その後はもう、いろいろとあった。
まず、テルくんが消えた。
矢の突き刺さったウエストバッグの腰紐は固く結ばれたまま残され、テルくん本人だけがその場からポンっと消え去ったとしか思えない状態だとパパが言ってた。
ジュナイパーはというと、ものすごくびしょ濡れだったけど、ポットデスとヤバソチャと一緒に元気いっぱいで私のところに帰ってきた。
ヤバソチャはジュナイパーがボールに戻るまで、必死でキラキラした液体をぶっかけ続けていたけど、とりあえずツッコミは後にして、ジュナイパーが無事だったのを見て、安心して嬉しくって思いっきり泣いた。
ヒナギク博士いわく、バディストーンが反応してポットデスが大量に噴射した液体の香りはパシオ全土に広がっていたようで、私とポットデスのキズナに反応して強化された『アロマミスト』のバディーズわざで、ジュナイパーを守ってくれたのだろうと言っていた。
ヤバソチャには、あとからゲンパチに事情聴取をしてもらった。
ヤバソチャは仲間を回復できる『いのちのしずく』というわざで、キズだらけだったジュナイパーを一生懸命回復していたけど、いつまでやったらいいのかわからなくなって困っていたそうだ。
あと、シャンデラとミミッキュは私の手持ちとしていつでも戦えるように準備を頑張っていたんだと必死でアピールしていた事も教えてくれた。
セキさんとカイさんは、ウォロさんやギラティナのことについて何か知っている様子だったが、何も話そうとしてくれなかった。
ショウちゃんがテルくんのポケモンを攻撃したことや、ウォロさんと一緒に裂け目の中に行ってしまったことについては、本当に信じられないと言った様子で、ひどくショックを受けていた。
コウキくんとヒカリちゃんは、すごく申し訳なさそうにしていた。
ヒカリちゃんがテントを飛び出していったあと、コウキくんがきちんと気持ちを伝えて正式にお付き合いすることになったらしく、私が人質になってる間ものんきにふたりでいちゃいちゃしていたらしい。
テントでの発言の真相をコウキくんにしつこく問いただしたところによると、コウキくんはヒカリちゃんに一目惚れしてて、なんならヒカリちゃんがコウキくんを意識するようになる前からずっと好きだったようだ。
でも、ヒカリちゃんは自分のことを先輩トレーナーとして慕ってくれているだけだと思い込んでいて、好きな事がバレてしまうとその関係を壊してしまうと思って、ヒカリちゃんへの想いを必死に隠しているつもりだったらしい。
それなのに、ヒカリちゃんを含め、コウキくん以外のみんなが付き合ってるものだと思ってしまうくらいのデレデレっぷりだったわけだ。
正式に付き合ったなら、コウキくんの愛情表現は大変なことになるだろうな。ぶっちゃけ羨ましい。
パパは、テルくんがいたはずの岩壁で小さく端正な字で『ありがとう また会おう』と掘られていたのを発見した。
私はテルくんは無事だったんだとわかって本当に嬉しかったけど、パパはこんなに硬い岩に小さな文字を綺麗に掘るなんて、素人では到底無理であると言って、かなり不気味がっていた。
とはいえ、裂け目が消えてしまって研究対象がなくなってしまったパパは、この文字について専門の博士に調べてもらえるよう、何やら証拠を収集して難しい資料を作成していた。
一段落して、パパと一緒にライヤーさまが用意してくれた部屋に帰ろうとしたら、チェッタさんとドリバルさんが待ち構えていて、問答無用でライヤーさまのところに連れて行かれた。
ヒナギク博士から連絡を受けて事の顛末を聞いていたライヤーさまは、豪華なイスに座ってふんぞり返っていた。
「シナミ博士、ご苦労であった!レイラサン、勝手に呼び出した挙句、危険な目に遭わせてしまって本当に申し訳なかったな!」
ライヤーさまはこれでも本当に申し訳なく思っているようで、アニメとかで悪い組織がお金をぎっしり詰めてる系のカバンにギチギチにお金を詰めていたので、必死に制止した。
ライヤーさまは何かお詫びをしないと気が済まないと言って駄々をこね始めたので、エーテル財団とキタカミの里に寄付して欲しいとお願いした。
