その後は4人でいろいろと食べ歩きしたりお話してたらあっという間に時が流れた。
「ねーちゃん、そろそろ盆踊りの準備しねーと......」
「そうね。......では、この後は親子水入らずで楽しんで。盆踊りは見てるだけでも楽しめますので、ぜひ見に来てくださいましー」
盆踊り?盆踊りってなんだろう。ダンス?
ゼイユちゃんもスグリくんも人混みにとけるみたいにいなくなった。
「......レイラ、今日はごめんな」
「え、何が?」
「パパは......「あー、おひさしぶりーっす」
あ、キタカミのジョーイさんだ!
ジョーイさんに向かってダッシュして、思いっきり抱きついた。
「お久しぶりです!ごめんなさい、明日ご挨拶に行こうと思ってて......」
「気にしなくていっすよー。今日はお祭の救護室の設営でバリ忙しかったんで、むしろありがてぇっすー」
「おかげさまで、ポケモンたちみんな元気です!みんな、出ておいで!」
ポケモンたちは勢いよく飛び出してきて、ジョーイさんに忍ポケダンスを踊って見せた。
「ミミッキュも覚えたんすねー。バリ元気そうでよかったっす。あー、そこはもうちょい手ぇ角度つけた方がイケてるっすよ。こういう感じっす」
ジョーイさんはキレッキレのお手本を見せてくれた。オタクに優しいギャル......!三次元にも存在したんだ......!
私も歌いながら一緒に踊った。
「え、やば。歌、バリうまくないっすか?」
「あ、ありがとうございます」
「ちなみになんすけど『星の流れのように』って曲、歌えたりしますー?」
「はい、歌えますけど......?」
「この後の盆踊りで歌ってくんないっすか?」
「んぇえ!無理です!無理です!!」
「マジすかー。『キタカミの歌姫サクラ レイ』ことウメばーさんが、急にぎっくり腰やっちゃって歌えなくなって困ってんすよー」
サクラ レイ......。私の、ママ。
「......やります」
「え、いいんすか?ありがてぇー!じゃあ、パパうえにも許可もらわないとっすね」
「はい!」
うん、やってみよう。
『サクラ レイの娘』ことシナミ レイラ、本気を出す!
つもりだったけど。
「ダメです」
「ええぇ!なんで?いいじゃん!」
「録音してある歌もあるんだろう?盆踊りはキタカミの伝統舞踊だ。余所者のレイラが歌ってもし何か失敗があったら大変だ」
「でも、ジョーイさんが困ってて、私に頼んでくれてるんだよ?ミミッキュを助けてくれたジョーイさんを助けたいの!」
パパは黙ってる。どうして?パパのいしあたま!
心の中でじだんだ踏んでたら、誰かが私の隣で立ち止まった。
「レイラさんは里の人間にとって、もう余所者ではないんです。なにせ里の『てらすさま』ですから。レイラさんが歌ってくださったら里の皆が喜びます。どうか、許諾していただけませんでしょうか」
わ!ジョーイさんが急にジョーイさんみたいになってる!?
すごく深く頭を下げてる。パパには......こうかはばつぐんだ!
「ご迷惑をおかけするやも知れないと思ってしまっただけですので......。娘にそこまで言っていただけるなんて、誠にありがたく存じます。むしろこちらこそ、是非よろしくお願い致します」
やった!がんばるぞ!
「っしゃー!パパうえ、あざす!娘さん、お借りしやーっす!」
ジョーイさんは、いつものジョーイさんに戻って、私と手を繋いでぶんぶん振りながら歩き出した。
パパは呆気に取られてた。あんなパパの顔初めて見た。楽しい!ドキドキする!
それにしても、キタカミに来てからパパがあんまり完璧じゃない。どうしちゃったんだろう。
パパはなんだか複雑そうな顔をしていた。何か言いたいのを無理やり押し込めてるのが丸わかりだ。
パパはいつも笑顔で完璧だから、私も素直に言う通りにしようと思ってきたし、パパの言う通りにして失敗したことは一度もない。
私が失敗するのは、いつも自己判断で勝手なことをするからだ。
でも、私だって自分で考えてやってみたいこともあるし、パパすら思いつかないような、とびっきりのなにかを成し遂げてみたい。
だって、順当に行ったら、パパの方が私より先にしんじゃうじゃないか。
私は長生きしたいから、パパがいなかったら何もない、何もできないような大人にはなりたくないぞ。
子供をほったらかしにするのはあまりに無責任だけど、過保護すぎるのも同じくらい無責任だ。
「おけ、おねーさん、とりま、説明しやーす」
ジョーイさんは救護室の回復マシン......じゃないな。なんだこれは。
「私はここのDJブースからゴキゲンナンバーかますんで、おねーさんはそこのお立ち台で歌ったってくださーい」
いろんな色の鬼さまの風船に囲まれたお立ち台がある。情緒不安定なお立ち台だ。
「曲はちょっちアレンジ入ってるんで、よろでーす」
ジョーイさんは、結った髪が崩れないように優しくヘッドホンを付けてくれた。
私が知ってる『星の流れのように』は、しっとりゆったりとした歌謡曲だけど、なるほど、これがゴキゲンナンバーね。私は音楽に合わせて小さな声で歌った。
「バッチリじゃないすかー!本番は太鼓も鳴るんで、ビビんないように気をつけてほしいっすー」
「はい!頑張ります!」
今の私のドキドキの方が、きっと太鼓より大きい音が鳴ってる。
ガヤガヤ、ザワザワ。
いろんな音や声が聞こえる。
ひとつひとつは取るに足らない音や、取り留めのない会話かも知れないけど、それぞれがそれぞれの思い出の一瞬一瞬を彩ってる。
騒がしいのに、なんだかすごく静かに感じる。
どどん!
大きい太鼓音が響き、周囲は本当に静寂に包まれた。
「っしゃ。始まりやす!」
私は急いでお立ち台に登った。
パパをびっくりさせるんだ。ママ、見ててね。