気付いたら、寝てしまっていたみたいだ。窓の外は真っ暗だった。時計を見ると、午前3時だった。12時間以上寝ていたようだ。
なんとなくテレビをつけてみると、ニュースがやっていた。ニュースの内容がめちゃくちゃだったので、多分これは夢だなと思って、テレビを消してベッドにダイブした。が、勢い余ってベッドのフレームにスネをぶつけた。
「......ってー」
痛い。スネってぶつけるとなんでこんなに痛いんだろう。多分アザになるだろうな。
......いや、痛い。これは夢じゃない。目も覚めた。急いでもう一度テレビをつけた。
深刻そうな顔のアナウンサーが重々しい声でニュースを読んでいる。
「カントー最強とされるトキワシティのジムリーダーの起こした重大な事件に、トキワシティ民は困惑している様子です」
画面が切り替わる。見慣れたトキワシティの夕暮れの景色だ。
「真面目で硬派な感じで、結構男前でしょ?後進の育成にも力を入れてて 娘が憧れてたんですよ。まさかポケモンを虐待していたなんて......」
「普段は寡黙な感じなのに、ポケモンにはかなり厳しいとっくんをしていたので、いつかやり過ぎるんじゃないかと思ってましたよ」
「息子さんがジムリーダーを継ぐことになったんですよね。小さい頃はあいさつしてくれるいい子でしたけど、ポケモンを虐待するような人のお子さんで本当に大丈夫なんですか?トキワシティ民からすると、不安ですね」
まさか。そんなわけない。俺は何か勘違いをしている可能性がある。でも思考しようにも、意識が混濁して遠くなっていく感じがする。
急に画面が切り替わってハッとした。
「ただいま速報が入りました。被害ポケモン3体のうち、1体の死亡が確認され、容疑を傷害罪から傷害致死罪に切り替えるとの事です。また、他2匹も依然、意識不明の重体です」
容疑者として、サカキのお父さんの写真が表示されている。
ニュースはハッキリとサカキのお父さんがポケモンを虐待して逮捕されたと言っている。
嘘だ。サカキのお父さんがポケモンを虐待?ましてやしんでしまうほどの?そんなわけない。絶対、何かの間違いだ。
パニックになってリモコンを放り投げたら、テレビの画面に当たってしまった。ものすごい音がして、液晶が割れて映像と音声が乱れる。
「シュウシ!どうしたの!?」
母ちゃんがすっ飛んできて、事情を察したのか、何も言わずに抱きしめてきた。
「大丈夫。大丈夫よ」
何が大丈夫だって言うんだ。サカキのお父さんが捕まって、サカキが悪く言われて、全然大丈夫じゃない。
そうだ、父ちゃんは何をしてるんだろう?
「父ちゃんは!?帰ってきた!?」
「ううん。でも、パパはママほどじゃないけど結構強いから大丈夫よ」
母ちゃんはいつも大丈夫だって言う。母ちゃんが大丈夫だって言った時に大丈夫じゃなかったことは無かった気がするけど、言い分はめちゃくちゃだ。
でも、考えることを放棄することにした。
「......わかった。母ちゃん、起こしてごめん。あと、テレビ壊してごめん」
母ちゃんはニコッと笑って部屋から出て行った。布団に潜ってみたら、すぐに意識はどこかに行ってしまった。
翌朝、チャイムの音で目が覚めた。父ちゃんが帰ってきたんだ。俺は急いで玄関にすっ飛んでいって、何も考えずにドアを開けた。
「おや。シュウシくんじゃないか。お母さんはお見えかな?」
父ちゃんじゃなかった。昨日の白衣の男。グレンジムのジムリーダーのカツラさんって言ったっけ。なんかこの人、怪しいし強引だし、嫌いだ。
「......なんの用ですか」
「お母さんに話しがあるんだ。呼んできてくれるかい?」
なんか嫌な予感がしたけど、母ちゃんが来てしまった。
「......帰ってちょうだい」
母ちゃんはいきなりキレている。やっぱりこの人、嫌われるタイプだな。
「おー。さすが元四天王様。すごい迫力だねぇ」
元四天王?母ちゃんのこと?知らなかった。すげー。
「なんの事かしら。私はただの祈祷師よ。とにかく、帰ってちょうだい」
「旦那さんが大変なことになってるので、お知らせにきたんだけど、じゃあ帰ります」
「お待ちなさい。どういう事?」
カツラさんは母ちゃんを無視して帰ろうとした。
「おいコラ、若ハゲ。無視するなんていいご身分だな。そのヤワな毛根の毛ぇ毟り取られてぇのか?おぉん?」
母ちゃんがキャラ崩壊した。母ちゃんは普段はすごくおだやかで、いつも明るい笑顔でニコニコしてる人だ。
確かに怒ると無言でシバいてきてすごく怖かったけど、今のは怖いの次元を超えている。
