「よし、ぜーんぶあたしに任せなさい」
ゼイユちゃんはなにやら、わるだくみをしたキュウコンみたいだった。
綺麗なのに、なんかヤバいことをやらかしてやろうという気概が溢れ返っている。
部屋の中央に椅子がどどんと置いてあって、ゼイユちゃんに引き摺られるような形で座らされた。
「危ないから、目しっかり閉じておきなさいよ」
考える隙も与えられないまま、私はあっという間にいろいろともみくちゃにされて、ゼイユちゃんはスグリくんを部屋から急に追い出したり、かと思えば呼びつけたり、やっぱり追い出したりしながら動き回っていた。
「よし、完璧。さすがあたしって感じだと思わない?」
ゼイユちゃんが鏡を持ってきて私に見せてくれた。
「わぁ......!すごい......!」
お化粧して髪を結ってもらえてる!
服もじんべぇに着替えてある!
「あたしと同じくらいかわいくなったと思わない?」
すごい!じんべぇって下は普通のズボンみたいな形だったと思ったんだけど、どうやって座ったままの私に履かせたのかな!?
私、初めてお化粧した!なんかすごく.....イケてる気がする!
髪も、乙女ゲーの悪役令嬢みたいで、すっごくかわいくってよ!おほほ!
「ありがとう!ゼイユちゃん!とーっても嬉しい!」
思わず抱きついちゃった。
「まぁ......あたし隣を歩くならそれなりに綺麗にしといてもらわないと、あたしが困るのよね」
「そっか、そうだよね!さっきは先に行かせちゃってごめんね。これならゼイユちゃんと手繋いで歩いても大丈夫かな!?」
ゼイユちゃんは何も言わない。えーと。
......私、なんか変なこと言ったんだろな。
しょんぼりしながらゼイユちゃんから離れたら、ゼイユちゃんは下を向いてぷるぷる震えてた。えっと、なんか......ごめんなさい。
ゼイユちゃんは、下を向いたままスグリくんを呼んだ。
「スグ、入りたかったらもう入っていいわよ」
ゼイユちゃんがそう言うとすぐ「レイラさん、入るべ」と小さく言ってスグリくんが入ってきた。
「わぁ!レイラさん、本当に『てらすさま』って感じで、わや めんこいべ!」
えへへ、ありがとう。でも、このじんべぇはあんまりにもギンギラギンでテッカテカじゃないかな?
アローラ的な文化と比較してしまって申し訳ないけど、ちょっと華美すぎというか、豪華絢爛すぎるというか......
ド派手すぎるのではないかなって思うんだ。本当にこういうのでだいじょぶそ?
でも、とにかくすっごく嬉しい。
「あれ?鬼さま推しなのに、てらすさまに推し変するのー?」
ゼイユちゃんは意地悪な笑い方でスグリくんに問いかけた。
「なっ......!鬼さまは、関係ない!」
「あっごめーん。今はアオイ推しだったわね」
スグリくんは突然、色違いスグリくんになった。それぐらい顔が真っ赤だった
「うわーっ!!!ねーちゃんのバカ!バーカバーカ!バッカバカのバカバカー!」
スグリくんは、本当にぽてっぽてっと音が鳴ってるみたいに逃げ出した!
アオイ?もしかして、スグリくんの好きな女の子のことかな。あとで聞いてみよっと。
ゼイユちゃんは自分でやっちまったのに、特にスグリくんに何を言うでもするでもなく、すごく寂しそうだった。
「......さて、スグも追い出したし、あたしも着替えるかな」
ゼイユちゃんのじんべぇは、月や星が明るい日の夜のアローラの海みたいな感じの、深くて鮮やかな、本当に綺麗な藍色だった。ゼイユちゃん、とっても似合ってる。
うん。やっぱりそうだ。
じんべぇって、やっぱりそういう感じのものだよね?
スグリくんも白いじんべぇに着替えてた。うん。知ってる。そういう感じだよね。
近くを散策しながらゼイユちゃんとスグリくんからキタカミの話をたくさん聞いた。
キタカミの伝承は、大昔に悪い『鬼さま』を退治してくれた、3匹組のポケモン『ともっこ』のお話だった。
ある日突然、恐ろしい鬼さまが修羅のように怒り、里で暴れ始めた。ともっこは暴れる鬼さまから里を守るため必死でバトルしたけど、ギリギリのところで鬼さまに逃げられてしまったし、ともっこはみんなしんじゃったみたい。
鬼はとても恐ろしい存在だと言うことで鬼さまが里に来られないように徹底的に対策し、ともっこたちを英雄として代々祀っていた。
でも実は、悪いのはともっこだった。
鬼さまが大切にしていた4つのお面のうち、3つのお面を奪い、大切な人の命まで奪ってしまった。
鬼さまがいちばんお気に入りだった『みどりのめん』だけは言葉通り死守して、大切な人はしんでしまった。
お面よりも、鬼さまがいちばん大切だったのは、その人だったはずなのに。
悲しいお話だ。涙が溢れた。
「ちょっと、お化粧が落ちちゃうでしょ!最後まで話聞きなさいよ!」
ゼイユちゃん、ごめんなさい。
鬼さまはずっとひとりぼっちで山に閉じこもって、どうしても寂しくなったとき、ほんの少しの間だけ、こっそり人知れず大切な人との思い出の場所である里に何度も足を運んでいた。
パルデアから来たアオイちゃんって女の子がそんな鬼さまを見つけて、本当の事を知ったゼイユちゃんとアオイちゃんで復活したともっこを退治......というか、アオイちゃんが手懐けてゲットして。
里のみんなの鬼さまへの誤解はスグリくんが働きかけて解いてくれて、鬼さまは里にも降りられるようになって、仲良くなったアオイちゃんと旅に出ましたとさ。めでたしめでたし......!
