パパと私とスーパーヒーロー。   作:にゃかぽけ

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地平線のその先

「パパー!戻ったよー!」

 

「あぁ、預かったポケモンたちのボールはピカピカになりましたよ」

 

パパはジョーイさんのモノマネをしながらボールを並べたトレイを差し出した。

 

「わぁ!きれい」

 

さすがパパ。ピカピカすぎるボールに歪んだ私の顔が写りこんでいる。変な顔だ。

変な顔の私が6人、私をにらみつけている。負けじとにらみつけ合ってしまった。

 

何故だかわからないけど、なんだか、急に頭の中がごちゃごちゃしてきた。

 

フクスロー、なんで言ってくれなかったの?

いや、人語はしゃべれないけど、その『ヒスイのすがた』の写真か何か、見せてくれたらさすがに察する。

いや、テレビかなにかで見たなら無理か。本当はずっと、私に伝えようとしていたんじゃ?

 

ヤバチャはなんであんなに欠けてたの?それに、本当にかけたポットで進化してくれる?

 

ゲンパチとリオは、なんで当然のようにしゃべれるの?本当にただのポケモンなの?

 

そういえば、アローラのみんなはヤバソチャのことよく知らないから色違いのこと何も言ってこないだけで、見る人が見たらすぐにわかることだし、悪い人に見つかったら襲われたりするのかな?そのとき私は、ちゃんと自分の身とポケモンたちを守れるだろうか?

 

みんなでジムリーダーを目指そうって言ったけど、私はシャンデラに頼り過ぎじゃないか?

スグリくんのときも、グラジオのときも、シャンデラが頑張ってくれたから勝てた。

今のところバトルで負けたことがなかったから自分は強いと思ってたけど、シャンデラが強いだけで、私なんか、大したことないんじゃないだろうか?

 

あの日、私が余計なことをしなかったら、もしかしたらミミッキュも色違いちゃんも、なんだかんだと言われながらも、うまく逃げきれて、今でもふたりで仲良く暮らしていたんじゃないか?

 

......フクスローはいつから『ヒスイのすがた』になりたかったのかな。

私がさも当然のことのように夢を語っている間、フクスローはずっとずっと悩んでいたんじゃないか?

それに気付きもしないで、フクスローを追い詰めるようなことを何度も言っていた気がする。

さっきだって、あんなに元気がなかったじゃないか。

 

私、これまで何をやってたんだろう。

 

「レイラ、どうした?」

 

パパの声のおかげで、ぐちゃぐちゃの頭の中に少しだけ、物事を思考する余地ができた。

 

「ボールが綺麗すぎて見とれちゃった。さすがパパ。ありがとう」

 

嘘は言っていない。パパは渾身のドヤ顔をしている。

馬鹿正直に真正面からつっこんで、自ら海に落っこちに行ったと言っても過言ではなかったあの日の私から考えれば、私も幾分か大人になった。初恋も始まったし。えへへ。

 

恋って、どういう順番で進めていくのが正解なのかな。女の子の方からガツガツ行ったら下品だと思われるかな。

グラジオは他にも仲がいい女の子はいるのかな。なんなら、お付き合いしてる彼女がいたりする?

 

......今のところ、私とグラジオはライバルだからな。あくまで、ライバルとして仲良くなるところから、探りを入れてみよう。

ヤバチャがポットデスに進化したら、グラジオに6対6のフルバトルを申し込んでみよう。

 

いや。フクスローはどうする?スグリくんとバトルしたとき、フクスローは痛い思いをしただけだった。

グラジオとのバトルしたときも、悩みもしないでフクスローをバトルに出さなかった。

きっと、またフクスローを傷付けるだけだって、わかってたんだ。

 

あぁ、ダメだ。私のトレーナー人生をずっと一緒にやってきてくれた初めてのポケモンのフクスローになんてことを。

自分がすごく悪い人のように思えてきた。

私のトレーナー人生、最初から全部間違っていた気がしてきた。

 

リオが教えてくれた事には本当に感謝してる。でも......

 

「あ。もしかして、掃除をサボったんじゃないか?」

 

ぎくり。あれ?気を利かせてくれたと思ったけど、ガチだった?

 

「その顔は図星だな?そんな子にポケモンは渡しません。はい、研究室に戻るよ」

 

パパはボールの置いてあるトレイを置いて、私を半回転させて背中を押した。ひぇー、パパ、ごめんなさい。

 

「リオも同罪だよ」

 

リオはしょんぼりしながらとぼとぼ着いてきた。リオ、ごめんね。

 

「さて」

 

パパは研究室の鍵をしっかり閉めた。

 

「わかってると思うけど、掃除なんかいいんだ。パパはいつもピカピカにしてるからね。でも、何かあったんだろ?正直に話しなさい」

 

え、やっぱりお掃除はいいんだ。わかんなかった。

でも、あんなに歪んだ顔でボールをにらみつけていたら、私が悩んでることなんか、パパにはおみとおしか。

 

リオは申し訳なさそうに「僕からお話した方がいいですか?」と聞いてくれたが、首を横に振った。

 

「そうか。じゃあリオは戻ってよし」

 

パパがリオをボールに戻したと同時に、さっき考えていたような事を話した。

 

「私、なにもかも間違ってた気がする。きっと私はダメダメで、ポケモンの気持ちを考えられない、悪いポケモントレーナーなんだ」

 

「......なるほどね」

 

パパは私の頭をぺしぺしと優しく叩いた。

 

「パパの自慢の娘の悪口を言う人は、例えそれがレイラであっても、パパは絶対に許しません」

 

なんだそりゃ。

 

