翌日。
「リーリエちゃん、マオちゃん、アローラ!」
「レイラさん、アローラ!」
「レイラ、アローラ!スイレンは寝坊したから先に行っといてって言ってたよ。いこ!」
「「はーい!」」
まずはリーリエちゃんに報告しなくっちゃ!
「リーリエちゃん!昨日は本当にありがとうね!ルザミーネさんが承認してくれて、今日の夕方、ヤバチャが家に来てくれることになったよ!」
「え!そんなすぐに、あの難解な申請書を記入した上に、もう承認が出たんですか!?通常は譲渡会から実際の譲渡まで、3ヶ月くらいかかるものですが.....」
「あー。あー、うん。そうなんだよね。ほら、パパって博士だし」
普通はそんなにかかるんだ!?
パパが博士だからなんだってんだ。こんな言い訳で大丈夫か?
ルザミーネさん、職権の濫用方法が雑すぎるよー。
「いいなぁ。あのナゾノクサ、ルザミーネさんはいいよって言ってくれたのに、ママがだめって言うんだよ。普通のポケモンでも育てるの大変なのに、つらい目にあって保護されたポケモンはもっと育てるのが難しいからってさー」
マオちゃんは大きすぎるため息をついた。
ヤバチャはどうしてあんなに欠けちゃったんだろう?何か、心にも傷があったりするのかな。
ゲンパチと仲良くなってくれたら聞いてみてもらいたいけど、まずは私が仲良くなれるようにしないとね。
スクールの授業は楽しいけど、早く帰りたいな。
なんて思ってたら、あっという間に下校時間になった。
「じゃあみんな、私、急いで帰るね!」
みんなの「また明日ねー!」の声を背に、大急ぎで帰った。
「パパ、ただいま!」
「おかえり!さっき連絡があって、30分後くらいに団員さんがいらっしゃるって」
「わーい!楽しみ!」
突然、フクスローが飛び出してきた。
「わぁ。びっくりした。フクスローも楽しみだね」
「フー!クゥー!」
フクスローは必死に何かを伝えようとしてる。なんだろう?
「フ!フクフロロー!」
フクスローは家の奥の方を指さしてる。
「あ、もしかして研究室に行きたいの?」
頷いてる。どうしよう......?パパを見ると、何か気付いたらしい。
「わかった。リオに会いたいんだね?」
パパはボールを投げた。出てきたリオを見ると、フクスローはぴょこぴょこジャンプして何かを一生懸命話していた。
「リオ、フクスローに言葉を教えてあげて。研究室を使っていいよ」
リオは頷いて鍵を受け取ると、フクスローと楽しそうに話しながら研究室に向かっていった。
「フクスロー、しゃべれるようになるかな?」
「どうかな。パパの他の手持ちたちも少し教わってたけど、ゲンパチ以外はみんな諦めちゃったよ」
そうなんだ。そりゃそうか。簡単にしゃべれるようになるんだったら、リオと一緒に塾の先生になるよ。
「そういえば、パパってあとどんなポケモンが手持ちにいるの?ノズパスは手持ちにしたの?」
「いや、ノズパスはパパの研究に興味を持ってくれて、天体観測を手伝ってくれてるよ。きっちり北を向いてくれるからとっても助かってる。今もホクラニ天文台で空の動きを見てくれてるよ。明日またお迎えにいくんだ」
「へー。かしこい!で、リオとメタグロスと、他の手持ちは?」
「アシレーヌとエルレイドとヒートロトムがいるよ。ゲンパチがレイラのところに行っちゃったし、誰か新しい手持ちを連れて行きたいんだけど、これまでもたくさんポケモン育ててきたからね。誰にするか迷ってるんだ」
リオとゲンパチよりしゃべれそうな顔してるポケモンばっかりなのにね。やっぱり難しいよね。
「私、ヤバチャが来てくれたらついに手持ち6匹!」
「そうか!フクスローが進化したらゴーストタイプになるし、ゴーストタイプで統一されてるけど、バランスの取れた良いパーティだ」
「でも、フクスローがなかなか進化してくれないの。レベルは充分上がってるんだけどなぁ」
「そうだよね。健康状態にも問題なさそうなのにね」
ピンポーン!とクイズの正解の時みたいな音が鳴った。
「おっ、ついに来てくれたよ!」
パパがドアホンを確認してくれたから、一目散に玄関にダッシュしてドアを開けた。
