「嬢ちゃんおかえり!」
えーっと......。この人誰だっけ?
「あ、ボール投げのおっちゃんだ!こんばんは!」
セーフ。思い出した。
「嬢ちゃんにこれ渡したくて、待ってたんだよ」
おっちゃんはポケモンのタマゴを差し出した。
「えぇ!?なんで?」
「嬢ちゃんはマスターボール級だし、昨日の嬢ちゃんの歌聞いて、こいつタマゴの中でポコポコ動いててな。嬢ちゃんのこと気に入ったんじゃないかって思ってな」
「え......。でも私でいいのかな。ポケモンのタマゴ、育てられるかな......?」
「嬢ちゃんがいいんだよ。実は誰も面倒見てくれる人がいなくて困ってたんだ。助けると思って!」
おっちゃんは頭を下げて改めて私にタマゴを差し出した。
「あ......はい......!大切にします!」
私がいい、か。嬉しい。タマゴを受け取り、優しく抱っこした。
「わぁ......!動いた!」
ぴくっとしただけの微かな動きだけど、しっかり感じた。生きてる!すっごく不思議。
「こいつ道端に落っこちてて、なんのポケモンのタマゴかわからねぇんだよ。小さいタマゴだし、そんなに危険なポケモンじゃねぇと思っけど......」
おっちゃんはパパに頭を下げた。
「お嬢さんに無理言って申し訳ねぇ。よろしく頼んます」
「いえ、とんでもないです!ありがとうございます。レイラ、よかったね」
「うん!嬉しい!」
それにしても、パパにも頭下げてくれるんだ。私、やっぱり頼りないかな。パパに守られないとだめかな。
でも、この子の親は私。ってことは私、ママになるんだ!うまれるのとっても楽しみ!
翌日。
「パパー!大変!どうしよう!どうしよう!!」
「んー?レイラ、アローラ......ふあぁ」
パパは眠そうだけど、今はそれどころではない。
「見て!タマゴが......!」
タマゴにヒビが入って、ねっとりしてぬめぬめツヤピカな緑色の謎の物質が漏れ出ている。なんていうか......ヤバそう。
何が起きたの?無事にうまれてくれるの?しんじゃったらどうしよう......。
「もう孵化するのか!大丈夫、これは問題ない。振動を......えーっと、タマゴをだっこして、早歩きするくらいの優しい振動を与えてあげるんだ。落ち着いて、大丈夫だからね」
私は頷いて、早歩きでその場をぐるぐる回った。
「パパも一緒に歩く」
寝癖で寝巻きのまま、8畳くらいの部屋でぐるぐる回る親子。なんだこれ。
「ママのお産が始まってからレイラが産まれるまで、パパはこんな感じでずっとオロオロウロウロしてたよ。心配と、不安と、恐怖と、もうすぐ会えるって言うワクワクドキドキで、じっとしていられなかったんだ」
「その時のパパの気持ち、すっごくよくわかる」
昨日もらったタマゴだけど、私がママになるって決めたんだもん。
どんな子でもいい。種類も性格も強さも、どうだっていい。とにかく無事にうまれてきてほしい。お願い......!
急にタマゴがぴくっと動いて、殻がポロポロと崩れ始めた。
「あ......!パパ......!見て!!」
「いい感じだ!そっと床に置いてあげて!」
「う、うん!」
床に置いた瞬間、タマゴが弾けて、ポケモンがうまれた。
「ちゃ!ちゃぁあ!」
「うまれたー!うわー!チャデスだ!うわー!かわいいー!!」
元気に産声をあげたのは、チャデスだった。ヤバソチャに進化する子だ!
かわいい!最高!マジか!神!!やったー!嬉しい!!ピカピカキラキラ輝いて見える.....!
「おはよう!はじめまして!私が君のママだよ!」
「ちゃちゃ!」
「そうそう!かっわいー!!パパ!見て!元気!かわいい!!」
私はチャデスを抱っこして、パパに見せた。予想外に、パパの顔は険しかった。
「パパ......?どうしたの......?」
「その子、色違いだね」
色違い。色違い、ちゃん......。
一瞬、ミミッキュが握りしめていた色違いちゃんの姿が頭をよぎった。
色違いは確か、0.01%くらいの確率って習ったような....。
とにかく、珍しいがゆえにコレクション目的で探し回っている人が多数いる。
もちろん純粋に探してゲットして、大切にしている人がほとんどなんだけど、中には色違いをゲットするためには手段選ばず、収集だけが目的で、ゲットしたポケモンを大切にしなかったりするような悪いコレクターもいる。
なんなら他人のポケモンであっても盗もうとしたり、交換を強要するために嫌がらせをしたりする人もいたり。
そして、通常色の子を平気で傷付けて、結果的に、色違いちゃんまで......
パパは私の頭を撫でた。
「レイラ......。大丈夫かい?もし......」
「私、イヤだからね」
「え?」
「絶対に私がこの子を幸せにする。この子を絶対、絶対守る。離さない。私は......この子のママだから」
パパは、完璧じゃないけど笑顔になった。
「わかった。でも、もし何かあったらパパに必ず相談してね」
「わかった。ありがとう。私、頑張るね」
私はチャデスを片腕に抱いて、もう片方の腕でパパを抱きしめた。
「パパ、本当にありがとう。大好き」
パパは、強く抱きしめ返してくれた。
「パパ...さすがに痛いよ」
パパは少し腕を緩めて私を見たあと、完璧じゃなかった笑顔を完璧にして、チャデスも一緒に、もう一度、優しく、優しく抱きしめてくれた。