痛ッ......!ってほどでもないか。なんだ、海に落っこちてもとりあえず大丈夫だった。でも、長くは持たないな。
メテノたちの光がぼんやり見える。海面はこっちか。割と浅い位置で体勢を立て直せた。これならいける。
「......!......!!!」
通常色の子が暴れてる。ごめんね、苦しいよね。大丈夫、ちゃんと助けるからね。
色違いの子も大丈夫.....じゃない。
通常色の子の手に握られてるのは、ばけのかわだけだ。本体がいない。どこにいるの?あれ?そもそもミミッキュの本体ってどうなってるのか誰も知らないんだった。
......一気に苦しくなってきた。通常色の子だけでも助けてあげられたはずなのに。何もできないくせに欲張って、みんな助けようとして、みんなダメにした。自分のこういうところが本当に大嫌い。
もういいか。落っこちる前までは結構かっこよかったと思う。
まじかる☆社員ちゃんの続き、見たかったな--
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痛ッ......!!!さすがにこれは結構痛かった。そこそこの高さから地面に打ち付けられた感じ......いや、何故かはわからないけど、多分実際そうなった。
あれ?私、生きてる?
痛いし、動けるし、なんかちょっと不安だけど、生きてるってことにしておこう。
モクローとヒトモシのボールも無事だ。
でも、何故か背筋だけがやたらとゾワゾワして寒気がする。振り返るとヨノワールがじーっと私を見ていた。野生の子かな。珍しいな。
「君が助けてくれたんだね。ありがとう!」
ヨノワールに抱きつく。不思議だ。背後に立たれたときは背筋が凍りそうな感じがしたのに、触れるとひんやりして気持ちいい。
「ねぇ、私と一緒にミミッキュがいなかったかな?」
ヨノワールはモジモジしながらお腹の口から何かを吐き出してそのまま音も立てずに消えた。誰かを助けて黙って帰っていくなんて、シャインゴーストみたいでかっこいいな。
ヨノワールが吐き出したのは通常色のミミッキュだった。手には水浸しになって、雨の日が続いた時のキマワリくらいしょぼしょぼでぐちゃぐちゃの色違いのばけのかわが握られている。
「大丈夫!?」
通常色の子はよれよれになりながらお腹の穴の部分からボロボロと涙をこぼしている。ミミッキュの涙ってそこから出るんだね。私は思いっきりミミッキュを抱きしめた。
「ごめんね......!」
私も涙が溢れて止まらなくなった。色違いちゃん......助けられなかった。
私がもっと強かったら。いや、今の弱っちい私でも、もう少しだけでも早く決断できていたなら。
色違いちゃんがしんじゃうことはなかったはずだ。
「ごめんね......!本当にごめんね......!」
頭の中でいろんなことが浮かんでは消えた。どうしたら良かったの?
写真の中のママのことを思い出した。
パパはよくママの話をしてくれた。
ママがどれだけ素晴らしい人だったかとか、パパとママの馴れ初めもそうだし、パパがどれだけママのことが大好きで、そんなママのお腹の中に私ができたときにパパとママがどれだけ喜んだかとか。
--ママがどれだけ私を愛していたのかとか。
しんじゃったってことはもう会えないってことなのは知ってる。友達のママを見て羨ましくなってパパに八つ当たりしちゃったり、パパにはどうしても言いにくい女の子の悩みができて、ママと話せたらなぁって泣いた日もあった。
でもパパは女装して「パパだけどママ始めました」って言って笑わせてくれたり、私が悩んでるのに気付いて「元気ないな!パーッと欲しい物でも買っておいで!」って言ってお小遣いをたくさんくれて、毎月のお小遣いも増やしてくれた。
パパがいたからママが写真の中にしかいなくても、全然寂しくなかったんだ。
でも、しんじゃうって本当はこういうことなんだ。知ってるようで全然知らなかった。
ほんのちょっと前に見かけたポケモンがしんじゃったことがこんなに悲しくてつらくて、カビゴンにのしかかられたみたいに心も身体も押しつぶされそうなのに、大好きなママがしんじゃったときパパはどんな気持ちになったんだろう。
--帰らなきゃ。
ミミッキュも元のお家帰らせてあげなくちゃ。近くにお墓も作ってあげよう。
パパはママがしんじゃってきっとすごくすごくつらかっただろうけど、少なくとも私の前ではいつも笑顔だった。
ずっと泣いていても仕方ない。パパとミミッキュのために、頑張らなくちゃ。
よし、帰るぞ!
