ついに、学校最強大会の日がやってきた。
学校最強大会は6対6のフルバトルだ。
初戦の相手はマーマネくんだ。
カキくんは......お互い勝ち上がったら決勝で当たるみたいだ。
マーマネくんはがっくりと肩を落としている。
「よりによって初戦がレイラかぁ......。頑張ってポケモン鍛えたけど、まぁ......レイラもそうだろうしなぁ」
「もちろんっ!絶対負けないよ!」
「でもぼくだってグレープアカデミーに行きたいからね。頑張ってみるよ」
カキくんはというと、黙って集中力を高めていた。
あっという間に開会式が終わり、マーマネくんとのバトル。
パパも応援に来てくれてる。大口叩いた手前、さすがにここで負けるなんてあってはならないというか、優勝以外ありえない。やるぞー!
......というわけでマーマネくんに勝ったんだけど、想像なんかよりすごく強くてかなりヒヤヒヤした。
「まぁ......まぁね。わかってたよ。レイラ、頑張ってね」
マーマネくんと握手した。
正直ナメてた。わかってたつもりだったけど、マーマネくんも本気だったんだ。最近私は調子に乗りすぎだった。
カキくんも他の子も全員仕上げてきてる。大丈夫だろうか。
2回戦、準決勝は他のクラスの子だった。勝つことはできたけど、やっぱりみんな強敵だった。あぁ。どうしよう。
でも、ポケモンたちもみんな、つらいとっくんも頑張ってくれた。
ジュナイパーと一緒に夢を叶えるにはパルデアに行くしかない。手持ちのみんなにそう言ったら、ジュナイパーはもちろん、みんなも限界まで頑張ってくれたし、今も頑張ってくれている。
私もみんなも、ジュナイパーのことが大好きなんだ。
優勝する。絶対に。
決勝の舞台に立った。
やはり相手はカキくん。
「カキくん......。対戦よろしくお願いします」
カキくんは全身から炎が出ているようなものすごい気迫で黙って私を睨みつけていた。
気圧けおされるな。優勝にかける思いは、私も負けてない。
「決勝戦、カキ選手対レイラ選手!決闘バトル開始ィィイイ!!!」
どこかで見たことあるようなないようなスーツのサングラスの人が叫んだ。
「ミミッキュ!絶対勝つよ!つるぎのまい!」
「ガラガラ!」
ガラガラはカキくんと一緒にファイヤーダンスを踊る、カキくんの一番の相棒。いきなり出してくるんだ。
「シャドーボーン!」
ミミッキュに対して効果ばつぐんのワザだ。
ばけのかわがあってよかった。
「ミミッキュ、シャドークロー!」
ガラガラは倒れた。
「ファイアロー!頼んだ!ブレイブバード!」
速い。ミミッキュは倒れた。
「ポットデス!本気モードでいくよ!」
「ブレイブバード!」
大ダメージだ。でも、耐えてくれた。
本気モードのポットデスはすばやさも高まる。いける。
「からをやぶって!そのままアシストパワー!」
ファイアローは倒れた。
このまま本気モードのポットデスで押し切る。
「エンニュート!お前なら......!」
「アシストパワー!」
エンニュートは何とか持ちこたえた。きあいのタスキだ。
「かえんほうしゃ!」
ポットデスは倒れた。
一進一退だ。でも、押してる。
「ジュナイパー!かげうち!」
エンニュートは倒れた。
「そんなすがたのジュナイパー初めて見ました。じゃあ......オレだって......!さぁ、出番だ!ケンタロス!」
カキくん、ケンタロスを捕まえたんだ。でも、私のジュナイパーはかくとうタイプなんだよね!
カキくんのケンタロスは......黒いケンタロス!?色違いなの?いや、雰囲気が違う。燃えるような迫力のある角をしている。きっとリージョンフォームだ。
「先輩ダンサーさんに交換してもらったパルデアのケンタロスです!オレのパルデアにかける想いは誰にも負けないっ!レイジングブル!」
ほのおワザ。ジュナイパーにこうかはばつぐんだ。リージョンフォームはタイプだって全く違う。このケンタロスはほのおタイプなんだ。
ジュナイパーは本当にギリギリで持ちこたえた。
「何!?きあいのタスキか!?」
違う。これがHPを極限まで鍛えたジュナイパーの実力だ。
「3ぼんのや!」
ジュナイパーの放った矢は強烈にケンタロスを襲った。更に、正確に急所を捉えた。
なのに、ケンタロスは耐えている。嘘でしょ。強すぎる。これがパルデアのポケモン.....,!