それと、確かにカツラさんはちょっと頭頂部が気になる。
カツラさんはわなわなと震えながらかなり憤慨した顔をして振り返ったが、すぐに態度を改めた。なるほど、母ちゃんは多分、マジで強いんだ。ポケモンも、多分本人も。
「......申し訳ありませんね。お子様に聞かせる話じゃないので、一緒に来てくれますか?」
「わかったわ」
母ちゃんはバッグを引っ掴んで出ていこうとした。
「母ちゃん!行かないでよ!!」
子供みたいに、思わず叫んでしまった。自分の声にびっくりして、ボロボロと涙が出てきてしまった。
「ママは大丈夫だし、パパも絶対大丈夫だから。いい子でお留守番してて。行ってくるね」
母ちゃんはいつもの優しい笑顔を作って、行ってしまった。
それと同時に、急に絶望的な気持ちになった。父ちゃんも母ちゃんもフーディンも、サカキもいない。ひとりぼっちだ。
静まり返った家。時計の針の音だけが耳を突き刺してくる感じがして、耳を塞ぎたくなるのに、動けない。
「ンガ!」
ゲンガーのゲンパチが勝手にボールから飛び出してきた。びっくりして我に返ったと同時に、ゲンパチは影に潜んで急に消えてしまった。
「あれ?ゲンパチ?」
キョロキョロしていたら、ゲンパチが変顔をしながらすごい勢いで目の前に飛び出してきた。
「ぷぎゃ!」
尻もちをついてしまって、思わず変な声が出て、笑ってしまった。ゲンパチはオロオロしていたが、笑わせてくれようとしたんだろう。
「ふふ......。ゲンパチ、ありがとうな」
元々ゲンパチも群れから追い出されてひとりぼっちだった。でも実際のところ、やんちゃで明るくて強くて元気で、今は手持ちのみんなのリーダー格になっている。
せっかちなところと、ニヤリと笑った顔が少しサカキに似てて、のんきな性格のカメックスのカメキチと一緒にいるところはサカキと俺みたいだ。
そう思っていると、カメキチも勝手に出てきて、甲羅に頭をひっこめたり出したりし始めた。
「あはは!カメキチもありがとう」
ゲンパチとカメキチと笑っていると、手持ちたちが次々と飛び出してきた。
サンダースのイブは尻もちをついたままの俺のお腹に飛び乗ってじゃれてきた。
「ぐえ!!進化してから体重が4倍になってるって言ったろ?」
イブは全然気にせず、頭をすりすりしてじゃれ続けている。
「トゲが!トゲがぁ......!」
イブの身体のトゲがチクチクする。
その様子を見たラッキーのキラは焦って次々とタマゴをうみ始めた。
「いや、意外と痛くない!大丈夫!大丈夫だって!!イブもキラも、ありがとう!!!」
急いで立ち上がってキラを落ち着かせると、今度はケンタロスのタローがずつきでじゃれてきた。来る気がしてたから身構えていて、なんとか受け止められた。家に被害がなくて良かった。
「もう、なんなんだよ......。俺がスーパーマサラ人じゃなかったらしんでるぞ」
イブとタローはしょんぼりしてしまった。
「スーパーマサラ人だから大丈夫って事だよ。タローもありがとうな」
みんな出てきてしまったので、ミニリュウのリュウタも出してみることにした。
「みんないいヤツだろ?俺の大切な友達だ。もちろん、リュウタも。リュウタにとっても、みんな友達だからな」
そう言うと、リュウタが顔面に向かって飛びついて、巻きついじゃれ始めた。
「ちょっと待って!スーパーマサラ人といえど、首締められたら無理だから!!」
リュウタは急いで足元に移動して、やっぱり巻きついてくるから、また尻もちをついてしまった。
「ぴょわ!」
また変な声が出た。みんな心配そうというか、申し訳なさそうにこちらを覗き込んでいる。
「あはは!!みんな、ありがとう。元気出たよ」
父ちゃんも母ちゃんも、サカキもサカキのお父さんも、きっと何か良くないことにまきこまれてる。
ひとりじゃない。みんなと一緒に、みんなのところに行かなきゃ。
「みんな、行こう!」
いつの間にか、ゲンパチがバッグを持ってきてくれていた。
「ゲンパチ、ありがとう」
バッグを受け取ってみたら、何か違和感があった。バッグの閉まりきっていなかったチャックの隙間から、何かがキラリと輝いた気がした。
バッグの中身を確認すると、ミュウがくれたにじいろのはねが1枚、キラキラと輝いている。
そうだ。サカキに渡さなくちゃ。サカキとちゃんと話して、一緒に行こう。
にじいろのはねは、なんだか温かいような気がした。ミュウもありがとう。
俺はトキワシティに向かって、駆け出した。