり危なかったですけどね」

 

 ハンガーヘと一歩を踏み出しながら、ジャックに応える。

 これでジャックとの戦績は五勝二敗一分。その差を再び突き放した。

 

『うぉ、これで俺の秘蔵っ子達の帰還がまた先に……!!』

 

 そう、この実機戦闘訓練に入ってから、いつしかの賭けの続きを再開したのだ。とは言っても、あちらには既にベットがないので、借りが増えている現状だけど。

 

『負けねぇ、次からは絶対負けねぇからなっ!』

 

 ジャックはそう言い残し、戦車形態で一足先にハンガーへと向かう。

 やれやれ、ジャックは行動が本当に子供みたいだ。まるで、前のあれが幻だったみたいに。

 

「さて、まぁ僕も行きますか」

 

 一息着いて、ジャックを追い掛けるようにハンガーへ。

 

 実機戦闘。テストもいよいよ終盤。機体の正式発表までもう少し、そのような雰囲気を空気と機体から感じ取っていた。

 

 

 

 

 

「お疲れ様」

「よっと、ありがとう」

 

 ハンガーに到着し、機体から降機すると、シャルからドリンクとタオルを手渡される。

 

「それにしても、今回は危なかったね?画面で見てて、凄いドキドキしちゃったよ」

「……そっちはワクワクの方も混ざってそうだけど、こっちは危機感的にドキドキだったよ」

 

 会話と返答。

 あははは、とはシャルの笑い声。

 ベンチに腰掛け、タオルで汗を拭い、ドリンクを飲みながら、何でもないような会話を続けていく。

 この前まで、あれだけ険悪だった(険悪とは言っても、ただの喧嘩に過ぎないが)シャルとの仲も良好そのもの。むしろ仲直りをしてからは、友情が深まった感じさえする。

 

 ちなみにシャルロットをシャルと呼んでるのは、シャルルとシャルロットで共通してるから呼びやすい、といった理由からである。

 時折、シャルをシャルルと呼んでしまう時もあって、その時は怒りのような、悲しみのような、呆れのような何とも言えない表情をこちらに向けてくる。

 そうなると機嫌を執るのが何かと大変だ。

 

 とりあえず、それはともかく。

 

「何だかいよいよって感じだね」

「確かに、そんな感じだね」

 

 感慨深い物があるのか、少ししんみりとした表情。

 それは機体の完成が別れを告げる……という事からではなく、単なる今までの感傷に近い物があるのだろう。

 

 実はシャルの進退については決着がついた。

 結局の所、シゲさんがミラージュ社を通した交渉でデュノア社にシャルのこちらへの帯同を認めさせる事に成功したのだ。

 シゲさんによると「第三世代型ISに関する質問に、ほんと適当に答えたらさ、なんか認めてもらっちゃったよ?」という事らしい。

 それを聞いてシャルは嬉しさのような心配が肩透かしになったような、そんな表情で喜んでいた。

 

 む、また話がずれた。話を戻そう。

 

 

「整備班の皆もどこかぴりぴりしてるね」

「まぁ、ね」

 

 ハンガー内での緊張感。それは今まであった物とは全くの別の物。

 

「やっぱり、アレのせいなのかな」

「そうだろうなぁ」

「うーん、男性適性者かぁ」

 

 IS男性適合者。彼、オリムライチカの発見によって世界は湧いた。

 それは女尊男卑の現代社会に投げ掛ける一つの問として。現状をよしとしない人々の新たなる希望として。純粋な研究欲からなる貴重なサンプルケースとして。

 彼を中心とは言わないまでも、彼は世界に新たな波を引き起こさせる存在になってしまったのだろう。でもそれは……。

 

「大変だろうなぁ」

「え?」

「いや、彼。例のオリムライチカの事」

 

 会った事も話した事もないが、それは本当に大変だって事は分かる。

 

「そうだね。うん、確かにそうかもね」

 

 だってそれは、多くの関係者が押し寄せる事になるだろう。報道もされてしまった以上、物珍しさから一般人まで殺到するかもしれない。たしかそれを日本では……。

 

「……ミセモノ、ミセモノ?うーん、何だったか?」

「いきなりどうしたの?」

 

 シャルはこちらを心配そうな視線で見つめてくる。いや待てそんな視線で見つめられるのは、精神的に痛い。

 

「いや、さ。日本語で例のオリムライチカを表すのに調度良い言葉があったはずなんだけど、思い出せなくて」

「ミセモノ何とかって言うやつ?」

「うん、ミセモノまでは覚えてたんだけど……」

 

 ミセモノ、ミセモノパ何とかだ、確か。ミセモノパーティー?ミセモノパンフレット?何か違う。ん?ミセモノパン何とかだ、ミセモノ……。

 

「坊主、それは見世物パンツだ!!」

 

 いきなり、大声でがはは、と笑いながら登場した筋肉達磨。いやでもそれは。

 

「死ね」

 

