ばしゃめがつっちーの散歩に出かけ、のこたん先輩が日向ぼっこしていた日のこと……。
「おいこらりょう! おめーか! 私の本棚にこんな本仕込んだのは!」
「入れたのはあんこです」
「入れ知恵したのはりゅうこでしょ」
「あらやだ上手い」
「やかましいわ!」
期末テストで一位を取れなくて落ち込んでいたお姉様だったけど、元気出たみたいだわ。二位でも凄いのにショックを受けちゃうなんて真面目なお姉様。そんなところも素敵です。
「おめーがそういう趣味をしてるのはいいけど! 他の人にそういうの押し付けるのはなあ……!」
「すみません。興味がないなら読まなければいい話かなって……」
「ま、まあ。そうかもしれねえけど……なんだ、その……」
「ちなみに続きがあるのですが……いります?」
「い、いらねえよ!? ほら、返すから……」
計画通り……! 素直じゃないお姉様。こそこそ読んでいたことはあんこから筒抜けなのに。仕方ないわね。またこっそり仕込んでおきます。そして段々と抜け出せなくなって……うへへ♡
「ふっ……かかったわねりゅうこ!」
「なぬっ!?」
「おねえちゃあん。しゅきぴ♡」
「なっ! お、おいあんこ……」
「ちょ、ちょっと抜け駆けは協定違反よ!」
「ふふふ……。どちらかが止めようとすればね。あなたは精々私達の姉妹百合にもだえていればいいわ!」
「くっ! なんという卑劣なっ……!」
「めちゃくちゃいい笑顔」
「『私以外の誰にも目を奪われて欲しくないの。私だけを見て』」
かぁー! 漫画のセリフを同級生が読んでくれるの興奮しちゃうでしょ! あんこも読んでくれたんだ? お姉様を誘惑するため? 実は興味があった? 妄想が捗る……!
「あ、やば。よだれが……」
「さっきから鼻血が垂れ流されてるのに今更?? あんこもふざけてないで」
「あら。嘘じゃないわよ?」
「えっ……」
まずい……! 一気に決めるつもりね! 普段は無邪気なばしゃめがいるから抑えてる節があったのに……! と、止めなきゃ……止める? 私にあんこの気持ちを止めることなんて……許されるんだろうか。
「ヌンッ……!」
「し、鹿乃子ぉ……! 助けに来てくれたのか!」
「こしたん……いつまで甘えてるんだ!!」
「ええ!?」
「こしあんもそうだし、りょうも何度も想いを伝えているだろう! そろそろ逃げずに答えを出すべきなんじゃないのか!」
「た……確かにそうかもしれ——」
「ま、待ってください」
「りょう?」
「私はまだ……いいんです。その……ほら。お姉様と一番のカップリングが誰か見定められてないですし……」
のこたん先輩が私達の気持ちを汲んで打診してくれたのは素直に嬉しい。でも……私もあんこと同じ。私だけを見て欲しい、どちらかを選んで欲しいと思ってしまっている。どんな結論を出すにせよ、今まで通りではいられなくなる。入部してから三ヶ月が流れて、この部の居心地が良くなりすぎてしまった。お姉様以外と過ごす時間も……大事にしたくなってしまったの。
「……ありがとうのこたん。私も、調子に乗りすぎたわ」
「ヌン……そっか。二人が言うなら」
のこたん先輩が劇画調じゃなくなると、ちょうどばしゃめが帰ってきたわ。
「あれ? つっちーは?」
「津田山ならねこちゃんに取られちゃいました。そんなことより」
「散歩しにいったペットにそんなことってことはなくない?」
「じゃーん! 日野夏祭りのチラシを貰ってきました! みんなで行きましょう!」
ばしゃめが取り出したのはかき氷に焼きそばにわたあめといかにも夏祭りの屋台を彷彿とさせるチラシ。よだれの量では私の負けね。
「ふふっ、いいじゃない! 行く行く!」
「お姉ちゃんの浴衣姿……♡」
「どうするこしたん? 私はもちろん賛成!」
「……そうだな。行くか! テスト期間が部活休みだったし、後はすぐ夏休みに入っちまうからな。思い出の一つ作っておいてもバチは当たんねえだろ」
「やったー! シカせんべい持ってこよー」
「あんまり夏祭りに持っていかないけどな? いや普段持っていくこともないんだけれども」
こうしてプライベートでのお出掛けが決定し、私はウキウキしていた。お姉様と出掛けられるのももちろん嬉しいし、みんなと一緒に楽しめるというのが心を湧き上がらせていた。
「帰ったら浴衣のサイズ確認しなきゃ。それから……。……!」
「ねえ、のこたん」
「なーに?」
舞い上がっていて部室に忘れ物をしてしまった。何の気なしに戻ろうとしたら、あんことのこたん先輩が話しているのが聞こえる。ううん……いいか、さっさと入って取らせてもらおう。
「おじゃ——」
「前にお姉ちゃんに相応しいのはあなただって言った時。そんなことないって言ってくれたわよね」
「うん」
「今日、答えが出た気がするわ」
「……そっか」
……入れなかった。すぐに身を翻して部室を離れた。あんこの本当の気持ち……そればかりは盗み聞きする気にはなれなかった。それでも、聞こえてしまった部分は頭から離れてくれなかった。答えが出た……? 私はまだ、何も出せていない。あんこが迫っているのに止めることができなかった私に見切りをつけたのだろうか? 結局何の答えも見つけられないまま……夏祭り当日を迎えることになった。