真冬のとても寒い日、全校生徒を集めたスクール集会があった。
「あー。こほん。う゛ぇっ、ゴホゴホッ......。あー失礼。オーキド校長のありがたいお話じゃよ」
オーキド校長は生徒ひとりひとりに話しかけてくれるからこういう集会で話すことは珍しい。何があったんだろう?
「えー。来年度から、我がスクールは交換留学を初めます!お相手はなんと!ジムリーダーやチャンピオンはもちろん、世紀の大発見をした博士から伝説の料理人まで、多数の素晴らしい人物を排出している、超超超名門校......!パルデアのグレープアカデミーじゃ!!」
講堂の屋根が吹っ飛びそうなくらいものすごい歓声が上がった。
「我が校にはバトルの名門、ブルーベリー学園の生徒が留学にくるんじゃよ。留学生はそこで1年間過ごし......」
校長の話はもう誰も聞いていない。すごい!これは奇跡だ。春からパルデアに行って、オマケに名門校で学べる!行くっきゃない。やるっきゃない。
「静かにケケンカニ!みんな行きたいだろうが、留学に行けるのは1名なんじゃ。我がスクールとして恥ずかしくない、優秀な生徒を留学させたい」
全員スッと静かになる。ひとりしか行けないという事実と、オーキド校長のさむいギャグのせいだ。
「そこで、超超超名門校のグレープアカデミーの風習に倣い、ポケモンバトルトーナメント、学校最強大会を開催カイロスする!」
また歓声が上がる。そして、すぐ静かになった。
「希望者は同意書に親御さんのサインをもらって提出してくれたまえ。ワシからは以上、状態異常じゃ」
まばらな拍手が起こり、集会が終わった。
.......奇跡かと思ったけど、もしかして、ゼイユちゃんの作戦ってこれのこと?
おかねの力ってすげー。
教室に戻ってる間も留学の話で大盛り上がりだ。
マオちゃんは大興奮してとびはねている。
「グレープアカデミー!留学したいなぁ!パルデアのひでんスパイスでサンドイッチ作ってみたいっ!絶対参加するっ!」
「マオがんばれー。わたしはこっちに来る留学生さんと友達になりたいなぁ」
「私もそうしたいです!」
スイレンちゃんとリーリエちゃんは参加しないみたい。
「レイラはどうするの?「もちろん、絶対参加するよ!」
マーマネくんの問いかけに、食い気味で返事をする。
「ま、まぁそうなるよね。グレープアカデミーは憧れの博士の出身校だから行きたいと思ったけど......。レイラも参加するのかぁ......」
「負けないぞー!......ちなみに、憧れの博士って誰?」
「オーリム博士っていう古代についての研究をされてる方なんだ。あまり有名じゃない博士だけど、昔は天文学の論文を出してたんだよ。『星を知ることは古代を知ることだ』って名言は、天文学の一部の界隈でカルト的人気があるんだよ」
「ふーん?星と古代って何か関係あるの?」
「今夜空に見える星たちは実は何万年も前の古代に発せられた光が長い時間をかけて届いたから見えてるんだ。たとえば、100万光年っていうのは、光の速さで移動したときに100万年かかる距離のことなんだよ」
知らなかった。
「科学雑誌『ハードプラント』で一度だけ子育てと研究の両立の取材を受けてて、お子さんと一緒に写真が掲載されててものすごく美人でびっくりしたよ。それに、息子さんは天才児らしいよ。確かペパーくんって言ったかな」
うん、知ってる。
「お父さんも博士だからね。ペパーくんはいつかすごい博士になるんじゃないかと思ってる。ぼくらと同じくらいの年齢だし、勝手にライバル視してるんだ。もしかしたらグレープアカデミーにいるかもね!」
オーリム博士。フトゥー博士の奥様だ。なんだか切ない気持ちになる。
あと、何万光年って、時間じゃなくて距離なんだ。だからなんだってんだ。
カキくんは黙って難しい顔をしている。
「カキくんは......?」
「レイラ、すまないがこの大会だけは絶対に勝たせてもらいますよ。パルデアの伝統舞踊のフラメンコは、オレとポケモン達が憧れる、燃え上がるような情熱のダンスなんだ。本場で学ぶ機会を、絶対に逃すわけにはいかない」
カキくんはメラメラと燃えている。これは強力なライバルになるぞ。
でも私だって、絶対に負けられないもん。
家に帰ってすぐ、パパに留学の話をした。
「そうか、パルデアか。グレープアカデミーはタマムシ大学と並ぶ、超難関の超超超名門校だ。バトルに勝てるだけで行けるだなんて、こんなチャンスなかなかないね」
微妙に自分アゲ私サゲしてる感じがするけど、まぁいい。
「そうだよね!サインお願い!」
パパはイスに座って同意書の注意事項をしっかりと読んで、丁寧に机に置いてからペンを取った。
けど、フリーズしてしまった。注意事項はさっき読んだんじゃないの?ロード時間長くない?