「こんにちは!」
「こんにちは。エーテル財団で.....あ、昨日の、リーリエさまのご友人......!?」
「あ!リラクゼーションルームにいた団員さん!」
「どうしてここに......?」
変な空気になったところに、パパが割って入ってきた。
「御足労ありがとうございます。申請者のシナミ シュウシです」
パパの名前はシュウシ。
当然、パパも修士シュウシ過程をを経て博士になったんだろうけど、一生シュウシなの面白すぎる。
マサラのおばあちゃん曰く、いろんな可能性があるように『種子シュシ』をイメージして、おじいちゃんがつけたらしい。
でも、パパが博士になるなんて想像しないまま、おじいちゃんは今のパパと同じ歳くらいのうちにしんでしまったらしい。
......私は、長生きしたいな。
「立ち話もなんですし、中へどうぞ」
「シナミ博士!お会いできるの楽しみにしておりました。では......お邪魔します」
「団員さん、お紅茶とコーヒー、どちらがいいですか?」
「いや、お構いなく......」
パパと団員さんはさっさと行ってしまった。
うーん。じゃあ私と同じアイスティーにしちゃおっと。パパもそれでいいか。
アイスティーを持って応接室に入ったら、何やら盛り上がっていた。
「ニャビーは元気かい?」
「はい、おかげさまで!立派なガオガエンに進化してくれました。保護活動も手伝ってくれて、最高のパートナーです!」
ん?知り合い?
私はそっとアイスティーを出して、パパの隣に座った。
「あぁ、ありがとう。改めまして、娘のレイラです」
パパが紹介してくれたので、慌てて団員さんに頭を下げた。そういえば、昨日は名乗らなかったな。
「娘さんが昨日見学に来た時、こちらの手違いでヤバチャに譲渡承認が出ているのに気付いてなくて。エーテルパラダイスに戻そうかとボヤいたら、助けたいって言ってくれていたのに、譲渡を済ませてしまうなんて申し訳ないなって思ってたんです。同じヤバチャが気になったなんて、仲良し親子ですね」
「あー、はい。あはは」
そういうことになってたんだ。団員さん、なんかごめんなさい。
「僕も一目見て助けたいって思ったんだ。娘には伝えていなかったんだけどね、親子ってこんなところまで似るものなんだね」
うわー。パパ、超ナチュラルに嘘ついたー。大人ってこわいなー。
「この子ですよね」
団員さんの持っていたカゴから、ヤバチャが転がり出てきた。
「わぁ、ヤバチャ、来てくれてありがとう!今日からうちの子だよ」
「チャ?ヤバ!ヤバー!」
ヤバチャはぴょんぴょん飛びはねた。かわいい!
団員さんも優しくて嬉しそうな顔でニコニコしてる。本当にポケモンが大好きなんだな。
「良かったね、ヤバチャ。大切にしてもらうんだよ。じゃあこちらの同意書の内容を確認して、サインをお願いします」
「はいはい.....うん、よし。お願いします」
パパはサインをして団員さんに渡した。
「はい。確かに。こちら、お控えです。では、僕は財団に戻りますね」
「うん、またいつでも遊びに来てね」
「ありがとうございます!では、失礼します!」
団員さんは帰って行った。
「パパ、さっきの団員さんと知り合いだったの?」
「あぁ、ポケモン研究所のククイ博士の先代の博士が亡くなられたあと、しばらくパパが初めてのポケモンを渡す係をしてたんだ。そのとき初めてのポケモンを渡した子だったよ。もう10年くらい前かな」
「そうだったんだ」
「『俺はチャンピオンになるんだ!』って言って、その年はモクローを選んだ子が多かったからって理由でモクローに有利なニャビーを選んだような子だったから、少しだけ心配してたんだけど、あんなに立派になって、ポケモンを大切にしてくれてて、嬉しいな」
そっか。当然だけど、みんなが夢を叶えられるわけじゃないもんね。......私は、ジムリーダーになる夢が叶わなかったらどんな人生になっちゃうんだろう。
いや、今は夢に向かって一生懸命頑張ろう。
「フクスローを迎えに行くついでにパパの研究室でヤバチャをみんなに紹介していいかな?」
