「コウキさん、ヒカリさんこんにちは!......本当にテルさんとショウさんだ!お久しぶり!」
カイさんはすごく嬉しそうだ。
ハンチング帽の男の子がコウキくん、ニット帽の女の子がヒカリちゃんか。
後ろには......前にいるふたりにそっくりな男の子と女の子がいる!
テルくんとショウちゃんかな。
「わぁ......!カイさん!良かった!知り合いに会えて、安心しました......!」
ショウちゃんは泣き出してしまった。カイさんが優しく背中をさすってあげている。
ショウちゃんと対照的に、テルくんはかなり落ち着いた様子だ。
ヒスイの英雄さん。思ってたより普通の男の子だけど、お顔がそっくりなコウキくんより、なんだかつよそうなオーラが出てる。
「セキさん、お久しぶりです。おれたち、ここに来たと思ったらすぐに『時空の歪み』にのまれてしまって。ショウ先輩のポケモンはみんなボロボロで......。おれが頼りないばっかりに、すみません」
「なに!?こっちにも『時空の歪み』が出るのか!?」
「はい、ここはムラの外にも人がたくさんいますし、何も知らずに入ってしまったら大変です」
セキさんは何かわかったっぽいけど『時空の歪み』ってなんだろう。かなり深刻そうな雰囲気だけど大丈夫かな。
考えてみようとしたけど、すごい視線を感じて、ハッとした。
ヒカリちゃんが私の方をじーっと見てる。
「あ、こんにちは。初めまして。レイラです。今、アローラから時空の裂け目の研究に来てる、シナミって言う博士の娘です」
「あたしはヒカリ。そんな遠くから来たんだ!移動だけでも大変だったよね。それで、セキさんとはどういうご関係で......?」
......セキさんと手を繋いだままだった!恥ずかしい!一気に顔が赤くなっていくのがわかる。
「ん?オレもレイラとは、今朝初めて会ったばっかりだぜ?」
「えぇ!?セキさん、親密じゃない男の人と女の人が手を繋ぐのは良くないですよ!」
「ダメなのか?......すまなかった。こっちのルールはまだよくわかんなくてな」
セキさんは手を離してくれた。
「でもなぁ。レイラはなんかぼーっとしてて危なっかしいしな。そういうことなら、早いとこ親密になっておこうぜ」
一瞬、空気がフリーズドライされたみたいになった。ヒカリちゃんは口をぱくぱくさせてる。
「......あれ、やっぱりそういう感じなの......!?」
「違うよ!これパパに返そうと思ったのに、セキさんが早くしろって掴んできて......」
「セキさん、無理やり手を握ったんですか!?」
「ヒカリもレイラも、なんなんだよ。オレにもわかるように説明してくれよ」
ヒカリちゃんは一生懸命セキさんを説教していた。セキさんは反省したらしかった。
びっくりした。グラジオ以外の男の人にドキドキしちゃったじゃないか。ちくしょーめ。
その後みんなで改めて自己紹介をしたあと、キャンプに戻った。
「あなたたちが.......本当にコウキとヒカリにそっくりね」
ヒナギク博士は目をまん丸にしている。
「初めまして。ギンガ団のショウです。こちらは後輩のテルで......」
「ギンガ団ですって!?」
さっきの目はまん丸じゃなかった。今のがまん丸。
「はい、ポケモンの生態調査をして、共存を目指している団体です」
「......そうなのね。ごめんなさい。こちらにも同じ名前の団体がいるのでびっくりしてしまって。私はヒナギク。ここでバディーズ......ポケモンとトレーナーのキズナのチカラについて研究しています」
「ポケモンとのキズナ......」
ショウさんはなにか考え込んで、難しい顔をしていた。なんか、和ませよう 。
「あ、あっちでかげぶんしんしてるのが私のパパだよ。今変なスイッチ入ってるから、あとで紹介するね」
パパはかげぶんしんする勢いで動き回って、でっかい望遠鏡を組み立てている。ショウちゃんはそれを見て目をキラキラさせた。
「おぉ!あのカラクリはなんですか!?」
あ、そっちなんだ。
天体望遠鏡について説明したら、ショウちゃんは興味津々だった。
「あとで見せてもらおうよ!」
「いいんですか!?楽しみです!」
ショウちゃんはやっと笑顔になってくれた。良かった!テルくんはショウちゃんの笑顔を見て少し安心した様子だったけど、すぐに深刻な表情になった。
「あの......ヒナギク博士は『時空の歪み』はご存知ですか?」
「歪み......?ごめんなさい、教えていただける?」
テルくんは、時空の歪みについて説明してくれた。
突如、異空間が生まれて、そこに入ってしまったポケモンは凶暴化してしまったりして、非常に危険らしい。