パパは畳み掛けるように話し続けて、だんだんオタク特有の早口になっていった。

 

 

 

ゲンパチもリオも、間違いなくポケモンさ。リオがしゃべれるようになったのはママが不思議なチカラを持っていたからね。こればっかりは科学で説明出来ないから、そういうものだと思うしかない。

 

パパの手持ちの中で、ゴーストタイプのゲンパチが唯一しゃべれるようになったのも、自分でゲットしようと思わなくてもレイラの手持ちにゴーストタイプのポケモンが集まって来たのも、なにか、レイラにも不思議なチカラがあるからなんじゃないかと思ってる。

 

ゲンパチがいなかったら、パパは子離れできる気がしなかったからね。レイラに不思議なチカラがあって、本当に良かったと思うよ。

 

......ママがしんでしまったのは、今も思い出すだけで涙が出そうになるくらい悲しいけど、寂しくはないのさ。

ママの写真はいつも最高にかわいく微笑んでいるだろ?

怖がらないでほしいんだけど、レイラがお花をプレゼントした時はとびっきりの笑顔をしている。

レイラが海に落っこちたときは本当に悲しそうだったし、レイラが島めぐりの試練を受けに行ったときは、少し心配そうにしてたんだ。

 

レイラが不思議なチカラを使って、ママをずっとパパとレイラの近くにいられるようにしてくれているような気がする。

レイラの手持ちにゴーストタイプが集まったように、ほら、ママは幽霊......ゴーストだからね。

 

そうそう、ヤバチャなんだけど、確認してみたら底面のマークが薄れてシミみたいなっていたけど、間違いなく『しんさく』だ。

マグノリア博士が高価な『かけたポット』を送ってくれたのも、パパが送ったレイラの優しいエピソードを知って、心が動いたからだと思うよ。

 

シャンデラは確かに強いけど、そう育てたのはレイラじゃないか。ポケモンの強さはトレーナーの強さで間違いないよ。

 

ヤバソチャなんて、レイラのところに来てくれたのは奇跡的だと思わないか?

あのタマゴからどんなポケモンが孵化したとしても、レイラは手持ちに加えただろ?それがゴーストタイプだったことだけでも、確率は......えーっと。単純計算だと7%くらいかな。その時点で、手持ちを迷わなかった方が幸運過ぎたんだ。しかも、色違いだった。

 

色違いと言えば、ミミッキュの色違いちゃんね。確かにあの場にレイラがいなかったら......もしレイラが飛び出していかなかったら、もっと別の未来があったのは間違いないよ。

それが今より良いか悪いかなんてわからない。でも少なくとも、ミミッキュがあんなに楽しそうに忍ポケダンスを踊ることも、盆踊りのステージでオタ芸をして、大歓声を浴びることもなかっただろう。

 

パパはね、ミミッキュにはすごく親近感を覚えてるよ。悲しいことがあって、ひとりぼっちになってた。でも、レイラのおかげで毎日楽しそうだ。夢もできて、今度こそヤバソチャのことを守りたいと思ってるのも伝わってくる。

 

もしミミッキュもパパと似たような考えをしているのだとしたら、今、とっても幸せだと思うよ。

 

あとはそうだな。せっかくだし、天文学者っぽく、星に例えて、考えるヒントをあげようかな。

 

......星がみんな地平線を目指すように、何かに導かれるみたいに、いろいろな物事がレイラに絶え間なく向かってくる。良いことも、悪いことも全部ね。

 

レイラは地平線みたいに、時間と共に刻一刻と迫ってくる全ての星を受け入れていくしかない。逃げられないし、取捨選択することもできない。

 

でも、地平線もまた、ただの惑星の表面の一部でしかないんだよ。

 

つまり、星たちを受け入れている地平線であるレイラも、どこかの地平線に向かって星として歩み続けて、受け入れてもらっているわけだ。

レイラという地平線は、自らに届く全ての星の光を受け入れなければならないし、レイラという星の光が届く全ての地平線は、レイラを受け入れていくしかない。

 

そんなこと望んでないと思うかもしれないし、理不尽だけれども、宇宙はそういう仕組みになっていて、この宇宙に産まれた以上、そうするしかない。

 

しかも、今はまだ、お日様が出ていて、星の光を視認するのは難しいが、今も星たちは地平線を目指して進み続けている。

それと同じように、気付かないうちにすら絶えず物事を受け入れなければならない。

 

あと数十分もしたら日が沈んで星を見ることができるようになる。

視認できるようになったときや、受け入れてしまったあと、とんでもないひどい景色になっているかもしれないけれども、想像以上に素晴らしい景色が広がっていることもあるのさ。

そもそも星は美しいし、後者の方が圧倒的に確率は高いよ。

 

つまり何事も、なってみないとわからないのさ。

 

これまで気付かなかったのは、良くないことかもしれないが、大した問題じゃない。

覚悟や準備できるかできないかくらいの差でしかない。必ず、お互い受け入れなくてはならないからね。

 

どちらにせよ時間になればフクスローの進化については、決断しなくちゃならないようになっている。進化しない、という選択肢も含めてね。

 

そうやって森羅万象は回っているのさ。

 

じゃあ今、何ができるか。

 

頑張って進む星を、応援すること。

危険な星に対しては、備えておくこと。

星として輝いて、喜んで受け入れてもらえるようにすること。

地平線のその先に、希望を見出すこと。

このくらいだ。

 

自分とフクスローを信じて、とにかく進むんだ。レイラもフクスローも、一生懸命に輝く星だからね。素晴らしい結果になる確率は相当高いと思うよ。

 

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