「ふたりともすごい!ヒーローじゃん!アオイちゃんって子もすごいね!!!」
ゼイユちゃんは「フフン」と鼻で笑った。ドヤ顔もかわいいな。
「おれは......全然すごくない。ともっこ退治は、アオイとねーちゃんだけでやったし。それに、おれ、勝手にいじけて、鬼さまに何もしてあげられなくて......」
対照的に、スグリくんくんは明らかにしょんぼりして地面の石を蹴飛ばしてる。いや、私からすると、人知れず頑張れるスグリくんも真のヒーローだ。
「うーん。里の人の誤解が解けなかったら鬼さまは怖くて里に降りられないままだっただろうし、そしたらせっかく仲良くなったゼイユちゃんたちとも離れて、またひとりぼっちで山に帰っちゃったんじゃない?」
スグリくんは、足を止めて私をじーっと見た。
「確かに、鬼さまの大切なお面を取り返して大切な人の仇を打ったのはゼイユちゃんたちだけど、鬼さまが新しい大切な人と一緒にいられるようになったのはスグリくんのおかげだよね」
スグリくんはちょっと目が潤んでる。私、何か間違えてないよな?
「私の住んでる地方にも島を守ってくれる神様たちがいるんだけど、もし誰かが『島の神様たちが本当は悪者でした!』なんて言い出しても、全っ然、これっぽっちも.....バチュルのうんちぽっちも信じないし、なんならシバくよ」
冗談も混じえたつもりだったけど、多分目は笑ってなかったと思う。アローラの神様たちにそんなこと言ったら、そんな不届き者はハラキリぽっきり、それっきりだ。
「でも、里の人が信じてくれたのはスグリくんがこれまで正直にまっすぐ生きてきたからだろうし、本当は里の人たちもなんとなく、何か違和感があったんじゃないかな」
アローラの人たちは心から神様たちを崇め祀り、絶対的な存在として畏怖の念を抱いてもいる。
「アローラの神様たちはいいことばかりしてくれるわけじゃないんだ。なんなら私の住んでるメレメレ島の土地神様のカプ・コケコ様は、子供っぽくてイタズラっ子で、ちょっと怒りっぽいんだよね。でもそんな神様だから、私たちと同じで心からアローラが好きだから守ってくれてるんだって信じることができるんだ」
アローラの風とキタカミの風は、全然違う。
でも、ゼイユちゃんもスグリくんも里の人たちもみんな、ずっと仲良しのアローラの人たちと同じように優しく仲良く接してくれる。人の心ってのは根本は一緒だと思う。
「きっと里の人たちは、なんで鬼さまはあんなに怒ってたんだろう?なんでともっこはいのちがけで里を守ってくれたんだろう?って、どこかモヤモヤしてた。スグリくんも疑問に思わなかった?」
ゼイユちゃんが「そうそう!それよそれ!」と言って嬉しそうに話に入ってきてくれた。
ごめん。3人でいる時に自分以外の2人が盛り上がってるとしんどいよね。
「そうなのよ!あたしは最初っからともっこってなーんかおかしいなって思ってたから、一度も『ともっこさま』なんて呼んだことないんだから!」
「おれはただ......。だれも応援してくれなくても、複数の相手にひとりで立ち向かった鬼さまの方がかっこいいなって。おれもこんなふうになりたいなって、ただ、そんだけ」
なるほど。スグリくんはきっと訓練したらすごいオタクになるな。
「里のほとんどの人たちが『少し引っかかるけど今までもそういうもんだったし、みんな信じてるし、仕方ないか』ってモヤモヤしてた気持ちに、スグリくんはひとりで立ち向かったんだよね?」
スグリくんは元々まるくてかわいい目をさらにまんまるにしてぽかんとしている。
そんなことで、オタク特有の早口はもう止まらないぞ。
「それで鬼さまに対する誤解を解いて、里の人たちの心も救ったなんて、真のヒーローだよ!それってすごいかっこいいよ!そうそう、さっき私のパパが権力を振りかざしてきたから、しばらくしたら鬼さま像を建てる計画が始まると思うんだよね!」
ゼイユちゃんは「まじ!?やったー!!」と飛び跳ねてるけど、こっちではまんまるでキラキラした目が、全然動かずに私を見ている。
「もう少しパパに頑張ってもらって『里のヒーロー スグリ&ゼイユ像』も建ててもらおうよ!あ!アオイちゃんって子もいた方がいいよね!?」
「アハハ!てらす、あんた天才じゃない!?」
ゼイユちゃん背中叩くのやめてー。結構痛いよー。
「おれ......そっか......。そうだったんだ......。レイラさん、ありがとう。でも、おれとねーちゃんの像は、いらね」
スグリくんはまんまるの目がどっか飛んで行ったのかと思うくらい目を細めて「にへへ」と笑った。
「そっか。じゃあアオイちゃんの像だけでいい?」
「ぶっ......!アハハ!もー!てらす、あんた最高ね!スグ、よかったわね!」
割と真剣に聞いたんだけどなんかウケた。やったぜ。
「わーっ!もーーっ!ねーちゃんのバカーー!レイラさんまで、そんなぁー」
思いっきり笑った。ゼイユちゃんもスグリくんも、お腹を抱えて笑ってる。
空の色が少しだけ変わり始めてて、地平線が太陽を受け入れる準備をしているみたいだった。