「話してくれてありがとう。リオも、通訳ありがとうね。フクスロー、これ、丸めちゃってごめんね」
フクスローに新聞紙を差し出すと、フクスローは新聞紙を無視して私に抱きついた。
「ロ......ロィ、ロァ」
「わぁ!そうだよ。レイラだよ」
たどたどしいけど、フクスローは私の名前を呼んだのがわかった。一生懸命話そうとしてる。
「ロィロァ、スクィ」
「フクスロー......!私もフクスローの事が大好き!」
リオは驚いている。
「レイラさん......!フクスローさんの言いたいことがわかるんですね!フクスローさんもたった1日でちゃんと伝わるように言葉を言えるようになるなんて、本当にすごいです!頑張りましたね!」
フクスローはやっと笑顔になった。かわいい。
「あのね、フクスロー。言葉がなくても、フクスローの言いたいことはある程度わかるよ。これからは隠さないで、いろんなお話しようね」
「スン!」
笑っちゃった。うん!が言えなくても、スン!が言えたら、うんとかスンとか言えるからね。
「伝えるのが難しいことはリオやゲンパチに通訳してもらおう。フクスローの進化先のことは、改めてゲンパチや手持ちのみんなと一緒に話そうね」
「スン、スン!」
パパは小さく拍手した。そういえば、パパもいた。
「仲直りできてよかった!パパはまだ少し時間があるから、急いで一緒にポケモンセンターに行こう」
そうだった。右手、痛い。
ジョーイさんに診てもらったら、幸い神経を痛めたりはしてなかったらしく、傷の処置だけで済んだ。全部で21針縫った。痛かったし、今も痛い。
そのあとパパは大急ぎで仕事に行って、私は部屋でゴロゴロしながら『ポケモンお悩み相談所』の他の人の書き込みを眺めて時間を溶かしていた。
そこで、気になる質問を見つけた。
..........
実物提示教育係:時空の裂け目に入ったらどうなりますか
ウルトラモン:一昨日パシオに出たらしいね。ウルトラホールみたいなもんなんじゃ?異世界と繋がってる的な。
実物提示教育係:ウルトラホールってなんですか
XYZ:自分で調べてクレベース
実物提示教育係:ごめんなさい
..........
ひどいなぁ。教えてあげればいいのに。
ウルトラホールは、稀にアローラに現れるブラックホールみたいなものだ。ポケモンのような、ポケモンでないような『ウルトラビースト』と呼ばれる生命体が住む異世界と繋がっているとかいないとか。
ルザミーネさんは『ウルトラビースト』について調べてるみたいで、それでパパと協力して何やらやってるみたい。
でも、『ウルトラビースト』はすごく凶暴で危険だから、アローラの人は子供の頃からウルトラホールが現れたら絶対に近付かず、すぐ国際警察さんに通報するように教育される。
最近は他の地方にも出現する可能性があるとかで、世界中に啓蒙活動をしてるって聞いたけど、やっぱりまだ認知度が低いのかな。
..........
レイちゃん:ウルトラホールは、危険な生き物が住む異世界と繋がっているとされる不思議な穴です。アローラでは何度か目撃されています。
実物提示教育係:そこに入ってしまうとどうなりますか
レイちゃん:誰かが入ってしまったと言う話は聞きませんが、噂によると、異世界に送られて帰って来られないとか、帰って来られても記憶が消されるとか......。
実物提示教育係:じゃあ時空の裂け目も入った人の話はないんですか
レイちゃん:それはわかりません......。
XYZ:ヒナギク博士が調べてくれてるから、解明されるのを待っててクレベース
実物提示教育係:わかりましたありがとうございました
..........
実物提示教育係さん。ネットに不慣れなのかな?
一瞬、小さい子どもを想像したけど、もしかしたらすごくお年を召しておられるのかも。
時空の裂け目。時空。時間と空間。
都合よく、過去の時代の空間がまだ存在してたりとかしないかな。
パパなら何か知ってるかなぁ。
......パパは19時頃帰るって言ってたな。そろそろ夕飯の用意しようかな。
夕飯が出来上がった頃、パパはやたらご機嫌で帰ってきた。パパの好きなぶり大根を作ったからかな。
食事を終えたあと、早速聞いてみた。
「パパって『時空の裂け目』って知ってる?」
パパは少し驚いたような顔をしたあと、ニコニコしながら早口で話し始めた。
「一昨日、パシオの上空に現れた亀裂のようなもののことだね。パパにも研究依頼が来ていてね。ちょうど今日、時空研究所とその件について意見交換をしてたんだ。レイラも天文学に興味がでてきたのか?」
「そんなんじゃないよ。今日、ネットで見て、ちょっと気になったんだ」
「それを興味がでてきたって言うんだよ。パパ嬉しい!もっとレイラが興味持つように特別な秘密を教えちゃおうかな!」
「え、なになに?」
「大事件があったのさ。内緒の話ね。実は時空の裂け目から......」
ピンポーン
早押しクイズみたいなタイミングでチャイムが鳴った。
「おとどけものでーす」
あ、もしかして!