パパはフリーズしたまま口を開いた。
「......レイラは、ポケモンバトル強いよね?」
「うん。私、強いよ。スクールの子たちに負けたことないもん」
「多分、優勝しちゃうよね?」
「もちろん、そのつもりだよ!」
「そうか。そうだよね。知ってた」
パパはロードに時間がかかりすぎだ。壊れたのかな。
「パパ......?どうしたの?」
「留学期間は1年だから、レイラはそのままスクールを卒業することになる。就職活動をパルデアですることになるって書いてあるんだ」
そっか。私ももうそんな歳になったんだ。
「もちろんレイラが望めばアローラで働くこともできるけど......。レイラの夢を叶えるなら、そのままパルデアで、まずはジムトレーナーを目指すのがいいだろう」
「それいいね。そうしたい」
「うん。だからね。サインするのが怖くなっちゃった。いつかレイラが家を出ていくのはわかってたけど、もう1年かけてなんとか覚悟を決めようと思ってたんだけど......」
パパの手が震えてる。私も不安になってきた。
パルデアに行ったら、もうこの家に住むことはなくなっちゃうかもしれないんだ。
パパはひとりで大丈夫かな。家事やお仕事は完璧だけど、ひとりでこの広い家にいるのはとっても寂しいだろうな。
私、パパに頼らずにきちんとやれるかな。確かに、怖くなってきちゃった。でも......。
「それでも私、行きたい!絶対絶対、行くんだもん!」
パパは私を見るとにっこり笑って、ゆっくりとペンを握り直して、同意書にサインしてくれ.....なかった。
「よしっ。明日の朝、3対3でパパとポケモンバトルしよう。そしたらサインしてあげる!明日は起こしてあげないけど、寝坊したらレイラの負けだからね!」
「えぇ!?起こしてよ!」
「家を出たらパパが起こしてあげられないんだから、それで寝坊する子はひとりではやっていけません」
ぐぬぬ。確かに。
起きれるか不安だし、朝まで寝ないでおこうかな。
「パパは寝不足のトレーナーに負けるほど弱くはないからね。しっかり寝なさいよ」
ぐぬぬー!確かにー!
エスパーされた。悔しいっ!
「やめとく?」
「ヤダ!やる!絶対勝つ!」
「じゃあ7時にお庭のバトルコートに集合ね」
「わかった!」
「よーし。パパはレイラの手持ちを知ってるし、どの子を出すかじっくり選んでこよーっと」
「え!さすがにそれはズルいよ!」
「ジムは担当タイプが決まってるだろ?1年半後にはジムトレーナーになってるって言うなら、対策されてあっけなく負けても言い訳にならないぞ」
ぐぬぬ......。ぐぬぬぬぬーっ!こんちくしょーめ!
翌朝、6時に起きて準備して、6時半にはバトルコートに向かったけど、もうパパは待っていた。
「よかった。ちゃんと起きられたんだね」
「絶対パルデアに行くもん。パパが相手でも、絶対に負けないっ」
「よし。じゃあ、やろうか」
パパは研究してるときよりも真剣な顔で、位置についた。
「よし。がんばろうね!ポットデス!」
「頼んだよ!カメキチ!」
カメックス。カメックスのカメキチくんって、パパの初めてのポケモン!?
「ポットデス!からをやぶる!」
ポットデスはからをやぶって本気モードになった。耐久力は落ちちゃうけど、ポットデスは持たせていたしろいハーブで下がった能力を元に戻した。
「カメキチ!ハイドロポンプ!」
強力な一撃だったけど、ポットデスはまだ余裕がありそうだ。
「本来はカメックスの方が素早いし、もう少し押せると思ったけど......。きちんと育ててあるね」
「当然っ!アシストパワー!」
本気のポットデスのアシストパワーはものすごくすごいんだぞ。並のポケモンならイチコロだ。
でも、カメキチくんは倒れなかった。やっぱりパパのポケモンだ。ものすごく強い。
「ハイドロポンプ!」
ポットデスなら大丈夫。さっきのダメージならギリギリ耐えられるはず。
でも、ポットデスは倒れた。
どうして......!?そうだ。カメックスはピンチの時にみずタイプのワザの威力が上がるんだ。
「特性 げきりゅう......!」
「ご名答!」
どうしよう。本気のポットデスが誰も倒せずにやられちゃった。いや、焦るな。カメックスはピンチなんだ。
「ミミッキュ!いくよ!」
「カメキチ、アクアジェット!」
先制技だ。すごく速いっ!ミミッキュのばけのかわが剥がされちゃった。
「ミミッキュ、シャドークロー!」
カメキチくんはギリギリ持ちこたえた。うそ。ダメージの計算を間違えたのかもしれない。どうしよう。どうしよう。ダメだ。落ち着け。
「......っ!かげうち!」
カメキチくんのアクアジェットより速くミミッキュが動いて、カメキチくんは倒れた。
カメキチくんを倒しただけなのに、汗が止まらなくて息が上がる。
「いいね。冷静な判断だ。リオ!思いっきりいくよ!」
リオだ。久しぶり。そういえば、グラジオもルカリオを持っていたっけ。グラジオのルカリオにも運良く勝てただけで......。なに考えてんだ。集中、集中!
