グラジオのおかげで、明確な目標が見つかった。
孤立してしまって悲しむ人や、お腹をすかせて苦しむ人を、少しでも多く助けたい。
そうやってみんなを幸せにして、犯罪に手を染めてしまう人を減らしたい。
それでも私利私欲のために悪さをする人はいるだろうから、そういう人は一度しっかりやっつけて、安らかに更生してもらうんだ。
「パパ、私ね。他の地方に行ってジムリーダーになって経験を積んだら、アローラに帰ってきてアローラにもポケモンジムを作りたいんだ」
「ほう。どうして?」
「アローラでもジムバッジを集められたらもっとアローラが賑やかになるだろうってのは当然のことだけど、孤独な人やお腹を空かせた人が公的に頼れる場所として、強くて優しいジムリーダーがいるジムを建てるの」
「素晴らしいじゃないか。明確な目標を持つのは大切な事だ。次はどの地方に行くか決めないとね」
「うん!」
パパは寂しそうな笑顔になった。
「正直、カントーはおすすめできないからね。パパとしてはホウエンのおじいちゃんのところに居てくれたら安心だけど......。その意見も考慮した上で、自分で決めなよ」
「パパありがとう!私がんばる!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
秋になって、ガラルのマグノリア博士のところに行った。パパはガッチリスーツに着替えて、終始ペコペコしながら怯えていた。
パパが研究員を目指し始めた頃オーキド博士はものすごく忙しくて、オーキド博士の紹介でマグノリア博士が勉強を見てくれていたらしい。
パパが勉強を始めてすぐに、名門のタマムシ大学に一発合格できるように教え込んだたんだから、相当かわいがってもらったんだろう。
マグノリア博士は私とポットデスに会えたことをすごく喜んでくれた。穏やかな優しいおばあさまに見えたけど......人は見かけによらないからね。
「そう。レイラさんはジムリーダーになりたいのね。では、シナミくんの研究所は今後どうするおつもりなの?」
「娘もあと1年半ほどでスクールを卒業しますので、それから後進の育成に力を入れる予定です。ありがたいことに既に数名、僕の下で学びたいと言ってくれている子がいます」
え、初耳。誰だろう?マーマネくんとか?
「あら。シナミくんは人気者ね。うちは息子に継がせる気満々だったんだけど、ある日突然、博士になんかなりたくないって逃げ出してしまったのよ」
「あぁ......。心中お察しします......」
パパは遠い目をしている。科学が苦手でごめんね。
「ふふふ。でも、孫娘が継いでくれて本当に良かったわ」
「ソニアさんも昔はおてんばなお嬢さんだったのに......。本当にご立派な博士になられましたね」
「そうね。孫は本当にかわいいわよ」
「僕はいなくてもいいです」
「え?」
「僕は、孫、いなくても、いい、です」
マグノリア博士は少しポカンとしたあと、机を叩いて大爆笑していた。パパの言い方が面白くて、私も爆笑した。
パパはムスッとしていじけていた。
その後、マグノリア博士がキャンプセットを貸してくれた。ガラルのトレーナーはキャンプでカレーを作るのが定番らしい。
キャンプの場所を決めてパパと協力してテントを建てていると、とてつもないオーラを放つ人が通りすがった。
あれは......間違いない。シャインメタル役のダイゴさんだ!
