みんな、バトルを見た興奮がまだ収まらないみたいだ。
マオちゃんなんか、特に大興奮してる。
「レイラ、ナイスファイト!シャンデラはいつも強いけど、あのグリーンティーみたいな子!すごく頑張ってたね!」
「マオちゃん、ありがとう。ヤバソチャって言うの。今はまだキタカミの里の周辺でしか生息が確認されてないみたい」
「あ、私はあの子好きだな。ゲンガーのゲンザブロウだっけ?」
「スイレンちゃん、ゲンパチだよ。私はポケモンにニックネームつけたことないんだけど、パパからもらったポケモンで、私が産まれる前からずっとそう呼んでたみたいだから、そのまま呼ぶことにしたんだ」
「わぁ、ベテランポケモンさんだ!だからあんなにダメージ受けてたのに、スタントマンみたいにわざとらしくド派手に吹っ飛んでウケを狙う余裕があったんだね」
「余裕はなかっただろうけど......。鋭いなぁ。そうそう。やたらギャグに走るのが染み付いてる子なんだよね」
やっぱりポケモンはトレーナーに似るのかなぁなんてパパの顔を思い浮かべてみたら、マーマネくんはニヤッとしていた。
「シナミ博士も身体を張ったギャグで笑いを取ろうとするところあるよね」
「あはは......。この間の流星群の時は、急に『メテノのモノマネできるよ!からをやぶる!』とか言って、着てたシャツ引きちぎって投げて、上半身裸になってたもんね。マーマネくん、パパとゲンパチの頭の中を計測する機械作ってよ」
「まぁ.....ぼくも興味はあるけど、それはちょっと難しいかな」
みんな笑ってるのに、カキくんは真剣な顔をしていた。
「それにしても素晴らしいバトルだった。お互いミスなく的確な指示を出し、一歩も譲らず、追い詰められても最後まで諦めない。俺にとっても学びのあるバトルでした。ありがとう」
「カキくん、バトルならいつでも受けて立つからね!」
ルザミーネさんが拍手してくれた。
「青春!友情っていいわね。とってもキラキラしてる。でも、わたくしはお仕事に戻らないといけないの。このままみんなも財団に来てくれるのかしら?」
「はい!」
ルザミーネさんはなんだか急いでるみたいだ。時間を取らせちゃって申し訳なかったなぁ。
「わかったわ。空のポケモンライド免許を持ってる子はいる?」
「私と、カキくんが持ってます」
「あら!レイラちゃんすごいわ!さすが、うちの子になる予定の子ね!」
えぇ......。カキくんも持ってるってばー。
ルザミーネさんが指をパチンと鳴らすと、リザードンが3匹すっ飛んできた。
「レイラちゃん、女の子たちを乗せてあげて。男の子はこっちね。リーリエはわたくしと一緒にいらっしゃい」
「はい、お母様。レイラさん、カキくん、行けそうですか?」
「「はい!」」
ルザミーネさんはこちらを確認せずに飛び立った。
「じゃあ、ついていらっしゃい!」
あーあ。だっこで飛ぶのはお預けかぁ。
公道をだっこで飛んだりしたらライド法違反になっちゃうだろうしな......。っていうか、ルザミーネさん速っ。
私有地だからスピード違反もないのか。
「よーし!マオちゃん、スイレンちゃん、しっかり捕まっててね!」
思いっきりスピードを出した。正直......すごく楽しい!遠くに見えてたエーテル財団の建物が、あっという間に目の前まで来た。
「ふふふ!レイラちゃん!わたくしについてくるんなんてすごいわ!」
ルザミーネさん、自分がついてこいって言ったでしょー。それに、カキくんもついてきてるってばー。
「.......あら、電話だわ。ごめんなさい。ザオボー!あとは頼みます。はい、ルザミーネでございます。......いつもお世話になっております。......えぇ......はい」
「もうっ、お母様ったら......本当にお仕事ばっかり」
リーリエちゃんはまたほっぺたを膨らませて怒ってる。かわいい。
「リーリエさま。そうおっしゃらず。......お子様たち、財団の事務所を案内いたしますので、こちらへ」
この人がザオボーさん?
