月曜日。
「じゃあ、パパ行ってくるからね。戸締りしっかりね。火元には気をつけて。あとは......」
「わかったわかった!パパもちゃんとごはん食べてちゃんと寝るんだよ。いってらっしゃい!頑張ってね!」
「ありがとう。いってきます!」
パパが見えなくなるまで手を振ってたけど、パパが何度も振り返ってなかなか進まないから腕が疲れた。
そんなことより、今日はついにグラジオとのデートだ!まだスクールに行く準備すらしてないけど、早くスクール終わらないかな。
準備をして家を出てみたけど、集合場所にはまだ誰もいなかった。いつも私が1番最後になることが多いのに、はりきりすぎた。
しばらくしたらリーリエちゃんが来て、そのすぐあとにマオちゃんとスイレンちゃんが遠くに見えて、走ってきてくれた。
「アローラ!ねぇねぇ、今日の放課後、スイレンと一緒にレモンクリームマラサダ食べにいくんだけど、レイラとリーリエも一緒にどう?」
レモンクリームマラサダ、今月末までの期間限定なんだよなぁ。すごく美味しいからたべたいけど......。
「ごめんね。今日は予定があるんだ」
「そっかー。リーリエは?」
「私も今日は予定があるんです。ごめんなさい」
「ざんねん......。じゃあまた今度ね。よし、スクール行こ!」
「「「ウルト......ラジャー!」」」
マオちゃんの号令で、みんなでウルトラジャーした。なんだかんだリーリエちゃんもノリノリだ。
スクールに着いてからもずっと、早く終わらないかなと思ってたけど、今日の授業はやたら長く感じた。やっと終わった。
「よし。私、急いで帰るね!また明日ね!」
そう言いながら小走りを始めて、スマホロトムを取り出し、グラジオに「スクール終わったよ」とメッセージを送った。
家までそんなに遠くないのに、ポケモンライドを呼んでおいた。
「リザードンさん、お家までお願い!」
一瞬で家について、準備を始める。服も選んでおいたし、お化粧も練習しておいた。と言っても、リップとチークだけだけど。
唇に桜色を乗せ、ほっぺをふんわり赤く染める。
それだけで、スクールで疲れた顔が嘘みたいにパッと元気に見えるようになった。
さて、グラジオからの返信は......もう来てた。
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時間があったのでハウオリシティにもう着いている。
準備ができたらすぐに迎えに行くから、また連絡をくれ。
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お待たせしてごめんね!準備できたよ!
ーーーーー
早いな。5分くらいで着く。
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グラジオも早くきてくれてたんだ。嬉しい。ドキドキしてきた。私、なんか変じゃないよね?
鏡の自分と睨めっこしてたら、チャイムが鳴った。ドアホンを見たらグラジオが写ってる。かっこいい。ふふふ。
「はーい!」
いきなりドアを開けたら、グラジオはびっくりしていた。
「うぉ!びっくりした。待たせたな。これ、そこのマラサダショップで買ってきたものだが、シナミ博士と召し上がってくれ」
グラジオは可愛い袋を渡してくれた。......マラサダ、4つくらい入ってるかも。
「ありがとう!でも、今日からパパは出張でいないの。揚げたてで食べたいし、一緒に食べよ!飲み物は紅茶とコーヒーどっちがいい?」
「なっ!?待て待て!レイラ、オマエ......自分が何を言っているのかわかってるのか!?」
「ほぇ?」と間抜けな声を出してしまった。
グラジオはめちゃくちゃ慌てると思ったら、決めポーズ......いや、頭を抱えている。
「レイラはオレをただの友人の兄だとしか思っていないだろうが、迂闊に男を家にあげようとするんじゃない。ましてや、今日はひとりなんだろ?無防備すぎる」
「え......!」
た、たしかに......!良くない、良くないぞ!