テルくんが元いた時代では数分で消えるけど、今回パシオで巻き込まれてしまった時空の歪みは、かなり長い時間消えなかったようだ。
「そうなのね。パシオはポケモンを持っていない人や1匹しか連れてない人が多いの。すぐみんなに知らせないと.......。あなたたちはテントで休んでてちょうだいね。テントの中のものは好きに使っていいわよ」
そう言ったと同時に、ヒナギク博士はどこかに電話をかけ始めた。
テントと言いつつ、入ってみたら普通に私の部屋より広かった。ポータブル電源やウォーターサーバー、他にもなにやらいろいろあって、普通に生活できる感じだ。
クッションやイスがあったので、それぞれなんとなく座った。
カイさんはさっきから何か話したそうにうずうずしてたので、嬉しそうに話し始めた。
「ねぇ、テルさん。ジュナイパーって今一緒にいる?」
「はい。いますけど......?」
「レイラさんのフクスローの御先祖さまのお写真に、テルさんのジュナイパーが写ってるんだよ!レイラさん、さっきの写真見せてよ!」
写真をテルくんに手渡した。
今気付いたけど、テルくん、手にケガしてる。それに、古傷もたくさんある。
私がテルくんの手を凝視してるのにも気付いてない様子で、テルくんは写真を隅々まで睨みつけていた。
「......間違いない、おれのジュナイパーです」
テルくんはボールからポケモンを出した。これがヒスイのジュナイパー......!私の知ってるジュナイパーの何倍も下半身がたくましい。それに、顔に特徴的なキズ跡がある。フクコおばあちゃんの写真のジュナイパーさんと一緒だ。
でも、新しいキズもある。そうだ、ショウちゃんのポケモンもボロボロだって言ってた。
持っててよかった、キズぐすり。
「テルくん、ショウちゃん、良かったらこれ、ポケモンさんたちに使ってあげて。テルくんもひどいケガしてる。手当てしないと」
「ありがとう。おれは大丈夫。ニューラに引っかかれただけだし。このキズぐすり......うわ!ボタン押したらくすりが出るのか!科学のちからってすげー!」
「テルくん、そんなことより、早く手当てしないとダメだよ!」
ニューラは鋭いツメで攻撃するのが得意なポケモンだ。確かに少し気難しい子が多いポケモンだけど、人に攻撃するなんて......。
「ははっ!大袈裟だな、ツバつけときゃ治る」
セキさん、なんてこと言うんだ。笑ってる場合じゃないぞ。思いっきりにらみつけてしまった。
「おいおい、レイラ。そんなこわいかおするなよ。オレたちの時代では、俺のリーフィアやカイのグレイシアみたいにタマゴのうちから人間と一緒にいたようなヤツならともかく、基本的にポケモンは危険な奴ばっかりだ。ひっかかれたくらいで大騒ぎしてたら、ヒスイじゃやっていけないんだよ」
そんな。
私のケガは、フクスローがもしヒスイのすがたのジュナイパーに進化していたとしたら、良くて致命傷、運が悪ければ人間の形を保持できてなかったと思う。
ポケモンに攻撃されるのがよくあることだなんて、命がいくつあっても足りないじゃないか。
コウキくんとヒカリちゃんも驚いている様子だ。
......そういえば、記憶が親から子に遺伝する説みたいなのを聞いた事がある。
お花の香りを嗅がせてからごはんを出してあげることを繰り返したコラッタのタマゴから生まれた子は、自然とお花の近くでごはんを探すようになるらしい。
今の時代の人とポケモンたちは、仲良く共存することができるようになった先祖の記憶を持っていて、無意識下で、人とポケモンは共存するものだという前提を持って生まれてくるんじゃないだろうか。
もしそうなのだとしたら、私とフクスロー仲良くできているのは、テルくんがジュナイパーと仲良くしてくれているからかも知れない。
そんなことを考えていると、フクスローは勝手にボールから出てきた。
「フ......!フスロロ......!」
テルくんのジュナイパーを見て、感動に震えている。
「ジュ......?」
テルくんのジュナイパーは不思議そうにフクスローを見つめている。
テルくんはジュナイパーに写真を見せた。
「このフクスローのご先祖さまの写真なんだって。写真をこんな綺麗に現像するのは、ボクらの時代では無理だろ?でもこれは、間違いなくキミだ。それに、今より少し歳を取ってるように見えるよな。おれたちは未来に来てしまって、このフクスローはキミの子孫なんじゃないかな?」
ジュナイパーはテルくんが見せた写真をじーっと見つめている。
「......ジュ」
ジュナイパーは頷いて、フクスローの頭を撫でた。フクスローは泣き出してしまった。
「うわっ!フクスロー、ごめん!」
テルくんはボールを構えたけど、急いで止めた。