「このオレ様が直々に、レイラサンに受け取って欲しいと言っているというのに、それでも受け取らないつもりか!?」
ライヤーさまはキーキー言っててとてもうるさかった。そうやって食い下がって困らせるところまでがオトナの様式美なんだろうけど、すごく面倒くさかった。
見かねたパパが「寄付の手続きや贈与税の負担を押し付けるなんて、本当に詫びる気があるのかなぁ」と大きな独り言を言うと、ライヤーさまはすぐ引き下がって、ドリバルさんがその場で寄付の手続きをしてくれた。
エーテル財団はきっと、もっとたくさんのポケモンを救ってくれるし、キタカミの里には『キタカミの英雄 アオイちゃん像』が建つだろうな。
そんなこんながあってパパも私もとっても疲れたので、自宅でゆっくり休んだ方がいいだろうということで、夕飯をごちそうになったら、特別にフーパのチカラでアローラまでワープで帰らせてもらえることになった。
荷物をまとめながら、やっと気になっていた事を聞けそうな雰囲気になった。
「ねぇ、パパ。私を助けてくれたとりポケモンさんってどんなポケモンなの?アローラでは見た事ないけど......」
「あの子は『フリーザー』って言うんだ。カントーの伝承に出てくる『伝説の三鳥』と呼ばれる3匹のポケモンのうちの1匹」
「へー。そうなんだ。......え!?じゃあ伝説のポケモンさんってこと!?」
「そうだよ。他の2匹も普段はマサラのおばあちゃんにボールを預けてカントーで自由に過ごしてもらってるけど、パパのポケモンなんだ」
「すごい......!パパ、伝説のポケモン持ってるんだ......!」
いつも自分のことを『最強』とか『天才』とかを付けてポケモントレーナーであると声を大にして言うくせに、パパはつい最近まで手持ちのポケモン1匹すらも私に見せてくれたことがなかった。
わざわざ他の地方の名門バトル塾から特別講師を頼まれるくらいだから、パパが強いだろうことはわかってるつもりなんだけど、実際どのくらい強いんだろう?
「レイラには話してないことがまだまだたくさんあるからね。パパって実はかなりすごいポケモントレーナーなんだぞ」
パパは「えっへん」と言いながら、ライヤーさまみたいな偉そうなポーズを取った。
すごく悔しいけど伝説のポケモンを3匹もゲットできるのは、本当にかなりすごい。
パパはどんな冒険をして強くなっていったんだろう?
「パパって、ママと知り合ってからの事はウザくらい事細かに話してくれるのに、ポケモンを貰ってから研究員になるまでのことはあんまり詳しく教えてくれないよね」
「......そう遠くないうちに話したいとは思ってるよ」
パパはさっきまでのおちゃらけた態度とは一変して、真剣な顔をしていたけど、目を合わせてくれなかった。
パパの冒険については今までも何度も聞いてきたけど、気付いたら話題を変えられていて、いつもはぐらかされ続けていた。
真剣に応えてくれたのは初めてだ。そろそろ黙ってその時を待つのがオトナってやつだろうな。
忘れものが無いか何度も確認してたら、チェッタさんが迎えにきてくれた。
言われるがままついていくと、ライヤーさまとドリバルさん、ヒナギク博士にセキさんカイさんがいた。
それと、長い机に見たことないような豪華な料理が所狭しと並べられている。
「ディナービュッフェを用意してやった。オレ様に感謝しながら自由に食べるがいい!飲み物はセルフでやれ!はーっはっはっは!!!!」
「やったー!ライヤーさま、ありがとう!」
みんなで会話を楽しみながら食事した。
カイさんは見かけによらず、山ほどお料理を取ってもりもり食べて、どれがどんな味だったかを熱く語ってくれた。
ヒナギク博士は料理の食材や味付けについて考察してて、チェッタさんが一生懸命解説してて、聞いててとってもおもしろかった。
パパとドリバルさんとセキさんはお酒を飲んでる。まずい。パパは飲みすぎると非常に面倒だ。
「パパ、飲みすぎると大変なことになるんだからほどほどにしておきなよ」