 続いて放たれた声と共に、ジャックのこめかみにその長い足がめり込む。

 げふぅ、と床を滑っていき登場とほぼ同時に退場していくジャックの姿、上手く体重が乗せられた回し蹴りを放ったラナは何でもないように着地。

 隣のシャルを見てみれば「……セクハラだよ」と呟いて、赤くなって俯いている。

 

「うむ。正しくは『客寄せパンダ』または『人寄せパンダ』だな。日本の動物園にジャイアントパンダが初めて来た時、その珍しさと愛くるしい姿を目当てとして多くの客が訪れた事からできた言葉だ」

 

 何とも博識に、こちらへと教えてくれるラナ。

 シャルも気を持ち直して「パンダ可愛いですよね~」ふにゃりとした笑顔を見せている。

 

 でもしかし、一つわからない事がある。

 

「パンダって何?」

 

 口に出した瞬間に固まる空気。二人ともこちらを見据え、まるで幽霊を見たような、信じられない表情をしている。

 

「いや、動物園って言ってるから、何かの動物だって事は分かるけど……」

 

 パンダ、何か強そうな雰囲気かもしれない。パンダ、パンダー?パンサー。成る程、どことなく大型の肉食動物系の響きがする。

 

「え、と。多分だけど、今考えているものとは全然違うと思うよ」

 

 そうなのか。

 

「いや、だが一概にも間違いとは言えん。あれから、白と黒どちらをとっても、カラーリング的には肉食のそれと変わらんからな」

 

 へぇ、そうなのか。

 うーん、と考え込む三人。

 

「まぁ、それはともかくだ。是非行ってみると良い。東京上野の動物園には今もいるらしいからな」

「はい!」

 

 気を取り直して話すラナと目を輝かせて返事を返すシャル。

 シャルはそんなにパンダとやらが見たいのか?

 いやそれにしても。

 

「何で日本の東京なんですか?」

 

 放った言葉に、しまった、という表情を一瞬浮かべるラナ。しかし、それを引っ込めると、何でもなかったかのように口を開く。

 

「あくまでも一例に過ぎんさ。上野の動物園は有名だからな。……あと、まぁ、早くシャワーでも浴びてこい。こちらも空腹でな、早く食事と行こうじゃないか」

 

 何かごまかされたような気はするが、事実は事実、か。こちらとしても、腹は減って来ているし、シャワーも浴びたい。

 

「まぁ、そうですね。……それじゃあシャル、ラナさん。僕はさっさと汗を洗い流してきます」

「うん、また後でね」

「急げとは言わないが、早目にな」

「ええ、そんじゃ後で」

 

 そうして、シャワーを浴びに心持ち早足で歩いていく。

 にしてもだ……さっきのは気のせいだったのだろうか?

 

 その後はいつものように食事を摂って、いつものように話し、いつものように別れ、いつものように寝た。

 

 

 

 

 

 そして、翌日。

 急遽集められたテストパイロットを含む全スタッフ。

 それがハンガーに集められ、基地の司令官の言葉を待っている。

 やがて、計画の責任者でもある司令官が目の前の檀上に上がり、一文字に閉ざされていた口を開いた。

 

「まずは本計画に関わった全スタッフに感謝の意を述べさせてもらいたい」

 

 やはり、おかしい。こんな集会は元より、この司令官がそんな事を言い出すなんて。

 

「本題に入るが、我々はこの後、機体の正式発表を控えている事は理解していると思う」

 

 それは確かにそうだ。開発も終盤といっていい段階なのだから。

 

「そして、今回、その発表だが、協同三社の間で詳しい内容が決定された」

 

 遂に、発表か。初めて聞く話だけど最近決まったって事なのかな?

 

「……発表は、三社において行う。クレスト、キサラギ、ミラージュ。つまりはアメリカ、日本、フランスの三ヶ国でだ」

 

 ……日本?昨日ラナの言っていたそれってもしかして……?

 

「よって諸君らにはそれぞれに別れて飛んでもらう!詳しい情報は追って通達する、一層に気合いを入れて今日の業務に臨んでくれ。……私の話は以上だ」

 

 話が終わると同時に、解散が言い渡される。

 

「日本もだってさ」

 

 そうしてその言葉と同時に、整備班を含めた各基地スタッフが各所へ散らばっていく中、早速、こちらに話し掛けてきたシャル。

 

「もしかしたらラナさんはこの事を知っていたのかもよ?」

 

 確かにそうみたいだね。

 

「私は日本は初めてだけど、そっちはどう?」

 

 僕も日本は初めてだよ、シャル。

 

「……あ、そっか、ごめん」

 

 いや、何で謝るのさ?

 でも思う事が一つあるよ。

 

「ん?何?」

 

 純粋に疑問に思ったのか、首を傾けるシャル。

 シャルはあまり感じてはいないようだったが、僕は直感的に感じて取っていた。

 

 僕らの行う代替兵器の開発。

 イレギュラーであるオリムライチカの存在。

 そして、今の現代を造り上げた元凶の生まれた地、日本。

 

 それを考えた後にシャルへと答える。

 

「何となく、何となくだけど感じるんだよ。大変な事になりそうな予感がさ」

 

 ……本当に、これから大変な事になりそうだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。