パパを放置して急いで玄関に向かった。
「レイラさん宛のお届けものでーす」
発送元は『ガラルポケモン研究所』。つまりこの荷物は......『かけたポット』だ!
ミミズズが這ったみたいな適当なサインをして受け取る。
「パパー!ポット届いたー!ヤバチャに見せてくるー!」
パパのいるダイニングに向かって大声で言いつつ、落としたりしないように慎重に部屋に運んだ。
厳重に梱包された中身を取り出すと、可愛らしいポットが出てきた。すかさずヤバチャが勝手に飛び出してきた。
「ヤバ!ヤッバー!」
ヤバチャは転がりながら大興奮している。
「このポット、ヤバチャ好きかな」
「チャ!!!」
ヤバチャがポットに触れた瞬間、光に包まれて、ポットデスに進化した!ポットデスはフワッと浮き上がったあと、くるくる回ってみせた。
「やった......!やったー!よかったね、ポットデス!」
「デスデス!ポッスー!」
ポットデスは嬉しそうに部屋の中を飛び回っている。
本当によかった。よし......!パパにも見せよう!
ダイニングに戻ると、パパはぼーっとしていた。さっきの話聞いてあげないと。パパごめん。でもそれより......!
「パパー!ヤバチャ進化したー!ポットデスになったー!」
ポットデスはパパの前まで飛んでいって、ドヤ顔した。
「あ、あぁ!おー!すごいじゃないかー!よかったね!」
「うん!マグノリア博士にお礼のメッセージ送りたい!」
「そうだね、それがいいね。この間、転送したメッセージに返信したらいいよ」
「ポットデスと私とパパの写真も送ろうよ!」
パパは一瞬すごく嫌そうな顔をした。
「パパが撮ってあげるからさ。パパは写らなくていいよ」
それっぽい事を言ってなんとか回避しようとしている。なんとなく、わかってた。
「あ、パパ!あれ見て!」
パシャ
「え、何?レイラのスマホロトム?」
スマホロトムは私の元に戻ってきた。
さっき、スマホロトムに私とパパとポットデスの写真撮りたいって言っといたんだよね。
「パパ、変な顔!マグノリア博士に送ろっと」
「なっ......!?やめなさい!わかった!撮ろう。きちんとしないと......今からスーツに着替え......いや、白衣の方が......」
パパはすごくめんどくさい感じになった。
「パパとマグノリア博士、何があったの......?」
「聞かないでくれ......。誤解の無いように言っておくと、お優しくて気遣いのできる、人間性も素晴らしい方なんだよ。本当に......本当に大きなお世話になりました」
パパが壊れた。大きなお世話って......。悪い意味だよ。
「......わかったよ。もう私とポットデスだけで撮るよ」
「うんうん、冴えない中年の写真なんて送っても仕方ないよ、うん」
パパが自分をこんなに卑下するとか、とんでもない何かをしでかしたんだな。パパの完璧じゃないエピソードってあんまりないから、ガラルに行ったらマグノリア博士に直接聞こう。
とりあえず、ポットデスとツーショットして、メッセージを送った。
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マグノリア博士
お世話になっております。シナミ シュウシの娘のレイラです。
つい先程『かけたポット』が届きました。
先日、件のヤバチャは私の手持ちになりましたので早速ヤバチャに渡したところ、無事にポットデスに進化し、元気に飛び回れるようになりました。
秋頃に父を引きずってガラルまでお礼に伺います。
取り急ぎ、メッセージにてお礼させて頂きます。本当にありがとうございました。
シナミ レイラ
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レイラさん
素敵なお写真ありがとう。
話には聞いてましたが、レイラさんは本当にお母さんにそっくりですね。
お会いできるのを楽しみにしています。
お父さんにも、くれぐれもよろしくお伝えください。
マグノリア
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「パパ、マグノリア博士が『くれぐれもよろしく』だって」
パパはおくびょうなメッソンみたいになってた。
「そういえば、パパがさっき言いかけた秘密ってなんだった?」
パパは急にしゃっきりした。
「そうそう!よし、座って話そう。何か飲む?」
「いや、いいよ。早く教えてー」
「よぉし。内緒の話だからね。まずはそうだな。『時空の裂け目』の前提から順番に話そうかな」