年頃の男女がひとつ屋根の下でふたりっきりは、良くない!一気に顔が真っ赤になっていくのがわかる。
「いや、オレはただの友人の兄だが......。その......。とにかく、それは好きにしてくれていい。早くショッピングモールに行こうか......」
「ごめんねっ」
私は慌ててマラサダをダイニングに置きに行った。少し迷ったけど、パパのために冷凍しておくことにした。
......いや、待てよ。でもそれってつまり、グラジオも私を『女の子』として見てくれてるって、そういうこと!?顔からはじけるほのおが出そう。
落ち着け。平然としろ。変な子だと思われちゃう。深呼吸して、玄関に戻った。
「ごめんね、行こっか」
「あぁ......。わかってくれてると思うが、オレは......クッ、とにかく早く行くぞ」
グラジオはさっさと歩き始めた。
直視できなかったけど、グラジオも顔が真っ赤だった。
「ところで、母さんへのプレゼントは何か目星をつけてくれてるのか?オレは何も思いつかなくてな......」
「うん、お化粧品とかどうかな?お化粧品売り場にとっても素敵な店員さんがいるの。ルザミーネさんの写真を見たら、似合う色をオススメしてくれると思う」
「それは......レイラと一緒に買いに行ったのがバレて......!いや、母さんはむしろ喜ぶかも知れないな。母さんがオレやリーリエ以外の人間にあんなにべったりしているのは見た事ないしな......」
「グラジオさえ良かったら、私も選ぶの手伝ったの伝えてよ。私、ルザミーネさん大好き。私にもルザミーネさんみたいなママがいたらいいのにな〜」
「そうか......。すまない。レイラはシナミ博士とふたり暮らしだったな」
「あ、全然!そういう意味じゃないよ!」
それに、ルザミーネさんにお義母さんになって欲しいとか、そういう匂わせなわけじゃないんだからねっ!
「フッ......。オレには父さんがいないからな。変な親近感が湧くよ」
そういえば、リーリエちゃんがルザミーネさんのお腹の中にいるときにお父さんが亡くなられたってことは、グラジオはきっとお父さんのこと覚えていられるくらいの歳だっただろうな。
ちょっとしんみりしちゃったけど、グラジオが気を利かせてくれて、ポケモンバトルの話題に変えてくれたから、やっと変な空気にならずに済むようになった。
やっぱりグラジオはデートとか慣れてるのかな。
ショッピングモールのコスメ売り場に着いた。
「ここはオレが入っていい空間ではないな......。すまないが、オレはここで待っててもいいか?」
グラジオはベンチに座った。えー。じゃあこの間の店員さんとふたりで選ぶからいいもん。
「あ、この間のお客さん。いらっしゃい」
タイミングよく店員さんが声をかけてくれた。
「あ、店員さん!こんにちは!......じゃあ私、選んでくる......」
グラジオは急に立ち上がった。
「プルメリ......!?」
グラジオは逃げ出した!
「あんたは......グラジオ!?」
店員さんはグラジオと反対方向に逃げ出した!
え、知り合い?
なにこれ。どうしよう。ひとりになったぞ。
とりあえず......グラジオを追いかけよう。
「グラジオー!どうしたのー?さっきの店員さん、知り合い?」
グラジオはコーヒー豆を噛み砕いたみたいな顔をしている。
「あぁ......。ちょっと会いたくないヤツでな。アイツは母さんのことも知ってるし、別の物を買おう。そうだ、アクセサリーとかどうだろうか」
「うん、いいかも」
言い終わらないうちにグラジオが歩き出したので、とりあえずついて行く。
お母さんを紹介する仲なのに、会いたくないの?それに、グラジオも店員さんも、あの反応......。きっと、何かあったんだろうな。
......もしかして、元カノ、とか?
