「さーて、お祭が始まるまで、まだ時間あるわね」
ゼイユちゃんは準備運動みたいな......なんかキビキビした動きをしている。
「どう?時間までポケモンバトルしない?」
ポケモンバトルか、よし。負けないぞ。
「あ......でも私、ポケモン3匹しか持ってないの」
「じゃあ3対3でバトルね!」
「あ......うん!ありがとう!」
ゼイユちゃんはボールを投げ.....るふりをして「いけ!スグリ!」と言ってスグリくんの背中を押した。
「えぇ、お、おれがー?」
「いいじゃん、ブルベリーグのチャンピオンの実力、見せてやんな!」
え、チャンピオン!?すご!スグリくん、ポケモンバトル強いんだ!
「元、チャンピオンだべ......。よし、3対3なら、このポケモンっこにしようかな。レイラさん、せっかくだし、やろっか」
スグリくんは、にへへ、と言いそうな笑顔から、急に真剣な顔になった。
ちょっとなんか......。普通にかっこいい。
別人みたいだ。これがチャンピオンの気迫なのかな。
「う、うん!」
それでも、私は負けられないんだ。
「いくよ!ミミッキュ!がんばろうね!」
気合いが入り過ぎて、つい忍ポケの投球フォームみたいになってしまった。
「いくべ!オーロンゲ!」
スグリくんはオーロンゲか。変化わざを出すのが早いポケモンだ。
「オーロンゲ、リフレクター!」
「ミミッキュ、つるぎのまい!」
リフレクターを張られちゃったけど、オーロンゲが攻撃しようとしてくるなら、ミミッキュの方が早い。つるぎのまいをしておけば、リフレクターがあってもオーロンゲの弱点をつけば一撃のはずだ。
「ミミッキュ、いけるよ!じゃれつく!」
「ふいうち!」
ミミッキュはオーロンゲを倒してくれたけど、ふいうちでばけのかわが剥がされてしまった。やっぱり、一筋縄ではいかないか......。
「オーロンゲ、よくやったべ。ガオガエン、けっぱれ!」
ガオガエンにいかくされて、ミミッキュはちょっとおびえた様子だ。
「大丈夫だよ!ドレインパンチ!」
「ガオガエン、はたきおとす!」
思ったよりダメージを与えられず、ミミッキュの方は持たせていたフィラのみを落として大ダメージを受けてしまった。でも、耐えてくれた!
「ミミッキュ、もう1回ドレインパンチ!」
「ガオガエン、フレアドライブじゃ!」
ミミッキュがやられてしまった。ガオガエンはオボンのみを食べて、まだ余裕がありそうだ。
オーロンゲのリフレクターが効いてる。強い......!
「すごいよ、ミミッキュ。シャンデラ、お願いね!」
シャンデラもフクスローもガオガエンに対して有効打はない。それなら......!
「シャンデラ、押し込むよ!最大火力でオーバーヒート!」
シャンデラはすごい火力を出して少し疲れてしまった様子だけど、まだ余裕を見せていたガオガエンを、なんとか倒してくれた。
「わやじゃ!すごい火力だべ......!でも......カミツオロチなら......!」
「シャンデラ、1回戻って休んでて!フクスロー、お願い!」
「カミツオロチ、きまぐレーザー!」
「ロォー!!」
交代した隙をつかれて、フクスローはすぐやられてしまった。
「うぅ。ごめんねフクスロー。でも......シャンデラ、もう行けるね!」
シャンデラはメラメラ燃えている。
「決めるよ!オーバーヒート!」
「きまぐレーザーじゃー!」
すごい爆風のあと、立っていたのは......。
シャンデラだった。
「わやじゃ!まけた.....」
「てらす、スグに勝つなんて、なかなかやるじゃない!」
「うん、ありがと」
「なによ!あたしの弟に勝ったんだから、もっと嬉しそうにしなさいよ!」
ゼイユちゃんは拳を震わせてわなわなしてる。
「いや!うん、うん!うれしー!......でも、私はバトルが得意なシャンデラとミミッキュに頼ってばっかりで、フクスローには上手く指示出せてないの、わかってるんだ」
私は、最近なんだかフクスローとうまくいってない。
ケンカした訳じゃないけど、オタ活の時以外は少しギクシャクしている。
フクスローはレベルをあげてもなかなか進化してくれない。
私の育て方がいけないのかなって悩んでるのを見て、フクスローもすごく申し訳なさそうにしてて、気まずい空気になってしまう。
それに、今回スグリくんが選んだポケモンに対して、私のポケモンがたまたま相性がよかっただけだ。
「スグリくんは、他にどんなポケモン育ててるの?」
「あ、えと、ニョロトノとカイリューとポリゴンZ。ボックスにはグライオンとかニョロボンとかメガヤンマとか、オオタチとか......他にもたくさん」
「すごい!私、2年と少しトレーナーやってて、3匹しか育ててないからさ。これが正真正銘本気のフルパーティ。スグリくんが本気のフルパーティ連れて来たらまったく歯が立たないよ」
スグリくんは本当にすごい。手持ちのバランスもいいし、指示も的確だし、ポケモンたちみんな、スグリくんを心から信頼してるのがバトルからも伝わってくる。
それに比べて私は、フクスローをうまく育ててあげられていない。進化できない理由もわからないままだ。
「今でもバランスよく育てられないのに、たくさん育てようとしたら、スグリくんみたいにみんなを強く育てるのは難しいよ.....」
スグリくんが「そんなことないべ......」と言うのに被せてゼイユちゃんが「はぁーー!?」と声をあげて私の前に立った。顔が近い。顔が良い......!