「レイジングブル!」
ジュナイパーは倒れた。
「すごい。強いっ......!」
バトル中の対戦相手に賛辞を送ってしまった。でも、本当にすごい。
「ヤバソチャ!いくよ!」
「レイジングブル!」
「ちからをすいとる!」
ヤバソチャはHPとぼうぎょをとっくんした。おまけに『たいねつ』だ。パルデアのケンタロスが強いならそれを利用させてもらって、ヤバソチャは元気いっぱいだ。
「くっ......。レイジングブル!」
「ちからをすいとる!」
この術中にハマったら、ぶつりワザを使うポケモンは為す術がない。きっとカキくんのポケモンはあとウインディとバクガメス。ぶつりワザを使うウインディも、とっくんを頑張ったヤバソチャならなんとかなる。めいそうも積んじゃえばバクガメスも手がつけられない。やってやる。
しばらく泥沼化したけど、よし。そろそろいける。このままめいそうしたヤバソチャのねっとうでみんな倒せちゃうもんね。
「レイジングブル......!」
「決めるよ!ねっとう!」
ちからを吸い取られてへなちょこになったダメージを残して、ケンタロスは倒れた。
勝てる。
「くっ.......バクガメス!」
「ねっとう!」
バクガメスは倒れた。
「バクガメスが耐えられないなんて......!でもまだだ!絶対に諦めない!ウインディ!頼むぞ!フレアドライブ!」
ヤバソチャは倒れた。急所に当たったんだ。ウインディもまだ諦めてないんだ。
大丈夫。こっちにはまだシャンデラとゲンパチがいる。
「ゲンパチ!決めるよ!シャドーボール!」
ウインディは耐えてる。
「ウインディ、あと少しなんだっ!頑張ってくれ!サイコファング!」
エスパーわざ。どくタイプを持つゲンパチにはこうかはばつぐん。かなりの大ダメージだ。でも、ゲンパチにはきあいのタスキがある。ドリバルさんの命も救った、特別なきあいのタスキだぞ!
ゲンパチ、毎度毎度1.5回くらいひんしになるダメージを受けさせた上に、更に頑張らせてごめんね。いつもありがとう。
「もう一度!シャドーボール!」
ウインディは倒れた。
やった。
やったー!!!!
優勝だーっ!!!!!
周囲から大歓声が......上がらなかった。どよめきがおこる。
「レイラ、同じ持ち物を持たせるのはルール違反ですよ!?」
カキくんが怒鳴る。え、なんのこと?
「ジュナイパーもきあいのタスキでしたよね!?」
「え、違うよ。ジュナイパーはバコウのみを持ってるよ。ごめんねジュナイパー。出てきて」
ひんしのジュナイパーは、間違いなくバコウのみを持ってる。
活躍しなかったけど、大の苦手なひこうワザのダメージを抑えられるきのみだ。
「嘘だっ!そのジュナイパーもくさタイプですよね!?あの強烈なほのおワザを受けて倒れないなんておかしい!オーキド校長!どう思いますか!?」
「あー。えー。生徒を疑いたくはないが......」
そんな。観戦してた子たちもみんな私を疑ってるんだ。だからどよめいてるんだ。
「違うっ!それなら何度だってケンタロスのさっきのワザを受けてもいいよ!ジュナイパーは100回中94回くらいは......いや、絶対耐えてくれるもん!!」
オーキド校長は少し考えたあと、口を開いた。
「じゃあ、もう一度サドンデスとしてジュナイパー対ケンタロスのバトルをしてみるんじゃ。ジュナイパーがバコウのみを持って、ケンタロスのレイジングブルを受けきったらレイラの勝ちじゃ。申し訳ないが、回復ついでに保健室のジョーイさんに身体検査をしてもらうよ」
「はい、構いません。やります!」
私は叫ぶように返事をした。カキくんは黙って唇を噛み締めている。
回復が終わり、私とジュナイパーはもう一度バトルコートに立った。カキくんとケンタロスも準備できたみたいだ。
「カキくん。私とジュナイパーは何度だって受けて立つよ」
カキくんは何も言わずに自分の足元を睨みつけている。
「ッ......!ケンタロス、レイジングブル!」
カキくんは下を向きながら叫んだ。
凄まじいほのおが巻き起こる。
ジュナイパーは......ケンタロスを受け止めて、しっかりと立っていた。
「勝者、レイラじゃ!」
「うわぁあああぁああっ!!」
地響きがするような歓声が巻き起こった。
やった。
やったやったー!!!!