と、思ったけどここはどこだろ?
目の前にはぼんやりと発光してキラキラした石が沈んだ池がある。神秘的な力を感じるし、メテノ流星群と同じくらい綺麗だ。こんなときなのに見とれてしまった。
「えーっと、キミ。ちょっといいかな」
すごく悪い人かと思って身構えながら振り返ったら、白衣のジェントルが立っていた。
「申し訳ない。こんな場所で女性に声をかけるなんて、すごく怪しいけど、怪しい者じゃないんだ」
なんだろう、どこかで見た事がある気がする。
「フトゥー博士......?」
そうだ、小さい頃にパパがなんだかよくわからないけどすっごい大発見をして、科学雑誌『ハードプラント』の表紙になるかと思ったら、この人が表紙で正直すごくガッカリした。
確か現代では考えられない未来の遺伝子を持ったポケモンを現代に連れてきた天才博士だ。研究内容がわかりやすかったし、表紙の顔が全然嬉しそうじゃなかったのが印象的だった。パパだったら渾身のドヤ顔をしただろうに。
「『ハードプラント』で論文読みました。遠い未来からポケモンを連れてきた......」
「あんな昔の論文を覚えて貰えてるなんて嬉しいな。お嬢さんは科学が好きなのかい?」
嬉しいとか言って、表情ひとつ変わってない。やっぱりなんか怪しいかも。
「いや、まったくもってちんぷんかんぷんなんですけど、私のパパも博士なので......」
「そうなんだね。お嬢さんのお名前は?」
「シナミ レイラです」
「驚いた。天文学のシナミ博士のご息女か。彼は素晴らしい博士だね。次々に大発見をしてる。一発屋のボクとは大違いだ」
全然驚いてなさそうだ。絶対「マジ草Zわざ」とか言って全然笑わないタイプの人だ。
「ところで、ボクは研究をしてたらマシンをだいばくはつさせてしまってね。気付いたらここにいたんだけどこはどこだい?」
「私もわからないんです。気付いたらここに......」
そうだ、スマホは使えるだろうか?
「ロトム!ここはどこ!?」
思ったより大きい声が出て自分でもびっくりした。さすがにフトゥー博士もちょっとびっくりしたっぽい。
ポケットからスマホロトムが飛び出してきた。良かった。スマホロトムは元気そうだ。
「......ごめんロト。GPS情報が受信できないロト」
「......じゃあパパに電話やメッセージは送れる!?」
「ごめんロト。アローラ通信回線に接続できないロト」
ダメか。いや、アローラには接続できない......?こんなの初めて聞いた。
「じゃあマサラのおばあちゃんは!?」
「ごめんロト。カントー回線に接続できないロト」
「ホウエンのおじいちゃんは?」
「ごめんロト。ホウエン回線に「もういいよ......わかった。ありがとねロトム」
スマホロトムは少し悲しそうにポケットに戻って行った。フトゥー博士からも残念そうな雰囲気だけは出てる。
「ダメそうですね......圏外みたいです。スマホで助けを呼ぶのは無理ですね」
スマホロトムが急に飛び出してきた。
「違うロト。近くのポケモンレスキュー緊急ダイヤルに電話するロトロトロトロト......」
よし、電話がかかった!ロトムごめんね、ありがとう。
「はいはい。キタカミ公民館だよー」
やった!マサラのばあちゃんちに電話したときみたいに音声がざらざらだけど、繋がった!
え......?公民館......?