「パパごめん!」
私が支柱から手を離すとパパはテントの下敷きになってしまったけど、無視して全速力でダイゴさんを追いかける。パパ、本当にごめんね。
「シャインメタル役のダイゴさんですよね!?こんにちは!大ファンです!!!サインください!!!!」
「おや、嬉しいな。もちろんいいよ」
いつの間にかパパがすぐ真後ろいた。
「やぁ、ダイゴくん!久しぶりだね!天文学のシナミだよ。覚えてるかい?」
「わぁ!もちろん!本当にお久しぶりです!父がお世話になってます。ごめんね、ぼくの大ファンさん。大切な知人なんだ。少し話したいから待っててくれるかい?」
「いや、僕の娘だよ。最推しらしいから、飾る用と保存用で2枚サインしてあげて」
「え!じゃああの時の赤ちゃん!?こんなに大きくなったんだね。そう言われれば、レイさんにそっくりですね」
ダイゴさんは私をじーっと見つめた。まぢ無理。イケメンだ。超絶イケメン過ぎて恐ろしい。こんなイケメンを創造した神様の芸術センスにスタンディングオベーションしたい。神様、本当にありがとうございます。
「紙とペンはあるかな?」
「はいっ!」
サインには『レイラちゃんへ』と添えられていた。名前覚えててくれたんだ。イケメンは記憶力までイケメンなんだ。
「やった......!嬉しいっ!握手してください!なんならだっこしてください!!!」
「握手はいいけど、だっこはちょっと......お父様の前ではできないよ」
「おや、ダイゴくん。僕が見ていなければ、お年頃の女の子をだっこするのかい?」
パパはビキビキしている。
「トンデモゴザイマセン!」
ダイゴさんはひどく怯えている。完璧超人であるシャインメタルを演じてるダイゴさんも、ちゃんと人間だったんだ。
「あの!ダイゴさん!あれやってください!すごいやつ!」
「え、ちょっと......シナミ博士の前では恥ずかしいな......」
パパはニコニコしている。
「ダイゴくん。大ファンの前だよ?」
「あ、あー。そうですね。こほん。『結局!ぼくが!いちばん強くて......すごいんだよね!!!』」
「ぴゃー!!!!!!」
なんだかんだキメ顔とキメポーズもしてくれた。かっこよすぎて変な叫び声が出た。
「すっげー!さっすがシャインメタル!てっぺきで完璧だぁーっ!」
パパは一般人役のお決まりのセリフを言って大喜びしている。
「ちょっと!茶化さないでください!」
「何をおっしゃる。僕も大ファンだって言ったろ?」
「あ。あはは!一本取られました。レイさんがシナミ博士を好きになった気持ちがよくわかりましたよ」
「それはどうも。初恋の人を奪ってごめんね?」
「ちょっ......!そろそろ勘弁してください......」
ダイゴさんは顔を真っ赤にしている。
ダイゴさんとママは歳が離れてるし、ママが生きてた頃、ダイゴさんはだいぶちいさいコドモだっただろうけど......。ママが初恋の人だったんだ。ダイゴさんかわいいっ。
ダイゴさんの初恋は幼い想いだったかもしれないけど、初恋の人はパパと結婚しちゃって、若いうちにしんじゃったんだ。
胸がズキズキと痛む。グラジオが他の人と結婚したら......。あまつさえしんでしまったら......。
私、やっぱりまだグラジオのことが......。
「ところで、ダイゴくんがガラルにいるということは、ダイマックス鉱石を探しに来たのかな?」
「はい。ダイマックス鉱石は......で......だった可能性が......ゆえに......」
「なるほど。では......の可能性も......ならば......」
ダイゴさんもこういう感じの人なんだ。パパのスイッチも入っちゃったし。
「ねぇ、立ち話してないでさ。せっかくならダイゴさんも一緒にキャンプしながら話そうよ」
「さすがレイラ。名案だ。僕たち、キャンプでカレーを作るんだけど、ランチがまだならダイゴくんも一緒にどうかな?」
「え!いいんですか!?......いや、ありがたいご提案ですが、お恥ずかしながらぼくは料理はからっきしで、なんのお役にも立てませんので......」
「大丈夫。きのみを入れて混ぜる。ポロックのきのみブレンダーと一緒さ」
「では、お言葉に甘えさせていただきます。おなかすいた......」
ダイゴさんは超高速でカレーを混ぜてくれた。
ぐるりとかき混ぜるたび、ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!と謎の効果音が鳴り続けていた。
パパの作ったカレーはとびきり美味しかった。
談笑しているとき、思い切ってダイゴさんに質問をしてみることにした。
「ダイゴさんとママってどういう関係だったんですか?」
ダイゴさんは軽くむせてしまった。
「ごほん。あぁ......失礼。ぼくにとってレイさんは『憧れのご近所のおねえさん』だった。ぼくはトクサネシティの出身なんだ」
「そうだったんだ!」
パパもニコニコしながら話に参加してきた。
「ママはダイゴくんを歳の離れた弟みたいにかわいがってたみたいでね。ダイゴくんが幼稚園で描いてくれた似顔絵をずっと大切にしてたよ」
「えぇ!?そうだったんですか!?全然、描いたことすら記憶にないです!」
「女の子と小さな男の子が手を繋いだ絵に『れいねえちゃん だいすき だいご』って書いてあったよ。今も家にある」
「そうなんだ。ママの近くの壁に飾ってあげようよ!」
「いいね。そうしよう。額縁を用意しないとね」
「かんべんしてくださーい!」
あたり前だけど、ママにも、パパと出会ってママになる前の人生があったんだ。
ママ、一生懸命生きて、パパと出会って、私を産んでくれてありがとう。
マグノリア博士との出会いと憧れのダイゴさんとのキャンプは、とっても大切な素敵な思い出になった。
帰ってから、ダイゴさんの絵を立派な額縁に入れて、ママの祭壇の壁に飾った。印刷して、私の宝物コレクションにも加えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
冬になったあたりで、ゼイユちゃんから電話があった。
「てらす、久しぶりね!ちょっと聞いてよ。この間、キタカミに『パシ王子いやー』って変な名義で、ものすんごい金額の寄付金が来たのよ!」
ドリバルさんは『パシオの王子 ライヤー』とでも書きたかったんだろうけど、パパにビビって焦って変な名前で送っちゃったんだ。おもしろっ。
「それで、使い道をみんな考えてたんだけど、まずはてらすの歌を綺麗にレコーディングして、この先もてらすの歌で踊れないかって話になってんのよ」
えぇ!嬉しいっ!
