「ふー。話し過ぎて疲れちゃった」
パパは深呼吸みたいなため息をついた。
「ここからがパパの武勇伝になるんだけど、おじさんの武勇伝を聞くのは疲れるだろうから、続きはまた今度ね」
「わかったよ」
パパは本当に疲れた顔をしていたから、続きは気になるけどおとなしく頷いた。
それに、パパの言う通り、おじさんの武勇伝ほど疲れる話も珍しいからね。
「今日はもう遅いし、ここに泊まっていこうか。レイラはベッド使っていいよ」
そう言うとパパは頬杖をついてうとうとし始めた。でも、ちゃんとベッドで寝てほしかった。
「パパの方が疲れてるでしょ。パパがベッドで寝なよ」
「成長期のコドモはちゃんとベッドで寝てください」
「じゃあ一緒に寝ようよ」
「セミダブルだけど、おとながふたりで寝るには狭いよ」
つい3秒前までコドモ扱いしてたくせにズルいぞ。ちくしょーめ。
でも、パパは頑固だからな。なんとかパパをベッドに連れていくにはどうしたらいいだろうか。
「......まだコドモだもん。パパが怖い話するから寝れなくなったもん。一緒に寝て、背中ぽんぽんして」
我ながら傑作だ。でも、恥ずかしくなってベッドにダイブした。
とはいえ、パパの話は衝撃すぎたのと、小さい頃、パパがいつもしてくれていた背中ぽんぽんが温かくて安心して大好きだったのは事実だ。
「仕方ないなぁ」と言いながらパパも隣に寝そべって、背中をぽんぽんしてくれた。
あっという間にぽんぽんが途絶えてしまった。パパが寝ているのをしっかり確認してからこっそり抜け出して、机に突っ伏した。そしたら私もすぐに寝てしまった。
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あさのひざしが窓から入ってきて、目が覚めた。
「レイラ、アローラ!」
「パパ、アローラ!よく眠れた?」
「レイラのせいで、すっかりぐっすりだよ」
「やった!私の勝ち!」
「はい。負けでいいです。さて、ここには大した物もないし、朝ごはんは家で食べようか」
「えー。パパが研究の時に食べてる保存食あるでしょ?食べてみたい」
私はパパのこと、何も知らなかった。パパは生まれた時からパパだと思っていたけど、昔は普通の少年で、泣き虫で、将来に悩んでたんだ。
それに、普段のパパのこともよく知らない気がした。もっとパパの事を知りたい。
「成長期のコドモは、ちゃんとした朝ごはんを食べないとダメです」
そう来ると思ってた。私はもう、パパの言うこと聞いてばっかりのコドモじゃないぞ。くらえ。
「まだ疲れてるからもう少し休みたいけど、お腹空いたもん。疲れてお腹空いて、もう動けないもんっ」
「......ふふ。なかなかやるようになったね」
パパは棚から質素すぎる箱を取り出した。固形の携帯食料だ。初めて食べる。どんな味がするんだろう?
「いただきます!」
食感はなんだかねっちょりしていた。噛んでると更にねちょねちょしてくる。しかも味がほとんどしない。それなのに、飲み込んでみると嫌な感じだけが後味みたいな態度で口の中に残ってる。
感想をひかえめに言いたいところだけど、それすら困難なくらいにはマズすぎる。
パパは平然と食べてる。パパは普段からこんなマズすぎるねちょねちょを食べながら頑張ってるんだ。
「......パパ、もう少し良いもの食べなよ」
「何をおっしゃる。炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルがバランス良く含まれている、パーフェクトな食事だぞ」
「でも、食感も悪いし、全然美味しくないよね?」
「素早く片手でこぼさず食べれることを重視してるからね。研究中はこれが最高なんだよ」
「そっか。よかったね?」
パパはニコニコしてるけど、少し意地悪なオーラを発しながら私の反応を見ていた。
「......私が何を言いたいか、わかってるでしょ」
「もちろん。でも、レイラが食べたいって言ったんだから、残さず食べなさいよ」
えーん。ひどい。でも、パパの言う通りだ。見かねたパパがお茶を出してくれたので、無理やりお茶で流しこんだ。
「......ふぅ。ごちそうさまでした」
正直言って、全然ごちそうじゃなかった。私の顔を見て、パパは笑いをこらえている。やっぱりおいしいものが食べたいよ。
「そうだ。グラジオさんが手土産でマラサダくれたんだよ。冷凍してあるし、早く帰って食べようよ」
「残念だけど、この携帯食料はかなり高カロリーなんだ。数分したら満腹感が出てくるよ」
確かにかなり満腹な感じがして、だんだん吐きそうになってきた。でも、おいしいものを食べたい欲だけが残ってる。
「......うぅ。わがまま言ってごめんなさい。負けでいいです......」
「あはは!お昼はおいしいもの食べよう。マラサダはおやつの時間にね」
「はぁい」
やっぱりまだまだパパには敵わないみたいだ。
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家に着いた時、謎の達成感があった。
家に帰るまでがデートだからな。グラジオからのプレゼントを受け取れてたら最高だったんだけど。
でも、次のデートの約束の口実もできたし、早速グラジオに連絡してみよっと。
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おはよう!
昨日はびっくりさせてごめんね。パシオのおみやげを渡したいんだけど、都合が付く日はあるかな?