「あっごめんなさい。間違えました」
慌てて電話を切った。
「間違えてないロト!近くのポケモンレスキュー緊急ダイヤルに電話するロトロトロトロト......」
「あー......はいはい。キタカミ公民館」
なんか面倒くさそうにしてるおじいちゃんの声だけど、もう公民館でもなんでもいいや。
「あの!キラキラした石のある池のあたりで迷っちゃったんです!助けてもらえませんか!?」
「ありゃー?もしもーし。公民館だよー?」
ダメだ。こっちからの声が届いてない。
「はぁ......。ワシにもそろそろヨノワールのお迎えが来るのかねぇ......」
切れてしまった。
肩の関節が外れたんじゃないかってくらい、がっくりと肩を落とした。フトゥー博士、なんかごめんなさい。
「キタカミ、キタカミ......どこかで聞いたことが......」
フトゥー博士が眉間を寄せてブツブツとつぶやいてる。なんかちょっと危険なタイプのオタクみたいで気持ち悪いけど、人間らしいところもあるんだ。
「そうだ、ペパーからのメッセージ......!ここはきっとパルデアからそれほど遠くない。さっきの電話の声の感じだと、おそらく回線が......で......ゆえに......固定電話は......であるので......の場合......いや......だが......そうだな.....。パルデアのスマホロトムに電話をかけたら繋がるかもかもしれない」
全然よくわからなかったけど最初と最後だけはわかった。博士ってこういう生き物なんだね。
「でも、パルデアに知り合いはいないです」
「ボクにはキミと同じ歳くらいの息子がいるんだ。パルデアいるから電話してみよう。スマホロトムを借りてもいいかな?」
「もちろんです!」
スマホロトムを手渡した。なんか操作がすごくたどたどしい。
「あぁ......すまない。登録してある番号を見てしまった。キミのスマホだから息子が登録してあるわけないね」
博士は咳払いしてスマホに視線を戻したけど、すぐに目を閉じてしまった。
「......ダメだ。どうしても息子の番号が思い出せない。期待だけさせて申し訳ない」
「そう......ですか......」
そういえば一度だけ、パパも完璧じゃないことがあった。
出張先でスマホロトムを充電してあげてたら、そのまま置き去りにしちゃったらしい。
そのときは、ほかの人のスマホロトムを借りて、帰るのが30分くらい遅くなるよって電話してくれた。
30分くらいならそういう事もあるだろうし電話して来なくていいのにと思ってスルーしちゃったけど、パパは私の電話番号を覚えててくれたんだ。
私はスマホロトムに頼りきりでパパの電話番号は覚えてないな。そういう人がほとんどだと思うけど、パパはもしミスをしたとしてもリカバリーは完璧だ。
「息子に連絡もせずに研究室に篭って、寂しい思いをさせてばかりだった。親なら一人息子の連絡先くらい記憶しておけばいいのに......」
さすがのフトゥー博士もこればっかりは明らかにオタマロみたいな眉毛になっていた。えーっと、何か気の利いた事は言えないだろうか。
「そんなものですよ!息子さんの事はお母さんがなんとかしてくれてますって!逆にうちのパパは、研究に集中しろ!って言っても私の事まであれもこれもやっちゃって、うちにはママがいないから寂しくないように〜とか言ってのんきにキャラ弁なんか作ってますよ!」
えっとえっと。あとはそうだ。
「あはは!そろそろ恥ずかしい年齢なのでむしろもう少し放っておいてほしいくらいです!博士なんだから研究に集中すればいいのに、たまーに本気出すくらいしかしてなくて!ずっと集中できるなんてすごいですよ!」
フトゥー博士の顔も見ないで、オタク特有のものすごい早口をぶちかましてしまった。
「そうか......シナミ博士は本当にすごいな。ボクは......何も......」
あ、間違えた。派手にやらかした系のしでかしだ。どうやらキョダイマックスなまきびしをふみつけたぞ。
「うちも妻は......息子には母もいないんだ」
どくびしも思いっきり踏み抜いたし、ヘドロばくだんがミストバーストでだいばくはつだ。もうめちゃくちゃだよ。
「......ごめんなさい」
静寂が耳に突き刺さって、痛いくらいの、沈黙。