「バレットパンチ!」
リオの強烈なバレットパンチを受けて、ミミッキュは悲鳴をあげながら転がって、ぐったりと倒れた。
ミミッキュ......。バレットパンチ......。
......色違いちゃん。
ぐったりしているミミッキュが、色違いちゃんのしょぼしょぼのばけのかわと重なる。
視界が歪んでいく。ダメだ。バトル中だ。絶対に泣くな。
「っあ.......。あぁ.......」
でも、言葉が出せない。足がガクガクして立っているのがやっとだ。
「レイラ?どうした......?」
リオは無傷だし、パパにはもう1匹ポケモンがいる。
私は、あの時よりは強くなったけれど、まだ弱っちくて、パパは本当に強い。
......でも、どうしてもパルデアに行きたい。
グレープアカデミーで学んで就職活動するのと、アローラのスクールを卒業してから引越しをして職探しするのとでは、夢を掴める可能性に雲泥の差がある。
色違いちゃんの為にも、負けるわけにはいかないんだ。
「......ジュナイパー!いくよ!」
「よしっ。リオ、れいとうパンチ!」
こうかはばつぐんだ。でも、ジュナイパーはギリギリのところで持ちこたえてくれた。
「3ぼんのや!」
効果はばつぐんだ。リオは倒れた。
「さすがレイラのジュナイパー。あの一撃を耐えるなんて......面白くなってきたね」
パパは見た事ないような不敵な笑みを浮かべている。
ジュナイパーはかなりのダメージを受けてしまっている。でも、相手によってはまだチャンスはある。諦めない。絶対に。
「さぁ、マリちゃん!勝つよ!」
アシレーヌだ。かわいっ。はじめまして。そういえばパパの手持ちにいるって言ってたな。
お互いがお互いの苦手なタイプを持つポケモンだ。すばやさも互角。一撃で決まる。勝敗は五分五分だ。
「リーフブレード!」
「ムーンフォース!」
倒れたのは......ジュナイパーだった。
「ジュナイパー!!!」
私はジュナイパーを抱きしめた。
「よく頑張ってくれたよ......。本当にありがとうね」
負けちゃった。悔しい。私、今まで誰にも負けたことなかったのに。
パパは本当に強かった。それに......
「パパ、本気じゃなかったよね」
「そんな事はないよ。手加減もミスもしてないし、全力でバトルした」
「そうかもしれないけど、タイプのバランスをもっとよくできたはずだし。パパにはもっと私の手持ちに有利な子がたくさんいるでしょ」
「......もう適当な発言でレイラをはぐらかすのは無理だね」
パパは私に勝てるチャンスをくれたんだ。それなのに、負けちゃった。
「......私、もっと強くならないとね。ポケモンセンター寄ってからスクール行くから、早く準備しないと」
「朝ごはん、急いで用意するね」
「ありがと......」
「あとこれ。忘れていかないように、すぐにバッグにしまっておいで」
パパが差し出した紙は、同意書だった。パパの堂々とした綺麗な字でサインがされている。
「え......?なんで?」
「ん?バトルしてくれたらサインしてあげるって言ったろ?負けたらサインしてあげないなんて言ってないよ」
「なにそれ!私、絶対パパに勝とうと思って、すっごいすっごい必死だったんだから!」
パパの肩をポカポカと叩く。
「あはは!肩凝りに効いていい感じ。言っておくけどパパは最強ポケモントレーナーだから、最初からこの先も、レイラはもちろん誰にも負けるつもりはないからね!」
パパは少年みたいなドヤ顔をした。ちくしょーめ。
「.......ねぇ、パパのアシレーヌってすばやさもしっかり鍛えてるの?」
「HPととくこうをしっかり鍛えてるけど、ほんの少しだけすばやさも鍛えたよ」
「ジュナイパーもそんな感じ」
「やるね。じゃあもしかしたらパパが負けてたかもしれないのか」
パパはすごく嬉しそうに、とびっきりの笑顔で笑った。
準備が思いのほか早く終わったので、ママにお花をプレゼントして、朝ごはんができるまでゆっくりお話しした。
「さっきね、初めてパパとポケモンバトルしたんだ。ママ見ててくれた?」
「パパって本当にとっても強いんだね」
「ママのリオもすごく強かったよ。強すぎてちょっと怖くなっちゃった」
「でも私、頑張ったよ。どうしてもパルデアに行きたいんだ」
「私、学校最強大会でも絶対勝つね。応援してて!」
ママはいつもと同じ笑顔で優しく微笑んでいた。