こんどこそ優勝だーっ!!!!!
でも、見た目には出せない。カキくんはどんな反応をしてるだろう。
カキくんの方を見たけど、カキくんがいない。
さっきの歓声の中に、カキくんの絶叫も混ざってた気がする。
遠くの方で、走り去ろうとするカキくんをクラスのみんなが追いかけている。
カキくん......。
カキくんはいつも、真面目でひたむきだった。これまで私に負けてもすぐに気持ちを切り替えて、私はもちろん観戦してた人たちにも意見を聞いて、次のバトルに活かしていた。
最初の挨拶や最後の握手だって、ものすごく丁寧にやってくれてた。それなのに、最初も黙ってたし、何も言わずに走り去ってしまった。
「レイラ、優勝おめでとうイダイトウ!」
オーキド校長が拍手してくれた。
いつもなら、クラスのみんなが駆け寄って来てくれて勝利を喜んでくれるのに、みんなカキくんの方に行ってしまった。私、また悪者みたいだ。
「うわーーーーん!」
声を上げて泣いた。でも、これは嬉し涙なんかじゃない。
もちろんパルデアに行けるのは嬉しいよ。私だって、絶対にパルデアに行ってグレープアカデミーで学びたかったから、本当に頑張った。
でも、つい最近までふらふらと将来に悩んでいた私が、カキくんの昔からの大切な夢を......。邪魔したんだ。
私は自分のことだけ考えて、カキくんの夢を邪魔するという事実に気付かずに打ち負かして、ひたすらまっすぐに夢を目指してたカキくんを傷付けた。
私は悪いことなんかひとつもしてないのも、きちんと証明した。だけど私はひたむきに頑張り続けてきた友達の夢を邪魔して、傷付けたんだ。そのくせ、その事実を受け止める覚悟がなかった。
正々堂々とやったって、恨まれることもあるんだ。
すごくつらくて、とっても悲しい。
そこからのことは全然覚えてない。教室に戻ってから、カキくんもクラスのみんなも、どんな反応してたっけ。
パパはなんだかんだですごく寂しがるかと思ったけど、心から祝福してくれているような雰囲気だった気がする。でもパパはすぐに私の異変に気付いてそっとしておいてくれたような気がする。
家に帰ってから、お風呂も入らず夕飯を食べずに寝てしまったっぽい。
翌日はスクールがおやすみだったけど、パパが起こしに来た。
「レイラ、朝ごはんできたよ!」
「......いらない」
「ダメです。病気でもないのに2食連続で抜くなんて、絶対に許しません」
パパが無理やり私を起き上がらせようとした。
「......ほんとにやめて」
パパはすごく悲しそうな顔をして、私から少し距離を取った。
「カキくんのこと、気にしてるんだろう?」
そうだよ。でも何も言えない。
「レイラは何も悪いことしてない。勝者がいれば敗者がいる。これは仕方のないことなんだ」
「そんなのわかってるよ!!!」
急に起き上がって、怒鳴ってしまった。でももう止まらない。
「私、自分のことしか考えてなかった!カキくんの夢を邪魔して傷付けるなんて、気付きもしなかった!!他の人の気持ちを考えないなんて、悪者と一緒じゃん!!私、サイテーだよ!!!」
「でも、それに気付いてても負けてあげる気なんて無かっただろ?」
「そうだよ!?でもさ、覚悟がなかったの!意見がぶつかったりして、悪くない人と戦って傷付けなきゃいけないこともあるなんて、考えてなかった!!」
戦うって、本当はとっても恐ろしいことなんだ。
「それに、悪いやつなら一方的にやっつけてもいいと思ってた!でもそれだって、やっつけた相手に恨まれる覚悟が必要だって、あのときになってやっと気付いたの!!」
パパの方が見れない。パパはどんな顔してる?