「わかってるよ。アルコールの摂取による酩酊状態というのは......血中アルコール濃度が......ので......つまり......」
ダメだ。言うのが遅かったらしい。
「シナミの旦那ぁ〜。飲んでる〜?俺もう3杯目〜」
セキさんは別のベクトルでかなりめんどくさいタイプっぽい。
「......うるせぇバカ」
「んぇ?」
「うるせぇバカ」
「うぇー!?ドリバルの旦那ぁ!今の聞いた〜?オレ、シナミの旦那から嫌われてんだよ〜。ひっでぇよなぁ〜。さっきなんか、テントから放りなげられたんだぜ〜?」
なぜかセキさんは嬉しそうだ。ドリバルさんは少しパパから距離を取って苦笑いしている。
ライヤーさまはひとりだけ別のテーブルでコース料理の前菜をちびちび食べながら、みんなの様子をジロジロ見ていた。輪に入りたいならそう言えばいいのに。
「ライヤーさまもこっちに来てみんなと食べようよ」
「オレ様はフルコースを堪能しているのでな。レイラサンのような庶民がオレ様のことを気にかけるなどいいご身分だな。勝手に自由に楽しんでいろ!」
「そっか。わかった。みんなー!こっちの机で食べよー!」
みんなが食事や飲み物を持ってぞろぞろと押し寄せてライヤー様を取り囲んだ。
「なっ......!なんだ貴様ら!!」
「勝手に自由に楽しめって言ってくれたじゃん。ライヤーさまも一緒の方が楽しいから勝手にみんな集まったよ」
「ぐぬぬ......!ここでは狭くてかなわんだろう!フン!庶民がこのライヤー様と共に食事できること、光栄に思うんだな!」
ライヤーさまが立ち上がると、メイドさんたちが嬉しそうにライヤーさまのイスや食事をみんなと同じテーブルに運んだ。
ライヤーさま、素直じゃないけどわかりやすいな。
「あーし、ライヤー様と一緒にお食事できるの久しぶりー!やったー!うれしー!あざーす!」
「若......素敵なご友人ができてよかったですね......」
チェッタさんもドリバルさんも、すごくうれしそうだ。
食事が終わったらデザートも出てきた。
つまり、もうそろそろお別れの時間だ。
突然パシオに来てしまって、パシオでまともに過ごせたのはたった1日だったけど、パシオのみんなと別れるのは本当に寂しい。
でも、グラジオも心配してくれてるだろうな。
私はグラジオに『今から幻のポケモンさんにワープさせてもらって、すぐにアローラに帰れることになったよ』とメッセージを送っておいた。
みんなと一通り別れの挨拶をしたあと、セキさんは改まって私に右手を差し出した。え?なに?
「なんだよ〜。最後に握手くらいはしてくれたっていいだろ〜?」
瞬時にパパがテレポートしてきて、とびきりの笑顔でセキさんの手をにぎりつぶした。セキさんは悶絶している。
「ありがとう、セキくんとカイさんが無事に元の時代に帰れるよう願ってるよ」
ヒナギク博士もお酒を飲んだのかと思うくらいお腹を抱えてゲラゲラ笑ったあと、まだ収まらない笑いをこらえながら私とパパの方をしっかり見た。
「テルやショウの行方やセキとカイを元の時代に返す方法は、引き続き責任を持って研究しますね。バディストーンは差し上げます。レイラとポケモンとのキズナのチカラは、また改めて研究する機会をちょうだいね」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「また来ます。皆さんもアローラに来る機会があれば是非ご連絡くださいね。よし、じゃあフーパくん、お願いしてもいいかな?」
「フーッ!パッ!」
フーパは輪っかをぶん回して気合いを入れている。が、その様子を見てライヤーさまがまたキーキー言い始めた。
「おい!フーパ、貴様ァ!真剣にやれ!シナミ博士とレイラサンを変な場所に送ったら承知しないからな!レイラサンが元いた場所にきっちり帰すんだぞ!わかっているな!?失敗は許さんぞ!!」
「フパッ!」
フーパが自信満々に輪っかを投げると、輪っかの中に大きな穴が広がった。
「みんな、本当にありがとう!また来るからねー!」
私とパパは足からゆっくり輪っかをくぐって、最後の最後までパシオのみんなに手を振った。