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ドキドキしながら送信する。恋って楽しいな。えへへ。
でも、しばらく経っても返事は来なかった。そういえば、グラジオは夕方以降の方が都合がつくって言ってたっけ。
日中は専務理事ってやつで忙しいのかな。グラジオは少し歳上だけど、私も数年後には仕事で忙しくしてるんだろうか?まだ全然想像つかないや。
ふと、昨日のパパの話を思い出す。
現実離れした話過ぎて別世界のことのように感じたけど、ロケット団のボスになってしまったサカキさんも、若ハゲの悪い人もジムリーダーだったんだよな。
本当はジムリーダーって、怖いお仕事なんだろうか?もっと詳しく知る必要があるな。そそくさと部屋に行って、ネットサーフィンを開始した。
以前もいろんな地方のジムリーダーを検索して調べたけど、ジムリーダーってキラキラしたかっこいいヒーローばっかりなんだと思ってたし、そう見えていた。
でも、悪い部分を探そうと思えば、黒い噂が山ほど出てきて、全員悪い人に見えてきた。
しかも、カントーのグレンジムのジムリーダーは、カツラと言う名前のつるっぱげのおじいちゃんだった。この人はパパが子供の頃から今もジムリーダーを続けていて、若ハゲから立派なつるっぱげに進化したんだ。
持病のせいもあるかもしれないけど、この人のせいで、パパの父ちゃん......マサラのおじいちゃんは若いうちにしんでしまったんだ。
おばあちゃんちに飾ってあるマサラのおじいちゃんの写真は、幸せそうな笑顔が素敵なイケメンだった。家族の幸せを壊した悪い人のはずなのに、ヒーローみたいな顔をして写真に写っていて、腸が煮えくりかえる。
ロケット団のリーダーのサカキさんがいたトキワシティの今のジムリーダーは......?見覚えがある。
シャインファイアの俳優さんのご友人だ。オーキド博士のお孫さん。
この人も悪い人だったりするんだろうか?じゃあ俳優さんやオーキド博士も?
いやいや、そんなはずは......。でも、わかんないや。マサラのおばあちゃんはちっちゃくて細くてか弱そうで、のんびりしててとっても優しいのに元四天王でめちゃくちゃ強くて怖かったらしいし、人は見かけによらないんだ。
ジムリーダーって悪い人がたくさんいるのかな。少し前はアナウンサーもやってる四天王の美人なおねえさんが悪い組織の幹部だったってニュースがやっててびっくりしたっけ。
じゃあ四天王も悪い人?パパの話からすると、チャンピオンだった人もきっと悪い人だよな。
そうだ。パパだって、今までも今もいろんなことを秘密にしてる。思ってもなさそうなことを言って人を丸めこんだりするし、ドリバルさんやセキさんに意地悪していた。
博士も悪い人ばっかりなのかも。
悶々としていると、グラジオから連絡があった。
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すまない。今週は少し忙しいんだ。レイラも今はしっかり休んだ方がいいだろう。
来週の金曜日なら夕方から空いている。
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ありがとう。お仕事頑張ってね。
お言葉に甘えてしっかり休んでおくよ。
じゃあ来週の金曜日ね!
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わかった。また迎えに行く。
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グラジオは優しいなぁ。
だんだん世の中が信じられなくなってきちゃってたけど、ルザミーネさんやグラジオは人にもポケモンにも優しくて、仕事を一生懸命に頑張ってたくさんのポケモンを救ってるかっこいいヒーローだ。
そういえば、私がジムリーダーになろうと思ったら他の地方に行かないといけないから、グラジオとは離れ離れになってしまうじゃないか。
そんなのヤダ。グラジオはきっとエーテル財団を継ぐんだろうから、アローラを離れるのは無理だろうし......。
やっぱり将来はグラジオのお嫁さんになってエーテル財団のお仕事を一緒にやったりして......。
いやいや、気が早すぎる。何考えてるんだ私。
インターネットで悪い話ばかり見ていると思考がおかしくなるな。
ルチアちゃんのPokeTube動画を見てメイクの勉強しよう。
やっぱりコスメ売り場の店員さんは頼りになるし、グラジオの元カノかもしれないけど、また会いに行こう。
そうだ。コスメ売り場のおねえさんを目指すのもいいな。
今すぐ夢を決めなくたっていいもんね。パパだってオトナになってからママと出会って急に博士になることを決めたんだし。
スクールを卒業するまであと1年半くらいしかないけど、あともう少しだけ将来を悩んでもいいよね。
パパのお話を聞けて良かった。次はいよいよ伝説のポケモンをゲットする大冒険の話かな。サカキさんのお父さんを助ける救出劇かな?
ふと気になってサカキさんのお父さんがどうなったのかいろいろ調べて見たけど、まだインターネットが普及してない時代の事件だからか全くと言っていいほど情報がなかった。
また悪い話を見ちゃったな。ネットサーフィンはこれだから良くない。
せっかくパパもおやすみなんだし、お昼ご飯は早めに作ろう。早くおいしいものが食べたいよぉ。
階段を降りると、パパは荷物を整理していた。
「パパ、お昼ごはん早めに作ろうよ」
「いや、デリバリーでピザ頼んだんだ。あと30分くらいで届くよ。無事に帰れたお祝いパーティだ!」
「やったー!デリバリーピザ、クリスマス以来だね!」
「明日のために今日のうちに荷物を全部片付けないといけなくて忙しいからなんだけどね。レイラも昨日きちんと寝られなかっただろうけど、おやすみは今日までって校長に連絡しちゃったから、しっかり休みなよ」
結局パパは今日も明日も忙しいのか。それに、そういえばまだ水曜日だった。来週の金曜日まで遠いな。
お昼ご飯を食べ終わったあと、私も荷物を整理することにした。
あれ。スマホロトムのバッテリーがない。
天文台の研究所で使って、忘れて来ちゃったんだ。
「パパ、天文台に忘れものした!取りに行ってくる!」
「明日パパが行くから取ってくるよ。何忘れたの?」
「スマホロトムのバッテリー!明日スクールに持っていきたいから今から行ってきます!」
「わかった。気をつけていってらっしゃい」