『仮面ライドーモン』みたいなサングラスはかっこいいけど......。正直、なんかうさんくさそうなおじさんだな。
そんなことはそっちのけで、マーマネくんは財団の建物の構造に興味津々のようだ。
「あの、写真撮ってもいいですか?」
「いけません」
「まぁ......そうですよね」
もう、感じ悪いなぁ。マーマネくんかわいそう。
でも、案内はしっかりしてくれた。
中にはたくさんの部屋があって、団員さんたちが忙しそうに右往左往している。
保護されたポケモンのほとんどは、エーテル財団の作った人工島の『エーテルパラダイス』で暮らしてる。
ここでは重篤な怪我や病気のポケモンを治療する場所もあれば、迷子のポケモンや譲渡会への参加が決まったポケモンを、綺麗にしてあげたり緊張をやわらげてあげるためのリラクゼーションルームがある。
あとは、他の地方の保護団体との連携をする部署、エーテルパラダイスの環境保全をする部署......。
他にもたくさんあったけど、忘れちゃった。
ルザミーネさんからリラクゼーションルームのポケモンと触れ合う許可をもらっていたけど、ナイーブな子も多いみたいで、驚かせないように1人10分ずつ、順番に行くように言われてる。
ジャンケンしようと思ったら、リーリエちゃんは参加しようとしなかった。
「私はいつでもここにこられますので、今日は遠慮しておきますね。でも、感想は聞かせてください!」
そっか、じゃあ遠慮なく......。というわけで、ジャンケンの結果、まずはカキくんから。
10分ほど経って帰ってきたカキくんは、少ししょんぼりしていた。
「何故かむしポケモンに囲まれてしまった。みんなかわいらしかったが、ほのおポケモンたちと触れ合いたかった......」
次はマオちゃん。15分くらいたっぷり触れ合ったみたいで、ご機嫌だ。
「遅くなっちゃった、ごめんね。すっごく甘えん坊のナゾノクサと仲良くなったの!ザオボーさん、連れて帰っちゃダメ?」
「ダメです」
「......でも、お母様がいいって言ったらいいですよね?」
リーリエちゃんがちょっと丁寧に怒ってる。かわいい。
「もちろん、ルザミーネさまが許可すれば構いません」
「やった!マオさん、あとでお母様に聞いてみましょ!」
「リーリエ、ありがとう!」
次はマーマネくん。マーマネくんは時間きっちり帰ってきた。
「すごくいろんな子がいるんだね。デデンネにビリビリされたけど、時間をかけたら少しだけ仲良くなれたよ!」
次はスイレンちゃん。5分くらいでびしょ濡れになって帰ってきた。
「みずポケモンと遊んでたら楽しくなって、はしゃいでたら退場させられちゃった。ごめんなさい」
さて、やっと私の番だ。でも、スイレンちゃんが退場させられたあとは気まずいよぉ。
「お邪魔しまーす」
あれ、ドアの向こうにドア。
「お邪魔しまーす」
さらにドア。厳重だ......。
「お邪魔しまーす」
あ、広い場所に出た!
思わず「わぁ.....」と声がでてしまった。
森、草原、山、海、川......。市街地から暗室まで、いろんな環境が整備されてる。
スクールの体育館くらいの広さだ。
団員さんが軽く注意事項を教えてくれた。
モラルとマナーを守ってねってことだった。
どこに行こうかな。ゴーストポケモンは市街地や暗室のエリアにいるかな?
あれ......?市街地のエリアの近くの通路にティーカップが転がってる。
なんの疑問も持たずにひょいっと拾い上げてみた。
「わ!ヤバチャだ!」
チャデスと似てる生態ってパパが言ってた子だ。底の部分は......楕円のマークがある!『しんさく』ってやつ!?いや......ただのシミかな。
いや、そんなことは置いといて。
ヤバチャさん、寝てる......?でも、こんなところで寝ちゃうなんておかしいよな。団員さんに報告しなくっちゃ。
「団員さん、この子、通路に転がってて......。大丈夫ですか?」
「あぁ......このヤバチャ、やっぱり譲渡会に出すのは難しいかも知れないなぁ」
「この子、どうしちゃったんですか?病気......?」
「カップの部分が大きく欠けちゃってて、上手く浮けないみたいでね。小さい欠けなら自然に治るけど、大きく欠けちゃうと元の破片がないと直してあげられないんだ」
そうなんだ。かわいそうに。
なんとかしてあげたいけど、この子の破片を探すなんて途方もないだろうな......。
「この子に合うポットがあれば、ポットに住むポットデスに進化するから、問題は無くなるって話だなんだけど、財団で用意したポットはどれも気に入らなかったみたいでね」
そうなんだ。意外とワガママ。かわいいなぁ。
「とはいえ、見ての通り、そこいらで動けなくなっても平気で寝ちゃうような、おだやかで愛嬌のある子だし、このままでもかわいがってくれる人がいたらと思ったけど、勝手に動こうとして転がって行っちゃうんだ。エーテルパラダイスにいた方が安全かなぁ......っと!」
目を覚ましたヤバチャが団員さんの手から滑り落ちていった。
ーーあぶない!