店員さんはオシャレでかっこいいし、グラジオと並んで歩いてたらお似合いかも知れない。
元カノくらい居て当然だよな。でもなんか、やな感じ。
「さて、アクセサリー売り場に着いたわけだが。思ったよりたくさんあるな......」
私は気を取り直して、目の前のショーケースをにらみつけた。そのうちのひとつが、ビビっときた。でも、とりあえず店内を回ってみる。
「ふむ。真紅の宝石か......。なかなか良いな」
グラジオが深い赤色の宝石のネックレスをしげしげと見ている。
「わぁ!かわいいね!それにする?」
「いや、これはオレの趣味だ。母さんのイメージとは違うな」
「そっか。じゃあ、やっぱりこっち。絶対これがいいと思う。間違いない!」
私は最初のショーケースに戻って、黄緑色の宝石が4つ並んだネックレスを指さした。
「ほう。そこまでか。何か理由でもあるのか?」
「8月の誕生石って、このペリドットっていう宝石なの。自分の誕生月の誕生石を身につけると、幸せになれるんだよ。それに、ルザミーネさんの瞳みたいな色でとっても綺麗だし、リーリエちゃんもグラジオも、同じ瞳の色してるよね」
私はグラジオの瞳をじーっと見つめた。うん、やっぱり同じ色。澄んだ黄緑色の中に、私の姿が浮かんでる。
「そ、そうだったか。自分ではわからないもんだな。そういえば、父さんも黄緑色の瞳をしていたな......」
「そうなんだ!この宝石たちも、家族って感じでルザミーネさんにピッタリだね!」
グラジオは「ぁぁ......」と言って目を逸らした。あれ。もしかして今、見つめ合ってた!?やだ、恥ずかしい!変な汗が出る。お化粧が崩れちゃう。
「あ、えーっと、グラジオは誕生日いつ?」
「7月13日だが......」
「じゃあ誕生石はルビーだ。これ。うん、似合いそう」
鮮やかな赤色の宝石を指さした。
「オレはさっきのルビーの方が好みだ」
「ざんねん、さっきグラジオが見てたのはガーネット。私の誕生石でしたー」
「そうなのか?難しいな......。レイラが選んでくれて良かったよ。母さんが幸せになれるといいな......」
グラジオは決めポーズをした。かっこいい。
「決まってよかった!よし、私、ちょっとお手洗い行ってくるね」
「わかった。会計が終わったらここで待っている」
変な顔になってないかな。お化粧って大変だな。
お手洗いで鏡を見たら、ほっぺが緩みっぱなしのニヤニヤした私が映っていた。
お化粧は大丈夫だったけど、こればっかりはどうしようもない。
お化粧が落ちないように顔をむにむにマッサージして、グラジオのところに戻った。
「グラジオ、お待たせ!もうお会計終わった?」
「あぁ、ラッピングもしてもらった。母さんも喜ぶだろう。感謝する。さて、帰るか。家まで送っていく」
グラジオはさっさと歩き始めたから、慌ててついて行く。
外に出ると、綺麗な夕焼けになっていた。授業はあんなに長かったのに、あっという間に時間が過ぎてた。
グラジオと話して歩いてるだけで、どんどん夕日が沈んでいって、うっすらと星が見え始めた。
絶対、時間を司るポケモンがいたずらしてる。ちくしょーめ。
家が近くなるにつれて、すごく寂しくなってきた。今日からしばらくパパもいないし......。
絶対今ショボーンの顔文字と同じ顔になってる。恥ずかしいけど、どうにもならない。
グラジオは「フッ......」と笑って決めポーズした。
「そんな顔するな。夜、もしひとりで不安だったらいつでも連絡してくれ。オレは夕方から夜の方が都合がつく」
我ながらひどいニヤニヤ顔になってる気がする。します。連絡します。
「えへへ......。グラジオみたいな頼れるお兄ちゃんがいるっていいね」
あっという間に家の前に着いちゃった。
「グラジオ、送ってくれてありがとね。じゃあ、また......」
「待ってくれ。これ、今日のお礼だ」
グラジオはラッピングされた小さな箱を差し出した。
これ、グラジオが見てたネックレスが入ってる展開では!?やだ、少女マンガみたいにベタなやつだ。ベトベターくらいベッタベタだ!こういうの、憧れてた!嬉しい!
「ありがとう!」
グラジオに近付こうとしたけど、身体がふわふわする。浮かれすぎかな。やだ、どうしよう。地面が消えたみたいだ。
......いや、地面無くない?
私、穴の上に浮いてる。気付いたときにはもう手遅れだった。もう腰まで沈んでる。
「やだ!なにこれ!やだー!」
「レイラ!?」
「グラジオ!助けーーー」
グラジオは手を伸ばしてくれたけど、私の手はグラジオの手を掠めて、穴に吸い込まれてしまった。
海の次は穴に落っこちるのか。私の人生転落しすぎでしょ。
海はまぁ、別にいい。あれは私が考え無しに突っ込んだのが良くなかった。でも、いきなり地面が消えて穴になるのは理不尽すぎる。
それに、このタイミングはひどい。せめて、好きな人からのプレゼントくらい受け取らせてよ。
私が何したって言うの?今回は私、何もしてない。
強いて言うなら、パパに内緒でグラジオとデートしたけど、こんなの、あんまりだ。