パパはオタク特有の早口で、天文学者的に考えた場合、時空の裂け目がどのような物体と推測されるかを熱弁し始めた。
全然意味がわからなかったけど、所々理解できた部分があった。
パパは、時空の裂け目は強い重力で引き合う星団だと思っているらしい。
そして、ナントカ理論的に考えると、重力の強いところでは時間の流れが遅くなるらしい。
「もし、全く同じ星が複数出来上がって、それらが傾いた自転軸で回りながら絶妙なバランスでぐにゃぐにゃとひっぱり合っていたとしたら、時間の進行速度が違うパラレルワールドがたくさんあることにならないか?」
「わかんない」
そう言ったのに、パパは私を無視した。
「ヒスイ時代のシンオウ地方でも『時空の裂け目』が観測された記録があるんだ。名称については、この記録を残した古代シンオウ人がつけたものだ」
パパはわざとらしく咳払いをして「ここからは絶対秘密ね」と言って一呼吸置いた。
「実はね。パシオの時空の裂け目からふたり、人間が落っこちてきたんだよ。その人たちは、ヒスイ時代から来たと言っている」
「え!?タイムスリップ!?」
「あぁ。レイラより少し年上の男の子と女の子なんだけど、ぼんぐりのみからモンスターボールを手作りする技術をふたりとも持っていてね。動画で見せていただいたけど、あれは名職人でも再現が不可能な、現代では失われた技術だったんだ。だから、パパは彼らが嘘を言っているとは思えないんだ」
「でも、そんなの......。えー、本当に!?」
「彼らのいた世界は、こちらより時間の進みが遅くて、こちらから見ると昔の時代を過ごしていると仮定する。するとこの星も『時空の裂け目』の一部で、なんらかの理由により他の星が接近して上空で視認できるようになり、なんらかの力で他の星から彼らを引っ張り出してしまったとすると説明がつく」
「なんらかばっかりじゃん」
「それを解明するのがパパの仕事だからね。これから研究するんだ」
「ふーん......」
パパのテンションが上がるのに反比例して、テンションが下がってきた。
「よく考えてよ。彼らの元いた世界と行き来できるようになったら、フクスローをヒスイのすがたに進化させてから戻ってきてもらうこともできるかもよ」
「たしかに!」
俄然、興味が湧いてきた。
「そうそう。10年くらい前、現代から何億年もかけて変化していったとしか思えない......つまり遥か未来の遺伝子を持ったポケモンを連れてきた、とんでもない偉業を成し遂げた博士がいたんだよ」
フトゥー博士のことだ。
「その博士はエネルギー科学の博士だから、彼らを引っ張り出した、なんらかの力を解明するのに協力して欲しかったんだけど、数年前に亡くなられてね......。博士の遺した論文だけではわからない事が多いんだ」
フトゥー博士の研究......。あ、思い出した。
「神様がポケモンに与えたタイプという概念を変えちゃうテラスタルの力は、神様の力だから、それを物体に集めることで、別の時空の神様の作った物として今の時空から追放する、世界の自浄作用のエネルギーを使うんでしょ?」
「え......!あぁ......!なるほど、そういう事か!でも、なぜそれをレイラが知ってるんだ......?」
パパは訝しげに私を見ている。しでかした。フトゥー博士と会いましたってのは、なんか言っちゃいけない気がする。
「うーん。不思議なチカラのあるママと、博士のパパの娘だからかなぁ」
パパは「すごーい!娘は天才だー!ママもパパもすごーい!」と大はしゃぎしたあと、急におとなしくなった。
「そうだ。あとこれ、おみやげ。開けてみて」
『時空研究所』と書かれた封筒だ。中には......とびっきりの笑顔のモクローをだっこしたヒスイのすがたのジュナイパーの写真だ!
「これ......!」
「フクスローのひいおばあちゃんの写真。時空研究所に画像データがあったから、印刷させてもらったんだ」
「うわぁ......!パパ!ありがとう!フクスロー!出ておいで!見て!」
「フスロ......!」
フクスローは写真を見て、泣き出してしまった。
「よしよし。良かったね。持っておきな」
フクスローは少し躊躇った。
「......じゃあ、私が持っておくね。折れないようにしていつもリュックに入れておくから、見たくなったらいつでも見ていいからね」
フクスローは嬉しそうにとびはねて、ボールに戻っていった。
「......それはそれとして、パパは週明けからはパシオに出張して現地調査をすることになったんだ。週末には帰るからね」
「わかった。頑張って!私もフクスローのためにいろいろ調べてみようかな。何かわかったら教えてね!」
パパの研究、うまくいくといいな。