「キタカミの『てらすさま』のくせに、なーに言っちゃってんのよ!ちゃんと6匹ポケモンゲットして育ててみてから言いなさいよ。キタカミのポケモンはあたしと一緒で、元から強いしかわいいわよ」
ゼイユちゃんの言う通りだ。
私は強くなりたいとか言っておいて、海に落っこちたあの日から、野生のポケモンをゲットするのが怖くなってしまった弱虫だ。
ゼイユちゃんはボールからポケモンを出した。「ちゃぁ!」とかわいく鳴きながらヤバソチャが飛び出してきた。
ヤバソチャ、初めて本物を見た!写真で見るより何倍もかわいい!
ヤバソチャは嬉しそうに私の周りをぐるぐる回って、小さな何かを手渡してくれた。
「わぁ、ありがとう。なんだろ、お菓子?」
ほんのり甘い香りがする。
「ヤバソチャの『おもてなし』よ。あたしのヤバソチャのお茶菓子、とっても美味しいんだから!」
「わぁ!ヤバソチャ、ありがとう!ゼイユちゃんもありがと!いただきます!」
濃厚なグリーンティーをたっぷりのミルクで溶かしたみたいな、ほろ苦くて優しい甘さの焼き菓子だ!
「......!ふごくおいひぃ......!」
私の表情を見て、ヤバソチャは嬉しそうにゼイユちゃんにハイタッチした。
ヤバソチャ、かわいすぎる......!ゼイユちゃんの美しさとのツインビーム......!
待って、無理。あまりにも尊い。
「ねーちゃん、そろそろお祭向かわねーと......。レイラさんのおとーちゃんも、お祭誘うでしょ?」
もう太陽は地平線に触りそうだ。
「それに、1回帰らねーと。お面、持ってきてない」
「やば!ちょっとスグ!それ早く言いなさいよ!もう、行くわよ!」
ゼイユちゃんは私の腕を掴んで走り出した。ちょっと思ってたんと違うけど、手繋いでくれた。嬉しい。
ゼイユちゃんの手はちょっとだけひんやりしたけど、私の体温が溶けてすぐ温かくなった。
「ねーちゃん、まってー!」
スグリくんはすぐ追いついてきた。本気出すと意外と走るの早くない?
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「さぁ、てらす。好きなの選んでいいわよ」
ゼイユちゃんは鬼さまのお面を3つ持ってきた。キラキラのホログラム加工がしてある!どれもかわいい!迷っちゃう。
「ねーちゃん『いどのめん』がないべ」
「『いどのめん』はあたしがつけるの。早い者勝ちなんだからね!」
ゼイユちゃんは鬼さまが泣いてるみたいなデザインの、澄んだ水色のお面を頭の右側に着けた。
お面の表情はゼイユちゃんのドヤ気味の笑顔と対照的で、それがまた、すごく綺麗だ。
それに、お面ってそうやって着けてもいいんだ。前が見えるのか心配だったけど、安心した。
「ねーちゃん、いつもの『かまどのめん』じゃなくていいの?」
「今日は『いどのめん』の気分なの!なんか文句ある!?」
スグリくんはおずおずと私に近付いて、小さな声で私にコソコソ話しかけてきた。
(『かまどのめん』ってのは、赤いお面。鬼さまが怒ってるみたいな。せっかくねーちゃんにそっくりなのにな)
スグリくんは「にっへへー!」といつもより大きい声で笑った。
「ちょっと、何よ!人前で勝手にイチャイチャしてんじゃないわよ!」
「イチャ.....っ!?わやじゃ!レイラさん、ごめんな」
笑っちゃった。本当におもしろい。楽しい!さっきから笑ってばっかりでお腹痛い。
「笑ってないで早く選びなさいよ!早くしないと全部あたしが着けるわよ!?」
情緒不安定な鬼さまたちが、ゼイユちゃんの頭の上でわちゃわちゃお祭してる姿を想像してしまって、更に笑いが止まらなくなった。
「仕方ないわね!あたしが選ぶわよ!スグはどうせ『みどりのめん』がいいんでしょ。てらすが選んじゃったら、あとでわやわや言うくせに、カッコつけてんじゃないわよ」
「そんなことない!ねーちゃんのバカ!」
「スグうるさい!てらすはあたしが普段愛用してる『かまどのめん』でいいわね。光栄に思いなさいよ!」
「あはは!ごめんごめん......。ゼイユちゃんありがとう。でも私、こっちがいい」
私は鈍色のお面を手に取った。
「え、『いしずえのめん』?これ鬼さまのお面の中でいちばん使用率低いやつよ?」
使用率......?なんかメタメタしい言い回しだけど、人気ないってことかぁ。
「わやー。レイラさん、気を遣わねーで好きなの選んで。『みどりのめん』でもいいし、レイラさんが『いどのめん』がいいって言ったら、ねーちゃんもなんだかんだ言って譲ってくれるべ」
スグリくんは「にへ」まで笑ったところでゼイユちゃんにぶたれた。すごく優しいぶちかただったのに、スグリくんは大袈裟に悶絶して痛がってる。
「スグリくんもありがとう。でも大丈夫。私これがいい。この鬼さまの顔、なんだかとっても楽しそうに笑ってるみたいだから」
私は『いしずえのめん』を顔の横に持ってきてオーキド校長仕込みの渾身の顔真似を披露した。
......沈黙。
この感じ、知ってる!めちゃくちゃ絶望的かつ壊滅的にスベった時の空気だ!
「じゃあ、てらすのとーさんをお迎えに行くよ」
ゼイユちゃんはぷるぷる震えながら先に進み始めた。
......やっぱり『いどのめん』がよかったかもなぁ。ぐすん。