「でも、アオイちゃん像は建てなくていいの?」
「何言ってんのよ。アオイは本人が来たらいいの。本当は毎年てらすが来てくれるといいんだけどね。それで、やってくれるってみんなに言ってもいいわね?」
ウケを狙ったのに、怒られちゃった。
「うんっ!もちろんやるよ!」
「よし。それでこそキタカミの『てらすさま』ね。詳細はまた連絡するわ」
「うんっ!」
「それで、てらすは元気してんの?最近変わったことはない?」
「あ、あのね。最近メイクの練習してるの!」
「何よ。好きな男でもできたの?」
「......うん」
「ふーん。......え!?ちょっと!!なんですぐにあたしに連絡しないのよ!詳しく聞かせなさいよ!」
私は簡単にグラジオとの出来事の経緯を説明した。パシオでのことは内緒にしたけど。
「そっか......。つらかったね。話してくれてありがと」
「ううん、友達のお兄ちゃんとのことだからこっちの友達には話せなくてさ。ゼイユちゃんが聞いてくれてよかった。すごく気持ちが楽になったよ」
「そういう時はすぐ連絡しなさいよ。友達でしょ?」
「そうしたかったんだけど、ナマコブシ電話にかけるの苦手なんだよね......」
「なによ。あたしのせいってこと?でも、確かに学園の寮にいることの方が多いわね......。いいわ。スマホ買ってもらうわよ。ダメって言われたら寄付金使ってやるんだから!」
「それはダメだよ。ゼイユちゃんに話したいことがあったら、まずはゼイユちゃんちのナマコブシ電話にかけるね」
「『てらすさま』がいつでもあたしとお話したいって寂しがってるって言ったら、寄付金でもなんでも使わせてもらえるわよ。てらすのせいにしてスマホ買ってもらうんだから、余計なことしないでよ」
「あはは......。そうそう、それでね。改めてジムリーダーを目指すことにしたんだけど......。フクスローがかくとうタイプのジュナイパーに進化したの。だからジュナイパーと一緒にジムリーダー試験が受けられないから、どうしようかなって」
「何言ってんのよ。パルデアのジムリーダー試験は、むしろ担当タイプじゃないポケモンを1匹連れてないと受けられないわよ?」
「......え!?なんで!?」
「パルデアのジムリーダーは担当タイプじゃないポケモンをエースポケモンして、そのポケモンを担当タイプにテラスタルしてバトルすんのよ。ジムリーダーになりたいなら、もっとちゃんと調べなさいよ」
「わぁ......!そうだったんだ!!!ねぇゼイユちゃん!さっきの話はやめた!私、スクールを卒業したら必ずパルデアに引っ越す!引っ越したら、毎年と言わずいつでもキタカミに行くよ!」
「それは嬉しいけど、来年はどうすんのよ?......あ。いい事思いついたわ。ふふふ......」
ゼイユちゃんがわるだくみしてる。なんだろう?
「あたしの作戦が上手くいったら、レコーディングはやらなくていいわよ」
「作戦ってどんな?」
「ナイショよ。でも、すぐにわかるようになるわ。ふふふ......。楽しみにしてなさい。それじゃガチャガシャズガン!ツーツーツー......
びっくりしたぁ。これだからナマコブシ電話は嫌いだよぉ。