「あぁ、いいよ。行こっか」
「ふふ。ヤバチャ、ボールに入っててね」
「チャ......?」
ヤバチャは不思議そうにしていたけど、ボールに入っていった。
研究室に着くと、フクスローは私が入って来たのに気付かないくらい、真剣に勉強していた。
「リオ、ありがとう。フクスローの様子はどうだったかな」
リオは私の耳元でコソコソと話し始めた。
「レイラさん。フクスローさんについて少しお話したいことがあります。後ほど、フクスローさんがいない間にお話させて頂いてよろしいですか?」
「え?うん、わかった」
「フク!」
フクスローは私に気付いて、勉強道具を片付けて私の方に駆け寄ってきた。
「フクスロー、よく頑張ってたね。新しい仲間だよ。紹介するね」
手持ちたちにヤバチャを紹介した。ヤバチャは愛嬌たっぷりで、すぐにみんなと仲良くなった。
特に、ヤバソチャとは気が合ったみたいだ。
「みんな、私、他の地方に行って、ジムリーダーになりたいんだ。フクスローもいずれゴーストタイプになるし、このメンバーでどこかの地方でジムリーダー試験を受けたいの。一緒に頑張ろうね!」
みんなやる気満々だ。フクスローは勉強に疲れたのか、少し元気がなかった。
「レイラ、リオ、ここのお掃除を頼んでもいいかい?代わりにレイラのポケモン達のボール磨いてあげるからさ」
さすがパパ。気が利く。っていうか、リオのコソコソ話聞こえてたんだ。
「うん、わかった。お願い。みんな戻っておいで」
パパにポケモンたちを預けて、リオと話した。
「ちょうどよかった。レイラさん。フクスローさんには、進化先のすがたが2種類あるのはご存知ですか?」
「え、そうなの!?」
「はい。レイラさんもご存知の、くさ、ゴーストタイプになる通常の進化と、くさ、かくとうタイプになる『ヒスイのすがた』と呼ばれるものです」
地方によって姿が変わるリージョンフォーム?でも『ヒスイ』なんて地方、聞いたことない。
「『ヒスイ』というのは、今で言うシンオウ地方のことです。でも、今のシンオウ地方で進化させても『ヒスイのすがた』にはなれません。つまり、そのすがたに進化する方法は今は無いと言われています」
リオは、少し申し訳なさそうにした。
「でも、フクスローさんはその『ヒスイのすがた』に強く憧れているようです。故に、レイラさんに内緒で進化を止める『かわらずのいし』を持っていたそうです」
どうして?
ずっと一緒にいたのに、どうして言ってくれなかったんだろう。
ポケモンの中には時を渡るポケモンもいるって聞いたことがある。きっと何か方法があるはずだ。
フクスローにも夢があるなら、もちろん心から応援するに決まってる。
「ですが、レイラさんが目指しているのはゴーストタイプのジムリーダー。自分がゴーストタイプに進化するのを期待しておられるのもわかっているし、レイラさんの夢を叶えるのもまた、フクスローさんの夢だそうで、かなり思い詰めていたんです」
確かに調べた限りだと、パーティのタイプを統一しないとジムリーダー試験を受けられない。
もしフクスローがかくとうタイプになってしまったら、私の夢を一緒に叶えるのは難しくなってしまう。
どうしたらいいんだろう。
「フクスローさんは、そのことをレイラさんに自分の言葉で伝えて、レイラさんの反応を見たくて、人語をしゃべれるようになりたいと言っていました。今僕が言っちゃいましたけど......」
私が難しい顔をしていたせいか、リオは焦って付け加えた。
「いや、フクスローさんは、自分が進化しないことでレイラさんが自分の育て方が悪いのかと心を痛めておられるのを気にしていたので......。僕も、それでレイラさんが自分を責めているのは良くないと思って......」
「うん。リオ、教えてくれて本当にありがとう。とりあえず、パパのところに戻ろうか」
「お掃除はいいんですか?」
私はパパのピカピカのパソコンをダスターで適当になでなでした。
「よし。行こ」
リオは少しオロオロしながら私についてきた。