「私、嫌だよ!恨まれるなんて怖いよ!恨まれてもいいなんて、そんな覚悟できっこない!!私、科学以外はそれなりに勉強できると思ってたけど、こんなこともわからなかった、弱っちい大バカ者だよ!!!」
ズドォォオオン!
このタイミングで地震!?震度5はあった。本棚から本がこぼれ落ちて、部屋のものがゆらゆらと揺れている。
「いい加減にしなさいっ!!」
パパが怒鳴った。え、今のパパのじだんだ?
「そもそも、善悪だけで物事を判断しようなんて、無理に決まってんだ!世の中をナメるな!」
パパが凄みながら私を怒鳴ってる。こんなこと、今まで一度もなかった。
「レイラはパパの気持ちを考えた事はなかったのか!?そんな事は無いだろ!?パパはレイラと離れる覚悟なんかできてなかったよ!心配なんだよ!パパが心配で仕方ないのをわかってて、心を痛めてくれて、それでもどうしても行きたいって思ったんじゃないのか!?」
パパは怒鳴り続けている。
「これまでずっと、パパはレイラを守るヒーローでいたんだ!レイラの身の安全を1番に考えるヒーローは、誰も知り合いのいないパルデアにレイラを行かせるなんていう同意書に、サインなんかすべきじゃないんだよ!それなのに、レイラはワガママを言う悪い子だっただろう!」
パパは何度もじだんだを踏んでる。家全体がギシギシと悲鳴をあげている。
「誰だって恨まれるのは恐ろしいさ!恨まれてもいいなんて思いながら戦うヒーローなんて、いてたまるか!レイラの身の安全を守るヒーローなら、同意書にサインをしないことが正解だ!でも、パパはそれでレイラに恨まれるのが恐ろしくて仕方なかったんだよ!」
パパはいよいよ泣き出してしまった。私は最初に怒鳴られた時から、とっくに泣いている。
「なら、バトルしてレイラを負かして、負けたレイラのせいにして同意書を渡さないでおこうなんて、悪いことを考えた!でも、一生懸命なレイラとバトルしたことで、考えを改めた!レイラを騙した挙句レイラのせいにするなんていう、極悪非道なことをしようとしたパパを、レイラはバトルすることで改心させたんじゃないか!」
パパはさっきより大きいじだんだで、ついにフローリングにヒビを入れた。
「あとな、夢に向かって頑張る俺の自慢の一人娘を悪く言うなんて、それが例えレイラであっても絶対に許さないからな!!」
パパ、それ以上は床が抜けちゃうよ。怖いよ。
「周囲のいろんな人の事を考えてきたからこそ、いろんなことをやってみたいと悩んでた優しい俺の一人娘が、ついに明確に決めた自分の夢を追うために、がむしゃらになって頑張っただけの事じゃないか!それを悪く言った上に、朝ごはんもきちんと食べないような悪い子が、超超超名門校のグレープアカデミーに行くなんて、そんなの許してたまるかってんだ!」
パパはすてゼリフを吐いて、部屋を出て行ってしまった。
パパが私のこと、怒鳴った。今まで一度も怒鳴られたことなかったどころか、怒られるというか、叱られたことすらなかった。
私が、悪気がなかったとはいえ悪いことをしても、何度も同じ失敗をしても、私が理解できるまで何回でも優しく諭してくれた。
なぜそれがいけないことなのか、その時にどうしたら良かったのか、しっかり説明してくれた。
説明が納得できない時は、私の考えを否定しないで、納得できる正しい答えを一緒に考えてくれた。
ひとりでパルデアに行くのも、食べるものの心配はしてなかった。
もしお財布を落としちゃったりしても、私はコンビニの廃棄のお弁当をどろぼうしなくたって、パパがすぐ助けてくれる安心感があるからだ。
あと、やっぱり今もお腹すいてる。ダイニングに降りたら、栄養バランスの完璧な美味しい朝ごはんが用意してある。
私、パパのおかげでいい子でいられたんだ。
涙を雑に拭って、ダイニングに向かった。
パパは冷めた2人分の朝ごはんの前で、ムスッとしながら座っていた。
「パパ、ごめんなさい」
「何に対して謝ってるんだ?」
「ごはんいらないって言ったのと、大きい声出したことと、私の悪口言ったこと」