「ううん、嬉し涙だよ。フクスロー、フクコおばあちゃんにもこうやって頭を撫でてもらったんだって。きっとテルくんのジュナイパーが、フクコおばあちゃんにもしてあげてたんだろうね」
「そっか。......おれ、タイムスリップは2回目なんだ。元いたはずの世界からヒスイに行った時はほとんど記憶がなくて......。今回は記憶があってよかった」
テルくんは笑顔で写真を私に返してくれたあと、少し暗い顔をした。
ショウちゃんに比べてテルくんはこの状況でも落ち着いてるように見えたけど、何回体験しても、いきなり知らない場所に来たら不安だよね。
私はタイムスリップしたわけじゃないけど、海に落ちたり穴に落ちたりしてるから、少し気持ちがわかる。
突然、セキさんが「お!」と声をあげた。みんながセキさんに注目する。
「なぁなぁ。コウキとヒカリは親戚だったりとかしないか?」
「え!?違いますよっ!!」
ヒカリちゃんは何故かちょっと怒っている。
セキさんは、コウキくんとヒカリちゃん、テルくんとショウちゃんを順番に見回した。
「なんだ。テルとショウがくっついて、その子孫がコウキとヒカリかと思ったのに」
ショウちゃんは、たちまち怒った顔になった。
「ちょっとセキさん!変なこと言い出すのはやめてください!わたし、お慕いしてる方がいますので!」
「ショウ先輩......。へぇ......。そう、なんですね」
テルくんは帽子を深く被り直して下を向いてしまった。
待って。これ、テルくんはショウちゃんのこと好きなやつじゃん。セキさん、しでかしたな。
「......このキズぐすり、飛び散りそうだし、テントの中で使うの怖いな。外で使ってくるよ。ありがとう」
テルくんはジュナイパーをボールに戻すと、そそくさと出て行ってしまった。
「テル、待ってよ!わたしも使いたい!レイラさん、ありがとう!」
ショウちゃんはテルくんを追いかけて行った。
私もフクスローをボールに戻して、少し考えてみた。
うーん。それじゃあ「コウキくんとヒカリちゃんは付き合ってたりするのかな?」それなら、ショウちゃんの子孫がヒカリちゃんで、テルくんは今よりもっと未来からヒスイに行ってしまったコウキくんとヒカリちゃんの子孫だったりとかしないかな。
コウキくんとヒカリちゃん、テルくんとショウちゃんには、絶対に何かがあると思うんだよね。
はっ、しまった。今の、考えるより先に一部が声に出てたよな。やばい。やばいぞ。
コウキくんもヒカリちゃんも一気に顔が真っ赤になった。おぉ?これはもしかしてもしかする?
「えぇ!?違う!違うよ!ボクたちはそういうんじゃなくて......!ただの友達!」
コウキくんは首をぶんぶん横に振った。
「え、コウキ.......?あたしたち付き合ってるんじゃないの......?」
コウキくんは「えぇ!?そうなの!?」と言ってヒカリちゃんの方を見た。ヒカリちゃんの瞳が潤んで揺らめいている。
「あはは......。付き合ってると思ってたの、あたしだけだったんだ。あはっ、恥ずかしいなぁ......。コウキ、変なこと言ってごめんね。あたし、帰るね!」
ヒカリちゃんは走り去ってしまった。
「え......!ヒカリ!待って!!!!」
コウキくんはヒカリちゃんを追いかけて行った。
いたたまれない。いたたまれないぞ。私、完全にしでかした。穴があったら入って埋まってしまいたい。
そのまま飲まず食わずでミイラになるまで埋まり続けたら、即身仏っていう神様みたいなやつになれるってなんかの物語で読んだ。今なら私、神になれる。
カイさんは魂も抜け出たんじゃないかと思うような深くて長いため息をついた。
「......セキも、テルさんとショウさんは両想いなんだと思ってたよね?わたしも、早くお付き合いすればいいのにと思ってた。ショウさんのお慕いしてる方って誰だろう......?」
カイさん腕を組んで眉毛を八の字にしながらしばらく考えたあと、眉間にシワを寄せた。
「それにしても、コウキさん、ひどいな。わたしもコウキさんとヒカリさんは恋人同士だと思ってた。いつもいつもふたりでいるし、ヒカリさんが勘違いしちゃっても仕方ないことばっかりしてたぞ」
何故か、カイさんも泣き出してしまいそうだ。
「はぁ......。わたしも外の空気吸ってくるね」
カイさんはふらふらしながら出ていってしまった。
セキさんとふたりっきりにされてしまった。
しばらく呆然とする。
「なぁ、レイラ。オレたち、やっちまったな」
「やっちまいましたね」
「男女って難しいな」
セキさんは、何かのアニメの総司令みたいなポーズで深刻な顔をしてる。
全て我々のシナリオ通りにはいかないね。問題だらけだ。