ヤバチャは私の両手にすっぽりと収まった。
......白刃取り、キマったぜ。団員さんが小さく拍手してくれた。
「ヤバ!ヤバーッ!」
ヤバチャは大興奮して私の手の上でとびはねてるけど、やっぱりヨタヨタしてるし、上手く浮けないみたいだ。
動こうとするってことはきっと、どこか行きたいところや、やりたいことがあるんだ。
「......私、この子を助けたいです!何かいい方法がないか、探してみます!」
こういう時の『ポケモンお悩み相談所』だ!
私は団員さんにヤバチャを手渡して「またね」と小さく手を振って、ドアに向かって走り出した。
「走らない!まったく、さっきの子といい......」
やっちゃった。でも、もう居ても立ってもいられない。
「ごめんなさい、失礼しますね」
なんだかんだで団員さんは笑顔で手を振ってくれた。ヤバチャもぴょこぴょこ跳ねてる。かわいいっ!
「みんなただいま!この中って、すごい広いんだね!......それで、ちょっと困ってるヤバチャを見つけたんだ。何か助ける方法がないか、帰って調べてみる!」
「そうなんですか!?ありがとうございます。では、お母様にもそう伝えておきます」
「リーリエちゃん、今日は本当にありがとうね!みんな、また明日ね!」
「「「「「また明日ねー!」」」」」
さて、急いで帰ろっと......!?
「レイラさま。ご自宅までお送りしますね」
ジェイムズさん、どこから湧いて出てきたの?怖っ!
「あ、じゃあ、ちょっとお願いがあるんですけど......私もリザードンさんのだっこで飛んでみたいです!」
「なんと!そのような格好で......!?なりません!なりませんぞ!!」
「中にもう1枚履いてるから!お願いします!」
ジェイムズさんは難しい顔のままだった。
私はイーブイみたいな『つぶらなひとみ』をした。
「仕方ありません......。門までですよ」
「やったー!」
リザードンさんは私を抱えて飛び立った。
......ひゃーっ!楽しい!リザードンさん、お腹がふにふにで気持ちいい!
あっという間に門が見えてきちゃった。
「さて、ここまでございます。降りますよ」
「あー!楽しかった!ありがとうございました!あとは自分で運転して帰るので、ここまでで大丈夫ですよ!」
ジェイムズさんはちょっと驚いていた。
「もう免許をお持ちなのですね。このリザードンは敷地内しか飛んだことがないので、ポケモンライド事務局からポケモンを手配いたします」
「ありがとうございま......!?」後ろから強い風が吹いたと思ったら、ポケモンライドの鞍をつけたリザードンが佇んでいた。
「え、え?」
「では、お気を付けて。お見送りだけで失礼いたします」
どうやって呼んだの?ジェイムズさんって魔法使いなのかな。
「えっと。では、お邪魔しました。ありがとうございましたー!」
私が飛び立ったあとも、ジェイムズさんはずっと手を振ってくれていた。
リーリエちゃんのお家.......。語彙力が足りないけど、なんかもう、いろいろすごかったな。
そしてあっという間に......
「よしっ!帰宅っ!リザードンさん、ありがとう。またねー!」
リザードンを見送ったあと、私はスマホを操作しながら家に入って「ただいまー!」と言った。パパはまだ研究中かな。メッセージで「ただいま」っと。
早速、ヤバチャのこと調べなきゃ!