「パパの娘であるレイラの悪口を言ったのを申し訳なく思うなら、もう1人謝る人がいるだろう」
私は急いでお庭のお花を摘んで、ママにプレゼントして、ママの目をじっと見つめた。
「ママ。いのちがけで産んでくれた娘のことを悪く言ってごめんなさい。私のこと産んでくれて、本当にありがとう」
私は手を合わせてから、ゆっくりとパパの向かい側のダイニングのイスに座った。
朝ごはんは、肉団子のトマトソースとロールパンのクリームチーズサンドだ。とってもおいしそう。
あと、いろんなお野菜のピクルスが山盛りになってる。パパの作るピクルス、ものすごくすっぱくて苦手なんだけど......。そういう仕返しされても仕方ないか。
「自分を粗末に扱うのは、自分を大切にしてくれる人の大切な人を粗末に扱うことだということを自覚しなさい」
一瞬、政治家さんのミズゴロウ構文かと思ったけど、ちゃんと反復したら理解できた。
「周囲の人を思いやるのは、とっても大切なことだ。でもレイラは、誰かが傷付いたときに、自分のせいでないのに自分を責めて、気持ちが不安定になる傾向にある。そんなことをしたって、誰かが傷付くことはあれど、誰も幸せにならない」
「ごめんなさい」
「レイラは他の子と比べて身体もがんじょうだし、強いのは疑いようがない。でも、だからと言ってレイラ以外の子達が弱いわけじゃないんだ。他の人の事を全部自分が何とかしようなんてのは、驕った考えだ」
「ごめんなさい」
「自分のできることとできないことを見極めなさい。できないことに苦心して、できることまで放棄しないこと。そして、自分が決めてやったことに、責任と自信をしっかり持ちなさい」
「うん、わかった。ありがとう」
「カキくんも強い子だ。必ず自分の力でまた立ち上がれるよ。レイラは自信を持って自分の道を進みなさい」
「そうだね」
「あと、今すぐにレイラがすべき事は何かわかるか?」
「朝ごはんをしっかり食べる」
「その通りだ。温め直すね」
パパはちょっとムスッとしたまま朝ごはんを温め直し始めた。
「パパ、本当にごめんなさい。大好き」
「......ズルいぞ。そう言えばパパが嬉しくなって、すぐ許してくれると思ってるんだろう」
パパは、なんとも複雑そうな顔で振り返った。
「全くもって、その通りだ。飛び上がるくらい嬉しい。パパもレイラが大好きだ。だけど、そう簡単には許さないって決めたもんね。パパはレイラの苦手な、ものすごくすっぱいピクルスを昨日から仕込んでおいたんだ。レイラがちゃんと残さず食べるまで、絶対に許さないぞ」
「......私、やっぱりすっごくお腹すいてた。パパがいなくて、本当にどうしようもなくお腹がすいたら、人の食べ物を盗んだりしてたかもしれないって思ったの。パパがお仕事を頑張ってくれてるおかげで、私が悪いことしなくても生活できてたんだって気付いたんだ。いつだって私のこと一番に考えて、たくさん愛情を注いでくれて、本当にありがとう。大好きだよ」
パパは私を思いっきり抱きしめた。
「酢の物は身体にいいんだぞ」
「それもパパのおかげで知ってる。私の健康を考えて作ってくれてありがとう。パパ大好き」
「塩分過多にならない程度に、山盛り出してやったんだ。覚悟しろ。本当に本当に、全部残さず食べるまで許さないぞ」
「残さないよ。私、パパが作ったものすごくすっぱいピクルスは苦手だけど、すっごくお腹すいたし、パパのこと大好きだもん」
「......レイラ、怒鳴ってごめんね。あと、空きっ腹にいきなり酢の物を食べるのは胃に良くないぞ」
「ううん。叱ってくれてありがとう。好きなものを先に食べる派だから大丈夫。パパ大好き」
「でも、パパの方がもっともっとレイラのこと大好きだもん」
「今はそうかもね。でも、もう負けないもんね。就職できたら、たくさん親孝行してやるんだから!」
だんだん焦げ臭い匂いが漂ってきた。
「あ!ちょっと焦がしちゃった!」
「大丈夫。残さず食べるよ。パパ大好き」
パパはしっかり火を止めて、もう一度私を強く抱きしめた。